「上橋菜穂子の小説を読んでみようと思うけれど、どれを最初に読んだらいいかな?」
「上橋菜穂子の、小説以外の作品はないのかな?」
上橋菜穂子は “小さなノーベル賞” とも言われる国際アンデルセン賞を受賞したことで有名な児童文学作家なので、普段ファンタジー作品に馴染みがなくても、著作を読んでみたいと思う人は多いでしょう。しかし大作が多いため、なかなか手を出しづらいのではないでしょうか?
上橋菜穂子の作品が大好きで、どの本も表紙が擦り切れるまで繰り返し読んでいる筆者が、ぜひおすすめしたい著作を、「大人気長編」「極上の短編小説」「対談集」の3つの切り口からご紹介します。
大人気長編
守り人シリーズ
読んでみて
緻密な世界観に圧倒される、上橋菜穂子作品で最長の物語です。どの登場人物も愛すべき人たちで、初読ではバルサやチャグムといったメインキャラクターに感情移入して興奮のうちに読み終えましたが、歳を重ねて再読すると、ダークサイド側の人たちの葛藤にも心を持っていかれました。
バルサとチャグムは親子でも、恋人同士でもありません。しかしその別れのシーンは涙が止まりませんでした。たとえ一緒に過ごす時が短くても、正面から向き合って一生懸命生きた相手ならば、道を違える運命になったとしても、その出会いはお互いが前を向いて進んでいく力になると感じます。
みんなのレビュー
私は、子供の頃にこのシリーズには出会わなかったけれども、大人になって読んでも楽しめる、美しいファンタジーだと感じた。
語り口も独特で、目線の主体がこんなに変わっては混乱するのではと思われるにも関わらず、そのスタイルを用いることによりむしろテンポよく、緊張感を持って物語が進む。 登場人物ひとりひとりの抱える人生や思いが、文章や言葉ににじみ出て、彼らの生き生きとした姿を感じられた。
単なる冒険物語ではなく、バルサやチャグムの心の成長や痛みをともに感じ、ともに呼吸をしているような。胸に迫る秀逸な物語だ。
ブックメーター
獣の奏者
読んでみて
上橋菜穂子の作品が素晴らしいと思うのは、決して全てがハッピーエンドではないということです。登場人物の心情を考えれば、その選択が最上であり彼らの幸せであると納得はできるのですが、ラストは文字通り胸が引き裂かれそうになります。その最たるものがこの作品でしょう。
しかし、読み終えた時に流す涙は決して悲しいだけではありません。主人公エリンの一生は、私たちもこんなふうに生きてみたいと思わせるもので、エリンに出会えてよかったという感謝の思いを抱きます。また、仕事をしながら子育てをしているお母さんや、その子供の心情がリアルで、ファンタジーですが現代にも通じる作品です。
みんなのレビュー
「なんかおすすめの本ある?」と聞かれたら、いの一番に紹介するであろう本が獣の奏者だ。老若男女すべての世代におすすめできる。こどもたちはその壮大なストーリーにわくわくし、大人たちは登場人物の心情や未来に心動かされるはずだ。エリンの一生を描く超大作であるが、ページを繰る手が止まらない。
懸命に生きた人の一生を体感したようで、読了は疲労感が残る。物語だと分かっているのに、どこかでまだ登場人物達が生活しているのではないかと思ってしまうくらい濃厚なストーリーだった。
ブックメーター
鹿の王
読んでみて
上橋菜穂子の文化人類学者としての一面を強く意識した作品でした。人間も含めて生物には優劣はなく、全てがそれぞれに根拠のある行動原理を持っていて、尊重しなければならない大切な命であることをひしひしと感じます。
2014年初版のファンタジー作品ですが、新型コロナウイルスが蔓延する現在と重なる世界観に驚きます。「鹿の王」とは群れを守るため、自分の命をかけて最前線に立つ者のことです。その姿はまさにリスクを省みず多くの命を救おうと働いている医療従事者であると感じます。
みんなのレビュー
相変わらず凄まじい嘘つき(作家に対する最上級の褒め言葉)だなと痛感する。タイトルから想起される牧歌的ファンタジーからは一線を画した「医療ファンタジー」だ。「子供向け」だけど「子供だまし」などでは決してない。超一級のファンタジー作品かと思う。絶対に読んだ人の時間を無駄にはさせないかと。
ブックメーター
極上の短編小説
狐笛のかなた
読んでみて
