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【悲劇作家】アイスキュロスとはどんな人?代表作や死因、名言についても簡単に解説

アイスキュロスとは、紀元前5世紀ごろに活躍した古代ギリシャの悲劇作家です。アイスキュロスが活躍した当時はギリシャ悲劇の最盛期で、彼はソフォクレス、エウリピデスと並んで「3大悲劇詩人」と呼ばれました。

アイスキュロスは90編以上もの悲劇を書いたとされていますが、現在残っているのは7編だけです。そのなかでも代表作は「オレステイア」3部作でしょう。アイスキュロスは「本当の正義とは何か」に注目して悲劇を執筆していて、この「オレステイア」にはその思想が詰まっています。

アイスキュロス

「ギリシャ悲劇」と聞くと、現代に生きる私たちからは遠く離れたものに思えます。けれどもその豊かな世界観に触れると、私たちにも通じるものが発見できることに気づくでしょう。この記事では、大学の一般教養でギリシャ悲劇に触れ、そのドラマティックな世界観に魅了された筆者が、アイスキュロスの生涯や死因、そして現存している7作品のあらすじをご紹介します。

アイスキュロスとはどんな人物か

名前アイスキュロス
誕生紀元前525年ごろ
死没紀元前456年ごろ(享年69歳)
生地エレシウス
(現在のギリシャ、アッテイカ地方のエレフシナ)
没地ゲラ
(現在のイタリア、シチリア州のジェーラ)

アイスキュロスの生涯をハイライト

アイスキュロス

アイスキュロスは紀元前525年頃、アテナイ(ギリシャの首都・アテネの古い名前)郊外に位置するエレシウスに貴族階級に属する地主の子として生まれました。

その生涯について分かっていることはそう多くないのですが、紀元前490年のマラトンの戦い、紀元前480年のサラミスの海戦に兵士として参加したと伝わっています。特にマラトンの戦いに参加したことは誇りだったようで、アイスキュロスの墓碑にはそのことが記されています。

20代のころから悲劇を作り始め、紀元前484年のデュオニュシア祭の劇大会で初めて優勝しました。デュオニュシア祭は古代アテナイで開催されていた重要な祭りで、主な催しとして悲劇を上演し、その出来を競っていました。アイスキュロスはこの祭りで合計13回も優勝しています。

69歳のとき、シチリア島のゲラで亀が頭に激突して亡くなったとされています。信じられない死因ですが、後ほど詳しくご紹介します。

古代ギリシャの「3大悲劇詩人」の1人

エピダウロスには現存する
最も整ったかたちの劇場の遺構がある

アイスキュロスは古代ギリシャの「3大悲劇詩人」の1人といわれています。ギリシャ悲劇とは、古代アテナイで催されていたディオニュシア祭で上演されていた悲劇や、それを基本にした悲劇のことです。

この祭りでの悲劇の上演は大会の形式で行われていました。参加する悲劇詩人は、3つの悲劇と1つのサテュロス劇(こっけいな劇)を提出していましたが、現在までこの完全な形で作品が残っているのはアイスキュロスの『オレステイア』三部作のみです。聴衆は最も優れていたと思う作品に投票し、優勝者を決めていました。

「3大悲劇詩人」と呼ばれるのはアイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスの3人です。このうちアイスキュロスは「ギリシャ悲劇の確立者」と呼ばれています。彼は90編以上の作品を書き、そのほとんどのタイトルは分かっているのですが、作品自体が残っているのは7作品のみです。

大胆な比喩と重々しい表現が特徴

重々しい文体が特徴的

アイスキュロスは3部構成の作品を好んで書いたといわれています。「本当の正義とは何か」「人間に訪れる栄光と破滅」を描いた作品が多いです。大胆な比喩と重々しい表現が特徴的な文体は、古代アテナイの喜劇詩人・アリストファネスに揶揄されることもありました。

アイスキュロスの死因は「亀」?

亀が空から降ってきて死亡!?

