文学を学べるおすすめ本40選【日本から海外文学まで】

「名作文学にはどんな作品があるんだろう」
「海外の作品にも触れてみたい!」

読書の秋、この機会にいろんな本を読んでみようとお思いの方も多いのではないでしょうか。「楽天ブックス」の調査によれば、社会人の平均読書時間は「一日15分未満」であることが多いという調査結果となっています。

「忙しいから時間を取って本を読む時間がない」という方には、「聞く本」として「オーディオブック」といったサービスなども各社で展開しております。しかし、「どんな本を読んでいいか」「名前は知っているけど、内容を知らない」という方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、学生時代から名作文学を読んできた筆者が名作文学や文学について知ることが出来るおすすめの本40作をご紹介いたします。今回は3つの切り口でご紹介いたします。

  • 古代から近代まで「名前は聞いたことのある」名作文学を振り返る!日本文学
  • ノーベル文学賞受賞者など多様な名作勢ぞろい!海外文学
  • 文豪、文学をテーマにした漫画作品

作品によっては「青空文庫」や「電子書籍」などで読むことが出来るので参考にしてみてください。

日本文学

源氏物語

読んでみて

1008年頃、平安中期に成立した日本初の長編物語。女流作家・紫式部によって描かれた恋愛作品で、平安時代の貴族社会を舞台にした物語となっております。主人公である光源氏が、様々な女性と巡り合いながら、最愛の女性を探す、といった内容。

全54帖、現代の巻数に表すとおよそ全60巻と、かなりの長編物語となっております。ですが、一見すると華やかに見える平安貴族の世界でも、人妻や老年女性との恋など現代ではヒヤッとするような場面も登場し、恋多くが故に落ちていく光源氏など新たな発見があるかもしれません。

みんなのレビュー

第一巻は桐壷から末摘花までの巻ということで、光源氏誕生のいわれから19歳までの、簡単に言えば女遍歴。池田和臣さんの『逢瀬で読む源氏物語』によると、神話の中の王は、たくさんの豪族氏族の姫君と結婚することで王権の拡大と安定を得たということで、つまりは、王の「色好み」は王者の器の大きさを示すものなのだそう。源氏の君さんはとても感情が豊かで、別れの度に泣いたり病に臥せったりするのだけど、そうしながらも別の女のところに行ってるし、立ち直ったらすぐ女の物色はじめるしで、たいそうお忙しい。王者になるのも一苦労なのかな。

読書メーター

吾輩は猫である

読んでみて

1905年、俳句雑誌『ホトトギス』にて連載された夏目漱石の長編処女小説。「吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。」という、有名な書き出しから始まる作品で、猫目線で人間社会を風刺的に皮肉った作品。

この主人公である「吾輩」は、実際に夏目家によく訪れていたという野良の黒猫をモデルにしたと言われています。英語教師である「珍野苦沙弥」の家に様々な人物が訪れ、色んな騒動を巻き起こします。少し哲学的な内容になっていますが、猫目線で見る人間模様を体験すると、また違った世界が見えてくるかもしれません。

みんなのレビュー

読み終わりました。世の中のことを猫視点で切る小説となります。変わり者であれば、世の中の人はその人を叩く。ぼくも変わり者やから、世の中で随分目立つ存在やけどね。主人・苦沙味先生の元に球を投げては拾いに来たり、外側から、あるいは内側に入り、苦沙味先生に文句を言う。相手は集団で、集団なりの考えがあるから、団結して、悪口を言いに行こう、球を投げこんでやろう、と画策したんやろうね。しかし集団は良い集団でなければ、良くはならない。悪しき集団か、凡人の集団かに居れば、自分も同じく、悪しき人か凡人になるだけのこと。

読書メーター

羅生門

読んでみて

1915年11月に雑誌『帝国文学』にて掲載された芥川龍之介の短編小説。平安時代、相次ぐ飢饉などで荒廃した羅生門の下にいた若い下人は盗人になろうか悩んでおりました。そこへ、身寄りのない遺体から髪を切っていた老婆とを見つけ、何をしていたのか問いただすと…という物語。

「下人の行方は、誰も知らない。」という締めくくりで終わる芥川龍之介の代表作。「源氏物語」が華やかな貴族の世界を書いたのに対し、こちらは明日をも生きれるかわからぬ平安時代の庶民を描いております。短編ながらも、人間のエゴイズムが如実に描かれた作品です。

