「樋口一葉はどんな作品を書いたのだろう」
「『たけくらべ』のほかにはどんな作品があるのかな」
昨年、2024年度から新紙幣が発行されるというニュースが話題になりました。現在、紙幣に描かれているのは、野口英世、樋口一葉、福沢諭吉の3人です。(二千円札の紫式部は肖像画に含まれません)その中でも、史上2人目の女性として紙幣に採用されたのが樋口一葉です。
樋口一葉は明治期に活躍した作家で、女流作家として評価の高い作品を次々と発表しました。しかし、肺結核を患い、24歳の時に逝去。その執筆期間はわずか1年半という短いものでした。しかし、代表作である「たけくらべ」しか知らないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、学生時代に「樋口一葉全集」を読破した筆者が、樋口一葉のおすすめ作品15選をご紹介いたします。今回は樋口一葉の小説を読んだことがない人に向けたおすすめ作品から、時徐々に読んだことがある人向け作品を紹介していきます。
気になった方は、電子書籍等で読んでみてはいかがでしょうか。
樋口一葉の小説を読んだことがない人におすすめの代表作品
大つごもり
読んでみて
1894年12月に文芸雑誌「文学界」にて発表された短編小説作品。18歳で山村家の奉公人である主人公のお峰が、暇を貰い伯父の家へと帰宅します。すると、伯父は高利貸しから借りた10円の期限が迫っており、お峰は山村家から借りようと決意しますが、そこへ惣領の石之助が現れ…という物語。
大つごもりとは「大晦日」の別の言い方で表した言葉です。大晦日周辺で巻き起こるお峰やお峰の周辺人物達の、貧乏であるが故の悲哀を描いた作品となっています。また、本作は、一葉の貧困体験から描かれた作品となっています。
みんなのレビュー
人間の心の変遷や、儚さといったものを感じる。恋とか愛とか、そういったものも時と共に消えていき、後に残る現実はやるせないほど。明治の人々は家や親や立場といった様々なものに縛られており、私たちの観点から見た自由は無いと言える。もちろん幸福な人間もいるのだろうが、その中で辛い思いをしている人間もいた。そんな中で耐え忍び、また自由を求めた人々、特に女性の姿が描写されている。話の中の人々は良いだけ、悪いだけの人間ではなく、清濁を持った等身大で個性のある人間だ。苦境にある彼らの身の上は切なく、哀れを誘う。
引用元:読書メーター
たけくらべ
読んでみて
1895年から1896年まで文芸雑誌「文学界」で連載された短編作品。吉原の遊女の妹である主人公の少女・美登利は運動会の日に、龍華寺僧侶の息子である信如にハンカチを差し出したことがきっかけで、二人は互いを意識し合うように…という物語。
1893年に一葉が吉原近くにある下谷区下谷龍泉寺町にて、雑貨屋を経営していた実体験に基づいた作品となっております。作品を通して、明治時代の庶民の生活や吉原周辺の生活などを知ることが出来る一冊です。
みんなのレビュー
文語体が読みにくいが、それも文章のリズムとなってだんだん響いてくる。江戸の雰囲気漂う当時の庶民生活を垣間見れるのも楽しい。どの主人公も経済状況や、家や身分と言うものが足枷となり、自分の人生を思うように生きられない不自由さが付き纏う。逃れたくても逃れられない人生の悲哀。家族のために自分を犠牲にして生きていかなければならないのだ。「たけくらべ」は、名作と言われるだけあって、子供時代の終焉というものを見事に描いていてよかった。そのほか、「十三夜」「われから」も面白かった。
引用元:読書メーター
ゆく雲
読んでみて
1895年5月、博文館が刊行した総合雑誌「太陽」にて掲載された短編作品。甲州大藤村中萩原の造酒屋野沢清左衛門の養子となった主人公・清次は、東京へ書生として遊学しておりました。その途中、下宿先となっていた上杉家の娘である縫に心を惹かれていたのだが…という物語。
本作は、一葉の父である則義が保証人とり、東京帝国大学へ進学していた野尻理作という人物がモデルとなった作品です。一見すると、読みにくい長文が続きますが、繰り返し読んでいくことで情景が思い浮かびやすくなります。
みんなのレビュー
