椎名誠のオススメ本11選【エッセイやSF、私小説、冒険紀行まで】

「椎名誠ってどんな本を書いているんだろう?」

「椎名誠の独特の世界観を味わえる作品に出会いたい!」

小説家、エッセイストにして写真家、映画監督と幅広い分野で活躍している椎名誠。海外の辺境から日本の山・川・無人島に至るまで、世界中をところ狭しとかけめぐるバイタリティーが最大の魅力です。豪快なイメージがありますが、それ一辺倒ではなく、繊細な作品も多く生み出しています。

作品のジャンルが幅広いため、冒頭の疑問や思いをいだいて本を探す場合に、どういった作品を選んでよいのか迷うこともあると思います。

そこで、今回は、椎名誠ファン歴四半世紀に及ぶ筆者が「椎名誠のおすすめ作品」11冊をジャンルごとにご紹介いたします。

エッセイ編

わしらは怪しい探険隊 (角川文庫)

読んでみて

椎名誠の作家活動の重要な「場」であったと思われる「あやしい探検隊」。そのシリーズの初回作に位置づけられる本作は、男たちが島(多くは無人島)に出かけてゆき、焚火を囲んで酒を飲むという話が綴られています。

この男たちのグループ名が「東日本なんでもケトばす会」というもので、その点からしてもうおかしいのです。上品な笑いというものとはほど遠いですが、ハチャメチャぶりが楽しく、病みつきになることまず間違いありません。

みんなのレビュー

なんのかんのいって椎名誠の魅力はこの本に尽きる。ろくでもない男たちが、島に行って飯作って酒を飲む、というだけでなにが面白いのかと思うが、それが面白い。それが面白いいてことを知らしめただけで、歴史的な価値がある。なぜこれだけ個性的なメンツが、こんな馬鹿げたことを楽しんでやり続けられかと思うが、椎名なりの「これは楽しい!」という確信があったからだろうか。蚊取り線香入りカレーとか、蚊柱に襲われるとか、ちゃんこ鍋は遠い話とか、キャンプをしているとふと思い出すことがよくある。

読書メーター

さらば国分寺書店のオババ (新潮文庫)

読んでみて

椎名誠のデビュー作といわれる本書は、いわゆる「昭和軽薄体」とよばれる文体によりつづられています。どこまでも軽妙で、読んでいて小気味良いです。その源泉は、なんといっても椎名誠の価値基準の明確なところです。

善悪ないし好悪がはっきりしており、読者はそこに惹かれるのでしょう。価値観の多様化を背景に、ものを言いにくくなってしまった社会がもとめた作家……椎名誠とはそんな作家であるようにも感じられます。

みんなのレビュー

その昔、アウトドア関連から椎名さんの名を知り、この本を手にした際、あまりの面白さに周りの友人に勧めまくったのがこの本。融通の利かない制服関係の人たちや管理社会への不満、”国分寺書店のオババ”との心理戦を「オラオラコンニャロー!」といった言葉で畳み掛けてゆくパワーに圧倒されます。自らの文体を”昭和軽薄体”名付けて、堅苦しく権威に満ちた文体に風穴を開けるような軽い語り口は、読む人を脱力させてくれます。流れるような文章と話の切り替えの上手さで、夏の疲れで本を読む気にならないといった方にもおすすめ。

読書メーター

ぼくがいま、死について思うこと (新潮文庫)

読んでみて

人間にとって避けては通れない「死」。本書は、その「死」について、椎名誠が真正面から向き合った異色のエッセイです。

死とはなにかという考察に併せて、世界の代表的な埋葬例が紹介されています。

地球規模で考えると、同じ人類であるのに、その「死」のありようはまちまちで、その点が非常に興味深いです。生まれ育った土地や文化によって、死後の埋葬法が異なるというのは、考えれば考えるほど不思議な気がします。