みんなのレビュー

固有名がないので寓意的な物語であり、「社会状況の因果」がこの物語の装置です。この装置が固有名がない物語で使われるとき、「円環もの」になると思います。この物語の装置・「社会状況の因果」がある限り、『羅生門』の下人以降にも同じ境遇の人物たちが、「羅生門」で「雨やみ」を「待っている」状況が発生します(「円環もの」と感じたのは以上が理由です)。 老婆が自分の行いを正当化するための「話」は、物語展開を加速させる舞台です。“現実世界”では、上のような「話」はしないと思いますが、この物語は“小説世界”なので可能です。

読書メーター

人間失格

読んでみて

1948年5月に脱稿し、雑誌『展望』にて掲載された太宰治の中編小説。「私は、その男の写真を三葉、見たことがある。」という書き出しから始まり、大庭葉蔵という人物の幼年時代、学生時代、奇怪な写真を振り返っていく物語。

この作品を脱稿直後、太宰治は玉川上水にて入水自殺をしたため、本作は「遺書」のような作品として捉えられております。他人の前では違う自分を演じ、本当の自分を曝け出せない男・大庭葉蔵。読み進めるうちに、どこか自分と重なるのではないか、と、徐々に太宰の世界観に引き込まれていく作品です。

みんなのレビュー

昔読んだ気もするけれど、改めて太宰治はすごい!どんな人間にもどうしようもないところがあって、読み進めるうちに自分と重なるのではないでしょうか。だから約70年も前の本とは思えない新鮮さを感じるのかも。<いまは自分には、幸福も不幸もありません。ただ、一さいは過ぎて行きます。>名文ですね。また、あとがきの中のマダムのセリフ、<あのひとのお父さんが悪いのですよ。・・・私たちの知っている葉ちゃんは・・・神様みたいないい子でした。>これは全てを語ってますね。心優しい、世渡り下手の人間が変人扱いされるのは今も同じかも?

読書メーター

高野聖

読んでみて

1900年2月に文芸雑誌『新小説』にて掲載された泉鏡花の短編小説。主人公である「私」は、若狭へ帰省する車中で出会った旅僧から不思議な話を聞きました。旅僧・宗朝の若い頃、飛騨天生峠にて、妖しい美女が住んでいる家にたどり着くのですが…という物語。

泉鏡花独特のリズム感のある文体と、美しく描かれる幽玄世界を堪能できる代表作となっております。本作のような小説を「幻想小説」と呼び、泉鏡花以外には江戸川乱歩や夢野久作などが代表的な作家として挙げられます。

みんなのレビュー

「こうやひじり」と読む。語り部が高野山のお坊さんなので、なるほどと。旅で出会った僧侶と一晩一緒したときに、寝ながら語られたという形式。倒置法……ではないのだが、文末が独特の終わり方をしていて詩のようでもある。最初は文意が読み取りにくかったが、慣れてくると徐々に美しさを感じてきた。ちょっとした寓話やおとぎ話のようなものだったので文体が作品をうまく装飾しているのだが、当時からいっても古い文体なんじゃないだろうか。読みにくかったがなかなか面白かった。

読書メーター

雪国

読んでみて

1935年1月、雑誌『文芸春秋』ほか様々な雑誌に連作として寄稿された川端康成の長編小説。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」という有名な書き出しから始まる本作は、雪国を訪れた男「島村」と、その雪国の芸者「駒子」という二人のやり取りが中心の作品です。

本作は連作として掲載されたため、起承転結が曖昧となっていることが多く、理解するには何回も読み返さないと前後が繋がりにくいかもしれません。ですが、「駒子」という魅力的な人物に、島村同様次第に惹かれていくかもしれない、そんな作品となっています。

みんなのレビュー

川端康成初読み。最初の一行を知っているのみの『雪国』とは、こういう内容の物語だったのか。この年になってやっと理解した。そして、盛り上がって来たな〜と思ったら、いきなり断ち切られる、あまりにも突な終わりに、茫然自失。えええっ?ここで終わりか!と。手元の平成15年の本で125刷。本当に読み続けられている、あまりにも有名な作品だ。文章は美しいと思う。しかし、何も心に響いて来ない。感じるのは男の感性のみ。ただトンネルを抜けて不倫しに通う奴、的な。分からなくとも【文豪の作品を読む】をもう少し続けてみたいと思う。

読書メーター

破戒

読んでみて

1906年3月に緑陰叢書から自費出版という形で出版された島崎藤村の長編小説。被差別部落で誕生した主人公・瀬川丑松は、その身分や出生などを隠しながら生活していたのですが、ある時、同じく被差別部落に生まれた解放運動家・猪子蓮太郎という男と出会い…という物語。

