森鴎外のおすすめ本・作品10選【無料版や現代語訳、漫画まで紹介】

「日本近代文学の代表作として森鴎外を読んでみたいけれど、どれもこれも難しそう…」
森鴎外の作品ってこんなにあるんだ、どれから読んだらいいんだろう?」

森鴎外の小説を読んでみたいとネットで検索したとき、このように感じる人も多いのではないでしょうか?鴎外は60年の生涯でたくさんの作品を残しているので、それも仕方のないことです。

この記事では、大学で日本文学について学んだ近代文学を愛する筆者が、森鴎外の作品や関連本を合わせて10冊ご紹介します。現代語訳や鴎外の原作をもとに描かれた漫画などもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

青年

読んでみて

森鴎外が1910年から11年にかけて書いた作品『青年』は、夏目漱石の『三四郎』に影響を受けたとされています。小説家志望の青年・小泉純一が未亡人・坂井れい子への恋を通して成長していく物語です。

主人公の恋心はいかにも「青年らしい」といいますか、前のめりで自分本位と感じる人も多いと思います。今、青年時代を迎えている人にとっては共感の嵐でしょうし、大人になった人にとってはある種の懐かしさがあるでしょう。日本を舞台にした鴎外の恋愛小説は現代の私たちにも感情移入しやすく、特にこの『青年』は口語体で書かれているので読みやすいです。

みんなのレビュー

理性で自分を縛っていた青年が大人に成長していく過程での葛藤が医学生の大村との議論などを通して書かれていて、まさに青年の物語でした。

https://bookmeter.com/reviews/85297180

読んでみて

こちらも鴎外の恋愛小説『雁』です。高利貸しの愛人として暮らしている女性・お玉が医学生の岡田に恋心を抱く話で、結論を言ってしまうとお玉の恋愛自体は悲しい結末に終わります。ですがお玉の心のうちの描写が素晴らしく、「本当に50歳前後の鴎外が書いたの?」と思えるほど繊細な表現がされています。

『雁』は「高利貸し(現在でいう闇金融業者)」や「妾(妻帯者の愛人として家やお金を与えられて生活していた女性)」など、今の時代にはない設定があるので先ほどの『青年』と比べると分かりにくいこともあるかもしれません。けれども裏を返せばそれは、明治から大正という時代を如実に映し出しているということ。『雁』は長編ほど長くはないですし、時代の雰囲気をつかむのに最適な小説といえるでしょう。

みんなのレビュー

森鷗外短編集3冊目。「雁」が名作と言われる意味がわかる気がした。女性の心理描写の深さに驚きつつ、切なさが心に染みる。

https://bookmeter.com/reviews/88016953

山椒大夫・高瀬舟・阿部一族

読んでみて

森鴎外の歴史物が9編収録されている短編集です。自己犠牲の意味を問う「山椒大夫」、安楽死の問題を描いた「高瀬舟」などが収められています。どの作品も「死」を描いていて、先ほどご紹介した恋愛物2冊とは違った趣です。

鴎外は軍医ということもあって、生命を扱う問題にはとりわけ関心の強い作家でした。長女の森茉莉が5歳のころ、重い百日咳にかかったときに安楽死を迷ったというエピソードがあります。「高瀬舟」が書かれる前のことなので、鴎外はこの出来事から安楽死について考えを深めたのかもしれません。

みんなのレビュー

現代語訳 舞姫

読んでみて

雅文体で書かれた森鴎外の「舞姫」に小説家の井上靖が現代語訳をつけ、さらに鴎外についての資料などを添えた至れり尽くせりの1冊です。鴎外の原文も収録されているので、現代語訳と読み比べてみるのも面白いでしょう。

ドイツに留学中の主人公・太田豊太郎がドイツ人女性・エリスとの恋をとるか、仕事や名誉をとるかという葛藤を描いた小説です。発表当時は「主人公の意志が弱すぎる」と議論を巻き起こし、後にこのときの議論が「日本で始めての近代文学論争」と言われるようになりました。日本文学史でも重要な作品です。

みんなのレビュー

舞姫はベルリンが舞台であるからにせよ海外短編を読んでいるような気持になった。内面の葛藤など長編にしても良いくらいの面白いテーマが詰まっている。だが、豊太郎はよくエリスに命を狙われなかったなとか想像を楽しむのにはちょうど良い長さなのかもしれない。

https://bookmeter.com/reviews/86880061

舞姫(まんがで読破)

読んでみて

文章よりもさらに視覚的なイメージがほしいという人には、「まんがで読破」シリーズの『舞姫』がおすすめです。原作に忠実な作品で、当時のドイツの風物もよく描かれているのでイメージしやすいでしょう。

一般に主人公・太田豊太郎は鴎外自身、エリスは鴎外がドイツに留学していた当時の恋人がモデルといわれています。けれども事実は小説の結末とは違い、恋人だったエリーゼ・ヴィーゲルトは鴎外を追いかけて日本に1ヵ月滞在した後、鴎外の弟や義弟の説得を受けて帰国しています。その後も2人は手紙のやりとりをしていたという記述もありますので、忘れられない女性だったのでしょう。

みんなのレビュー

無し

渋江抽斎

読んでみて

森鴎外は軍医の職を辞した1915年ごろから、史伝小説を書きはじめます。『渋江抽斎』は鴎外が初めて発表した史伝小説で、江戸時代末期の医師で書誌学者であった渋江抽斎を題材に書かれたものです。