長編は手が出しづらい人におすすめしたい、上橋菜穂子作品の中でも短めの和製ファンタジーです。話に出てくる耳慣れない名前や地名が覚えられず、ファンタジー作品が苦手という人にも読みやすい作品です。
自分の中で勝手にイメージしている日本の原風景が、文字を通して立体的に見えるようで、それだけでも豊かな気分になれます。過去の因縁に囚われ、宿命を背負いながらも最善の道を探る主人公の姿は、読んでいて胸が熱くなりました。
みんなのレビュー
呪術の娘として生まれるも、命を尊び、優しさと真っ直ぐさを持つ小夜。呪術で使い魔にされた霊狐の野火。すべての壁を破って貫かれた愛のストーリーだった。
憎しみや報復からはさらなる憎しみしか生まれないが、握った拳を開き、人を許す決断をした時、憎しみを後世に伝えない事が出来、真の解決へと導かれていく…深くて真っ直ぐなメッセージに涙が止まらなかった。感動した。
ブックメーター
対談集
命の意味 命のしるし
読んでみて
野生動物を診る医師との対談です。人と他の生物との共生を目指すにはどうしたらいいのか?お二人とも自分にできることを探し実践しようとしています。上橋菜穂子は文化人類学者としてフィールドワークを重ねてきたからこそ、痛切に抱く思いがあるのだと強く感じました。
NHKで放映された「SWITCHインタビュー達人たち」の内容を、小学生に向けて編集された本ですが、大人でも特に上橋菜穂子の読者なら、この本を読むと物語の裏側にある作者の思いが伝わってくるので、作品への理解を深めてくれる一冊になっています。
みんなのレビュー
二つの世界を「共存」ではなく「共生」させること。対立する二つの世界の境界にたち、あくまでも具体的に現実を検証し、冷静に原因を見極め、常に実現可能な解決策を探っていく、という齊藤先生の姿勢。
そして物語を通して上橋さんが伝えようとしているメッセージ。すごく重要なことが詰まった本だと思った。(…児童書なんだよね、コレ(^_^;))
ブックメーター
三人寄れば、物語のことを
読んでみて
上橋菜穂子と、児童文学の世界でも有名な荻原規子、佐藤多佳子との鼎談集です。お互いの作品の感想や、創作の秘話も語られています。作家同士の話なので、作り手の視点についての意見がとても興味深いです。
生きることが楽しいと伝えたいという作家としての思いを、物語にのせているという話が素敵で、だからこそこの三人の作品は切ない話もどこか温かみが残るんだろうなあと思います。何より三人とも楽しそうで、その雰囲気が伝わってくるのが素敵です。
みんなのレビュー
同世代の三人。普段からメールなどで親しい間柄だそう。互いに良き読者、よき理解者でもある。子どもの頃から多くの物語に親しんできた共通の素地のもと、尊敬の念をベースにした三人の会話はテンポよく楽しい。語られたことだけでなく語られなかったことを感じたときに初めて世界が見えることがある。
ファンタジーを通じて他の世界を想像しそこに生きてしまえる力が、自分の辛い状況から抜け出す助けになる。落としどころは重要だがオチが読める読めないでなく、最後までの間に満ちているものだって大きい。などなどなるほどというところが多い。
ブックメーター
まとめ
読んでみたい本は見つかりましたか?
「守り人」「獣の奏者」「鹿の王」シリーズは、難しい漢字にルビをふった子供向けのものから文庫でも出版されているので、幅広い世代に読みやすくなっています。「守り人」「獣の奏者」シリーズはアニメも制作されているので、それを見てから原作を読んでもいいですね。
「守り人」シリーズは綾瀬はるか主演でNHKドラマでも放送されました。壮大なスケール感と、綾瀬はるかの運動神経抜群の演技が目をひく、素晴らしい作品でした。共演者も豪華で、目を見張るものがありました。「鹿の王」は2020年にアニメ映画化が決定しています。
どれも基本的に児童文学なので、小学生から楽しめる話ですが、「獣の奏者 外伝 刹那」に関しては歳を重ねた大人にこそぜひ読んでもらいたい作品です。ヒリヒリするような若い頃の恋の物語が、苦味とともに語られる、上橋菜穂子の作品にしては珍しいものです。
上橋菜穂子の世界への入り口はたくさんあります。ぜひ自分に合ったものから手を出してみてください。読書がこんなにも自分を豊かにしてくれるものだということを、上橋菜穂子の作品は再認識させてくれるはずです。