ナイチンゲール誓詞とは?意味や和訳・解釈、成り立ちをわかりやすく解説

「クリミアの天使」と称され、現代における看護や公衆衛生の分野に華々しい功績を打ち立てた偉人、フローレンス・ナイチンゲール。その名前を知らない人は恐らくいない、世界的な偉人と呼ぶにふさわしい人物です。

フローレンス・ナイチンゲールとは何した人?生涯・功績まとめ【年表付き簡単解説】

彼女が活躍した医療や看護の現場には、「ナイチンゲール病棟」や「白衣の天使」など、彼女の功績に由来するものが多数残っていますが、その中でも有名なのは、やはり『ナイチンゲール誓詞』と呼ばれる文書でしょう。一般的には馴染みの薄い言葉ですが、医療や看護分野に携わっている方々からすると、学生時代から非常によく耳にする言葉だと思います。あるいは、暗唱できる方もいらっしゃるかもしれません。

「誓詞(せいし)」の言葉に違わず、看護師の倫理的な規範として、現在でも一部の改訂がありながらも参考とされ続けている『ナイチンゲール誓詞』。

この記事では、その『ナイチンゲール誓詞』について、成り立ちや意外な事実を解説していきたいと思います。

誓詞(せいし)とは

読んで字の如く、「誓いの言葉」という意味です。現代においては、結婚式などで使われる用語です。

この記事を書いた人

Webライター

ミズウミ

フリーライター、mizuumi(ミズウミ)。大学にて日本史や世界史を中心に、哲学史や法史など幅広い分野の歴史を4年間学ぶ。卒業後は図書館での勤務経験を経てフリーライターへ。独学期間も含めると歴史を学んだ期間は20年にも及ぶ。現在はシナリオライターとしても活動し、歴史を扱うゲームの監修などにも従事。

ナイチンゲール誓詞とは?

クリミアの天使:フローレンス・ナイチンゲール

『ナイチンゲール誓詞』とは、一言で表すと「看護従事者に対する倫理規範」のことです。

この誓詞には、「患者の命を救うためにあらゆる手段を尽くす」という医療従事者としての心構えだけでなく、「患者のプライバシーを尊重する」「常に成長を目指して努力を続ける」という職業人としての姿勢まで定められています。

知識や技術とはまた違う、医療従事者の精神面に関する厳しい規範こそが、『ナイチンゲール誓詞』という文書なのです。

『ナイチンゲール誓詞』は現在でも、医療・看護教育の現場で規範として活用されることが多く、アメリカの看護教育現場では、戴帽式や卒業式などのセレモニーで『ナイチンゲール誓詞』が活用されることもあります。

とはいえ、「ん?”アメリカ”の教育現場……?」と疑問に思った、ナイチンゲールについてちょっと詳しい方もいらっしゃるでしょう。そうした部分は、記事の後半で解説させていただきたいと思います。

それではまずは、『ナイチンゲール誓詞』の原文と和訳文を見てみましょう。

ナイチンゲール誓詞の原文と和訳・解説

ナイチンゲールのエピソードを元にした、看護学校の入学式風景

『ナイチンゲール誓詞』が、医療従事者の精神に関する規範だということは先に説明した通りです。

しかし、精神の分野に関わることである以上、その良し悪しは刻一刻と変化していきます。様々な分野で起こる法改正や、度々話題になるLGBT問題などを考えると、そのことは実感しやすいかと思います。

そういうわけで、『ナイチンゲール誓詞』と呼ばれるこの倫理規範も、時が経つにつれて幾度か変化しているほか、『ナイチンゲール誓詞』を参考にして作られ、アメリカを中心に様々な看護学校で用いられている『看護者の倫理綱領(倫理規範)』も、その一部に現代社会に見合う改良を加えられたものをそれぞれで独自使用しているのが現状です。

従って以下のトピックでは、そういった変化が起きる前の『ナイチンゲール誓詞』のオリジナルを示し、その和訳も含めて解説していきたいと思います。

原文

I solemnly pledge myself before God and in the presence of this assembly to pass my life in purity and to practise my profession faithfully.

I shall abstain from whatever is deleterious and mischievous, and shall not take or knowingly administer any harmful drug.

I shall do all in my power to maintain and elevate the standard of my profession and will hold in confidence all personal matters committed to my keeping and all family affairs coming to my knowledge in the practice of my calling.

I shall be loyal to my work and devoted towards the welfare of those committed to my care.

— Original “Florence Nightingale Pledge”

和訳

私は、ここに集う人々の前で神に誓います。清く正しく我が人生を過ごし、任務に忠実であることを。

私は全ての毒あるもの、害あるものを絶ち、悪しき薬を用いることなく、悪しき薬と知りながら、それを投与することは致しません。

私は目標を高く持ち、常に看護師として最善となるべく努力を続けていきます。私は治療の中で知った患者の個人情報や家庭事情などは、絶対に漏らすことはありません。

私は医師に忠誠を誓い、全ての患者が幸せを願って、この身を看護の道へと捧げます。

原文『ナイチンゲール誓詞』

解説

現在の看護教育でも使われている

以上が、『ナイチンゲール誓詞』の原文とその訳文です。僭越ながら筆者が和訳させていただいたものですので、誤訳などありましたらお教えいただければと思います。

この誓詞は全世界的な看護職の職業倫理規範として、国際看護師境界に1953年に採択されていますが、ただ一つ「医師に忠誠を誓い」の部分だけは、現在では削除される、もしくは「医師を助ける」等の表現に改められている場合がほとんどです。考えてみると、「忠誠を誓う」とすると医師と看護師の間に明確な上下関係が生まれてしまうため、現代で用いるには変更は妥当だと思われます。

