「カフカは小説『変身』で有名だけど、どんな作家で、どんな作風の小説を書くのかよく知らない」
「カフカの小説は〝不条理〟というキーワードで説明されるけど、それはどういうものなの?」
小説「変身」や「審判」「城」を書いたフランツ・カフカは、20世紀を代表する作家の一人であり、のちに続く作家やアーティストに大きな影響を与えました。
日本においても安部公房や村上春樹などに影響を与えたことは有名です。ユダヤ人であるカフカの作品はナチスドイツの弾圧の対象になりましたが、第二次世界大戦後は、サルトルやカミュなどフランスの実存主義者に注目され、「不条理」というキーワードの下、その作品は高く評価されるようになりました。
こうした経緯もあり、難解な印象を受けるカフカの小説ですが、その寓話性や幻想的な作品世界は、普遍的なテーマを持って現代に迫ってきます。
そうしたカフカ作品の普遍性を知るために、ここでは初級者のガイドとして最適な本から、カフカの世界に深く分け入りたい中・上級者にもおすすめの本も紹介します。
入門編
カフカのかなたへ
読んでみて
ドイツ文学者池内紀氏は、カフカの小説の翻訳や研究でも有名です。そのカフカを知り尽くした池内氏による作品論は、カフカ初心者がカフカの小説を読むための格好のガイダンスになります。
カフカの小説は、文章自体は平易なのですが、安易な意味付けを拒む難しさを感じる人も多いと思います。しかし池内氏はカフカ作品を「大人のためのメルヘン」と位置づけ、その魅力をわかりやすく教えてくれます。論文のように堅苦しいものではないので、まずは池内氏の文学論・作品論を楽しむというスタンスで読んでも良いと思います。
みんなのレビュー
カフカの小説と人生が折り重なって展開する構成がドラマのよう。謎めいて不可解で、いく通りの解釈も可能なカフカの作品には、性急に意味を求めなくても良いのだと思えた。
引用元:読書メーター
ポケットマスターピース01 カフカ
読んでみて
この本はカフカの代表的な作品とともに、カフカが残した手紙や公文書なども収録した作品集ですが、解題や参考文献の紹介がとても充実しているので、この1冊を手に取れば、カフカの生涯や作品の基本情報が把握できます。
また、この本の解説・翻訳・編集を手がけたのは小説家・詩人の多和田葉子氏。他にも翻訳者として川島隆氏、竹峰義和氏、由比俊行氏が加わり、素晴らしい翻訳が行われています。翻訳された小説の魅力は、原著だけでなく翻訳者の文体に左右される要素が大きいので、色々なタイプの翻訳で読んでみることをおすすめします。
みんなのレビュー
中級編
カフカ事典
読んでみて
カフカの「事典」と言うだけあって、カフカの小説はもちろん、草稿や断片まで、カフカの全作品を解説した本です。また、カフカ文学を「機械」「文房具」「健康法」「映画」「性」など12の視点から解き明かす作品アプローチは著者池内氏のエッセーとしても楽しめます。
「変身」や「城」「審判」などの代表作を含む作品群だけでなく、新聞・雑誌への発表作、草稿・断片なども網羅し、各作品の作品解説や解釈例がわかりやすくまとめられています。またブックガイドもついており、まさにカフカ「事典」としての機能を果たす一冊になっています。カフカの全体像を知りたい方にはうってつけの一冊です。
みんなのレビュー
カフカについてのいろいろなことが、要領よくまとまっている。例えば「カフカ文学をめぐる12章」では、文房具や健康法から、性、女性まで。いろいろの女性と付き合いがあった。でも、みんな保護者的(若い人も)に振る舞う。
カフカの作品は、小説のあらすじ(といってもまともな筋はないが)と、いろいろな解釈を紹介している。これは大変便利。
引用元:カフカ辞典
カフカとの対話 手記と追想 (始まりの本)
読んでみて
