「江戸川乱歩ってどんな本を書いた人なんだろう」
「昔の推理小説がどんな雰囲気だったのか読んでみたい!」
今年で没後55年を迎える文豪・江戸川乱歩。人気漫画「名探偵コナン」の主人公である「江戸川コナン」の名前のきっかけになった人物としても広く知られています。
しかし、いくつものシリーズがあり、尚且つ、その独特の怪奇性やグロテスクな表現、ホラーな描写から少し読むのを躊躇ってしまうのではないでしょうか。表紙も他の本に比べ独特なイラストで、少し怖いと思ってしまう人もいるのではないでしょうか。
そこで、今回は「江戸川乱歩のおすすめ作品」をシリーズごとにご紹介いたします。
おすすめ代表作品(シリーズ以外)
白昼夢
読んでみて
1925年、雑誌「新青年」7月号の『小品二篇 その一 白昼夢』で掲載された短編作品。目的もなく道を歩いている私が、偶然演説をしている男と民衆を見つけ、その男の話に耳を傾ける。その男は薬屋で、浮気性の妻を殺したというのだが、民衆は真に受けず、取り締まるべき警察官ですら、ただ笑って演説を聞いていた、という物語。
タイトルの「白昼夢」は、非現実的な空想、という意味で、果たしてこの話が事実なのか、それともただの悪夢なのか、解釈次第で物語の内容が変わっていくという、江戸川乱歩作品の世界観が詰まった作品です。
みんなのレビュー
道端で演説者の話に耳を傾ける通りすがりの男。浮気者の妻を「殺すほど愛していたのだ!」と語る演説者。妻を切り刻み「屍蝋」にし人体模型として飾ったと乱歩いつものグロイ描写。男にはこの演説者の話がじわじわと真実味を帯びて聞こえてくる。そしてそこにあるガラス箱の中には一面に産毛が生えた女の顔… これぞ白昼夢。しかし聴衆は「ハハハハ」と笑い信じない。短い文章の中に乱歩ワールドが凝縮。それは心地いい怪奇の世界。
https://bookmeter.com/books/11205881
人間椅子
読んでみて
1925年、雑誌「苦楽」9月号に掲載された短編作品。女性作家である佳子に、手紙が一通届きました。それは、醜い容姿をした椅子職人である「私」からの手紙でした。それは、今まで犯した罪悪を告白する内容の手紙だった…という物語。
この物語は、「私」の変態性が高く、その趣味嗜好とてもマニアックすぎるという事で、乱歩作品の中でも、注目度の高い作品となっております。そして、最後には乱歩らしい結末が用意されています。おおよそ、15~30分程で読める短編なので、乱歩作品の入門編として読んでみるのもいいでしょう。
みんなのレビュー
青空文庫にて。乱歩は初めまして。有名な作品だからか、大筋は何となく知っていたが、二段落ちの構えにやられた。しかも、二段落ちの振りして三段落ちじゃないの…?と思い至りそこで怖くなる。短いけれど満足感を得られる一作。
https://bookmeter.com/books/10878245
パノラマ島奇談
読んでみて
1926年、雑誌「新青年」10月号から1927年4月号まで5回にわたって連載された中編作品。売れない作家・人見廣介は理想郷を立てることを夢見ていました。ある日、廣介と容姿が瓜二つの同級生だった大富豪・菰田源三郎が亡くなったと聞き、廣介はこれを利用しようとある計画を立てる…という物語。
この作品は、詩人である萩原朔太郎からは好評であったと、乱歩自身が語っております。狂気に満ち溢れたパノラマ島と、ラストに向けての急展開。乱歩の脳内を描いたような、独特過ぎる世界を体験することが出来る作品です。
みんなのレビュー
パノラマが最も流行したのは明治時代で、映画館が登場するまでそれはすごい人気ぶりだったという。明治生まれの乱歩の幼少期は、ちょうどパノラマの最盛期だったのかもしれない。小さい頃見学したパノラマの記憶に、長年ある種の魅力を感じていたのだろう。パノラマ島を移動していくと、次々に違う世界が広がるというのは、ディズニーランドのようでもあり、訪問者の遠近感を狂わせるのは、岐阜県にある養老天命反転地の仕組みとも重なる。今となっては、日本各地のテーマパークで、パノラマ島の技術が部分的に実現されているのはおもしろい。