アイスキュロスはその伝説的な死因でも有名です。それは、空から亀が降ってきて、アイスキュロスの頭に激突したというもの。ちょっと信じられないような死因ですよね。

実はこの犯人は「ヒゲワシ」という鳥でした。ヒゲワシにはえさとなる亀を大きな岩などに落とし、甲羅を割って中身を食べる習性があります。アイスキュロスの頭が岩と間違えられたのか、はたまた人間の頭でも割れそうなものだとヒゲワシが判断したのか…真相はわかりませんが、この出来事は「アイスキュロスの亀」という「ありえないことが起こる」ということわざになりました。

アイスキュロスの名言

幸福なる状態において、その生命を終えし者のみを幸福なりというべし。

(出典:『アガメムノン』)

言葉は怒りに病める心の医者となる。

真の悲しみは、苦しみの支え杖なり。

(出典:『アガメムノン』)

アイスキュロスの7つの代表作

『ペルシア人』アイスキュロスの時代の事件を扱った唯一の作品

古代ペルシア人

紀元前5世紀に起きた、ペルシア戦争におけるサラミスの海戦で負けてしまったことに対するペルシア人の反応を題材にした悲劇で、現存するギリシャ悲劇のなかで最も古いものです。この作品を2番目に置いて前後を『ピネウス』『グラウコス』とした3部作に、サテュロス劇「プロメテーウス」を加えた4作品で、アイスキュロスは紀元前472年のデュオニュシア祭で優勝しています。

亡くなった先王・ダレイオスの妃・アトッサは、息子のクセルクセス王が率いる大遠征軍からの便りがないことを心配していました。そこへ伝令がやってきて、サラミスの海戦における遠征軍の敗北を告げます。先王ダレイオスの墓に供え物を持っていくとダレイオスの霊が現れ、敗北の詳細を語ったところにクセルクセス王が帰ってきて敗北と犠牲を嘆く、というストーリーです。

『テーバイ攻めの七将』古代都市の王権をめぐる物語

古代テーバイの遺跡

ギリシャ神話にもとづいた、古代都市テーバイの王権をめぐる物語です。紀元前467年のディオニュシア祭では、『ライオス』『オイディプス」』とともに3部作として上演されました。

父であるオイディプス王に「お互いに殺し合うであろう」と呪いを受けた息子2人が主人公です。外部からアルゴス軍が迫るなか、テーバイの城の中ではオイディプス王の息子・エテオクレスが防衛の計画を立てていました。アルゴス軍の攻め手は7人、その大将にはエテオクレスの兄弟のポリュネイケスもいます。

エテオクレスはテーバイの7つの門を攻めるアルゴス軍の7人に対し、同じく7人の強者たちを名指しで配置しました。アルゴス軍の大将・ポリュネイケスがいる7番目の門には、その兄弟であるエテオクレス自らが赴きました。戦いはテーバイ側の勝利でしたが、7番目の門で戦った兄弟2人は相討ちとなり、オイディプス王の呪いが成就してしまうのでした。

『救いを求める女たち』ダナオスと50人の娘の伝説

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス〈ダナオスの娘たち〉

ギリシャ神話にあるダナオスと50人の娘の伝説を題材にした作品です。この作品と『エジプト人』『ダナオスの娘たち』で3部作を構成していましたが、現在その2作品は残っていません。

ダナオスとその50人の娘たちは、エジプト王アイギュプトスの息子たちとの結婚から逃れるため、アルゴスまで逃れてきました。アルゴスの領主・ペラズゴスは受け入れるべきか悩みましたが、民会の結果ダナオスたちは受け入れられ、アルゴスの市民となります。そこへエジプトからアイギュプトスとその息子たちが率いる軍隊が来襲、娘たちは連れていかれそうになりますが、アルゴスの市民となっていたためペラズゴスに守られました。

『オレステイア』アガメムノン一族を描いた悲劇

数あるギリシャ悲劇のなかで、唯一完全な形で残っているのがアイスキュロスの『オレステイア』3部作です。トロイア戦争でギリシャ側総大将を務めたアガメムノンの一族に起こった悲劇を描いた作品です。これにサテュロス劇『プロテウス』を加えたものが紀元前458年のディオニュシア祭で上演されました。

