宮沢賢治作品に出てくる鉱物・鉱石・宝石まとめ【名作から詩・短歌まで】

「銀河鉄道の夜」や「よだかの星」などで、星空をはじめ天上の世界を美しく描き出した宮沢賢治。彼の作品をよく読んでみると、鉱物や宝石をたとえに使って自然を描写していることに気づきます。

宮沢賢治

賢治は少年時代、「石っこ賢さ」と呼ばれるほど鉱石集めに熱中し、盛岡農林高等学校の学生時代には土壌学が専門だった教授・関豊太郎との出会いによって鉱物研究に明け暮れていました。そのような賢治にとって、顕微鏡で鉱物を覗いたときの美しさは忘れがたく、また自然の美しさの代表だったに違いありません。

この記事では、宮沢賢治の童話に登場する鉱物・宝石を4つご紹介します。賢治童話がより鮮明に見えてくるための一助になれば幸いです。

この記事を書いた人

一橋大卒 歴史学専攻

京藤 一葉

Rekisiru編集部、京藤 一葉(きょうとういちよう)。一橋大学にて大学院含め6年間歴史学を研究。専攻は世界史の近代〜現代。卒業後は出版業界に就職。世界史・日本史含め多岐に渡る編集業務に従事。その後、結婚を境に地方移住し、現在はWebメディアで編集者に従事。

宮沢賢治の童話に出てくる鉱物・宝石

水晶

この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えている

水晶

「銀河鉄道の夜」の一節です。水晶は宮沢賢治の童話によく出てくる鉱物の1つで、ほかにも「つめたい水晶のような流れ(双子の星)」「小さな錐のような水晶の粒(やまなし)」のように登場します。また、詩では「むしろこんな黄水晶(シトリン)の夕方に(風景観察官)」など、空や空気を形容するために水晶が描かれます。

「銀河鉄道の夜」の一節では水晶の中で「火が燃えている」のに対し、「双子の星」では水の流れの冷たさを表現するために水晶が使われています。「火」と「水」という相反するものを形容するときに同じ「水晶」という言葉を使い、しかも違和感を覚えさせない、というところに賢治の筆の自由さが垣間見えます。

金剛石(ダイヤモンド)

はちすずめが水の中の青い魚のように、なめらかにぬれて光りながら、2人の頭の上をせわしく飛びめぐって、ザッ、ザ、ザ、ザザァザ、ザザァザ、ザザァ、ふらばふれふれ、ひでりあめ、トパァス、サファイア、ダイアモンド。と歌いました。

ダイヤモンド

金剛石(ダイヤモンド)がタイトルに登場する童話、その名も「十力の金剛石」の一節です。はちすずめが歌った後、森にはダイヤモンドやサファイアの宝石の雨が降り注ぎます。豪華絢爛で煌びやかなシーンです。

ところでお気づきでしょうか?引用した一節にある「ザッ、ザ、ザ、…」は「風の又三郎」の有名な冒頭部分「どっどどどどうどどどうどどどう」と同じリズムです。宮沢賢治にとってこのリズムには何か意味があったのかもしれません。

宮沢賢治の詩・短歌に出てくる鉱物・宝石

孔雀石(マラカイト)

どこまでもその孔雀石いろのそらを映して
どんどんどんどん走って行った

マラカイト

宮沢賢治は童話のほかに、詩や短歌もたくさん残しています。「雨ニモ負ケズ」は有名ですね。上に引用したのは「あかるいひるま」という詩です。

孔雀石というのはマラカイトという石のことです。孔雀の羽のように深い緑色をした独特の模様をした石で、古代エジプトではクレオパトラがこの石の粉末を油で練ったものをアイシャドウにしていたといわれています。

キャッツアイ

うるはしく猫睛石ひかれどもひとのうれひはせんすべもなし

キャッツアイ

さまざまな色があり、そのどれもが猫の目のように美しく輝く「猫目石」、キャッツアイという石の出てくる短歌です。賢治がこの歌に詠んだのはどんな色のキャッツアイだったのでしょうか。ミステリアスな光を帯びたキャッツアイを手に憂う、賢治の孤独が伝わってくるような歌です。

宮沢賢治の鉱物に関するまとめ

宮沢賢治の作品に出てくる鉱物・宝石を4つご紹介しました。賢治は100年以上前の作家なので、作品には現代では使われない言葉も数多く出てきます。特に鉱物や宝石は現代ではカタカナ表記の英語名になっているものが多いので、賢治作品に出てきても「よく分からない…」ということもあるかもしれません。

「孔雀石いろのそら」は、マラカイトがどんな色か知らないと分からないですよね。ぜひ、気になった言葉だけでもいいのでインターネットや図鑑で写真を見てみてください。作品世界への理解がいっそう深まることと思います。