非常に難しくて、1回読んだ時は意味がよく分からず、もう1回読んでやっと理解できた。文語体で書かれており、一つ一つの文章が長くて、読みにくい。最初に読んだ時は、だらだらと続いていく文章にうんざりして泣きたくなったが、2回目に読んだ時は、この流れるような柔らかい感じに、親しみを覚えた。おぬいと桂次の悲しい恋の物語。桂次が主人公のように見えて、本当はおぬいがこの物語の主人公なのかもしれない。自分の境遇を受け入れて、それに耐えていくおぬいには、一葉自身の人生が反映されているのだろう。
引用元:読書メーター
うつせみ
読んでみて
1895年8月に読売新聞にて掲載された短編作品。ある深く茂った木々の中に建つ一軒家へ、主人公の女性・雪子が引っ越してきました。雪子は精神病を患っていたために突然豹変し、一月毎に引越を繰り返していたという。その原因は、雪子が振った植村という人物が関係しているそうだが…という物語。
本作は、雪子の内面部分があまり描かれず、周辺で出来た事などから心理を推測するという少し難解な作品となっています。ですが、家関係に振り回され、日に日に病んでしまう雪子という人物を思うと、非常に切なく感じる作品です。
みんなのレビュー
お嬢様の精神の病み方が心に迫りました。家の事を考えて特に入院もさせずにただ治ってくれ、という家族に悲しくなりました。
引用元:読書メーター
にごりえ
読んでみて
1895年9月、博文館出版の文芸雑誌「文芸倶楽部」にて掲載された短編作品。丸山福山町の銘酒屋の遊女である主人公・お力。その馴染み客であった源七は、お力に惚れこんでしまい、日に日に没落していたのです。ある時、妻子と別れたことをきっかけに、源七はお力に刃を向け…という物語。
本作は、一葉が父の七回忌法要のために前借した原稿料の代わりに提出した作品と言われております。お力と源七の報われない恋物語ではありますが、もう一つ、貧困が故に招いた悲劇の話という、現代にも通じる側面を持った作品田と感じます。
みんなのレビュー
お店で人気のある遊女お力に熱をあげる源七だが、生活苦のため、お店に足を運べなくなり、お力に会えなくなる。そしてお力のことがどうしても忘れられなく、何も手に付かない源七は妻子と別れ、自殺の片割れとしてお力と一緒に心中する。 今で言うキャバクラ嬢に恋心を抱くも、それはただの戯れで、何も手につかず、生活もままならなくなり、ただ忘れられない、我がものにしたいという独占欲から道連れにして自殺する。100年近く前の作品ですが、現代でも通じるところがあるのではと感じさせる作品でした。
引用元:読書メーター
一葉の代表作品を読んだ後に読みたい作品
雪の日
読んでみて
1893年3月に文芸雑誌「文学界」にて掲載された短編作品。
主人公である人妻の珠は、子供の頃を回想します。珠は小学生の頃に慕っていた教師の桂木一郎という男性がいました。しかし、このことが村中の噂となり、叔母から桂木に会うなと言われてしまうのですが…という物語。
雪の日に駆け落ちした教師と女生徒、という作品で、本作は一葉の恩師にあたる半井桃水への思いを込めた作品として知られています。一時の感情に駆られ、結果、今は激しく後悔するという高低差の激しいところが魅力的な作品です。
みんなのレビュー
樋口一葉の読みにくい短篇。半分も理解できない。難しい。▼両親を早くに失った珠は、伯母のもとで蝶よ花よと大切に育てられたが、小学校教師との関係が噂され、伯母は二人が会うことを禁じる。珠は伯母を恨み、二人は駆け落ちする。その後、夫との関係は悪化し、伯母も死ぬ。深い悔恨にうち沈む珠であった。▼樋口一葉の実体験(小説の師・半井桃水との関係がスキャンダルとなり師弟関係を解消)が盛り込まれているとされる。
引用元:読書メーター
花ごもり
読んでみて
1894年2月に文芸雑誌「文學界」に掲載された作品。主人公である瀬川与之助は、母のお近と従妹のお新の3人暮らしをしておりました。このまま、仲良く暮らすことを夢見ていた与之助とお新でしたが、そこへ田原家令嬢との結婚話を持ち掛けられ母のお近は揺らぎ始め…という物語。
「家の繁栄」を願うがために、別れることになった与之助とお新の悲恋を描いた作品。一文が長いため、少々読みづらいところはありますが、物語のあらすじが入っていると、読みやすく感じる作品となっています。
みんなのレビュー
たけくらべ同様一文の長さが激しい短編。どうやら話は悲恋っぽいぐらいとしか。文の中にセリフの体裁が落語的。まあ文が長すぎに比べればその辺は、ね。
引用元:読書メーター
十三夜
読んでみて
