【最高】宮沢賢治はオノマトペの達人!魅力が伝わる珠玉の作品5選

「オノマトペの達人」と名高い、宮沢賢治。私たちが日常で使うような「さらさら」「キラキラ」などのオノマトペも、賢治の手にかかれば予想もしなかったシーンで使われ、またそれが文章世界を豊かで鮮やかなものにしています。

また、賢治が地元の岩手弁や勉強していたエスペラント語などをもとに作ったといわれる独自のオノマトペも愉快です。

この記事では、宮沢賢治の豊かな童話の世界に魅了され続けている筆者が「賢治のオノマトペが最高に輝いている」と感じる文を5種類選んでご紹介します。ぜひ、宮沢賢治の言語世界の一端を覗いてみてください。

この記事を書いた人

一橋大卒 歴史学専攻

京藤 一葉

Rekisiru編集部、京藤 一葉(きょうとういちよう)。一橋大学にて大学院含め6年間歴史学を研究。専攻は世界史の近代〜現代。卒業後は出版業界に就職。世界史・日本史含め多岐に渡る編集業務に従事。その後、結婚を境に地方移住し、現在はWebメディアで編集者に従事。

そもそもオノマトペって?

オノマトペとは、声や音、状態や様子を言語音で表した単語のことです。「犬がワンワン吠える」「彼はそわそわと落ち着かなかった」などの「ワンワン」「そわそわ」をオノマトペといいます。情景や様子をよりイキイキと伝える効果があり、魅力的な文章はオノマトペの使い方が上手といっても過言ではありません。

「どっどど どどうど どどうど どどう」が最高

どっどど どどうど どどうど どどう
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんも吹きとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう

山奥の小学校に転校生・高田三郎がやってくる物語、「風の又三郎」の冒頭です。「どっどど どどうど…」と「ど」という力強い音をリズムに乗せて繰り返すことで、「青いくるみ」も「すっぱいかりん」も吹き飛ばしてしまう風の荒れている様子が伝わってきます。まだ熟していないくるみやかりんを吹き飛ばす、という自然の力の無情さも加わって、なにか人間には逆らえないもの、大いなる力の存在を感じさせます。

「かぷかぷ」が最高

二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話していました。
「クラムボンはわらったよ。」
「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」

2匹のカニの兄弟が話している様子から始まる短編「やまなし」の一節です。「かぷかぷ」という不思議な笑い声のオノマトペ、みなさんはどんな風に笑っているように想像するでしょうか?

「やまなし」は賢治童話のなかでもとりわけ不思議なお話で、この一節に出てくる「クラムボン」は結局正体が分からないまま終わります。「青じろい水の底」という語から連想される揺らめく陽の光や細かに湧き上がってくる気泡などと相まって、なんとも幻想的な場面です。

「ギギンザン、リン、ギギン」が最高

草も花もみんなからだをゆすったりかがめたりきらきら宝石の露をはらいギギンザン、リン、ギギンと起きあがりました。

「十力の金剛石」という物語では、宝石でできた草花が身を起こす音に「ギギンザン、リン、ギギン」というオノマトペが使われています。宝石の植物を見たことがない私たちにも、重そうで豪華絢爛な様子が分かるオノマトペです。「ギ」「ザ」と濁音の多いなかで、「リン」という澄んだ音が入るのもリアルな感じがします。

「十力の金剛石」は、王子さまと大臣(どちらも子ども!)が金剛石を探しに出かける物語です。金剛石とはダイヤモンドのことですが、草花たちが待ち望んでいるのは「十力の金剛石」でした。さて、いったいその正体は何でしょうか?

「ぐるくるぐるくる」が最高

鹿は大きな環をつくって、ぐるくるぐるくる廻っていましたが、よく見るとどの鹿も環のまんなかの方に気がとられているようでした。

気がついたでしょうか、このオノマトペは「ぐるぐるぐるぐる」ではありません。「ぐる」と「くる」を交互に織り交ぜることによって鹿の足取りの軽やかさが伝わってきます。「鹿踊りのはじまり」という童話の一節ですが、宮沢賢治が濁点の有無にまでこだわって物語を執筆していたことが分かるオノマトペです。

「鹿踊りのはじまり」は、岩手地方の民俗芸能「鹿踊り」の起源を描いたお話です。この童話を読んでみると、賢治の描写した鹿が廻り踊る様子が現在でも伝わる鹿踊りそのものだということが分かります。読後に鹿踊りについて調べてみるのも面白いでしょう。

「キーイキーイ」が最高

そのうちにあまがえるは、だんだん酔いがまわって来て、あっちでもこっちでも、キーイキーイといびきをかいて寝てしまいました。

あまがえるのいびきを聞いたことがありますか?宮沢賢治はおそらく誰も聞いたことのないあまがえるのいびきを「キーイキーイ」というオノマトペで表現しました。こうやって書かれてみると、なるほど確かにあまがえるのいびきはその音だと思えてくるから不思議です。

この一節は「カイロ団長」という作品にあります。とのさまがえるに売りつけられたウイスキーを飲んで酔っ払ったあまがえるたちが眠り込んでしまう場面です。この「カイロ団長」はかえるたちのお話ですが、面白いオノマトペのオンパレードのような作品で「いかにもかえるたちがたてそうな音!」と感心してしまいます。

まとめ

宮沢賢治のオノマトペが特に輝いている文章を5つご紹介しました。賢治が心に描いていた理想郷のことを「イーハトーブ」といいますが、彼の童話に出てくるオノマトペは1つ1つがイーハトーブへの扉です。賢治がその類稀な言語感覚で紡いだ独特のオノマトペを読むたびに、私たちは彼の世界に1歩また1歩と近づいていけます。

ぜひ、宮沢賢治の作品を読んでみてください。そしてお気に入りのオノマトペが見つかったら、声に出してみましょう。きっと新たな味わいを感じられるはずです。