夢野久作のおすすめ本・作品10選【短編・長編・全集・映像化された作品まで】

「夢野久作の小説で、おすすめの作品はないかな」

「夢野久作の怪奇で奇妙な作品を読んでみたい!」」

夢野久作は、独特の幻想的な世界観と一人称や書簡を多用した独自の文体を特徴とする作家です。夢野久作の名前の由来は、九州地方の方言で「夢みる変人」を意味する「夢の久作」からとられています。

幻想と怪奇を織り交ぜた夢野作品は、日本文学のなかでもかなり異端で、代表作の「ドグラ・マグラ」は日本三大奇書の1冊に数えられるほど。戦前に書かれたとは思えないほど現代性の高い作品には、夢野の想像力の豊かさと作家としての先進的な視点に驚かれます。

独特な作品が多いため、手に取りにくい印象をおぼえるかもしれませんが、夢野作品には現代の私たちが読んでも面白いものがたくさん存在しています。

この記事では、夢野久作のおすすめ作品を長編・短編・全集・映像化作品に分けて紹介していきます。

長編

犬神博士

読んでみて

奇人と呼ばれる主人公・犬神博士の生涯を描いた長編小説で、久作の代表作の1つに数えられます。北九州を舞台に、実際に起きた炭鉱地区での紛争をモデルにしたストーリーになっており、時事問題を扱った当時としてはタイムリーな作品でした。

タイトルにある犬神とは、九州に伝わる神通力をもった犬の神様のこと。主人公のチイは、大道芸人の踊り子でおかっぱ頭の少女の姿をしていますが、実は男の子で、まるで犬神のような不思議な力を使って、周囲で起きる出来事を次々に解決していきます。小さなチイが大人たちのかかえる難問を解決していく様子は読んでいてとても爽快感があります。

本作は、未完となっているのが惜しまれますが、カタカナを多用する独自の文体を使いながらも読みやすく、久作の小説を初めて読む人にもおすすめです。

みんなのレビュー

昭和初期の作品と思えない。現代の作家が、あたまをこねくり回して書きましたと言われても違和感のない語り口、物語。はじめは九州の言葉とかいっぱいでてきて、終わりがとおございましたってなるかと思ったけど。当時の空気感が伝わってくるし、こんな活劇が実際に起こりうる時代だったのかはわからないけど、他人を恐れさせる魔少年と大人を嘲笑う少年の心は時代に関係なく描かれえるなぁと思った。

読書メーター

短編

瓶詰の地獄

読んでみて

夢野作品のなかでも、本作は特に短い掌編と呼ぶべき小説です。ほんの数分もあれば読めてしまえる作品ですが、様々な解釈ができるため、読み終わったあとも深い余韻を残してくれます。

「瓶詰の地獄」は、海洋研究所に届いたビール瓶のなかに離れ島に流された兄妹の手紙入っていたところからはじまります。夢野作品の特色である書簡体形式で、物語に登場する3通の手紙がどの順番で書かれたかによっていろいろな解釈が成り立つようになっています。

一般的には第3、第2、第1の手紙の順で書かされたとされますが、みなさんはどう思うでしょうか。ぜひ、本編を読んで考えてみてください。

みんなのレビュー

瓶詰され流された3通の手紙からなる独白形式で、無人島に漂着した兄妹の話が語られます。短い話ですが、独白形式ならではの心理表現が巧く、鬼気迫る様子や背徳感からくる狂気を凄く感じます。単純に考えれば、手紙が書かれた順序は表示逆順、手紙を書いたのは兄だと思うのですが、それが正しいとは限らない所が面白い。手紙は書く者の主観なので、真実ではない可能性もあるし、色々な読み方ができます。読み手の思考をグルグルさせて、一緒に地獄に引きずり込む・・・3つの地獄瓶に閉じ込められるのは兄・妹・読み手なのかもしれません。

読書メーター

押絵の奇蹟

読んでみて

推理小説の大家・江戸川乱歩から絶賛を受けたといわれる夢野の代表的短編を収録した1冊。表題作「押絵の奇跡」は、肺病を患ったピアニストが、自分とうり二つの歌舞伎役者に手紙を書き、自分の母と歌舞伎役者の父が実は密通していたかどうかに思いを巡らせ、自分の考えをしたためるといったストーリーで、夢野の短編に多用される書簡体形式が用いられた作品です。

果たして密通の事実はあったのか、それとも2人は想いあうだけの純愛だったのか、ぜひ一度読んで考えてみてください。本書には他にも、中編「氷の涯」と夢野のデビュー作である「あやかしの鼓」も入っていて、どれも夢野作品に初めて触れる方にも読みやすいのでおすすめです。

