「ヒトラーってどんな性格だったんだろう?」
「独裁者ってどんな人なんだろう?」
アドルフ・ヒトラーはドイツ国の政治家、及び国家元首(総統)であり、国家社会主義労働者党(ナチス)の指導者です。「自分たちが最も優秀な民族」と主張し、独裁政治を断行していたことから、独裁者の典型といわれてきました。また、ユダヤ人を敵視し、多くのユダヤ人の大量虐殺「ホロコースト」を行った人物としても知られています。
そんな「20世紀最大の悪魔」ともいわれるヒトラーはどんな人物だったのでしょうか。この記事では、ヒトラーの性格・人柄をアメリカの資料や身近な人の証言なども参考にしながら紹介します。
この記事を書いた人
フリーランスライター
フリーランスライター、高田里美(たかださとみ)。大学は日本語・日本文学科を専攻。同時にドイツ史に興味を持ち、語学学校に通いながら研究に励む。ドイツ史研究歴は約20年で、過去に読んだヨーロッパ史の専門書は100冊以上。日本語教師、会社員を経て結婚し、現在は歴史研究を続けながらWebライターとして活躍中。
ヒトラーはどんな性格だったのか?
独裁者の代名詞であり「20世紀最大の悪魔」といわれるアドルフ・ヒトラーの性格は端的に言うと、「内向的で神経質な、私生活に関しては非常に真面目でコンプレックスの強いユダヤ人嫌いな人」です。どちらかというと学校や軍でもあまり目立つタイプではなく、身近な人に対しては親切で禁欲的な、偏った思想をもった変わった人といったような印象を持たれていたようです。今から詳細を見ていきます。
アメリカの報告書によると性格は「女性的」だった?
アメリカ合衆国のOSS(諜報機関)の資料に興味深いものがあります。OSSは精神科医に分析を依頼をし、内容が戦後に公開されました。内容は、
Wikipedia
- ヒトラーは毛布をかむ癖がある。これはてんかん患者によく見られる行動であり、ユリウス・カエサルやナポレオン・ボナパルトも同じてんかん患者であった。
- ヒトラーのおしゃべり好きと演劇性はヒステリー性格における自己顕示性の現れである。これは女性の性格の特徴である。
- 他人に責任を着せ、執念深く復讐心を燃やす傾向がある。これも女性的である。
- 粗食に甘んじ、運動を好まず、しかも長寿を願っている。これはまさに多くの主婦の姿である。
- ヒトラーは嫉妬深い。しかしゲリ・ラウバルやエヴァ・ブラウンといったヒトラー周辺の女性はヒトラーの嫉妬を買うような行動をする。これはヒトラーの男性機能に問題があるのではないか。
- ヒトラーは子供をかわいがるが、自分自身の子供をもうけようとしていない。これは男性にしては母性本能が強すぎるため、女性関係が淡泊なのではないか。
以上です。この診断結果は現在は使われない「ヒステリー」といった用語も使われていたり、現在の精神医学的には必ずしも妥当とは言えないそうです。しかし流石OSSの調査だけあり、詳細に分析がされているためにヒトラーの性格を知る上での重要な資料となっています。OSSでは「女性的」な性格と結論付けられました。
周囲の証言では、非常に優秀で内向的だった?