『アガメムノン』

『アガメムノン』の1シーン

トロイア戦争に従軍していたギリシャ軍の総大将・アガメムノンが10年ぶりにミュケナイに戻ってくるところから物語は始まります。アガメムノンが娘を神へのいけにえとしたことを恨んでいた妻のクリュタイメストラは、同じく彼を恨むアイギストスと深い仲になっていました。2人はアガメムノンと捕虜・カサンドラを殺し、クリュタイメストラは「娘を殺した犯人を殺すのは正義なのだ」と訴えました。

『供養する女たち』

アガメムノンの死後、クリュタイメストラは息子のオレステスをミュケナイから追い出し、娘のエレクトラを冷たく扱っていました。成人してミュケナイに戻ってきたオレステスは、姉のエレクトラと出会い母たちへの復讐を決めます。2人はクリュタイメストラとアイギストスを殺害することに成功したのですが、オレステスは母の怨念や幻覚に襲われるようになり、狂乱状態に陥ってしまいました。

『慈しみの女神たち』

復讐の女神に付きまとわれるようになったオレステスは、デルポイの神殿に行きアポロンにすがります。アテナを裁判長として、オレステスを弁護するアポロンと、「オレステスは母殺しの罪人」とする復讐の女神の裁判が行われ、オレステスは無罪と決定されました。復讐の女神はとても怒りましたが、なだめられて「慈しみの女神」となるよう諭されると納得し、ここでアガメムノン一家の憎しみの連鎖は断ち切られることになりました。

『縛られたプロメテウス』人間に火を与えた神の物語

ギュスターヴ・モロー
〈プロメテウス〉

この作品はアイスキュロスのものではないという説もありますが、ここではアイスキュロスの作品の1つとしてご紹介します。この作品の後に『解放されたプロメテウス』『火を運ぶプロメテウス』が続いていたとされていますが、今残っているのは『縛られたプロメテウス』のみです。

プロメテウスは人間に火を与えたことで大神ゼウスの怒りを買い、カウカソス山の頂に縛り付けられてしまいます。けれどもプロメテウスは、ゼウスが誰によって追われる運命であるかを予言していました。その内容を知りたいがためにゼウスは自分を解放するだろうと考えているプロメテウスは、ゼウスに謝るよう説得してくるあらゆる神々に応じず…というストーリーです。

アイスキュロスの関連本

ギリシア悲劇〈1〉アイスキュロス (ちくま文庫)

ちくま文庫のギリシア悲劇シリーズの1つです。現存しているアイスキュロスの著作がすべて収録されています。少々読みにくい文章ではありますが、その文体がギリシャ悲劇の荘厳な雰囲気を醸し出しています。

アガメムノーン (岩波文庫)

西洋古典学者・久保正彰が翻訳した『アガメムノーン』です。オレステイア三部作は先ほどご紹介したように3部とも残っていますが、岩波文庫からは『アガメムノーン』のみが出版されています。

ギリシア悲劇―人間の深奥を見る

ギリシャ悲劇の代表作11篇を取り上げて、その内容とともに魅力や奥深さを探っている本です。アイスキュロスの作品は『ペルシア人』と『オレステイア』三部作が取り上げられています。著者の丹下和彦は古代ギリシャ文学者で、著作も数多くあります。

アイスキュロスに関するまとめ

アイスキュロスについて、その死因や彼の書いた作品とともにご紹介してきました。

現代日本に生きていると、古代ギリシャで書かれた悲劇はとても遠いものに感じられます。確かに遠いものなのですが、今を生きる私たちが読んでも面白い作品ばかりです。少し読みにくいという難点はあるのですが、意外と声に出して読んでみるとしっくりくると思います。

アイスキュロスや古代ギリシャ悲劇について、さらに興味をもっていただけたならうれしいです。

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