みんなのレビュー

トシ子が半次郎に宛てた手紙を元に話が進む、書簡体形式の作品。 最初は手紙の主体が曖昧でじれったかったけど、読み進める内にジワジワと話の筋が見えてきて面白かった。 トシ子と半次郎の外見が似ているのは、不義を働いたからに違いないと疑った夫が、妻を理不尽に責め立てる描写は辛いものがあった。 血縁関係が無くとも容姿が似てしまうのは相手を思う気持ちが強いから、という学説がなかなか興味深い。 読了後は、こんな事もあるのかもなーとうっかり夢野ワールドに浸っている自分に気が付きました。

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人間腸詰

読んでみて

人間腸詰と書いて「にんげんそうせいじ」と読む本作は、万国博覧会の展示会場を設営するために渡米した江戸っ子大工の治吉が、アメリカで体験した奇妙な出来事を語る独白体形式の作品となっています。

タイトルからして独特な本作は、治吉のみやげ話を聞くスタイルで展開される本作は、夢野小説に特徴的な言葉遣いが魅力を放つ、短編ながら一度読んだら忘れない印象深い作品になっています。

みんなのレビュー

落語のように軽妙な一人称、語るは大工のハル公。地球が丸いってぇ事など庶民には関係の無かった頃の亜米利加洋行の思い出噺。なまじ語りが面白くユーモアがあったりするので、人間腸詰の結末がより一層切なく恐ろしいと感じてしまう。秀逸です。

読書メーター

いなか、の、じけん

読んでみて

本作は、夢野の故郷である九州で実際に起こった事件をモチーフにした20編の短編からなるショートショート集です。軽く読める話から、田舎ならでは風習による陰惨な事件まで、まさに夢野の「いなか」で起きた様々な事件を描いた小説になっています。これらが本当にあった出来事をモデルにしていると思うと、より怖さや不気味さが増してきます。

1つ1つの話も短く、空き時間にもさらっと読めてしまうので、初心者の方にもおすすめの作品です。

みんなのレビュー

長い話かと思っていたら短編集だった。落語のような話もあり、ホラーっぽいものもあり……サクサク楽しく読んでいたけれど、実際にあった事件だったというのが一番のショーゲキだった。でも時代や場所を考えると似たような事件は日本のあちこちであったのかもしれない。

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死後の恋: 夢野久作傑作選

読んでみて

表題作の短編「死後の恋」ほか、全10編を収録した夢野久作の作品集です。「死後の恋」は、ロシアを舞台に、通行人に「私の運命を決めてください」と声をかける謎の男が自らの体験を語るストーリーで、夢野作品の特徴の1つである独白体形式を取り入れた作品です。

ほかにも、「支那米の袋」「あやかし鼓」「瓶詰地獄」など代表作が揃っているので、夢野作品への入り口としておすすめの1冊です。

みんなのレビュー

「死後の恋」の読み終わった衝撃が本を読み終わるまでずっと残ってた。「あやかしの鼓」も遣る瀬無くて好き。 夢野久作は文章に癖があるというのをよく聞くけど読んでいくうちに慣れるしあまりそこは感じなかった。

読書メーター

全集

日本探偵小説全集〈4〉夢野久作集

読んでみて

日本の探偵小説を作家ごとに収録したシリーズの1冊で夢野久作を扱ったもの。短編「瓶詰地獄」、中編「氷の涯」そして長編の「ドグラ・マグラ」の3作が収録され、作品数は少ないですが、夢野の短編・中編・長編を一度に味わうことができます。

なかでも、文庫本では上下巻に分かれていることが普通のドグラ・マグラが1冊に収まっている本は珍しく、夢野の傑作長編を一気に読んでしまうことができ、そのぶん、800ページ越えの大ボリュームになっています。

収録作品はどれも夢野の代表作ですし、これから夢野作品に触れたい初心者がどの本を購入しようか迷った時には、ぜひ本書を最初の入り口にしてみてください。

みんなのレビュー

夢野久作の著作から『ドグラ・マグラ』はともかく、傑作長中編の「氷の涯」、珠玉の短編「瓶詰の地獄」の3編しか収録していないという編集の思い切りの良さが、ええですわ。3編とも読んでいたのに思わず買ってしまった。自分で「夢野久作集」を編集するとしたら、短編で、もう1編「押絵の奇蹟」もいれるかな(「少女地獄」「あやかしの鼓」などもいいですよ)。「瓶詰の地獄」は孤島に流れ着いた兄妹の悲劇を描いた超傑作。構成は、ずっと後年になって読んだジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの『たったひとつの冴えたやり方』に似てるかも。