https://bookmeter.com/books/11031961
押絵と旅する男
読んでみて
1929年、雑誌「新青年」6月号に掲載された短編小説。魚津からの帰り道、汽車の二等車内で「私」ともう一人、紳士風の男性が乗車していました。その男性は、車窓に額縁を立てかけていて、「私」は不思議に思い、男性の前に座り、その不思議な話を聞くことに…という物語。
乱歩自身、この作品について「ある意味では、私の短篇の中ではこれが一番無難だといってよいかも知れない」と、肯定的な言葉を残した作品です。乱歩作品ではゆったりとした雰囲気かつ幻想的な世界で、読んだ後も穏やかな気持ちになれる作品です。
みんなのレビュー
どうしても読みたかった作品。読んでみてタイトルなるほど、そういうことかと。不思議な作品でした。 押絵の女に魅了された25歳の兄が、押絵に入って歳をとるというただそれだけなのだが、その押絵と旅する弟の語り口が心地よい。全体通して微かな奇妙さを纏わせた、こういう乱歩のお話も良いものだなと感じました。
https://bookmeter.com/books/10980109
明智小五郎シリーズ(長編)
黒蜥蜴
読んでみて
1934年、月刊誌「日の出」の1月号から12月号に連載された長編小説。岩瀬庄兵衛が所蔵するダイヤモンド「エジプトの星」を狙う女怪盗・黒蜥蜴と名探偵・明智小五郎の対決を描いた作品。
乱歩作品で、唯一の女盗賊が登場する作品で、要所要所に耽美な描写やグロテスクな描写が出てくる作品として、評価の高い作品です。また、別作品である乱歩の代表作「人間椅子」のトリックを使ったシーンも登場し、併せて読むのもおすすめです。
みんなのレビュー
青空文庫より。ミステリーというよりはハードボイルド物といった感じの作品。躍動感ある話で一気に読みきれた。明智小五郎と黒蜥蜴は似すぎたものは憎み合うという感じのラストは何とも綺麗な終わり方と思う。
https://bookmeter.com/books/9270431
黄金仮面
読んでみて
1930年から1931年まで雑誌「キング」で連載されていた長編作品。マルセル・シュウォップの「黄金仮面の王」をヒントにして制作されました。これまでの乱歩作品と違い、怪奇性の強い描写が少なく、どちらかというと娯楽色が強い作品となっているのが特徴的です。
というのも、この「黄金仮面」では、モーリス・ルブランが生み出した怪盗「アルセーヌ・ルパン」と明智小五郎が対決するという推理小説ファンにとって、夢のような展開が描かれております。実こういった、小説だからできる有名キャラ同士の推理対決も、魅力の一つです。
みんなのレビュー
厳重な警備の中、博覧会に展示された大真珠「志摩の女王」が黄金仮面なる怪人に盗まれた。いつもながらの変装で事件の解明に乗り出す明智探偵。追う探偵に逃げる怪賊黄金仮面。執拗な追撃を逃れる為に怪盗は小五郎の命を奪う‥‥。さらに怪盗は、国宝まで盗むという大仕事をやってのけるが‥‥黄金仮面が本当の正体を現し、活動的に動き(逃げ)回る後半あたりから凄く面白かったですね。最後は、盗人の肩は持たないが、捕まっては大変である(笑)これで良かったのだと思いましたね。
https://bookmeter.com/books/453145
明智小五郎シリーズ(中短編)
D坂の殺人事件
読んでみて
1925年、雑誌「新青年」に掲載された短編推理小説。D坂で起きた密室殺人事件を語り手である「私」と素人探偵「明智小五郎」が推理し事件を解決していく物語。
この「D坂の殺人事件」で、名探偵・明智小五郎が初登場し、のち「心理試験」「屋根裏の散歩者」とシリーズ化されていきました。短編という事もあり、物語がスムーズに進んでいくので、推理小説初心者の方には読みやすい作品となっています。
みんなのレビュー
