【24年1月最新】田辺聖子のおすすめ本・小説ランキングTOP10

「田辺聖子の文学賞を受賞した作品を読みたいな・・・!」
「田辺聖子の作品で読みやすいものはどれだろう・・・?」

2019年に帰らぬ人となった田辺聖子ですが、生前に数多くの作品を遺しました。

田辺聖子

本屋へ行けばさまざまな出版社から出された作品が並び、どれを手にとれば良いのやら右往左往してしまいます。筆者は中学生のときに初めて読んで以来の田辺聖子ファンですが、友人からおすすめの一冊を尋ねられるたびに、著作リストの前で熟考してしまいます。

そこで今回は、長年田辺聖子のさまざまなジャンルの本を読み漁った筆者がおすすめしたい本を10冊ご紹介します。文学賞を受賞した作品や映画化・舞台化されたもの、古典の現代語訳やエッセイなどからおすすめ順のランキングにしてまとめました。

きっとこの記事が、今の気分に合った田辺聖子の本を選ぶ手助けになるはずです。

この記事を書いた人

一橋大卒 歴史学専攻

京藤 一葉

Rekisiru編集部、京藤 一葉(きょうとういちよう)。一橋大学にて大学院含め6年間歴史学を研究。専攻は世界史の近代〜現代。卒業後は出版業界に就職。世界史・日本史含め多岐に渡る編集業務に従事。その後、結婚を境に地方移住し、現在はWebメディアで編集者に従事。

10位:感傷旅行

読んでみて

1964年度第50回芥川賞受賞作品です。恋愛と左翼運動の話が同じフェーズで出てくるあたりは時代を感じますが、現代でもいるような女性たちが登場してくるので、古くさいイメージはありません。

田辺聖子の後期の作品が好きな読者には特に、違和感を覚えるような味わいの小説かもしれません。しかし、純文学作品向けの芥川賞を受賞したことを思えば頷けます。あとがきに、田辺聖子がこの後大衆小説を書くに至った経緯を述べていて、それを読むと田辺聖子が目指した小説の形が見えてくるのが興味深いです。

みんなのレビュー

追悼の想いを込めて田辺聖子さん初読み。芥川賞受賞の表題作はじめ、旅を切り口に自立した女性の恋愛や人生への思索を綴る短篇集。芥川賞って純文学だったよね?というくらいに読みやすく、女性の考え方は現代的で、共感要素も多分にあり、一気読みでございました。むしろこの女性による女性らしさ全開の文体や心理描写が当時は新しかったのかな?と思ったり。

心に残るフレーズはたくさんあるけれど、≪青春というものはお金といっしょよ。残り少なくなると、むやみやたらと使いたくなるものよ≫という有以子の開き直った一言にはぐっときました。

読書メーター

9位:楽老抄―ゆめのしずく―

読んでみて

田辺聖子自身の幼少期のことや、読書の意味なども書かれていますが、司馬遼太郎や吉行淳之介、沈壽官といった文化人たちとの交流についてのエッセイが特に楽しかったです。どれも短編なので、ちょっとした空き時間に読み進められます。

ファンにはよく知られていますが、田辺聖子は大阪弁を上手く使って言葉のニュアンスをぼかし、受け手の印象を左右します。その塩梅が見事なのですが、この本はそれが顕著です。漢字と平仮名の表記の使い分けも素敵で、とても勉強になります。

みんなのレビュー

自分の年代とはかなりかけ離れているのだけれど、田辺さんのいつの年代でも自由で快活な生きる様は本当に勇気付けられる。

最後のほうの、「読書は実人生のほかに更に深い、美しい心の王国をもらたす」にぐっときた。人それぞれ、趣味や仕事、入れ込むものがあるなかで、読書や書くといったカテゴリに傾倒することを肯定された気持ち。好きなことをやって、何にでも楽しんで面白く生きていこうと、適当でもとにかく楽しくやっていこうという、原点のようなものを教えてくれた。

読書メーター

8位:人生は、だまし だまし

読んでみて

学生時代に初めて田辺聖子のエッセイを読んだ時に、こんな話が楽しめるように歳を重ねたいものだと感じました。田辺聖子は思い込みに囚われず、物事を柔軟に考え、小さな幸せを見つける才能があると思います。そして、語彙力の多彩さにも惚れ惚れします。難しい熟語も出てきますがぜひチャレンジしてください。

そんな彼女のエッセンスが如実に現れているこの随筆は、格言集のようにもなっていて、辛いことが続いている時に読むと、見える世界が変わるような一冊です。歳を重ねていくと、大変なことは、時には正面から向き合わずにさらりとかわすこともありだと教えてくれます。

みんなのレビュー

おせいさんの随筆を読んだのは初めてでした。ナアナアな中年、イチブン氏と理想高きOL、フィフティちゃん、おせいさん、ときどきカモカのおっちゃんを混じえて語られる「いい塩梅」の大人の随筆集。おせいさんの著作は小説もそうですが、カドがなくて心がまあるくなる感じ。合間合間に挟まれるアフォリズムが印象的でした。