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定本 夢野久作全集

読んでみて

夢野作品をまとめた全8巻の全集。小説は出版年ごとに収録され、ほかにも評論・随筆など夢野の執筆しほぼすべての作品が入っています。これまで、夢野には有名な作家なら必ずといっていいほど出版されている全集がなく、決定版といえる本作はその意味でも貴重です。

1冊が1万円前後と価格はそれなりですが、夢野久作ファンならぜひ揃えたい全集といえます。

みんなのレビュー

国書刊行会から刊行がスタートした『定本 夢野久作全集』。定本の名は伊達ではない。ちくま文庫版の全集には収められていない多くの作品がここには収録されている。第一巻で言うと、作家デビューとされる「あやかしの鼓」以前に、雑誌「黒白」に発表された短編などがそれにあたる。久作独特の作風がまだ固まっていないゆえの初々しさが微笑ましいものの、その萌芽ははっきりと見てとれる。それは、デビューからたった二年後に傑作「瓶詰地獄」が書かれていることからもあきらかだ。

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映像化された作品

ドグラ・マグラ

読んでみて

夢野の代表作で、日本探偵小説三大奇書の1つに数えられている長編小説です。ドグラ・マグラとは、作中でキリシタンの呪術を表す言葉といわれており、タイトルからしてすでに不気味です。

記憶をなくし、精神科の独房に閉じ込められた主人公は、自分が過去に犯罪事件に関わっていたと聞かされ、次第に真犯人や動機が明らかになっていくストーリーです。あらすじを聞くと探偵小説のようですが、主人公の精神正常ではないため、途中からどこまでが現実で、どのからが狂気なのかの区別がつかなくなり、最後まで読んでも完全に理解することはできない、といった内容になっています。

夢野の傑作長編といわれながら、人によって様々な解釈が成り立つことに加えて、あまりの難解さから「読破すると精神に異常をきたす」といわれる本作。ですが、夢野作品に興味をもった方なら、ぜひ挑戦してみてください。過去には映画化もされていますので、先にこちらをご覧になると、理解しやすくなるかもしれません。

みんなのレビュー

日本探偵小説三大奇書の1つで、「読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」と言われているとか。記憶をなくした語り手の青年が「狂人の解放治療場」のベッドで目覚めるところから始まる。胎児は10カ月の間に数十億年分の生物進化の夢を見るとか、心理が代々遺伝するとか、脳髄は物を考える処ではなく電話交換手のように中継する所だとか、仮説はなかなか興味深いけど、ちょっと冗長でかなり難解で途中で2,3回挫折しそうになった。で、いったい「私」は誰だったのだろう?

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少女地獄

読んでみて

『少女地獄』は、「何でも無い」「殺人リレー」「火星の女」の三編で構成された長編小説で、それぞれがミステリー調の作品になっています。3つのエピソードに直接のつながりはありませんが、どれも少女の自殺や失踪などをきっかけに周囲の人々が事件に巻き込まれていく話になっています。

嘘で自分を飾り立て、最後にはその嘘に追い詰められる少女や、身体的なコンプレックスをもった少女の復讐劇など、戦前に書かれた作品とは思えないほど登場人物たちが現代的で、作者の世界観の先進性に驚かされます。少女たちが内に秘めた狂気や恐ろしさが読後になんともいえない余韻をもたらしてくれるおすすめの作品です。

過去に二度映像化されたことがあり、1997年には石井聰亙監督により『ユメノ銀河』のタイトルで映画化されていて、全編白黒映画で夢野久作の独特な世界観が表現されていますので、興味のある方はご覧になってみてください。

みんなのレビュー

3つの作品が収められた短編集。「何んでも無い」「殺人リレー」「火星の女」 看護師、バス車掌、学生。いずれも自己実現を目指し、果たせなかった女性が主人公。状況はそれぞれに異なるが、どれも悲劇としか言いようがない。エゴもあろう欲もあろう、しかし彼女らは必死に生き、そして絶望する。タイトルは、少女による地獄ではなく、少女らにとっての地獄という意味か。「少女」というより「女性」のほうが近いかもだが。最後の作品では、壮絶な場面に繋がるはずのラストの展開が、むしろ痛快、さらに美しくすら感じられる。

読書メーター

まとめ

夢野久作は、日本古典文学のなかではマイナーな部類に入る作家かと思われます。ですが、彼の作品は非常にバリエーションも豊富で、独自の世界観を築いているにも関わらず、現代的な部分もあって、私たちが読んでも共感できる部分がたくさんあります。

「ドグラ・マグラ」をはじめ、有名な作品や映画化された作品も多くあるので、この記事を参考に、夢野作品に触れてみるのはいかがでしょうか。以上、夢野久作のおすすめ作品のまとめでした。

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