「ナイチンゲール症候群」という呼び方は、何故有名になった?
「ナイチンゲール症候群」という言葉を有名にしたのは、Albert Finneyという人物がうけたインタビューの記事です。
彼はインタビューの中でナイチンゲールの生涯に触れ、その献身的な看護に対する態度を「ナイチンゲール症候群」と呼称したのだと言います。
これによって「ナイチンゲール症候群」という言葉は一躍有名になり、とりわけ看護業界における、非物質的な無形的報酬――すなわち「やりがい」という報酬を指すフレーズとして、広く活用されることとなったのです。
看護という仕事にやりがいがあることはもちろんですが、そのフレーズのためにフローレンス・ナイチンゲールという人物の功績を捻じ曲げていることは否めません。
ですので、あくまで筆者個人の見解ではありますが、看護や医療従事者の方に「ナイチンゲール症候群」と言う言葉を用いて「やりがい」を示すのは、あまり快い行いではないように感じられます。
ナイチンゲール症候群の誤用について
と、ここまで一般的な「ナイチンゲール症候群」という言葉の意味や成り立ちを説明してきましたが、結論から言いますと、「『看護者から患者への恋愛感情の錯覚』をさして、『ナイチンゲール症候群』と呼称する」というのは、言葉の誤用です。
これまで説明してきた「感情面における『ナイチンゲール症候群』」は、厳密には「ナイチンゲール”効果”」と呼ばれる、ポップカルチャー由来の造語です。
「ナイチンゲール症候群」とは、医学的に言えば「慢性疲労症候群」の通称の事。
過労で倒れて以降のナイチンゲールが、この慢性疲労症候群を患っていたことから、この呼称が付けられています。ですので「ナイチンゲール症候群」とは、れっきとした医学的な呼称であると言えるでしょう。
他にも「”患者”が”看護提供者”に恋愛や性的感情を錯覚する」という状況を指して「ナイチンゲール症候群」と呼称する方もいらっしゃいますが、これも厳密には誤用だと言わざるを得ません。
「患者→看護者」への恋愛感情の錯覚は、フロイトの言う「転移性恋愛」であり、「ナイチンゲール症候群」や「ナイチンゲール効果」とは無関係なものとなっています。
とはいえ、教養豊かかつ献身的で、いわゆるキャリアウーマン的なカッコよさを持っていたのがナイチンゲールという女性。正直なところ、「患者が看護師に恋愛感情を錯覚する」という「転移性恋愛」の状況の方が、現在の感覚で考えると、「ナイチンゲール効果」という呼称にはふさわしいような気もしますね。
「ナイチンゲール症候群」が描かれた作品
バック・トゥ・ザ・フューチュー
言わずと知れたスピルバーグ監督の名作SF作品ですが、この作中に誤用の意味での「ナイチンゲール症候群」という言葉が使われています。
物語の本筋に関わる部分ではなく、セリフの中でサラリと触れられている程度ではあるのですが、ここまで明確に「ナイチンゲール症候群」という言葉が使われている作品も珍しいもの。
有名作品のためDVD等を持っている方も多く、「もしかするとあの台詞かな?」とピンときている方もいるかもしれません。ぜひ探してみてくださいませ!
まっしろ
堀北真希が主演を務め、柳楽優弥や志田未来が助演を務める病院ドラマです。舞台こそ病院ですが、医療ドラマというよりも「看護師の人間模様」を強く描いたヒューマンドラマのため、さほど身構えることなく楽しむことができます。
本作でも誤用として「ナイチンゲール症候群」という言葉が使われており、割と話の根幹にかかわる部分に「ナイチンゲール症候群」という状況が関わってきます。
重たい社会派ドラマではありませんが、その分身構えずに見ることができる作品ですので、「ナイチンゲール効果ってどういうものなの?」とより深く知りたいと思った方は、この作品を見てみるのが近道になるかと思います。
ナイチンゲール症候群に関するFAQ
現在、一般的に「ナイチンゲール症候群」とは、「看護者から患者に対する、恋愛感情の錯覚」のことを指す言葉として使われています。
看護師として昼夜を問わず献身的に働いたナイチンゲールは、90歳でこの世を去るまで、一度も結婚をしませんでした。家柄も良く教養のある女性だったため、求婚する男性は数多くいたようですが、彼女は「看護研究の邪魔になる」とその全てを拒否し、一説ではナイチンゲールの方から恋い慕った男性に対しても、自分からその恋心に蓋をしてしまったのだと言います。
ナイチンゲール症候群に関するまとめ
どちらかと言えば誤用としての意味が広く知れ渡っている「ナイチンゲール症候群」という言葉。
しかし、ナイチンゲールという女性の生涯や、彼女の誇り高い生き様を知れば、誤用である使い方が、あまり快い使い方ではないことをご理解いただけるかと思います。
「医療提供者と患者のラブロマンス」というのは、たしかに創作においては話題にしやすく、それでいて劇的な展開を生みやすい人気の題材の一つです。
ですが、その状況を示す言葉に、かつて理想のために生きた偉人の名前を軽々しく使うのは考え物。使うにしても、可能な限り最大限のリスペクトを持って使っていきたい通称だと言えるでしょう。
それでは、説教臭くなってしまいましたがここまでお付き合いいただきありがとうございました!
「ナイチンゲール症候群」「ナイチンゲール効果」「転移性恋愛」。この記事を読んでくれたあなたが、これらの言葉を正しく使いこなしてくれると信じております!