カフカを実際に知る人によるカフカ伝です。著者の父は、労働者災害保険局に勤務していたカフカの同僚でした。著者は17歳の時にカフカと出会い、カフカを慕い、交流を深めていきます。カフカの伝記を論じる際には、カフカの残した日記や手紙など一次資料に並ぶ、重要な資料として扱われています。
あくまでも著者の追憶の中のカフカ像ですから、そのまま客観的に事実を伝えているとは言い難い部分もあるでしょうが、実際にカフカの生きた声を聞いた著者による証言は、カフカの思想や人物像をみずみずしく伝えてくれるのではないでしょうか。カフカの人物像に興味が湧いたら一度は読んでおきたい本です。
みんなのレビュー
「人間失格」を自伝だと思っている人が多い。だがある意味下手な自伝以上に自伝的だから、そう捉えるのは案外間違いではない。これも同じ。内容の全てが事実か否かなど瑣末な話。たとえばプロレスの試合やキャラクターはリアルじゃないかもしれない。だが熱い戦いから滲み出る何かは決してフェイクではあり得ないのだ。青春期のヤノーホに多大な影響を与えたカフカ。そこにどれだけ世俗的企図や欲や虚構が入り込んだとしても、浮かび上がる真実は隠せない。まさに文学。そろそろ君もこれを読む時だ。そんな声を聞いた。カフカ必ずあなたに追いつく。
引用元:読書メーター
1冊でわかるカフカ
読んでみて
この本は、オックスフォード大学出版局から出たカフカ解説書の日本語版です。伝記的事実や時代的、文化的背景、表現技法の特徴など、カフカ文学を理解するための基本事項をまとめた1冊になっています。
入門書としても最適ですが、カフカと「宗教」の関係や「制度」との関わりなどを論じた章は、入門書の領域を超えた深い分析が展開されています。また本書を翻訳した明星聖子氏による「到着の謎」と題された解説もとても面白い内容になっています。
ある程度、西洋文学史や思想を理解していると面白く読める本です。文学初心者というよりは、文学好きでカフカをもうちょっと深掘りして行きたいという読者にぴったりの一冊です。
みんなのレビュー
過去に書かれた様々なカフカ論をテーマ別にまとめて最後の読書案内では参考文献としてカフカ本を24冊も上げている。それを摘み食いという感じか。カフカの作品も幅広く細部にわたって取り上げて読み応えがある。ちょっと違うと思うのもあるが。一番面白く読んだのは解説の「到着の謎」。最初にカフカの原稿を編集したブロートが草稿の削除された箇所も美しく本質をなしているとか。ついにはノートそのまま写真にして出版してしまえとか。
引用元:読書メーター
上級編
カフカの解読 徹底討議「カフカ」シンポジウム
読んでみて
カフカの小説は、戦後フランスで盛んになった実存主義の作家たち、例えばサルトルやカミュなどが注目したことで、ブームを巻き起こしました。
その後は実存主義の立場だけでなく、精神分析学的・心理学的な立場、マルキシズムやポストモダニズムあるいは社会学的、または実証伝記的な立場など、さまざまな学問・研究分野が、カフカの作品を題材にしました。それだけカフカ作品は多様性や奥深さを持つのでしょう。そうしたカフカの多様性を見せてくれるのがこの本です。
この本は、カフカの小説を単なる小説として楽しんで読むだけでなく、思想や宗教的パースペクティブの中で捉え直したい上級者の方にオススメします。
みんなのレビュー
無し
変身
読んでみて
カフカといえばまず思い浮かぶ小説ではないでしょうか。年老いた両親と妹を養っているセールスマンの主人公・グレーゴル=ザムザが、ある朝目覚めると、何の前触れもなく、突然虫に変身していたという設定の作品です。
もちろん、リアリズムではなく、ナンセンスにさえ感じる設定ですが、この寓話に何が込められているのか、考えさせられます。
差別とか病気などのために、ある日突然自分が以前の自分ではなくなる、そういう可能性は誰にでもあります。そんな根源的な不安や恐れ、私たちの深層心理をえぐり出す小説です。