当時問題となっていた被差別について描かれた作品で、主人公・丑松の苦悩などが丁寧に描かれているのが特徴的な作品です。本作のように、ありのままの姿を描いた小説を「自然主義文学」と言い、近代文学史の一時代を築いたジャンルとなっています。

みんなのレビュー

この小説ははじめ自費出版で出されたそうなのですが、そら読まれるだろうよというくらい刺激的な内容です。 主人公を取り巻く人物の職業や人間関係が巧妙に配置されていて、想像以上にいろんな読み方ができる小説でした。 素性を知られたらいじめられることがわかっている人の心労苦悩が丁寧に織られたこの結末をハッピーエンドと見るか否か、そこでまた議論が生まれるように書かれてる。最後はページをめくる手が止まらない展開なのだけど、それまでじっくり安定して続く “嫌な予感” の引っ張りかた・長さ・エピソードのつながりが巧みです。

読書メーター

桜の森の満開の下

読んでみて

1947年6月に雑誌『肉体』にて発表された坂口安吾の短編小説。鈴鹿峠に住んでいた山賊は、峠を通りかかる旅人などから食料を奪い取って生活をしておりました。しかし、山賊は桜の森だけは恐ろしいと感じ、近づかないようにしていたのです。そんな時、ある女性を女房にした時…という物語。

桜の光景などから幻想的な作品となっていますが、その内容は非常に重く、作品の通り、綺麗だけどどこか恐ろしい作品となっている坂口安吾の代表作です。ちなみに、坂口安吾、太宰治、織田作之助、檀一雄らは「無頼派」と呼ばれ、江戸期の戯作のような作品を書くことから、「新戯作派」とも呼ばれました。

みんなのレビュー

美しいものは当たり前に自然の中にあるものと思っていた人が、どうやら「美しい」には別の種類のものがあることを知る。この新定義受け入れ場面の心理描写と分解説明を兼ねた日本語のあまりのうまさに、えええこの文章どうなってんのとそこだけ何度も読みました。ものすごく短い文章で人間の中で起こるパラダイム・シフトを書いている。アルプスの少女ハイジの心の中で起きたことを不気味な和風ホラーにしたような恋愛心理サスペンス。なんでそんなことが可能になっているのか、そもそも読みながらこの状況が理解できない楽しい混乱。なにこの話!

読書メーター

五重塔

読んでみて

1892年、新聞『国会』にて連載された幸田露伴の小説作品。仕事の腕はあるものの、その性格からか「のっそり」と呼ばれ軽視されている主人公の大工・十兵衛。ある時、谷中の感応寺に五重塔が建立されると知り、その仕事をやりたいと思い、感応寺の和尚へと会いに行くのだが…という物語。

本作は、十兵衛と川越の源太という二人の大工が衝突し合いながらも五重塔の完成を目指すという作品で、途中、搭が暴風雨に見舞われる部分など、読み応えのある作品となっています。ちなみに、本作のモデルとなった五重塔は火事の為、消失してしまい、現在は跡地が残っております。

みんなのレビュー

Eテレの「にほんごであそぼう」で紹介されており、続きが気になり読んでみる…のパターン。 「わっち」など江戸言葉炸裂で、終始、講談を聴いている気分。 主人公は職人気質で武骨な大工の十兵衛。世話になった親分に抗い、谷中は感応時の五重塔の建立にのめり込む。 悪人は誰もいないのに、分かり合えぬまま行き場のない思いが惨事を呼び、その上、五重塔は大嵐にさらされる。 失ったものと同時に得たものもありとても良い話だった。 残念ながら後に焼失した五重塔の跡地にも行ってみたい

読書メーター

暗夜行路

読んでみて

1921年1月、雑誌『改造』にて前編と後編が連載された志賀直哉の長編小説。主人公である時任謙作は、6歳の時に祖父に引き取られました。その後、小説家となった謙作は幼馴染であった愛子に結婚を申し込むも、愛子の家族がこれに反対し、結局、愛子は別の男性の元へ…という物語。

当初は1914年に「時任謙作」という題で発表する予定が、完結までに26年を要すという非常に長い物語となっております。中でも読んで欲しいのは、後編の謙作が大山を登山し、その頂上からの光景に感動するというシーンです。この大山からの描写がとても美しく、思い浮かべるだけで登頂したような気持ちになります。