鴎外が抽斎の名を発見した場面から始まり、抽斎の足跡や系譜を辿ったりお墓を参ったりと淡々とした描写が続くのですが、鴎外の調査の様子が綿密で興味深いです。気になることにはとことん取り組む人だったのだと感じます。鴎外の思考や人となりがそこはかとなく表れている作品です。

みんなのレビュー

森鴎外 [ちくま日本文学017]

読んでみて

「事前知識のないまま、とりあえず鴎外の作品に触れたい!」という人には「ちくま日本文学」シリーズの『017 森鴎外』がおすすめです。ハードカバーですが文庫本より少し大きいサイズの本に、「舞姫」「高瀬舟」などの名作から「鼠坂」「大発見」などの一般にはあまり知られていない作品までさまざまな小説が収められています。解説はこの本の表紙を描いている画家・安野光雅です。

「ちくま日本文学」シリーズは全40巻、日本の近代文学を築いた作家を取り扱っているシリーズです。日本文学にあまり詳しくなく、「本当に何から読んだらいいか分からない…」という人はとりあえずこのシリーズのどれかを手にとってみるのもいいでしょう。

みんなのレビュー

「魚玄機」目当てだったが、文章に魅せられた。どんな文体もお手の物。谷崎と三島、二人の文豪が名文家と仰ぐ理由が分かる。作品は醒めているとの印象。淡々と進み、どこか傍観者的だ。

https://bookmeter.com/reviews/74937371

口語訳 即興詩人

読んでみて

実は、森鴎外は翻訳家としてもたくさんの仕事を残しています。アンデルセン原作『即興詩人』はその代表作です。ご紹介するこちらの本は鴎外が翻訳した文語訳を先ほども登場した画家・安野光雅が現代語に訳した作品です。

安野光雅は森鴎外と同じ島根県津和野町の生まれで、数多くの絵本を描いている絵本作家でもあります。鴎外訳の『即興詩人』の大ファンで、この作品の舞台になったイタリアを旅して描いた作品『繪本 即興詩人』もあるほどです。挿画やエッセイなど活動の幅が広いところも鴎外に似ているように感じます。

みんなのレビュー

原作 アンデルセン、文語訳 森鴎外、口語訳 安野光雅とはどんな贅沢!と思い手に取った。森鴎外の文語訳だけだったら諦めて読むことはなかった物語。

https://bookmeter.com/reviews/82679924

鴎外の思い出

読んでみて

森鴎外の実の妹・小金井貴美子が鴎外の日常や明治時代の東京などを描いたエッセイです。小金井は翻訳家として数々の作品を訳していて、歌人としての活動もしています。

先ほど、「舞姫」のモデルになった女性を鴎外の実弟と義弟が説得して帰国させたエピソードをご紹介しました。この「義弟」というのは小金井の夫・小金井良精のことです。『鴎外の思い出』ではこの出来事についても触れられていて、鴎外一家の仲のよい様子が伺えます。

みんなのレビュー

懐かしい明治の東京の風物と知識人階級の家庭の様子が伺え、興味深い。 田園の趣が残る向島・小梅村、宿場町の面影を残す千住の風景が鴎外との幸福な日々の思い出と重なっているのだろうか、幼少時代の記述が生き生きしていて美しい。

https://bookmeter.com/reviews/54111242

超訳 鴎外の知恵

読んでみて

森鴎外は1899年に福岡県の小倉に左遷されているのですが、この前後に『知恵袋』『心頭語』『慧語』という3冊の格言集を翻訳しています。この3冊を人気現代文講師と知られる出口汪が現代に即したように「超訳」したのがこちらの『超訳 鴎外の知恵』です。

この本の原著、『知恵袋』『心頭語』はドイツではよく知られているクニッゲの『交際法』、『慧語』はスペインのバルタザール・グラシアンの著作集が原典となっています。実はこれらの2冊の原典に鴎外は大幅なアレンジや修正を加えていて、まさに「超訳」しているのです。『超訳 鴎外の知恵』は古くから伝わる格言の珠玉のエッセンスなんですね。

みんなのレビュー

現代ほど自由もなく、人生に選択肢もない身分社会だった当時の処世術が今の世の中で読んでも学びが多い一冊。

https://bookmeter.com/reviews/62976525

まとめ

森鴎外のおすすめ作品を、関連本などと合わせて10冊ご紹介してきました。読んでみたい本は見つかりましたでしょうか?

鴎外は明治から大正にかけて活躍した作家なので、現代を生きる私たちが読むと「何だか難しい…」と思ってしまいがちです。特に「舞姫」など「ドイツ3部作」と呼ばれる作品は雅文体という私たちが話している言葉とはまったく違う言葉で書かれているので、最初から原文に取り組もうとすると挫折してしまいます。

そのようなときは、「青年」「雁」などの比較的読みやすい文体で書かれた作品から読んでみるのがおすすめです。ある程度鴎外作品に慣れてきたら、満を持して「舞姫」に取り組んでみるのはいかがでしょうか。この記事でご紹介した『現代語訳 舞姫』なら井上靖の現代語訳と鴎外の原文が収録されているのでおすすめです。

100年以上前に書かれた鴎外の作品ですが、登場人物の心の動きなど現代の私たちに共通するものがたくさん描かれています。ぜひ触れてみてください。