みんなのレビュー

明日死んだっておかしくないなあって最近思うようになって、死ぬことについて考えようと思って読んだ。 世界各地の葬儀の仕方や死についての考え方が書かれていて、土地柄や宗教で死の捉え方は様々だった。 実際に見たり現地の人に直接聞いた話だからこそ、鳥葬や風葬の話はとてもリアルで読むのが少しつらくなったりもした。 筆者の周りの人が自分の死についてのアンケートに回答しているところは、その人の考え方やこれまでの人生などによっていろんな回答があって、とても良かった。

読書メーター

SF編

アド・バード (集英社文庫)

読んでみて

椎名誠のSF三部作の第1作である本書は、タイトルからもアドつまり広告がモチーフとなっています。第11回日本SF大賞を受賞した作品です。

広告がつぎつぎ出てくる世界というのは、インターネット上のポップアップ広告を予言しているかのようでもあり、本作の初出が小説「すばる」連載(1987-1989年)であったことをあわせても興味深いです。

兄弟が父を探して旅に出る、という物語の本筋も感情移入がしやすく、夢中になって読み進んでしまいました。

みんなのレビュー

人類が希少種になり、奇妙な生物とアンドロイドが跋扈する世界。マサルと菊丸の兄弟は、父を探し求める旅に出る。荒廃した世界で、サバイバルを繰り返す兄弟と、へんてことしかいいようのないキャラクターが山ほど出てきて、そのコントラストが面白くも不気味。宣伝というモチーフがたくさん出てくるあたりは、現代社会への風刺も思わせる。ある事実から、将来こんな世界にならないとも限らないとも感じてしまう、不条理な、でもある種リアルなSFだった。

読書メーター

水域 (講談社文庫)

読んでみて

高校生の頃に学校の行き帰りの電車の中で読んでいました。はじめは独特の固有名詞に惑わされます。そこは、椎名誠のSFのちょっとした通過儀礼ですね。読み進むうちに、ふしぎとその世界のイメージが定着してゆきます。

そこまでいくと、もう頭の中には、ウユニ塩湖のような色彩の「海と空」が定着しています。その舞台を主人公たちが出会い、戦い、別れつつも漂流しています。

壮大な舞台と、心の機微と、熱い戦いのシーンとが混ざりあい、いつまでもこの世界に浸っていたいと思わせる作品です。

みんなのレビュー

水にまみれた滅びた後の世界での漂流記。ハウスと呼ばれる小屋付きイカダで流れるままその世界を旅するハルの、出会いと別れの物語。海の生物や浮島の植物など、シーナ・ワールド特有の奇妙な名前と造形に彩られた世界が、水没した風景と今なおその上にあるものを構築しているようで、奇妙で美しい光景を見せる。一つ一つの出会いがハルにもたらしたものは大きなものもあれば小さなものもあるが、そのどれもが、過ぎて流れていったものである。日常の変化と変わらない人生、あるいはその逆。イカダの上の生活は、まさにそんな漂流の物語なのだろう。

読書メーター

新装版 武装島田倉庫 (小学館文庫)

読んでみて

荒廃した世界を舞台に繰り広げられる異質な日常を描いたSF三部作の第3作。短編集のそれぞれが他と関連し、数珠繋ぎのようにひとまとまりの世界を構成しています。

なぜ「武装」島田倉庫なのかという謎は、終盤にあきらかになります。椎名誠のSF全般に通じる点ではありますが、展開のあざやかさ、爽快感は癖になります。

得体の知れない環境に、謎の生物たちがうごめく世界というのも、舞台設定として生きていると思いました。

みんなのレビュー

「戦争」から20年経った日本。国の統治は形骸化し、生き残った人間は敵や略奪者、突然変異のぬめぬめした生物らと戦いながら遺物を漁って生きている。架空の世界、架空の地名、架空の出来事なんだからSFだろうが、変てこな固有名詞ばかりの、見たことのない異世界だ。そしてやたら生臭い。水辺は油まみれの泥濘に変わり果て、汚れた油で厚く覆われた海面が、さざ波すら立てずにてらてらとのたる世界。青くない海。それこそがシーナさんにとってのディストピアの象徴ってところが面白い。”招魂酒”と書いて(ふぬけ)。わぁ、飲みたくないわぁ。