1895年12月、文芸雑誌「文芸倶楽部」にて掲載された短編作品。主人公であるお関は、貧しい士族斉藤主計の娘です。七年前に、官吏の原田勇に望まれて結婚するも、その態度の冷たさに耐えかね、子どもの太郎と共に実家へと帰郷しました。しかし、突然の帰郷に怪しむ両親は…という物語。
現代でも問題となっている夫婦間での「モラハラ」が描かれている作品で、1世紀以上前からすでにDVのようなものがあったんだなと実感しました。また、本作は上下巻に分かれており、下巻ではかつての想い人が登場します。
みんなのレビュー
どれも興味深いが、特に表題にもなっている『十三夜』。現代風に言えば『モラハラ』を主題にした作品だが、その終わり方に驚かされた。モラハラを悪しきものと捉えているのは今も昔も同じようだが、現代で同じテーマの作品が作られるならこんな展開になるとは考えにくいし、長編にもできるだろう。また、他の社会問題にも触れながら、社会を写す作品にできそうでもある。だが、『十三夜』はそうではない。時代が変われば、こんなにも語られ方が変わるのかと驚かされた。
引用元:読書メーター
この子
読んでみて
1896年1月、雑誌「日本乃家庭」に掲載された短編作品。主人公で裁判官の妻である山口実子は、そりの合わない夫や生まれてきた子供などを激しく憎んでおりました。しかし、子どもの笑顔を見ているうちに、自分が嫌悪していた部分などがはっきりとわかるようになり…という作品。
文芸誌ではなく婦人誌に掲載された作品だったため、他の作品と比べて悲哀の部分が少ない作品となっています。また、一葉作品の中で唯一、言文一致体の作品となっているため、それまでの不安と子どもが生まれてからの喜びなど、分かりやすく表現されています。
みんなのレビュー
唯一言文一致体で書かれた作品。赤ん坊が可愛いくて、不満溢れんばかりだった結婚生活に喜びを見出したと「私」が語る一遍です。奇跡の十四ヶ月中の作品。唯一を重ねると一葉さんの母性愛が語られた作品であるとも思います。所謂家庭を持つ事への想いがあったのかと思うと、半井桃水との一件や彼女の夭折を鑑みて切なくなります。
引用元:読書メーター
わかれ道
読んでみて
1896年1月、月刊雑誌「国民之友」に掲載された短編作品。一寸法師というあだ名がついた傘屋の吉三は、針仕事をしている姉のお京の住む長屋へとやって来ました。実はこの二人は本当の姉弟ではなく疑似姉弟だったのです。そんな時、お京へ縁談話が持ち掛けられるのですが…という物語。
両親など身寄りのなかった吉三に優しくしてくれたお京。しかし、お京は突然、名家の妾となってしまい吉三は激しく狼狽えます。展開が突然すぎてついていけない部分もありますが、何回も読むことで、その切なさをじっくりと味わうことが出来る作品となっています。
みんなのレビュー
えっ? うそ…、なんで? なんでだよ、やだやだ、そんなの、オレは認めないよ、やだよやだよ…ねえ、なんで? なんでオレはいつもこうなるかな…みたいな、一寸法師の吉の気持ちが手に取るようにわかるので、読んでいるうちに私まで泣きたくなってしまって、どうしたらいいかわからず、吉の手をとったら、この手を離しておくんなさい、と振り払われるのだろうな。樋口一葉、わたし、大好き。
引用元:読書メーター
樋口一葉の小説は大体読んだ人が挑戦したいマイナーな作品
闇桜
読んでみて
1892年3月に、同人誌「武蔵野」にて掲載された樋口一葉の処女作。同じ軒先の梅を眺めていた中村家と園田家。その、中村家の一人娘の千代と、園田家の良之助は兄妹のように仲の良い2人でした。ですが、ある時から千代は良之助の事を、意識し始めてしまい…という物語。
恋煩いをテーマにした作品で、結ばれぬ悲恋を描いております。処女作という事もあり、読みづらさもあるため、他の一葉作品を読んでから、その形式に慣れてから読むことをおすすめします。
みんなのレビュー
一葉女史の悲恋もの。かなたに忘れてきた日本の「もののあはれ」を明治日本を舞台に復活させた、それが樋口一葉という作家なのかもしれない。ただよう空気、情景、人の心の機微。文章を読んでいくだに、この人を得られたのは日本文学の僥倖だろうと思った。しかし閉口したのはルビの過剰使用による文章の読みづらさ。お話を理解するのに何度も読み返さなければならなかった。
引用元:読書メーター
別れ霜
読んでみて
1892年4月に「改進新聞」にて掲載された短編作品。呉服商である新田家の娘の高と、松沢家の芳之助は許嫁の関係であり、二人は相思相愛でした。しかし、高の父親の策略にかかり、松沢家は没落してしまいます。高には、新たな縁談として医学士との話が持ち上がりますが…という物語。