みんなのレビュー

大学時代以来の再読。夜更けに立つ船の甲板の描写は特に印象に残っており、闇に飲まれる感覚は今まさに自分が同じ状況にいるかのように感じた。また、自らが祖父と母との間の不義の子であるという事実に面してから、旅に出るまでの放蕩生活や幼少期に母親の布団に潜り込んだ際に拒絶されたことといった過去が、同じ過去であるにもかかわらず異なる様相に描かれるといったストーリーにも引き込まれた。

読書メーター

城の崎にて

読んでみて

1917年5月、同人誌『白樺』にて寄稿された志賀直哉の短編小説。山手線にはねられケガをした主人公こと「自分」は、養生のために鳥取県の城崎温泉を訪れておりました。ある時、「自分」は蜂の死骸を見つけ、静かな死への親しみを感じていると…という物語。

本作は、志賀自身の体験に基づいた私小説となっており、志賀も実際に山手線にはねられ、城崎にて療養生活をしておりました。また、本作が寄稿された『白樺』という同人誌には他にも、武者小路実篤有島武郎、里見弴などが寄稿しており、彼らを総称して「白樺派」と呼ばれています。

みんなのレビュー

大正6年から同15年までの間に執筆された短篇18作。著者30代半ばからの10年間に書かれたもの。多くは自身の私生活に材をとっているようだが、奥歯にモノが挟まったままのような何ともスッキリしない読後感。読者に優しくない(説明が少なすぎる)文章のため何のことやら分からずじまいの作品も。著者を投影した主人公がたびたび癇癪を起こしながらも他者だけでなく自己をも冷静に分析してみせるところに志賀先生の人となりを垣間見る。

読書メーター

蟹工船

読んでみて

1929年、文芸誌『戦旗』にて掲載された小林多喜二の小説。「おい地獄さ行ぐんだで!」という書き出しから始まり、カムチャッカ半島沖にてタラバガニを捕獲し缶詰にするまでを行う漁業船「博光丸」の船内での労働者と監督との対立を描いた作品。

本作は明確な主人公が存在せず、船内の労働者による群像劇がメインとなって描写されております。「蟹工船」のように立場の弱い労働者を主題にした作品を「プロレタリア文学」といい、小林多喜二のほかにも、徳永直、中野重治、葉山嘉樹などが代表的な作家として挙げられます。

みんなのレビュー

不衛生で劣悪な環境がまじまじと伝わってくる文体は圧巻だった。当時の労働の過酷さがよく分かる。 かといって「蟹工船に比べてら自分たちの職場はマシだから我慢しよう」という考えにはなりたくない。 暴力は減ったかもしれないが、労働現場は未だに問題が山積み。低賃金、長時間労働、一度非正規になると正規職に移るのが困難。保障が手薄だから未知のウイルスが蔓延しても死ぬ覚悟で働かないといけないなど。 非正規やフリーランスが増加しているから、蟹工船のように全員が団結してのストライキも難しいだろう。それでも戦わねばならないが。

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金色夜叉

読んでみて

1897年1月から1902年5月まで『読売新聞』にて連載された尾崎紅葉の長編小説。高等中学校に通う学生の主人公・貫一は、許嫁であるお宮が、結婚を前に別の男へ嫁いでいったことに激怒し、熱海で理由を問いただすも、お宮は口を割りません。怒りのあまり、貫一はお宮を蹴飛ばし…という物語。

本作の連載中に尾崎紅葉が亡くなったため、未完となってしまった作品。貫一とお宮の関係性に惹きこまれつつ、この先が気になるところで終わってしまいます。しかし、二人の今後について思いを馳せる、それもこの作品の楽しみ方として考えられます。

みんなのレビュー

明治のベストセラー、令和の今遂に読む。正直若いとはいえなくなってきてる自分としては、若気の至りだなこの人たち、とも思える。貫一くん、明治の世で学業修めて洋行するのしないのっていう位だからこれ相当な将来性では。期を待つのも手なのでは。宮ちゃん、既に持ってる人の未来なんて分からんよ、日本の未来切り開くかもしれない貫一くんに賭けてみる価値はあると思うけどね。…でもそう単純じゃないのが人生だよね。そうだよね。あとこれ中途半端なとこで終わるなって思ったら未完だったんだ。ここからどうまとめる予定だったのかも気になる。

