芥川龍之介のおすすめ作品・本13選【短編集や関連書籍まで】

「高校の教科書で読んだ芥川龍之介の短編、もう1度読んでみたいな」
「日本の近代文学に短編小説から馴染んでいきたいけど、どれがいいか分からない!」

図書館で日本近代文学の棚を、はたまたAmazonで「芥川龍之介」と検索をかけた画面を前に、困ってしまった人も多いでしょう。芥川龍之介は短編の名手と呼ばれていて作品数も多いため、本を読むのに慣れていない人が「どれを読んだら読み通せるのか…」と思ってしまうのも無理はありません。

けれども、日本の近代文学に触れはじめるには芥川の短編は最適ですし、ストーリー展開が速いのでどの作品も読み通すのは比較的簡単です。1つ読み始めると、また1つ…と中毒性があるのも特徴で、はまると抜け出せなくなります。

この記事では、高校の教科書で「羅生門」を読んで芥川にはまった筆者が、芥川の短編集や全集、さらに関連書籍まで10冊ご紹介します。

芥川龍之介の鉄板おすすめ作品

羅生門

読んでみて

高校国語の教科書によく掲載されている「羅生門」、学生時代に読んだという人も多いのではないでしょうか?「羅生門」は『今昔物語集』に収録されている説話を芥川がアレンジしたもので、人間の「エゴイズム」を描き出した作品です。黒澤明が1950年に発表した映画「羅生門」はこの「羅生門」と後ほどご紹介する「藪の中」をミックスした映画ですが、ストーリーは「藪の中」に負う部分が多いので何も知らずに観ると戸惑うかもしれません。

「羅生門」の舞台は平安時代の京都、朱雀大路に立つ羅生門。1人の下人が死体の髪を抜く老婆と出会います。「下人とは…」「死体の髪を抜く!?」と一瞬戸惑うワードも多いのですが、2人の会話が進むうちに変わっていく下人の心の移ろいに考えさせられる作品です。

みんなのレビュー

生死が関わる時に行う悪事は許されるのか。ダラダラ続けず、答えを提示しないでズバッと終わる所が良いね。

https://bookmeter.com/reviews/88218042

読んでみて

「鼻」は芥川初期の短編で、1916年に『新思潮』に発表されました。芥川が深く尊敬していた夏目漱石から大変褒められた作品です。こちらも『今昔物語』や『宇治拾遺物語』の説話を題材にしています。

京都にある寺の僧である禅智内供(ぜんちないぐ)は、あごの下まで垂れ下がる長い鼻を長年苦に思っていました。弟子の治療によって普通サイズの鼻になってからの描写が見事です。「人の幸せは憎たらしいが、人の不幸は蜜の味」という人間の底意地悪い心理を捉え、なおかつユーモラスに描いています。

みんなのレビュー

河童

読んでみて

「どうか Kappa と発音して下さい」という一文から始まる「河童」は、芥川龍之介が1927年に発表した中編小説です。この年に芥川は自殺していて、その動機を考えるうえでも重要な作品といわれています。芥川の命日である7月24日はこの作品から「河童忌」と呼ばれています。

主人公の男は穂高山に登山に行く道中で河童を見つけます。追いかけているうちにディストピアめいた河童の国に行き着きつくのですが…人間社会への痛烈な風刺を、河童の国という異世界を通して表現している作品です。

みんなのレビュー

感覚的にだけど 河童という存在に、人間の卑しく愛すべきどうしようもない部分を背負わせて物語を語らせている感じがする

https://bookmeter.com/reviews/82271076

藪の中

読んでみて

1922年に発表された「藪の中」は、芥川龍之介が『今昔物語集』など古典文学を下敷きにして書いた「王朝物」の最後の作品です。1つの出来事を複数の視点から描くという「内的多元焦点化」という手法で書かれています。芥川の作品のなかでもとりわけ研究論文の数が多く、それだけミステリアスな作品だということが分かります。

ある男の死体が見つかったことをきっかけに、4人の証言者と3人の当事者が話をしていくのですが、それぞれに矛盾があります。果たして真相を話しているのは誰で、何が真実なのでしょうか?ミステリーやサスペンス小説のようで、近代文学らしい結末が待ち構えている興味深い小説です。