前作の「闇桜」に続き、こちらも悲恋を描いた作品となっています。父親の野心により引き裂かれた二人の愛は、時が経っても愛し続けているというシェークスピア作品のような儚い作品となっているのが特徴的です。
みんなのレビュー
なんかー泉鏡花の難解モノみたいな
引用元:読書メーター
暁月夜
読んでみて
1893年2月に雑誌「都之花」に掲載された短編作品。香山家の令嬢である一重は、数ある縁談も全て断り、一人で住みたいと願っています。そこへ、一重に興味を持った学生の森野敏という男が、香山家の住み込みの庭師として働くことになり、やがて二人が出会い…という物語。
愛の深さをテーマについて描かれた作品で、物語の終盤でようやく一重がなぜ恋愛をしたがらないのかという理由が明かされます。他の作品とは異なり悲劇的な結末ではないので、バッドエンドが苦手という方にはおすすめです。
みんなのレビュー
香山家の令嬢、一重は美人で縁談も多いが「一生一人で暮らしたい」と全て断っている。書生の敏はそんな一重に興味を持つが、やがて恋してしまう。悲恋っぽいロマンチックな結末を迎えるものの、物語中盤で敏が一重に近づいていく描写が今の世からすれば完全にストーカーで、恐怖すら感じてしまったせいでなんとなくもやもやが残った。時代が変わったせいなのか、私がひねくれてるだけなのか……。
引用元:読書メーター
うらむらさき
読んでみて
1896年2月に雑誌「新文壇」にて掲載された短編作品。西洋小間物の店主小松原東二郎の妻である主人公のお律は、ある時、姉から手紙が届いたと東二郎に報告します。東二郎は優しく送り出しますが、実はそれは嘘の内容で、本当は愛人に会いに行く約束だったのです…
本作は、女性側の不倫というテーマで描かれた作品になっています。一度は、人として最低であると思い留まるも、夜風に吹かれている間に何かが吹っ切れ、お律は再び歩き出します。この作品は、一葉が結核のため逝去したので未完となっていますが、倫理観について考えさせられます。
みんなのレビュー
なんでもないふりをして実は気もそぞろ、外に出たものの、帰りましょう、帰りましょう、帰りましょう、帰りましょう、と自分に言い聞かせるのに、足は動かない。気持ちを振り切って走り出したら、気持ちも胸の動機も静まっていって……という、樋口一葉のこういう不思議なところが私は大好き。短い中で登場人物の名前がなかなか出てこないところが、なんだかシャレている。お律さんというのか。大丈夫かな。気をつけて。と、後ろ姿に声をかけたくなった。
引用元:読書メーター
われから
読んでみて
1896年5月に文芸雑誌「文芸倶楽部」に掲載された樋口一葉最後の作品である長編作品。大蔵省の下級役人金村与四郎の妻である主人公のお美尾は、なかなか出世できない与四郎にイライラを募らせていました。そんな時に、お美尾は女の子を出産し、家から出て行ってしまいました…
全十二章で構成された長編作品で、女性の情念開放をテーマにして描かれた作品となっています。親子二代にわたっての理不尽さを描いている作品ではありますが、掲載されている作品が少なく、「たけくらべ」と比べて、あまり高い評価を得られなかった作品として知られています。
みんなのレビュー
われから読んだ。女性作家にしか描けない女性のリアルなところってあると思う。主人公お町が旦那に感情を吐露する場面のコントロールできない不安定さ、不安はそういうものじゃないかと思う。個人的にはかわいらしくていいと思った。書生の千葉の部屋の炭をおこしてあげるシーンのお町は純粋でかわいいと思った。千葉とハッピーエンドになって欲しかった。でもこのラストなのは明治期の女性というのがやっぱり閉じた存在で、樋口一葉はそれをよく思っていなかったからじゃないかなぁと思った。
引用元:読書メーター
まとめ
全体的に、樋口一葉作品は悲恋や身分違いの壁など、報われない作品が多いという印象を受けます。また、文章も一文が長いため、最初のうちは読むのに苦労するかもしれません。ですが、その裏には一葉が実際に体験した貧困が故の屈辱などが多く描かれています。
明治時代の女性には参政権が存在しないなど、男女格差による理不尽も数多く存在しており、樋口一葉はそんな中でも、女性の代弁者として活躍した最初の近代女性作家だと思います。この記事をきっかけに樋口一葉作品に興味を持っていただければ幸いです。