「泉鏡花ってどんな作品を書いた人なんだろう」
「アニメから知ったけど、どんな本を書いたのか読んでみたい!」
近年、「文豪ストレイドッグス」や「文豪とアルケミスト」など、文豪を取り扱ったメディア作品が増えてきましたね。その中に、太宰治や芥川龍之介と並んで主要キャラクターに選ばれている文豪に、「『泉鏡花』」という人物がおります。
名前からして女性と思われがちですが、れっきとした男性です。尾崎紅葉の弟子となり、その独特な文体と、怪奇趣味を合わせた世界観、そして、特有の幻想的なロマンティシズムを合わせた作品で人気を博した文豪の一人です。
そこで今回は、泉鏡花作品を短編含めて6作品ほど筆者が選ぶおすすめを「入門編・中級編・上級編」の3つの切り口に分けてご紹介いたします。
まず読みたい入門編
高野聖
読んでみて
1900年、春陽堂書店の文芸雑誌「新小説」に掲載された作品。高野聖とは、高野山の僧侶の事を表す言葉で、若者が旅の途中で出会った僧侶の若いころの話を聞くという構成で、僧侶が体験した美女と現実的な幽玄世界を描いた物語。
泉鏡花の代表作ともいえる作品で、怪奇・幻想小説としてもその名が知られている作品です。特に、美女に遭遇し、その姿を視覚的に描写した表現は、鏡花の語彙力の豊かさを彷彿とさせます。また、短編という事もあり、泉鏡花の世界観が凝縮された作品と言えるでしょう。
みんなのレビュー
落語家が話をしているようだ。妖艶な女が登場する高野聖。然し、睫毛が長い、瓜実顔など女の具体的な描写は全くないのに何故か艶かしい。また、文章よりも先に音が入ってくる。だからかその場にいるような錯覚に陥るのだろう。にしても、この人の文章は声に出してみたくなるほど綺麗で流暢だね。
ブックメーター
天守物語
読んでみて
1917年に文芸誌「新小説」に掲載された戯曲。この作品について、鏡花は「この戯曲を上演してもらえたら、こちらが費用を負担してもよい」という趣旨の発言を残したと言われています。しかし、実際に上演されたのは鏡花逝去後、1951年に初上演されました。
姫路城の天守閣から下界を見下ろす怪しげな夫人・富姫と若い鷹匠・図書之助の恋物語が主軸となっている物語。たくさんの妖怪たちが登場する幻想的な物語で、小説ではなく戯曲という事で会話劇が中心となっております。なので、小説より具体的に誰と誰が会話しているのかなど、頭の中で場面を描写しながら読み進めることが出来ます。また、舞台化や映像化もされているので、そちらで楽しむこともできます。
みんなのレビュー
「泉鏡花文学賞」ちゅうのをときどき見かける。でも、泉鏡花作品そのものは、絵本『化鳥』しか読んだことがないので、ちゃんと読んでみたかった。山本タカトの挿絵が美しく耽美的なので、脚本と言えど読み易かった。姫路城の五重(って、あったかしらん?)なる異界に住む富姫と若き鷹匠の姫川図書乃介の恋の物語。妖艶な雰囲気がたっぷり。舌長婆のグロテスクな様は、悪夢となりそうな気配があったけれど、大丈夫だった(←怖がりの人)。三島由紀夫が好んだとか、玉三郎が歌舞伎で演じたとか、納得の内容だった。
ブックメーター
中級編
草迷宮
読んでみて
1908年に春陽堂から刊行された中編小説。広島県に伝わる「稲生物怪録」を基にした作品で、諸国を旅していた法師・小次郎が5人も亡くなったという秋谷邸に住み着いた葉越明から、その怪現象を聞き、屋敷に住んでいる悪魔・悪左衛門と葉越の幼馴染であった菖蒲と出会う物語。
中編小説という事で、初級編よりは少し長いと感じるでしょうが、会話のテンポの良さなどで徐々に引き込まれていくのではないかと思います。また、情景や人物が何人も入れ替わり、まさに迷宮のように話が展開していくので、ある程度、短編で読み慣れてから読み進めるのがおすすめの作品です。
みんなのレビュー