読書メーター

私小説編

哀愁の町に霧が降るのだ (上) (小学館文庫)/哀愁の町に霧が降るのだ (下) (小学館文庫)

読んでみて

椎名誠の青春私小説です。エッセイによる軽妙な語り口、SFの独特の世界とはまた一線を画し、しっかり感動ストーリーが展開されます。

文体はどこまでも椎名誠のものなので、違和感なく読めるところが、逆に効果的だと感じます。

特筆すべきは、当時の時代背景が適度に描かれており、青春小説にありがちな「宙にういた感じ」がないことです。といって、お仕着せのストーリーではなく、登場人物の誰もがごく自然に(かつ懸命に)生きていることを感じさせてくれます。

なお、本作は『新橋烏森口青春篇』『銀座の烏』とあわせ「青春私小説三部作」と呼ばれています。

みんなのレビュー

巻末の解説で茂木健一郎に言わせれば、本書は青春のバイブルだという。東京は江戸川区、小岩の昼でも日の当たらない暗く汚い克美荘の6畳間で四人の男たちの共同生活が始まる。椎名ワールドの大スター、イラストレーターの沢野ひとし、弁護士志望の木村晋介、サラリーマンのイサオ、そして椎名誠。打算も目的も何もない行き当たりばったりの生活。イサオ以外は適当にバイトで食いつなぎ、金が有るときは酒盛り、食事はどんぶり飯になんとかどんぶり。原始共同社会が3年続いたそうだ。

読書メーター

岳物語 (集英社文庫) /続 岳物語 (集英社文庫)

読んでみて

上下2巻セットです。椎名誠と息子「岳」の交流をつづった私小説の親子編です。はじめて読んだのはたしか高校生の頃でしたが、息子・岳の成長を感じることができ、疑似的に父親の気分になれました。

当時は子ども目線として読みましたが、今読み返すと、私自身が父親になっているせいか、このおとう(椎名誠のこと)の気持ちがじつによく分かります。

子として読んでも、親として読んでも面白い。きっとおじいちゃんになって読んでも面白いはず……そう思わせてくれる一冊です。

みんなのレビュー

どうして「さん」をつけないんだ?ー「さん」をつけるほど偉くないからだ。 このやり取りが大好きだ。椎名さんご夫婦は息子の岳少年を一人の人間として見つめている。子供に自分の理想や社会的な常識みたいなものを押し付けないって凄く難しい。岳少年、学校の勉強はからっきしだったが、釣りと出会ってからそこに注ぐ情熱が凄まじく、読んでいて「本来勉強とか、習い事とかこうあるべきだよな〜」と思う。椎名誠と岳少年の優しい物語。今彼はどんな大人になったんだろう。

読書メーター

三匹のかいじゅう (集英社文庫)

読んでみて

じいじいとなった椎名誠と3人のお孫さんとの交流をつづった私小説です。世代的に育児を終え、活動の中心も国内となり、家ではお孫さんの相手をする……若かりし日の椎名さん「らしくない」展開は、昔からのファンには「あたらしい」感覚があります。

もちろん、感じるだけでなく、文体もあきらかに変わっています。「昭和軽薄体」と呼ばれたかつてのトーンは消え、落ち着いた雰囲気をまとった文体へと様変わりしています。ひと言でいうなら丸く優しくなったというか、円熟味を感じる作風になっています。