アメリカの報告書は、敵として分析しているために短所に重点をおいて記載されている傾向がありますが、ヒトラーと近しい人間からの証言には別の一面を見ることができます。ヒトラーと青年期の親友だったアウグスト・クビツェクと後に妻となったエヴァ・ブラウンによると、
「アドルフ(ヒトラー)は内向的な性格で、誰にも立ち入らせない精神領域を常に持っていました。 彼には、私には理解不能な秘密があり、私にとっても多くの点は謎のままでした。 しかし、その秘密のいくつかを解く鍵がありました。 それは美への熱狂です。 ザンクト・フロリアン修道院のような壮麗な芸術作品の前に立つと、私たちの間のあらゆる障壁が崩れ去るのです。 熱狂しているときのアドルフはとても打ち解けやすくなり、私は友情がさらに深まったように感じました」
「ヒトラーは時々、異常なほど内気になる。 きっと過去の嫌な体験からきているのだろうと思うけど、あの人の内気は普通じゃない。 とくに人前に出ると、内気な自分を悟られまいと必死になっている。 私にはそれが手に取るように分かる。 トイレに逃げ込みたくなるほど怯えているのかもしれない。 どうしてあれほど自制するのだろう。 どうしてあれほど初な娘のように振舞うのだろう。 ヒトラーはとにかく謎めいている。 何かを隠そうとしている。 そこがとても薄気味悪い」
非常に内向的な性格だったといっています。演説での攻撃的な発言とはまったく結びつかない、よくしゃべるものの何を考えているかわからない、地味な人物だったという印象だったようです。
また軍人の間では、「ドイツ軍最高の軍人」、もしくは「20世紀最大の戦略能力の持ち主」と評されていました。ドイツ国防軍のエーリッヒ・フォン・マンシュタイン元帥とヴィルヘルム・カイテル元帥はこのように語っています。
「ヒトラーは驚くべき知識と記憶力、技術問題と軍需のあらゆる問題についての創造的な想像力を持ち合わせていた。敵や自国の新兵器の威力、生産量についても信じがたいほどの知識を持っていた。彼が軍需の分野で、その理解力と並外れたエネルギーをもって、多くのものを推進したのは間違いない」
「軍事問題についての知識は驚くべきものがあった。ヒトラーは世界の全ての陸海軍の組織、武装、指導部、装備に精通しており、ひとつといえども誤りを指摘することはできなかった。したがって我々は、あの人は天才にちがいないと思ったのだ。軍の単純なありきたりな問題ですら、自分は教えるほうではなくて教わるほうであった」
ヒトラーの軍事的能力と知識を賞賛しています。自身が貴族階級の出身であり、貧民街からでたヒトラーを快く思っていないマンシュタイン元帥ですら賞賛するほど、ヒトラーの能力は秀でていたといえるでしょう。
非常に禁欲的な性格だった?
ヒトラーは、非常な健康オタクだったといいます。ドイツ人はビールなどのお酒を愛好し、喫煙率も非常に高かったのですが、タバコは吸わず、むしろ体に悪いからと部下や周囲の人に勧めるほどだったといいます。お酒もほとんど飲まなかったそうです。理由は父が脳卒中で亡くなったため、自分もかかることを極度に恐れていたためで、戦勝祝いの時にワインを口にするヒトラーを見て驚いたと側近が回想しています。
またヒトラーは男性の間での猥談を嫌がるタイプだったといいます。第一次世界大戦の時の従軍中に、そのことを仲間内で茶化された時に、「そんなことにかまけている時間はなかったし、これから先も無いだろう」と答えたという逸話が残っています。
また変わった趣向として、美容に非常に興味を持っていたそうです。恋人のエヴァの日記によると、
「とにかく、美容についての知識の深さにはびっくりした。」
「(美容)クリームといっしょに渡されたあのメモには本当に目を疑ってしまった。 なにしろ、週に二度は仔牛の新鮮な生肉で夜の洗顔パックをすること、週に一度はオリーブオイルの風呂に入ること、もっとも大切な部分はバストとヒップ、と書いてあったのだから。 確かに、あの人は美容の専門家だと思う。 達人とさえ呼べる。」