そっかー「可愛げのある男」に尽くしてる間にアッという間に人生は幕を下ろしてしまうから野心のある女性は気をつけないといけないのね。結婚ってなかなかふしぎなもんです。おせいさんのほかの随筆も読むつもりです。

Rakutenブックス

7位:道頓堀の雨に別れて以来なり―川柳作家・岸本水府とその時代

読んでみて

1998年度第50回読売文学賞「評論・伝記賞」、1998年度第26回泉鏡花文学賞、1998年度第3回井原西鶴賞を受賞した、川柳の世界を生きた作家たちの物語です。田辺聖子の、川柳とそれに関わる人々への深い愛情を感じます。

伝記ではありますが、川柳史について入念な下調べがあっただろうことは、読んでいるとひしひしと伝わってきます。その裏打ちがあるからこそ地に足のついた世界観が作られ、数々の受賞に繋がったのでしょう。川柳作家の中心人物・岸本水府はコピーライターでもあったので、川柳という枠を飛び越え、言葉に関心がある人にも面白い作品になっています。

みんなのレビュー

この話は岸本水府と言う川柳作家の伝記であると同時に近代大阪の軌跡を描いてもいる。江戸・東京については色々な本が出ていたが何故か大阪については比較的少なく(単に私が寡聞なだけである。異論のある方もいると思うがお許し願いたい)、資料や小説などをあさっていたときに薦められた本だった。

川柳作家である岸本水府と言う人間とその周りの時代や人間たちの様を著者一流の軽妙かつ洒脱な文体で描き、“生きた”近代大阪の時代背景や風俗、習慣などを鮮やかに浮かび上がらせた様は正に見事の一言に尽きる。

また、岸本水府と「川柳」と言うつながりや生きざまを冗長にならずに丁寧に書き出し、川柳に興味のある方にも大変興味のある内容だと思う。この作品は数ある田辺作品の傑作であると個人的には思っている。

honto

6位:おちくぼ物語

読んでみて

日本版シンデレラ物語とも言われる「落窪物語」ですが、田辺聖子の手にかかるとラブコメのような楽しいストーリーになります。田辺聖子の訳本なので、原作通りではありませんが、それでも物語の骨格は平安時代のものです。当時の人たちもハラハラドキドキしながら読んだ物語だったのかと想像すると、平安時代の貴族が身近に思えてきます。

テンポも良いので、読書に慣れている人なら1時間程度で読める手軽さもおすすめポイントです。特に小学校高学年の女子に読んで欲しい作品です。この本はきっと日本の古典文学への扉を開く鍵になるでしょう。宝塚歌劇団による舞台化、山内直美によって漫画化もされています。

みんなのレビュー

当時の風習や生活様式がよくわかり、古典の入門書に向いている。「古典作品を読むことで、千年前の友人をたくさん持てる」という著者の考え方が素敵。

読書メーター

5位:ひねくれ一茶

読んでみて

1993年度第27回吉川英治文学賞受賞作品です。652ページという大作ですが、作家の五木寛之が解説で絶賛しているように、至福の読書時間を過ごせます。絶妙なバランスで散りばめられている一茶の句が魅力的で、ストーリーと共に、一茶の見た江戸時代の風景が目に浮かぶようです。

個人的に田辺聖子という作家は、歳を重ねることに対して魅力を見出す天才だと思っています。この小説の主人公小林一茶はまさに中年で、たくさんの試練にもがき苦しみつつも俳句を創り続け、人間の生を満喫したように感じました。素敵な終わり方です。

みんなのレビュー

生涯、自分の生まれ育った故郷を心の中に大事にしまいこみ、俳句の宗匠となっても庶民の感覚を失わなかった一茶。そんな一茶を描くのに、田辺聖子は最適な作家なのではないだろうか。

庶民の町大阪に生まれ庶民であり続けている田辺聖子は、俗をこよなく愛しながら、風雅なことにも目を向け、心を配っている。庶民的な心を持ったまま風雅を愛する一茶と田辺聖子は、たくさんの共通点を持っているのだと思う。だからこそ、田辺聖子が描く気取りのない一茶は、でんとそこにあり、読む者の心を引きつけてやまない。

読書メーター

4位:新源氏物語

読んでみて

高校生の時に大学受験の古文対策に読んだのが最初です。それから他の作家の訳本も読んだものの、源氏物語のストーリーとしての面白さを、この本が最もわかりやすく教えてくれたように思います。まずは源氏物語の内容を知りたいというような初心者には本当におすすめです。

上中下の3巻に加え、「宇治十帖」の内容が描かれた「霧ふかき宇治の恋」上下2巻も加えるとかなりの長編ですが、ぜひ最後まで読んで欲しいです。「宇治十帖」も含め、物語全体を通じて光源氏の因果応報が描かれていて、壮大な伏線のようになっています。これこそが源氏物語の凄さでもあるからです。