文章も物語も妖美この上ない。読めば読むほど、複雑怪奇に織りこまれる幻惑的な世界に引き込まれる。語りの主語の追いにくさもこの幽玄な世界を引き立てていることと思う。冥界に住まう母を懐かしみ、恋い慕う書生明の安らかな寝姿とそこで起こる怪異の対比の描写。母と菖蒲の像は重なり、菖蒲の恋慕は姦通のみならず近親相姦へと通じてしまうだろう。二人の越えてはならぬ関係を妨げる悪左衛門は、人間の瞬く間を世界とするもの。「通るぞう。」と一喝し、明はようやく旅を辞めるか。 鏡花の言葉の回し方がたまらなく心地よい、読書でした。
ブックメーター
外科室
読んでみて
1895年、「文芸倶楽部」に掲載された短編小説。画家である主人公・私が、友人である医師の高峰の手術を見学することになりました。その患者である貴船伯爵夫人の手術を開始しようとするのですが、夫人がなぜか麻酔を拒み続けています。そして最後には自らの命を絶ってしまう、という物語です。
前後半の2部構成となっていて、前半は手術室、後半は回想という構成になっています。「高野聖」より前の作品という事で、怪奇趣味や幻想的な部分はあまり出てきませんが、ストレートな人間の感情のぶつけ合いに、心打たれるのではないでしょうか。
みんなのレビュー
外科室のベッドに横たわる高貴な伯爵夫人。周りには執刀医と看護婦、見守りの家族。まさに手術のため麻酔をかけるという時に、眠ってしまうと秘密を呟いてしまうので、このまま切ってくれと言う。-短いながらも鮮烈な印象を残す作品。
ブックメーター
上級編
歌行灯
読んでみて
1910年に発表された小説。主人公である喜多八は、謡の師匠を腕比べの末に自殺に追い込んでしまい、二度と能をしないという罰則を受けました。しかし、師匠の娘である芸者のお三重と出会ってしまったことで、能をしないという禁令を破ってしまい…という物語。
鏡花は能に深い造詣があったと言われております。この作品では、そういった能の世界を細かく描写していて、一つの芸術として幻想的な文体で表現しております。芸の世界で生きていく人々の内面的なロマンを見事に描いた作品です。
みんなのレビュー
初めての泉鏡花。歌行燈は非常に情緒的。膝栗毛や能が盛り込まれ、まるで唄のよう。特に最後の場面から浮かぶ情景は素晴らしかった。 高野聖などその他の話は、鏡花の亡き母を感じる。幻想的で切ない物語。
ブックメーター
夜行巡査
読んでみて
1895年に「文芸倶楽部」にて掲載された短編小説。生真面目で融通の利かない警察官・八田が、午前零時の見回りの最中に酔っ払いに絡まれる。実は、その酔っぱらいは婚姻相手の叔父だったのです。叔父は八田の事を逆恨みから結婚を許さないでいました。そんな叔父と口論しているうちに、叔父が池に落ちてしまい…という物語。
「外科室」と同時期に掲載された作品で、日本人の真面目さというのがテーマになっている作品です。これも、外科室と同じく、まだ幻想的な部分は少ないのですが、短編でありながら、その真面目ゆえの人との付き合い方や人生の歩み方など、非常に考えさせられる作品となっております。
みんなのレビュー
外科室を読んだので、同年に発表された(本作が先)こちらも読んだ。規則正しく夜の巡回をこなす男の話。カントを一瞬連想したが、ああいう一周回って愛される類の生真面目さではなく、冷血漢が権力を着て歩いている状態。追って登場する彼の恋人の伯父は輪をかけて胸くそ悪い。でも読んでしまうなあ。短編で良かった。
ブックメーター
まとめ
今回は、泉鏡花のおすすめ作品6選を初級編から上級編までご紹介しました。
上記に紹介した作品以外にも自身の体験から母を失った悲しみを強調した作品「照葉狂言」や、散策人と山寺の僧侶の世間話から、僧侶が話していた女性に出会い不思議な体験をする「春昼・春昼後刻」といった作品もあります。
巧みな言葉遣いと、幻想的な描写、そして会話のリズム感。初めての人が読んでも、その世界観に引き込まれるのではないでしょうか。この記事を通じて、泉鏡花の世界に触れてみてはいかがでしょうか。