と書かれており、美容に対して非常に詳しかったことがわかります。美容方法も、生肉でパックやオリーブオイルの風呂など現在の価値観では理解しにくい部分ではありますが、美容に非常に関心があったことは伝わってくる内容です。
偏った思想の持ち主だった
ヒトラーは「反ユダヤ主義」と「アーリア人至上主義」だったといいます。典型的な白人至上主義であり、特にドイツ民族が所属する北方民族を、世界でもっとも優れた民族だと考えていました。
北方民族はの特徴は「ブロンドの形質があり、メラニン色素が少ないので、皮膚・頭髪・眼の色がやや薄い傾向にある。皮膚のメラニン色素が少なく、薄桃色を呈する。毛髪はいわゆるブロンド髪であるが、南に行くほど濃色になり、明るい褐色を呈する傾向がある。眼の色は灰色などである。頭を上から見ると幅が狭く前後に長い。また身長が高い。身体的にも筋肉質である」という生物学者マディソン・グラントの見解を支持していたといわれています。
そして、ユダヤ人を憎悪していました。演説でヒトラーは「いったい、なぜドイツがかくも衰退したのであろうか?それは敵国とユダヤ人がドイツに対して仕掛けた世界大戦にまき込まれて、敗北したからである。ドイツ革命はユダヤ人と犯罪人とが起こしたものだ。ベルサイユ条約はドイツを永遠に奴隷化するための機構だ」という発言のように、ドイツの国力の衰退はユダヤ人のせいだと考えていたのです。
またドイツ最大の哲学者ニーチェの著書「権力への意志」の影響が強く見られ、そこからヒトラーが「力こそ全て」と自分なりに解釈していたといわれています。その為に演説で、攻撃的な発言を多くしています。
ヒトラーの恋愛観は?
ヒトラーは死の直前まで結婚しませんでした。理由は色々考えられていますが、女性に対しては紳士でいようと考えていたことと、「結婚すると婦人票を失う」と考えていたからだといわれています。そして女性の好みとして「インテリは単純で愚かな女性を娶ったほうがよい」と公言していました。
そしてふくよかな丸顔と脚線美を持つ女性を好んだといわれています。結婚したエヴァ・ブラウンが23歳年下と遥かに年少であり、若い女性の方が簡単に支配でき、また操作できるからと考えられています。エヴァは14年間ヒトラーと恋愛関係にありましたが、ヒトラーの多忙と女性への印象の問題により、秘密裏での交際でした。しかし1945年の4月にベルリンの総統地下壕で結婚し、それから40時間以内に両者とも自殺を遂げました。
性格ゆえに女体化計画が実行された!?
驚く内容ですが、第二次世界大戦の時にアメリカの諜報機関OSSが、ヒトラーに女性ホルモンを投与して、声や容貌を女性化させようとした計画が実行されました。根拠は前述した「ヒトラーは女性的な性格だった」という分析から、ヒトラーに女性ホルモンを摂取させることにより声をソプラノにして演説の威厳を失わせ、トレードマークの口髭を落とし、攻撃的な性格も変わるだろうと考えたそうです。
計画は1942年の秋に、ヒトラーが食べる野菜を卸している農園の小作人に、多量の女性ホルモン剤を投入した野菜を食べさせるというものでした。計画は成功しOSSは沸き立ちましたが、効果がなかったために計画は失敗とされました。しかし1942年以降急速にヒトラーは体調が悪化していることから、女性ホルモンの投与が影響されているのではないかという説もあります。
ヒトラーの性格に関するまとめ
今回「ヒトラーの性格」に焦点を当てて執筆しましたが、筆者自身はヒトラーは兎に角「コンプレックスの人」と解釈しています。日本の文豪三島由紀夫が「大嫌いだけどとても興味をかられる」という言葉をヒトラーの印象として残していますが、三島も幼少期に病弱から体を鍛えたりと自分のコンプレックスに素直だったためにどこか気になったのではないかと推察しています。
かくいう筆者も学生時代内向的だったために、ヒトラーを見ていると自分が持っている弱い部分を強く見る気がするので、大嫌いだけど気になってしまうという言葉はなんとなくわかります。しかし同じ轍を踏まずに人生を歩んでいきたいと再確認しています。最後まで読んでいただきありがとうございました。