吉田松陰は、幕末の長州藩で活躍した教育者であり思想家です。
この松陰先生が師匠を務めた松下村塾からは、高杉晋作や久坂玄瑞、後に日本の初代総理大臣となる伊藤博文など、幕末から明治にかけて大活躍するたくさんの英雄たちを輩出しました。彼らは皆、松陰先生の教えを胸に刻み、明治維新の大きな原動力となったのです。
たくさんの教え子たちの心をつかみ、明治維新へと導いた松陰先生の教えとは一体どのようなものだったのでしょうか?それを知るためのヒントが、松陰先生が残した数々の名言の中に隠されています。そこで今回は、松陰先生の言葉の中から、現代でも大いに役に立つ15の名言を選びました。現代人の心をも震わせる吉田松陰の名言を、ぜひあなたの仕事や私生活にもお役立てください。
吉田松陰の名言と発言の意図や背景
我が志を行はんのみ
我が志を行は(わ)んのみ。
この言葉には「私は自分の志していることを行うのみである」という意味が込められています。幕末の日本は、欧米列強の植民地にされるという驚異が間近に迫っていました。そのような中、何とかして日本の独立を守り抜かなければならないという「志」を立て、自ら行動しつつ弟子たちの教育にも力を入れていったが松陰先生です。「志」は松陰先生の信念を貫く柱と言っても過言ではありません。
志を立てざるべからず
道の精なると精ならざると、業の成ると成らざるとは、志の立つと立たざるとに在るのみ。故に士たる者は其の志を立てざるべからず。夫(そ)れ志の在る所、気も亦(また)従ふ(う)。志気の在る所、遠くして至るべからざるなく、難くして為すべからざるものなし。
「正しい人生を歩んでいるかどうかは、目指すところがきちんと定まっているかどうか?つまり志があるかどうかである。ゆえに武士たるものは志を立てねばならない。志があればやる気も付いてくる。志があれば目標を達成できないことなどない」。要約すると以上のような意味になります。こちらも「志」がキーワードになっていますね。
素志は終に摧けず
菲才(ひさい)或いは敗を致すも、素志は終(つい)に摧(くじ)けず
「自分には才能が無いので失敗することもあるかもしれない。しかしその志は最後まで挫けることはない」という意味です。人間どうしても失敗を恐れてしまうもの。しかし、失敗なくして成功がないのもまた事実です。本来は失敗がダメなのではなく、本当に避けるべきは失敗を恐れて何もしないこと、というとても深いメッセージが込められています。
能はざるに非ざるなり
能は(わ)ざるに非(あら)ざるなり、為さざるなり
この名言は「できないのでなく、やっていないだけだ」という意味になります。人は往々にして「やらない理由探し」をしてしまうものです。例えば「今日は疲れているから」とか「家族に反対されたから」などを理由に、やらないことを正当化してしまうのはよくあることです。実は「できない」のではなくて「やらない理由を正当化し、やっていないだけ」。志に従い行動し続けた松陰先生らしい言葉です。
心を竭し力を尽し
願は(わ)くは心を竭(つく)し力を尽し、薀(うん)を発して惜しむなかれ
「心を尽くし、能力を尽くし、出せる力を全て発揮し、出し惜しみをすることのないようにしてください」という意味です。仕事であれ何であれ、全力を出さずに失敗し後悔はしたくないものです。自らの志に従い、常に全力で物事に当たっていった松陰先生の生き様を表すような名言ですね。
終身忘れざるなり
力を用ふ(う)ること多きものは功を収むること遠く、其の精誦(せいしょう)する所は乃(すなわ)ち終身忘れざるなり
「たくさん努力してきたことでも、すぐに結果が表れないかもしれない。しかし、その努力は人生の無駄になることはない」という意味が込められています。結果がすぐに得られないからといって諦めるのではなく、長い目で見て努力していくことが大事なんですね。継続の大切さを教えてくれる名言です。
失ひ易き者は時なり
得難くして失ひ(い)易き者は時なり。
「得ることが難しいのに、簡単に失ってしまうのが時間である」という意味です。過ぎ去った時は戻ってこないとわかっていても、ついつい時間を浪費してしまうことがあります。特に何をしていたわけではないけれど、気が付いたら休日が終わっていたなんてことも決して珍しくありません。限られた人生という時間の中で志を達成するためには、時間に対する考え方を改めていく必要がありそうですね。
往を以て来を知るべきものあり
物固(ものもと)より一を以て百を知るべく往を以て来(らい)を知るべきものあり
「物事には一を知って百を知るべきことがあり、過去のことから未来を予測すべきこともある」という意味の言葉です。どんなことでもひとつの側面だけでなく多角的に物事を見つめる必要性はありますよね。また「歴史に学ぶ」という言葉もある通り、過去の事象を知り現在から未来へと役立てることも重要だということを、再確認させてくれる名言です。
憂楽の変は己に在りて
憂楽の変は己に在りて、物に在らんや。
