平安時代の京都で、数多の怪異と戦った逸話が残る源頼光(みなもとのよりみつ)。
平家との合戦に代表される、”対人戦”の逸話が残る頼朝や義経とは違い、主に妖怪や鬼といった実在が定かならざる者達と戦った頼光は、彼らとはまた違った意味で、歴史的にも創作的にも面白い人物となっています。
そして、そんな頼光の面白さをさらに引き立てるのが、彼の部下として共に怪異と戦った四人の男たち。
現在では「頼光四天王」と称えられ、多くの説話と共に語られる彼らの存在は、源頼光の来歴や人生を語るうえで外すことのできないファクターです。
ということでこの記事では、源頼光と共に戦った四人の武将・「頼光四天王」を紹介していきたいと思います。
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フリーライター、mizuumi(ミズウミ)。大学にて日本史や世界史を中心に、哲学史や法史など幅広い分野の歴史を4年間学ぶ。卒業後は図書館での勤務経験を経てフリーライターへ。独学期間も含めると歴史を学んだ期間は20年にも及ぶ。現在はシナリオライターとしても活動し、歴史を扱うゲームの監修などにも従事。
源頼光に仕えた四天王とは?
「頼光四天王」とは、その名の通り源頼光に仕えた武将たちの中で、特に優れたエピソードを残す四人の総称です。
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とはいえ、彼らは活動していた当時から「四天王」と呼ばれていたわけではなく、「頼光四天王」という呼称は、『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』などの説話集や、御伽草子などの創作から広まったもののようです。
彼らは、主君である頼光と同じく武勇に長け、主に妖怪や鬼などの怪異との戦いのエピソードを多く残しています。
他にも地名や食べ物などにも名前の名残が残っているなど、実は知らない間に彼らの存在に触れていることも多い、意外と現代にまで影響を与えている人物たちなのです。
それでは、その構成メンバーについて、簡単に紹介していきましょう。
渡辺綱(わたなべのつな)
頼光四天王の筆頭であり、剣術の名手として数多の怪異と戦った武者です。あの『源氏物語』の主人公である光源氏のモデルだともされ、絶世のイケメンだったとも記録されています。
そんなイケメン武者の彼の生涯の中で、とくに有名なのは京都を騒がせていた鬼・茨城童子(いばらきどうじ)との一条戻り橋でのエピソード。
美女に化けた茨城童子に襲われた綱は、頼光から預けられた太刀によって難を逃れ、茨城童子の腕を切り落として退散させることに成功したのだと言います。
その時の太刀は「髭切(ひげきり)」あるいは「鬼切安綱(おにきりやすつな)」と呼ばれ、現在は北野天満宮に奉納されているようです。
坂田金時(さかたのきんとき)
頼光四天王の中で、おそらくもっとも有名な人物です。「まさかりかついだ金太郎」のモデルと言えば、ほとんどの方が思い当たるのではないでしょうか?
この金時も『きんたろう』の童話同様、足柄山の奥で熊などの野生動物と相撲を取って遊ぶ、怪力無双でわんぱくな子供でした。
しかしある時、足柄山を訪れた頼光(一説では碓井貞光とも)によってその怪力を買われ、頼光の家来として士官。名を金時と改めて、多くの怪異討伐で武功を上げたようです。
しかし、そんなヒロイックな逸話の一方で「人食いの山姥の子で、悪事を働いていたところを頼光に倒されて家来になった」という説が残っているなど、意外とその実情がつかめない人物でもあります。
ともあれ、現代では童話『きんたろう』のモデルとしてはもとより、金時豆、金太郎飴の語源や、五月人形のモデルとして親しまれていることから、四天王の中でもトップクラスに有名な人物であることは間違いありません。
卜部季武(うらべのすえたけ)
頼光四天王の中でも随一の弓の名手です。
糸で吊るした針を正確に射貫くほどの精密狙撃を得意としていたようで、鬼との直接対決の逸話よりは、少しだけ頭脳的な逸話や、なんとなくぼんやりとしたエピソードが残っている、少しばかり異色の人物でもあります。
しかし、妖術使いの滝夜叉姫(たきやしゃひめ)との対峙や、子供を襲う妖怪・姑獲鳥(こかくちょう)を武力に寄らずに退治するなど、他の四天王とはまた違った形で怪異と戦っているエピソードが残されている、綱や金時とはまた別種の魅力を持つ人物だと言えます。
しかし、エピソードが異色すぎるためか他の四天王と共に描かれている逸話が少なく、四天王の中でもトップクラスに実情がつかみがたい人物ともなっています。
碓井貞光(うすいさだみつ)
頼光四天王の一人であり、その中でも渡辺綱に並ぶ古株だと目される人物です。渡辺綱や卜部季武のような、無双の豪傑ではなかったようですが、一説では「身長2mを超す長柄物(槍や鎌)の名手」とされています。
神仏を敬う敬虔な人物だったようで、彼のエピソードには、神様や神社などがよく登場します。特に読経をしていたところ、山の神様から話しかけられ、その言葉に従って周囲を探ったところ温泉を発見したと言う逸話は、貞光を代表する有名なエピソードになっています。
他にも、故郷を苦しめる大蛇に大鎌で戦いを挑んで退治し、その大蛇が死んだ場所に神社を建ててその魂を手厚く葬った、というエピソードも残されており、他の四天王とはまた違う、心躍りながらもどこか心温まるエピソードを残している人物です。
あまり有名な人物ではありませんが、山の神様のお告げによって発見したとされる温泉は、現在の「四万温泉」となっており、彼自身の名前とはまた違った形で人々に親しまれています。
源頼光と四天王の偉業や逸話
平安時代中期に活動していたとされる頼光と四天王ですが、そのエピソードの多くは、後に編纂された物語集や御伽草子に由来しているため、正確な実情は把握できていません。
それどころか、「実在したかどうか」すら実は怪しく、「”頼光四天王”は、頼光の部下だった複数人の人物それぞれのエピソードを脚色し、四天王という形にまとめ上げて世に発表したものだ」とする説も、現在では根強く主張されています。
とはいえ、頼光や頼光四天王たちのエピソードが、様々な人たちの心を躍らせ、熱くさせてきたのもまた事実。実在していようがいまいが、彼らのエピソードは”歴史”として紹介するに能うエピソードなのではないでしょうか?