みんなのレビュー

侏儒の言葉・西方の人

読んでみて

「侏儒(しゅじゅ)」とは身体の小さい人、もしくは知識がない人を指す差別用語で、俳優を指す言葉でもあります。芥川龍之介は身長が172センチで決して小さい方ではなかったので、自分のことを謙遜して「知識がない」としたのかもしれません。

「侏儒の言葉」は短い文章を集めた箴言集、「西方の人」はキリストの人生に芥川自身の一生をなぞらえたエッセイです。「侏儒の言葉」の冒頭には「必ずしもわたしの思想を伝えるものではない」とあるのですが、少なくとも芥川の思想の一端をうかがわせてくれる作品です。晩年に書かれたものなので、芥川が何を考え、何を感じて自殺してしまったのかを考察したい人にはおすすめです。

みんなのレビュー

芥川がもっと長生きしていたら、もっと様々な文学や思想に触れて、それについてどういう意見を持っただろうかと考えざるを得ない。芥川は天才過ぎてもっと深く彼の作品を理解したいと思う片面、そんなことは不可能なのだと気づいて、遠い遠い存在であることを思う。

https://bookmeter.com/reviews/85922668

芥川龍之介をライクに楽しむ作品

10分間で読める 芥川龍之介短編集

読んでみて

「まだ芥川の小説に触れたことがない」という人には、さまざまなタイプの芥川の作品が収録されたこちらの短編集がおすすめです。先ほどご紹介した「羅生門」のような王朝物から、「蜘蛛の糸」「杜子春」のような児童文学よりの作品、「蜜柑」のような近代を舞台にした短編などが12編入っています。読みにくい漢字にはルビも振られているのが嬉しいです。

収録作品のバリエーションが豊富なので、「10分間で読める」と銘打たれていても読み応えがあります。近代文学や芥川の作品に触れたことがない人にも、「読んだことがあるけど改めて読み直したい!」という人にも満足感のある1冊です。

みんなのレビュー

ほとんどが読んだことのある短編だったが、何度読んでも味わい深い。「藪の中」を読んで、映画の「羅生門」をもう1回見たくなったわ!

https://bookmeter.com/reviews/73832122

芥川龍之介 (ちくま日本文学 2)

読んでみて

「ちくま日本文学シリーズ」の芥川龍之介の巻です。文庫本より少し大きいくらいのサイズなのですが内容は大充実で、20編以上の作品が収録されています。このシリーズは1冊につき1人の作家の作品が収録されていて、注釈や解説も充実しているので近代文学初心者の人にもおすすめです。

この本に収録されている「奉教人の死」は、芥川の「キリシタン物」と呼ばれる作品群の1篇です。安土桃山時代の長崎を舞台にキリシタンの生き様を描いた作品で、当時の京阪地方の言葉で書かれています。芥川はキリシタン版の『天草本平家物語』で使われている言葉をもとに安土桃山時代の話し言葉を再現したのです。

みんなのレビュー

芥川龍之介の多数ある本(新潮社など)の中で、この、ちくまの本が文字の大きさや註釈など、一番読みやすいと感じた。「トロッコ」や「或阿呆の一生」など以前から読んでみたかったものや「杜子春」「開化の殺人」「籔の中」が印象的で、「河童」なんかはこんなに面白くて馬鹿馬鹿しいものがあったのかと驚いた。

https://bookmeter.com/reviews/73611591

芥川龍之介全集 全8巻

読んでみて

「芥川の作品をコンプリートしたい!」という人は、ちくま文庫の全集がおすすめです。全集なのでマイナーな作品も収録されていて、読み進めるたびに芥川の新たな一面を知っていくような快感があります。読書感想文やレポートを書きたいときにもいいでしょう。

芥川の全集は岩波書店からも出版されています。文庫ではなくハードカバーで読みたい人には岩波書店のものがおすすめです。

みんなのレビュー

なし

漫画で読める芥川龍之介の作品

羅生門(まんがで読破)

読んでみて

芥川龍之介の「羅生門」「藪の中」「偸盗(ちゅうとう)」を漫画化した作品です。この3作は「王朝物」と呼ばれて、平安時代末期を舞台に描かれています。小説を読んで「舞台設定がよく分からない…」という人は、この漫画で絵として見てみるのもおすすめです。