かの有名な明智小五郎が初登場する作品ということで手に取った。誰も出入りしていないはずの部屋で、古本屋の妻が殺される事件が発生する。60ページほどの短編だからこそなのか、会話までもがあっさりと端的。動機が予想外で驚いた。シンプルで読みやすい。
https://bookmeter.com/books/11075614
屋根裏の散歩者
読んでみて
1925年、雑誌「新青年」8月増刊号に掲載された短編推理小説。趣味を持たない男・郷田三郎が、探偵・明智小五郎と知り合い、次第に「犯罪の真似事」に興味を持ち始める。しかし、暫くしてから「真似事」では心が満たされず、ついに「犯罪」へと手を染めてしまう…という物語。
この物語で使用されているトリックは、乱歩自身が大阪で鳥羽造船所電機部に就職していた時代の経験から着想を得ていると、解説されております。乱歩作品の魅力の一つである怪奇性や幻想性はそこまで高くないですが、推理小説としては十分面白い作品です。
みんなのレビュー
青空文庫にて。何の遊びにも喜びを見いだせなかった男が犯罪の真似事に喜びを覚え、とうとう人殺しまで起こしてしまう。明智の手に掛かればあっという間に解決してしまうが、それに至るまでの起承転結がコンパクトにまとまっていて分かりやすかった。
https://bookmeter.com/books/11275679
少年探偵団シリーズ
怪人二十面相
読んでみて
1936年に月刊娯楽雑誌「少年倶楽部」で連載された少年向け推理小説シリーズの第1作目。変装が得意な怪盗・怪人二十面相と名探偵・明智小五郎の助手である小林芳雄少年が、秘宝・ロマノフのダイヤを巡り対決していく物語。
「まほうつかいのようなふしぎなどろぼう」と劇中でも紹介されている通り、どんな姿にでもなれるという怪人二十面相が初登場。言葉遣いは少々難しいですが、小学生以上なら楽しんで読める内容となっている作品です。
みんなのレビュー
小学校の図書館で読み漁った江戸川乱歩作品なので、数十年ぶりに再読した事になります(*´-`)怪人二十面相も読んでいると思いますが、全く思い出せず…当時でこの展開であれば小学生は夢中になっただろうな(*´-`)古い作品なので、時代劇に出てくるような語り口調の配役たちですが、これも味があり読者を昭和の時代に導いてくれますよ(*´-`)内容は二十面相ひきいる窃盗団の鮮やかな窃盗テクニックと名探偵明智小五郎の頭脳戦、面白いですよ
https://bookmeter.com/books/445168
少年探偵団
読んでみて
1937年、月刊娯楽雑誌「少年倶楽部」で連載された少年向け推理小説シリーズ第2作目。前作「怪人二十面相」の終盤で、小林少年を中心とした少年探偵団の活躍を描いた物語。次々と起こる謎の少女誘拐事件と呪いの宝石という言い伝えの謎に少年探偵団と探偵・明智小五郎が挑む、という作品です。
1936年から1962年まで26年に渡り連載された「少年探偵団シリーズ」。この、2作目の少年探偵団では、他のメンバーの紹介や二十面相との再びの対決など、見所の多い作品となっております。
みんなのレビュー
子供のころ大好きでよく読みました。やっぱりドキドキワクワクしておもしろい。われらの明智探偵がスマートでかっこいいし、少年探偵団が生き生きとしてるし二十面相の怪盗紳士っぷりも素敵。ところどころちょっと怖いのもいい。水攻めとかヒヤッとする。この少し昔の雰囲気とか今の子供達は好きかな?好きだといいな。
https://bookmeter.com/books/486660
まとめ
こちらで紹介した小説以外にも映画化、舞台化されている作品が多く、本だとイメージしにくいという方は、映像化されている作品から入ってみるのもおすすめです。
ホラー色が強い、エロティシズムな描写が苦手、など、すこし敬遠されがちな江戸川乱歩。ですが、少年向けに描かれた「少年探偵団」などは、子供に向けて楽しく読める冒険活劇作品となっております。江戸川乱歩をきっかけに、推理小説を読み始めてみてもいいかもしれませんね。様々な角度から楽しめる、江戸川乱歩の世界観を体験してみてください。