ということで、このトピックでは頼光四天王の代表的な逸話や、「何故”頼光四天王”というキャラクターが、ここまで多くの人を虜にするのか」を考察しつつ紹介していきます。
RPGのパーティのようなキャラの濃さ?
まずは「頼光四天王のキャラクター性が、何故ここまでウケたのか」について考察していきましょう。
とはいえ、筆者の考察は単純です。頼光四天王は「それぞれのキャラが激烈だった」からこそウケたのだと思います。
剣の名手でイケメンな筆頭・渡辺綱。山育ちで豪快な豪傑の坂田金時。ちょっとぼんやりとした頭脳派の弓の名手・卜部季武。敬虔で心優しい碓井貞光。こうして要素を並べてみるだけでも、どことなく現代的というか、なんとなくキャラクターチックな感じがしないでしょうか?
平安時代当時大流行した『源氏物語』が、今でいう「逆ハーレム系ライトノベル」だったり、『枕草子』が現在で言う「ブログ系エッセイ」だったりと言うのは有名な話ですが、頼光たちが活躍したとされる時代も、それらが流行っていた時代ととても近い時代です。
ですので、当時の基準で「面白い物語」を書こうとしたときに、現在にも通じる強烈なキャラの宝庫である頼光四天王が多くの作品のモデルになったのも、ある意味で必然なのではないでしょうか?
大江山の酒呑童子討伐!
そんな強烈なキャラクター性と実力を兼ね備えた頼光四天王ですが、実は彼ら全員が集結して戦ったと言うエピソードは数えるほどしかありません。
ですがその中でも代表的な「大江山の酒呑童子討伐」は、源頼光の生涯としても、頼光四天王のエピソードとしても、欠かすことのできないファクターとなっています。
酒呑童子とは、大江山に住む鬼のボスのような存在で、都に降りては女性をさらって食い殺すなど、当時の朝廷にとってはまさに宿敵とも呼べるような大妖怪でした。その凶悪さは「日本三大悪妖怪」とも数えられ、崇徳上皇(すとくじょうこう)、玉藻の前(たまものまえ)と並ぶ、京都の人々にとっての恐怖の象徴だったのです。
そんな酒呑童子たちに困り果てた朝廷は、頼光と四天王にその討伐を依頼。この依頼を受けた頼光と四天王は策を弄し、山伏に変装して酒呑童子のねぐらに侵入することを企てます。
この目論見は成功し、酒呑童子との謁見に成功した頼光一行。名前にもなるほど酒が大好きな酒呑童子は、頼光たちの手土産である酒を浴びるように飲み、瞬く間に泥酔して眠ってしまいました。
そして、この状況こそが頼光たちの策略。実は手土産として持ち込んだ酒は「神便鬼毒酒(しんぺんきどくしゅ)」という鬼にとっての毒であり、それによって体が動かなくなった酒呑童子の首を、頼光は暗殺に近い形で撥ねたのです。
ヒロイックな逸話の多い頼光や四天王の逸話の中では、少しだけ後味の悪い結末を迎える酒呑童子退治。
しかし、この後味の悪さこそが、なんとなく「このエピソードが現実にあった」という事実を補強しているような気もします。
頼光四天王に関するまとめ
平安時代、「怪異討伐の専門家」として数多の怪異に立ち向かった源頼光と、その部下である四天王たち。
実在が定かではないエピソードが多く、その証明のしようもない彼らですが、それでも彼らのエピソードが、現在の我々の心を躍らせるほど劇的で、なにより面白いエピソードだということだけは、確実だと言えます。
鎌倉幕府の成立年が1185年に変化したように、歴史とは資料や発見次第で絶えず移り変わるもの。もしかすると近い将来、彼らの戦いが現実に合ったものと認定され、「鬼なんて存在しない」という常識が覆る日が来ても、おかしくないのかもしれません。
と、そんな歴史ロマンを感じさせてくれる存在こそが源頼光であり、頼光四天王という人物たち。「知識として活用できる歴史」を学ぶのもいいですが、たまには彼らのエピソードのような「ただひたすらに胸躍る歴史ロマン」に触れてみるのも良いのではないでしょうか?