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銀河鉄道の夜

読んでみて

1924年頃から執筆され、1934年に作者の宮沢賢治が亡くなった後に高村光太郎らによって出版された『宮沢賢治全集』にて初出となった童話作品。銀河の祭りの日に、丘の上へ登り、銀河へ思いを馳せていた主人公・ジョバンニ。すると、強い光に包まれ、気が付くとそこは銀河ステーション行の銀河鉄道の中に…という物語。

壮大な幻想小説となっている本作は、ジョバンニとその友人・カムパネルラが銀河の様々な場所を旅しながら、「ほんとうのみんなのさいはひ」を探すという内容になっております。ある意味、ジョバンニの成長記でもあるので、主人公たちに感情移入するのではないでしょうか。

みんなのレビュー

ジョバンニは銀河鉄道にどのような方法で乗ることができて、そしてなぜ乗ることができたのだろう。色々考察が広がる好きな終わり方でした。自己犠牲について考えさせられる内容で、自分を犠牲にして何者かを救うという行為はしばしば称賛されるが、個人的にはこの世の悪(ザネリ)(言い過ぎ?)のために自分が犠牲になることはないんじゃないかな?犠牲になることが本当に素晴らしいのかな?と思った。文章が綺麗であることが定評で実際綺麗だなと思ったが、情景描写が多く想像力不足な私にとっては映像で見た方がいいと感じた。

読書メーター

山月記

読んでみて

1942年、雑誌『文学界』にて掲載された中島敦の処女作。の時代、科挙試験に合格するほどの秀才であった李徴。しかし、地方の下級官史に就いた際、これを屈辱的に思い、山の中へと消えていきました。翌年、旧友である袁傪が旅をしていると人食いトラに襲われ…という物語。

「その声は、我が友、李徴子ではないか?」という一文が有名な作品で、清朝時代の説話集に収録されている「人虎伝」という話が下地になっております。ファンタジーな内容ですが、とても李徴の人間味あふれる懺悔などを神秘的に描いた作品となっています。

みんなのレビュー

難解そうで暫く積読していた。しかし、意外と読み易く興味深かった。「李陵」は、側からみれば十分尽くしたし仕方がないと思うが、本人の正義感故に悔いの残る人生を送った男の話。彼を庇った司馬遷まで、屈辱的な刑罰を受けるとは、何とも凄まじい時代だ。「山月記」は、虎から人間に戻った時に振り返る過去や後悔が哀しい神秘的な話、気に入った。「名人」。瞬きをせず、蚤が巨大に見えるまで修行し、弓の名人になったが。オチが面白い。そして「弟子」孔子の様々な弟子の中で、実務系の子路。圧倒的な師への忠誠心。「論語物語」も読んでみたい。

読書メーター

舞姫

読んでみて

1890年、雑誌『国民之友』にて掲載された森鴎外の小説作品。ドイツへと留学していた主人公・太田豊太郎が、留学先で出会った少女・エリスと恋に落ち、交際を始めることになります。しかし、豊太郎は日本へと帰国しなければならなくなり、エリスにその真実を告げぬまま…という物語。

森鴎外自身がドイツ留学していた体験などを交えた作品となっております。内容から言うと、豊太郎の人間性は、現代では炎上どころの騒ぎでは収まらないような行いをしておりますが、ロマンあふれる作品となっているのが特徴的です。

みんなのレビュー

自分の出世と身重の妻を天秤にかけ己可愛さに献身的な妻をドイツに置き去りにしたクソ野郎の話。と言えば一言で済んでしまうが、この味わいは10代では楽しむことができないかもしれない。うっかりと返事をしてしまう愚かさ、出張で海外に来ているのにその先で踊り子と恋に落ちて仕事を失ってしまう盲目さは自分の罪を焦がすように燃やしてしまいます。本書は旧仮名遣いのため、読みづらいですが、流れに乗ってすすめると鴎外の体験した焦がれるような異国での恋を感じることができます。

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月に吠える

読んでみて

1917年2月に自費出版で刊行された萩原朔太郎の詩集。「竹」「見知らぬ犬」「くさつた蛤」など、どこか悲しげなタイトルとは裏腹に、一つ一つの詩がとても世界観を美しく描写しているのが特徴的な作品。

萩原朔太郎という人自体が暗い人生を歩んできたために、少し影のある作品となっていますが、その影が非常に美しく魅力的に映っている作品となっています。他の小説作品とは違い、短い中でその世界を楽しむ詩集というものを体験してみてはいかがでしょうか。