みんなのレビュー

椎名さんの息子岳さん一家の帰国。孫の風太君、海ちゃん、そして日本で生まれた琉太君、三人の孫(三匹のかいじゅうたち)と椎名さんとの生活。孫は来て良し、帰って良しというけれど、すっかり「じいじい」となった椎名さんのジジバカぶりと幼い子供たちとの会話が実に微笑ましい。名著「岳物語」から続く椎名さんの私小説2ndジェネレーションでもあり、これが最終章でもあるのだろうか。時折「老い」を意識した言葉が出る椎名さん。「あや探」の頃からずっと読んできた読者としてはちょっと寂しい気もする。

読書メーター

冒険紀行編

パタゴニア あるいは風とタンポポの物語り (集英社文庫)

読んでみて

冒険紀行ものの中で、もっともお勧めしたいのが本書です。パタゴニアへの冒険旅行に突き進む物語ですが、当時の椎名誠の家庭事情が濃厚に横糸として組み込まれています。

私小説の色彩をもった冒険紀行といってよいと思います。このあたりの繊細さ・やさしさは、おそらく一般に認知されている椎名誠のイメージとかなり乖離があるのではないかと感じます。

それだけに読まず嫌いになってしまうのは大変もったいないことです。パタゴニアという土地、氷山、猛烈な風をしっかり感じ、プンタ・アレーナスにも行った気持ちになれます。まず必読書と言ってよいと思います。

みんなのレビュー

 風と氷河に閉ざされたパタゴニア。世界で最も荒れるドレーク海峡を南米最南端の孤島へチリ海軍と供に進むシーナさん。やっぱり彼の作品は旅モノが面白い。今回は怪しい探検ではなく「正しい探検」。とはいえ、チリ海軍のおっさん達と船で酒を酌み交わすのはいつものこと。眼前にそびえる大氷河、高く天に向かってそそり立つパイネ山。写真は添えられているけれど一度この目で見てみたい。丘に咲く一面のタンポポを見て妻を想い、地元の雑貨屋で買った素材で息子へのお手製のチャンピオンベルトを作る。そんな椎名さんの優しさも感じられる。★★★★

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砂の海―楼蘭・タクラマカン砂漠探検記 (新潮文庫)

読んでみて

本格的な冒険紀行ものである本書。ロプノール「さまよえる湖」と楼蘭は、椎名誠の人生において重要なキーワード、半ばライフワークの位置づけにあることが語られています。

その過酷な旅の様子を綴った作品です。外国人クルーとして「1番乗り」に燃える椎名誠。当時の中国の情報管理や、厳しい旅程に苦しみながらも、仲間とともに苦境を乗り越えていく姿にはずっしりとした感動があります。

書き手である椎名誠の興奮までもが、文字をとおして目に飛び込んでくるような気持ちになりました。

みんなのレビュー

普段は「あやしい探検」をしている椎名隊長も今回は「真面目な探検隊」。日中共同探検隊と、タクラマカン砂漠へ。目的地は探検家ヘディンが「さまよえる湖」と名づけたロプノールと2000年前の幻の王国・楼蘭。とは言っても砂漠の中でのビール争奪作戦?や「金属味の缶詰料理」などいつもの椎名節も満載。椎名さんが子供の頃に読んで感動した憧れのロプノール。私もヘディンの「さまよえる湖」の話は子供の頃読んで感動した覚えがある。シルクロード、憧れの場所です。憧れるだけでなくて、実際行ってしまうのが椎名さんの凄いところ。★★★★

読書メーター

まとめ

今回紹介できなかった本にも、すばらしい本はたくさんあります。絵本や写真が豊富な書籍もありますので、ビジュアル色のつよい作品から親しむというのもお勧めです。

とにかく「酒豪で冒険家」というイメージのつよい椎名誠ですが、その作品からは、とても繊細でやさしく、大らかで穏やかな雰囲気を感じることができます。

年代や性別を問わず楽しめる本ばかりですので、未体験の方はぜひ手に取ってみてください。どのジャンルの作品も読み応えは十分です。

椎名誠独特の世界観(シーナ・ワールド)を存分に楽しんでいただけたら幸いです!

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