とはいえ、現代においてもほとんどの国の看護教育で、ナイチンゲールの遺した文書や、彼女の思想に基づく教材が使われています。

「偉人」という呼ばれ方がこれ以上なく相応しいナイチンゲールですが、その偉大さはやはり、現代にも通じる『ナイチンゲール誓詞』の名義人として、その名前が残っていることにもあるのではないでしょうか。

ナイチンゲール誓詞の成り立ち

現代でも活用される『ナイチンゲール誓詞』ですが、実はその作成や編集に、フローレンス・ナイチンゲール自身は携わっていません。それどころか、ナイチンゲール自身がこの誓詞を知ったのは、誓詞が完成して、アメリカ国民に向けて発表された後だったとも言われています。

実は『ナイチンゲール誓詞』とは、アメリカのファーランド看護学校の校長、リストラ・グレッターが中心となった委員会で、ナイチンゲールの功績をたたえて作成された倫理綱領なのです。

しかも『ナイチンゲール誓詞』を作るにあたって参考にされたのは、「ナイチンゲールの言葉」でも「思想」でもなく、彼女とは無関係日かい、古代ギリシャで成立した『ヒポクラテスの誓い』という古文書だという、意外過ぎる事実も明らかになっています。

つまり『ナイチンゲール誓詞』の成立にフローレンス・ナイチンゲールは関わっておらず、基本的には「『ナイチンゲール誓詞』という誓詞のタイトルに、名前を勝手に使われた」だけということになってしまいます。

「ナイチンゲールの功績を讃える」という意味もあって成立した『ナイチンゲール誓詞』ですが、実は厳密に言うと、これは彼女の功績ではないのです。

しかし、誓詞の内容自体はナイチンゲールの考え方と合致する点も多いため、「『ナイチンゲール誓詞』という形で、看護師の倫理規範を定めることに貢献した」という意味では、この誓詞もナイチンゲールの功績だと言えるのかもしれません。

ナイチンゲール自身は誓詞の事をどう思っていた?

ナイチンゲール誓詞の編纂者、リストラ・グレッター

『ナイチンゲール誓詞』の編集や作成に、フローレンス・ナイチンゲール自信が携わっていなかったことは先に説明した通りです。では、ナイチンゲール自身は誓詞についてどう思っていたのでしょうか?

実はナイチンゲール自身は、自身の功績を讃えて作られた『ナイチンゲール誓詞』のことを指して、「あまり快くは思っていない」と、『看護覚え書き』の中で明らかにしています。

ナイチンゲールは『看護覚え書き』の中で、誓詞に対して、「私たちがこの道に入るにあたって、”誓い”などというものは必要ない」「厭世や失恋などの俗物的な理由とは違う、まったく別の理由で看護の道を志していると自覚するために、わざわざあえて『誓い』を立てる必要があるのか」「看護師という職業を、そんな次元の低いものと見なしているのだろうか」と書き残し、誓詞に対してまっすぐな苦言を書き残しているのです。

また、アメリカでは看護教育の現場ではよく持ち出され、セレモニーなどでは暗唱することも求められる『ナイチンゲール誓詞』ですが、ナイチンゲールの母国であるイギリスではあまり好まれていないらしく、イギリス独自の看護規範を用いての教育が主流として行われているようです。

さらに、『ナイチンゲール誓詞』成立の責任者でもあったリストラ・グレッター自身も「(ナイチンゲール誓詞とは)理念の背後にある、動き続ける精神のことである」という認識を示しているため、そんな彼女の考え方を尊重するならば、たまに誓詞について言われる「不変の職業倫理規範」としての扱いは、少々間違った扱い方であると言えるのかもしれません。

とはいえ、誓詞が現代でも受け入れられる職業姿勢の元となっているのは動かしようのない事実ですし、ナイチンゲール自身がその編集に携わっていてもいなくても、その有用性については全く変わりません。

ですので、「”不変の”職業倫理」という扱いは間違いかもしれませんが、動き続ける理念の中でも「守るべき最低限の倫理を示す誓詞」という意味では、『ナイチンゲール誓詞』という文書は現代でも有用性を保っていると言えるのではないでしょうか?

ナイチンゲール誓詞に関するまとめ

医療や看護の現場に大きく影響を与えたナイチンゲールと、彼女の名を冠する職業倫理規範の『ナイチンゲール誓詞』。

「ナイチンゲール自身は編集に携わっていない」という意外な事実や、編集者と現代の考え方の違いなどはありますが、それでも「看護の現場における最低限の倫理規範」としての役割は、やはりこの誓詞にしか果たすことができない、非常に大きな役割だと言えるでしょう。

現在の我々が病院で、清潔かつ親身な看護を受けることができるのも、全てはこの誓詞が編纂され、そこに示された職業倫理が脈々と受け継がれてくれたからだと言えるのかもしれません。そう考えると、この『ナイチンゲール誓詞』という文書は、「歴史の面白さや興味深さを示す」文書でもあるのかもしれませんね。

それでは、この記事におつきあいいただき、誠にありがとうございました!

訳文の間違いなどありましたら、お気軽にお問い合わせいただけると幸いです。