みんなのレビュー
楽しんで読めたかはかなり疑問の残るところですが、色々と考えさせられる作品でした。毒虫になるというところを意思疎通が難しくなった老人になったとか、致死率の高い感染症を患った患者になったとかに置き換えて考えたときに家族の愛情はどうなるのだろうと思うと、淋しい答えしか出てこない。どんなに楽しい思い出を打ち消され、冷たくされても、逆に家族のことを思い、引き際の清さについてはしっかりした考えを持っておかなければならないのだろうと思った。
引用元:読書メーター
アメリカ
読んでみて
カフカが29歳の年に描いた作品です。突然の不条理に襲われる「変身」などの作風に比べると、カフカらしからぬ、明るさもある作品です。
主人公のカール・ロスマンは17歳。年上の女性と恋愛関係になったことで、アメリカへ追放され、新天地アメリカでの放浪生活が描かれます。
このころカフカは、労働者災害保険局に勤めていて、昼間は仕事、夜を執筆にあてていました。そんな生活の中で、この作品は途中放棄されています。カフカが婚約者に当てた手紙によると、「アメリカ」は、自伝として構想していたようです。
もちろんカフカが本当にアメリカを放浪したわけではありませんが、カフカは主人公カールにはカフカの内面性が投影されているかもしれません。
みんなのレビュー
カフカ再読。久々にカフカの引きずるような読書疲れを催す。著者自身に重ね合わせた主人公ロスマンに対する徹底した不条理へのマゾヒズムとそして創造主たる自身のサディズムは読者を引き裂き、内部に鬱屈を押し込められるような面持ちは独特の味わいだ。カフカが一度も行ったこともないアメリカを舞台にする、という点でなんだかアイロニカルで興味深く、主人公が若き純朴な青年としたことがうまく作用され、他の長編二編と一線を画して、どこか主人公への好感と思い入れを読者に引き起こさせる。故にフラストレーションは一層煽られるのだが笑。
引用元:読書メーター
ある流刑地の話
読んでみて
この短編小説は、村上春樹の「海辺のカフカ」の中でも取り上げられています。
流刑地へ学術調査に来た旅行家が、死刑執行予定の囚人のかたわらで、将校から奇妙な機械の説明を聞かされます。この機械は、死刑執行のための機械でした。
旅行家の前で死刑執行の運びとなるのですが、突然囚人は無罪放免、将校自身が死刑の機械に身を投じて串刺しになって死ぬという、これもまた奇妙なストーリーです。
ちょうどこの作品を執筆していたころ、カフカは婚約解消しており、その罪の意識が処刑という題材に投影されているという解釈が一般的です。しかし同時にこの時期は、第一次世界大戦勃発直後でもあり、この作品の解釈を行う上で、歴史的背景は無視できないかもしれません。
みんなのレビュー
幻想短篇集。角川のカフカ短篇集は表題作『ある流刑地の話』などと共に短篇集『観察』『村の医者』『断食乞食』『二つの対話』、短篇『判決』など生前出版&活字化された作品中心で、『ある犬の研究』のみ草稿から取り上げられてます。やはりカフカ、読み直す度に(自分を含めた)あらゆる幻想創作家というものは、何かしらカフカからの影響、あるいは共通点があるものと感心させられます。『流刑地』は紛れもない傑作ですが、それ以外でもカフカ短編ならではの深淵、奥深さは感じられると思いますね(・ω・)ノシ
引用元:読書メーター
まとめ
カフカをじっくり読む、というチャンスがこれまでなかったという人も多いことでしょう。しかし時代が大きく動く中、私たちはこれまで遭遇したことのなかった未知の疫病に見舞われ、まさに「不条理」としか言えない事態に直面しています。そんな時だからこそ、カフカと向き合ってみるのも良いかもしれません。
その際には、ここで紹介した書籍を道しるべに、カフカが私たちに教え示しているものをぜひ見出してください。