宝塚で舞台化もされました。

みんなのレビュー

訳とはどうあるべきか。様々な答えがあろうが、私が源氏物語の現代語訳に求めるのは、原文を読んだ当時の人々が読み取った情景やニュアンスを、我々現代の読者も極力同じように(少なくとも文章読解上)読み取れるような文章に変換されていることである。

そういう意味で、田辺聖子さんの新源氏は理想形。(もちろん当時の読者がどう感じたかなんて知りようもないからものすごく独断と主観に満ちた個人的な感想ですがね。)

中巻には玉鬘十帖までが含まれる。近江の君のセリフなどはかなり大胆な口語訳だが、格式高い訳だとこの姫のキャラは再現困難。

読書メーター

3位:隼別王子の叛乱

読んでみて

この作品は、田辺聖子が宝塚歌劇団の大ファンということもあり、宝塚で舞台化されました。古事記の世界を背景に、大王として登場するのは仁徳天皇です。古代史は、近しい人同士の愛憎劇が多く、華やかな面もある一方で残酷な印象がありますが、この作品にもまさにその蠱惑的な魅力があります。

ただ、単なる恋物語ではないところが田辺聖子の作家としての凄さでしょう。20年近くかけて書き上げた作品とあって、渡来人の話など、古代の倭の様子も描かれ、古代史に関心を持つきっかけとしてもおすすめできる作品です。

みんなのレビュー

古事記や日本書紀の時代が好きなのもあって。 すごい恋愛小説でした。大恋愛ということではなく、恋におち、その先に残酷な死が待っていると解っていても留まれなかった隼別と女鳥、自分勝手な大王と、愛し過ぎ執着の強すぎる大后。隼別を愛した人たちや住ノ江、関わる人々全ての愛憎が濃かった。

それぞれの視点で話が進んでいくのが面白かったです。田辺聖子さんの本、もっと読もう。

読書メーター

2位:むかし・あけぼの

読んでみて

随筆「枕草子」をベースに、作者である清少納言についてまとめた小説です。この本では清少納言という女性に対する理解が深まります。働く女性としての立ち位置を意識している点や、仕事の遣り甲斐をどこに見出すかなど、清少納言という人は現代のキャリアウーマンに近い感覚を持っていた気がします。

古文対策として大学受験生にもおすすめですが、日々の目標を失いかけている社会人にも読んでもらいたいです。「枕草子」には、何気ない日常にこんな楽しいこともあったと思える種がたくさんありますし、それを見出すことのできる清少納言を見ていると、活力が湧いてくるかもしれません。

みんなのレビュー

田辺聖子さんが書いた清少納言(海松子)、物語の繋げ方、棟世との関係の描き方……すごく良かった。主上と中宮定子様、中宮定子様と清少納言、想う心が本当に素敵。そして定子様はもちろん、おかくれ後の彰子様のことを思うともう切なくて…。読んでよかった、とても面白かった。

読書メーター

1位:ジョゼと虎と魚たち

読んでみて

映画を最初に観ました。恋愛映画というパステルカラーのような体裁をとりながら、その内容は重くてどぎつい原色のような、私たちがつい目を背けたくなるようなものを正面から描いていて、あまりの衝撃に映画館から帰るその足で原作となったこの短編集を買って帰りました。

まず驚いたのが、30ページほどという作品の短さです。短編であるからこそ、主人公二人の生活の一部を切り取ったかのような感覚になり、この小説が終わりを迎えても、この二人の日々が続いているのであろうという気持ちになりました。小説と映画はラストが違いますが、どちらもそれぞれ心にストンと落ちる結末でした。

2020年にはアニメ映画になりました。こちらも好評です。

リンク:アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』公式ホームページ

みんなのレビュー

こんなに自然な関西弁の小説は読んだことがない。出てくる女性が本当にイキイキしていて、本当にそこらへんにいそうに思える。田辺聖子はすごい、と聞いてはいたが、本当にすごかった。

もっと早く出会えばよかった。

honto

まとめ

いかがでしたか?

田辺聖子といえば、2006年度NHK朝の連続テレビ小説「芋たこなんきん」をイメージする人もいるかもしれません。原作は田辺聖子ではありませんが、田辺聖子の自伝的ドラマですので、田辺聖子という女性に興味があればこちらもおすすめします。

田辺聖子は、読者の年齢層の幅が広い作家です。古典文学の翻訳物はライトノベル感覚で小学生から十分楽しめますし、エッセイは人生の折り返し地点を過ぎてから読むとさらに味わい深くなる気がします。受賞作品も多い伝記は、歴史好きにも楽しめる重厚感もあります。

読者が年齢も立場も好みも全て違っても、きっとそれぞれに最適の一冊が見つかるのが田辺聖子の作品です。この記事を通して、今この瞬間に手に取りたい田辺聖子の本が見つかったなら、これ以上の喜びはありません。

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