漫画になることで、登場人物の心情や行動がよりリアリティをもって迫ってきます。「羅生門」でいえば、死体が遺棄されている様子や老婆の恐ろしさが生々しく感じられるほどです。小説を読んで頭の中で場面を組み立てるのも、漫画で読んでみるのもどちらも面白い読書体験でしょう。

みんなのレビュー

「羅生門」「偸盗」「藪の中」の三作収録。漫画にすると間延びするようだが、脚色されて多面的になるようでこれはこれでいい。平安時代の末法の世というくくりで見るとまた違った見え方もある。

https://bookmeter.com/reviews/82733071

地獄変・羅生門・藪の中(マンガでBUNGAKU)

読んでみて

こちらは「マンガでBUNGAKU」シリーズの1作です。「羅生門」「藪の中」のほか、こちらも有名な「地獄変」が漫画になっています。

「地獄変」も王朝物の作品です。平安時代、腕はいいが高慢な絵師・良秀が地獄変の屏風を書くことを命じられたことから物語が始まります。目的を達成するためには手段を選ばない良秀のエゴがまざまざと感じられ、倫理観を揺さぶられる作品です。

みんなのレビュー

なし

えへん、龍之介

読んでみて

ここまでは芥川の作品を漫画化したものをご紹介してきました。ここでご紹介する『えへん、龍之介』は、芥川龍之介自身を漫画化した作品です。作者の松田奈緒子は芥川好きで有名な漫画家で、この作品も芥川への愛に満ちています。

一般的な芥川のイメージといえば「神経質そう」「天才・奇才」というものですが、この作品ではもう1歩踏み込んで1人の人間としての芥川龍之介を描いています。文学史に名を残す文豪の仕事に対する姿勢、女性との関わり、そして甘党な一面などを丁寧に描き出した作品です。

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芥川龍之介を題材にした作品

Xと云う患者 龍之介幻想

読んでみて

ディヴィッド・ピースはイギリスの犯罪小説家です。『Xという患者 龍之介幻想』は、ピースが芥川龍之介の生涯や作品をモチーフに書いた幻想的な作品です。芥川が感じていた不安や狂気を幻想文学に仕立て上げたことで、逆説的ですがよりリアルに不穏な気持ちを感じることができると思います。

日本語訳も本当に美しく、かつ妖しく魅力的です。イギリス文学であって日本文学である、また現代文学であって近代文学である、2つの境を自在に行き来する妖しい浮遊感をぜひ味わってみてください。

みんなのレビュー

https://twitter.com/erierifw/status/1158277763205230592?s=20

越し人 芥川龍之介最後の恋人

読んでみて

歌人の片山廣子は、芥川龍之介の最後の恋人といわれています。『越し人 芥川龍之介最後の恋人』は、片山廣子を主人公に芥川との出会いや手紙のやりとりを小説化した作品です。著者は小説家で俳人の谷口桂子です。

片山廣子は芥川より14歳年上の女性で、「松村みね子」の筆名でアイルランド文学の翻訳者もしていた才女でした。芥川が晩年に妻がありながら恋心を抱いた女性はどんな人だったのか…1人の男性としての芥川の一面が垣間見える1冊です。

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まとめ

芥川龍之介の作品や短編集、関連書籍を10冊ご紹介してきました。気になる1冊は見つかりましたでしょうか?

芥川の作品に1つずつ触れていきたいときは、

  • 羅生門
  • 河童
  • 藪の中
  • 侏儒の言葉・西方の人

どれでもいいから何か読んでみたいというときには、

  • 10分間で読める 芥川龍之介短編集
  • 芥川龍之介 (ちくま日本文学 2)
  • 芥川龍之介全集 全8巻

まずは漫画で芥川の作品に触れたい人は、

  • 羅生門(まんがで読破)
  • 地獄変・羅生門・藪の中(マンガでBUNGAKU)
  • えへん、龍之介

芥川龍之介という人について知りたいときは、

  • Xと云う患者 龍之介幻想
  • 越し人 芥川龍之介最後の恋人

最後の2冊は芥川龍之介の人生をモチーフとした小説をご紹介しました。作家の人生を知るには研究書や解説書を読むのが一般的ですが、今回ご紹介したような小説からアプローチしてみるのも面白いと思います。「正しい実像に迫る」というよりも、「作家の気持ちを感じる、人生をなぞってみる」というイメージでしょうか。

この記事がみなさんの参考になりましたらとても嬉しいです。