「憂いや楽しさの原因は自分の中にあって、物にあるのではない」という意味です。人間って物事がうまく行かなかった時に、ついついその原因を自分の外側に求めてしまいがちです。松陰先生は「物」と言っていますが、よくあるのは失敗を他人のせいにしてしまうケースですね。なぜ物事がうまく行かないのか?その原因を自分の中に見出すことで人は成長するということを再確認させてくれる名言です。
聖賢の貴ぶ所は
聖賢の貴ぶ所は、議論に在らずして、事業に在り。多言を費やすことなく、積誠(せきせい)之れを蓄へ(え)よ。
「立派な人が大事にしているのは、議論ではなく行動である。口先だけでなく誠実に行動しなさい」という意味が込められています。職場なんかにも、理屈ばかりこねて弁は立つけど、行動が全然伴わない人っていたりしませんか?やっぱり口先だけの人はなかなか尊敬できませんし、行動があるからこそ周囲に認められ、成果に結びつくものですね。
盛強を勉めずして
吾れ盛強を勉めずして人の衰弱を願ふ(う)。是れ今人(こんじん)の見なり。悲しいかな、悲しいかな。
「自分は頑張らないのに、他人の失敗を願う人が今は多い。とても悲しいことだ」という意味になります。これも現代でよく見る光景で、職場の同僚の陰口を言って足を引っ張り、自分が優位に立とうとする人っていますよね。職場でなくても、政界や国際社会でもよく見られる光景です。他を貶めるのではなく、自らが成長し周囲に認められる存在になりたいものです。
我れは我れたり
汝は汝たり、我れは我れたり。人こそ如何とも謂へ(いえ)。
「あなたはあなた、僕は僕。人は僕の生き方を何とでも言いたまえ」という意味になります。人間どうしても劣等感を抱いてしまうものです。しかし、その劣等感は誰かと自分を比べてしまうから生じてしまうものです。人は人、自分は自分。「あの人にはあって自分にはないもの」を見るのではなく、「あの人には無くて自分にあるもの」を見つめることで、生き生きとした毎日が送れるようになる、ということを教えてくれる素敵な名言です。
士に貴ぶ所は徳なり
士に貴ぶ所は徳なり、才に非ず。行(ぎょう)なり学に非ず。
「立派な人が大事にするのは人徳であって才能ではない。実際の行動が大事であり役に立たない理論は必要ない」という意味です。ここでも松陰先生らしく「行動の重要性」を説いています。また才能よりも人徳を重視しているところも注目で、たしかに才能が素晴らしくても人徳が無ければ、なかなか人には認められませんよね。
議論は易くして事業は難し
古より議論は易くして事業は難し。
「昔から、口先だけで言うのは簡単だが、実際に行動することが難しいのである」という意味になります。ここでも行動の重要性を説くとともに、口で言うことは簡単だと言っています。松陰先生の活躍を振り返ると、常に行動で示していますし、だからこそ多くの弟子たちがその教えに共感し、明治維新の原動力となっていったのでしょう。
是非の心、人各々之れあり
是非の心、人各々之れあり、何ぞ必ずしも人の異を強ひ(しい)て之れを己れに同じう(じゅう)せんや。
「何が正解で、何が過ちかという判断基準は人それぞれが持っている。人の意見が自分と違ったからと言って、自分の意見と同じくするよう強要する必要などない」という意味になります。頑固なイメージの強い松陰先生ですが、他者の意見を尊重する意思も持ち合わせていたようです。ネット環境が普及した現在、意見の違う者を否定したり叩いたりする風潮がとても顕著になっていますね。そんな現代だからこそ、松陰先生のこの言葉を一人一人が再確認していきたいものです。
吉田松陰の名言集や関連書籍
吉田松陰「人を動かす天才」の言葉
松陰先生の説く「志」の真意がわかる名言集です。松陰先生の生涯を振り返りつつ、その考え方や価値観、行動原理を解説してくれます。名言だけでなく吉田松陰という人物の全体像が掴めるオススメの一冊です。
吉田松陰一日一言
松陰先生が残したたくさんの名言がまとめられた一冊です。名言に1日1つずつ触れられる構成になっているため、1日の始まりとともに本書へ目を通すことで、やる気を奮い立たせることができます。人生の指針となる名言が詰め込まれていますので、非常にオススメです。
吉田松陰名言集 思えば得るあり学べば為すあり
こちらも松陰先生の名言集です。全部で100の名言を集録しています。本書は各名言が原文と現代語訳で掲載されているだけでなく、その言葉がどのようなシチュエーションで語られた言葉なのかが示されているので、より深く松陰先生の言葉を学ぶことができます。
吉田松陰の名言についてのまとめ
いかがでしたでしょうか?ここまでの名言でもわかる通り、吉田松陰の凄まじい行動力の根底には、常に「志」がありました。「志」と言うと、なんだか崇高な印象を持ってしまいますが、もっと親しみやすく「目標」とか「理想」と言っても良いかもしれません。自身の中に明確な目標があったり、将来こうなりたいという理想があるからこそ、行動に結びつくんだということを改めて痛感します。
松陰先生の時代は幕末の動乱期で、行動のひとつひとつが命がけでしたが、幸いにも現代の日本は平時を保っています。当時に比べれば、かなり行動しやすい環境と言えるでしょう。欧米列強に負けない日本を作るために「志」を高く掲げ、幕末を駆け抜けた吉田松陰。その名言の数々を、ぜひあなたの人生の指針としていただければ幸いです。