みんなのレビュー

幻覚や情緒や思想を描き伝えるためではなく、それらを通じて理屈や言葉で説明できない複雑な感情をリズムによって表現するのが詩だと述べてるので、分析解説したらダメっぽい(解釈者殺し)。水を恐がる患者がいたなら独特の奇妙な恐怖感を言い表すことなんてできないだろうけど、「若し彼に詩人としての才能があつたら、もちろん彼は詩を作るにちがひない。詩は人間の言葉で説明することの出来ないものまでも説明する。詩は言葉以上の言葉である」。しかも語られるのは喜びよりも、罪や「愛と悦びとを殺して悲しみと呪ひとにみちた仕事」ばかり。

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細雪

読んでみて

1943年に雑誌『中央公論』と1947年に雑誌『婦人公論』にて連載された谷崎潤一郎の長編作品。大阪の船場である蒔岡家の四姉妹、鶴子・幸子・雪子・妙子の4人が織りなす日常を描いた作品。ある時、三女の雪子に見合い話が舞い込んだのがきっかけで物語が始まります。

大阪の中流上層階層の家族を描いた作品で、明治から大正にかけての阪神間モダニズムを背景に、その時代の生活文化を書いた作品としても有名です。また、谷崎など作品のどこかに「美」を内包した作品を描いた作家を「耽美主義」と呼び、谷崎のほかにも永井荷風、澁澤龍彦が、代表的な作家として挙げられます。

みんなのレビュー

大阪の旧名家である蒔岡家の四姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子。上では基本的に蘆屋にある幸子の家が舞台となっていて、大阪の本家に居着かない雪子と妙子、それから幸子の夫の貞之助、幸子の娘の悦子たちとの日常の、しかし優雅な日々が描かれる。雪子の二つの見合いが軸となっていて、雪子のために気を回す幸子、本家で雪子に相応しい相手かを見極める鶴子、賑やかしの妙子といった構図であろうか。それにしても、時代は昭和11、12、13とかそのあたりで、戦時の喧噪の真っ只中、、、のはずなんだけど、なんとまあのんびりとしていることか。

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檸檬

読んでみて

1925年、同人誌『青空』にて掲載された梶井基次郎の短編小説。主人公である「私」は病気や借金などの影響から、「得体のしれない不吉な塊」に押し潰されそうになっていました。そんな時に、果物屋の前を通った時にふと「私」が好きなレモンが並べられていたことに気付き…という物語。

京都に下宿していた頃の鬱屈した気持ちなどを描いた梶井の私小説的な短編作品となっております。レモンが爆弾だったら…というような、空想を浮かべることでモヤモヤを晴らすという単純ながらも一度は誰もが経験したことのある、そんな内容になっております。

みんなのレビュー

梶井基次郎、初読(恥)。「檸檬」は高校の国語科の教科書に掲載されているそうな。私は習わなかったなぁ。感想?「???」です。ただ、梶井の作品は詩を読むように、絵を鑑賞するように読むものらしい。それからは少しだけ世界観が見えてきました。好きなのは「Kの昇天」。主体と客体の交錯が幻想的な雰囲気で語られる、そんな作品だと思います。ちょっと心に余裕がない時期に読んだので充分に作品世界を味わえず、ゆったりとリラックスできる時に読みたい作品だと思いました。

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恩讐の彼方に

読んでみて

1919年、雑誌『中央公論』にて発表された菊池寛の短編小説。江戸時代後期に越後の国にて誕生した主人公・市九郎は、主人の愛妾であるお弓と密通。主人にそれがバレてしまい、手打ちにされるもこれを返り討ち。この事を悔やみ、市九郎は仏門に入ることとなり…という物語。

本作は実在した曹洞宗の僧侶であり、大分県に実在するトンネルである「青の洞門」を開通させた禅海という人物の史実を基にした作品となっています。若気の至りから犯した罪を滅ぼすために、愚直に掘削作業を行う禅海。その結末には胸を打つものがあります。

みんなのレビュー

歴史短編小説10篇。傑作揃いで菊池寛の作家としての凄さが分かる。それ程メジャーではない人物にスポットを当てた作品が多いが上手く短編として成立させていることに力量を感じる。福井藩主・松平忠直の心情を細かく描写した「忠直卿行状記」や杉田玄白と前野良沢の解体新書が出来るまでを描いた「蘭学事始」、平安時代の僧・俊寬の島流しを描いた「俊寬」など良作揃い。特に感銘を受けたのは、若い時分の罪に悩み出家した男が罪ほろぼしのため行う隧道工事を描いた「恩讐の彼方に」。人間の執念や成し遂げることの尊さが胸に染みる。

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