「カースト制度って何?」
「カースト制度の階級について知りたい!」
「カースト制度は現在でも残っているの?」
本記事を見ているあなたは、このような疑問を持っているのではないでしょうか。
カースト制度とは、ヒンドゥー教の身分制度のことです。紀元前13世紀ごろに、ヒンドゥー教の元となるバラモン教が誕生。時が経ち、「バラモン」「クシャトリヤ 」「ヴァイシャ 」「シュードラ」の4つの身分が生まれ、風習として徐々にインドに定着しました。
本記事ではカースト制度の概要と階級、現状について解説します。また、カースト制度が生まれたきっかけや最下位階級について触れ、その歴史も紹介します。ぜひ、参考にしてください。
この記事を書いた人
一橋大卒 歴史学専攻
Rekisiru編集部、京藤 一葉(きょうとういちよう)。一橋大学にて大学院含め6年間歴史学を研究。専攻は世界史の近代〜現代。卒業後は出版業界に就職。世界史・日本史含め多岐に渡る編集業務に従事。その後、結婚を境に地方移住し、現在はWebメディアで編集者に従事。
カースト制度とは?
カースト制度とは、ヒンドゥー教の身分制度を指す言葉で、紀元前10世紀ごろのインドで生まれました。階級は高いものから「バラモン」「クシャトリヤ 」「ヴァイシャ 」「シュードラ」の4つです。
また、カースト制度は階級の他に職業でも分けられます。こちらは数千に分かれており、ほぼ世襲制で職業が決定されます。
どうしてカースト制度は生まれたのか
カースト制度はアーリア人によって作られました。なぜカースト制度を作ったのか、きっかけは感染症です。
アーリア人は中央アジア付近が起源となっています。そのため、中央アジアに存在する病原体に対する免疫しか持っていませんでした。そんな彼らが侵略によって生活圏を広げた結果、遠くの地で免疫を獲得していない感染症にかかってしまったのです。
原住民が持っていた感染症にかかったアーリア人は次々と死亡。これを重く見たアーリア人は、アーリア人とそれ以外の民族を区別。隔離政策と混血同居婚姻政策をとったのです。
この制度が導入され、「純血アーリア人」「混血アーリア人」「原住民」の3つに分類。さらに、混血アーリア人を混血の度合いによって2つに分けたため、全体で4つのカテゴリができました。その後アーリア人がこの階級を宗教と組み合わせ、後のカースト制度になったと言われています。
感染症対策の制度が現代まで続いてしまったんですね。
インドでの呼び方は「ヴァルナ」「ジャーティ」
一般的にカースト制度と呼ばれていますが、インドでは「ヴァルナ」「ジャーティ」と意味によって呼び分けられています。
「ヴァルナ」は身分のことです。分かりやすい表現をするなら、貴族や平民、奴隷といった階級分けを指します。
「ジャーティ」は集団のことで、伝統的な職業または内婚集団によって区分されます。
日本で例えるなら、本屋の〇さんや〇〇町の△さんのようなイメージです。このジャーティは小集団の区分のため、インド全体で2000または3000ほど存在していると言われています。
ジャーティは生まれによって決定され、基本的に世襲制です。しかし、その仕事だけでは生きていけない場合は、下位の仕事についても良いとされています。
なぜカースト制度と呼ばれている?
インドでは「ヴァルナ」「ジャーティ」と呼ばれていると分かりましたが、それではカースト制度と
いう呼び名はどこからきたのでしょうか?
実はカーストという呼び名はインドではなく、ポルトガル語のカースト(血統)からきています。16世紀になると、ポルトガル人がインドを訪れるようになりました。そして、インドの身分社会を目の当たりにし「カースト」と名付けたのです。
カースト制度の原型は『リグ・ヴェーダ』
カースト制度の原型は、『リグ・ヴェーダ』というアーリア人の聖典からきています。紀元前1200〜1000年ごろにまとめられました。神々に捧げるための1028篇の讃歌が書かれており、これを元にしてアーリア人は宗教を発達させます。
次第に宗教儀式を執り行う祭祀の階級が生まれ、彼らは「バラモン」と呼ばれて最上位身分として扱われました。カースト制度の身分関係は、この『リグ・ヴェーダ』の内容に基づいて決められています。
カースト制度は今も残っている?
現在、カースト制度の差別は法律で禁止されていることもあり、このあと紹介するほど強くは残っていません。
しかし、風習はインドの人々の中に根強く残っており、今でもカースト下位の人々が差別されているのが現状です。
特に最下位身分の「ダリット」への迫害は続いており、身分の高い人の前で食事をしただけで暴行されるという、痛ましい事件も起こっています。
さらにこうした状況に対する抗議の声をあげようにも、上位カーストに経済的に依存しているため、行動できないというジレンマ。法律で禁止はされていますが、人々に根付いたカースト制度は今もなお残っています。
カースト制度の歴史
カースト制度の誕生
カースト制度は紀元前1000年頃、中央アジアから移ってきたアーリア人によって誕生しました。
初めは先ほど述べたように感染症の対策として、人種を分類したのがきっかけです。そこから、征服をしたものと征服されたものという関係に加え、社会の発展による経済的格差や土着の宗教との融合により、制度として確立されました。
宗教との関わりの中で発展
紀元前5世紀になると、カースト制度を否定する仏教やジャイナ教などの宗教が誕生。これらの宗教は貴族や商人など、社会的に上層にいつ人々の間で人気になりました。
しかし、民衆の間ではもともとあった宗教を元に、紀元前4世紀に成立したヒンドゥー教が広まります。5世紀になると仏教・ジャイナ教の勢力は勢いを落とし、ヒンドゥー教の影響が高まってカースト制度が社会に定着していきました。
イギリスによる植民地支配
イギリスに支配される以前、インドのカースト制度は身分こそあれど、その時代時代で変化する柔軟性のあるものでした。伝統に不満があれば異議を申し立てることもでき、一種の方針だったとも言えるでしょう。
しかし、イギリスに植民地となると、インドのカースト制度は柔軟性を失って厳格なものとなりました。
イギリスは国勢調査の報告者や地域の説明・研究はカースト制度の「ジャーティ」について詳しい調査を入れ、司法では序列の証明となるしきたりを登録して、許可を与えていました。カースト間や最下位身分の対立を利用し、イギリスはインドを統治したのです。
カースト差別撤廃運動
近代化と共に、インドではカースト制度への批判が強まりました。
19世紀後半から20世紀にかけて、アーリヤ・サマージやブラフモ・サマージによりカースト差別撤廃を望むヒンドゥー教改革運動が始まります。これを契機に原住民族による運動も始まり、カースト制の否定は広く行われました。
これらの運動はカースト差別撤廃を唯一の目的としていなかったため、一時的なものでした。しかし、これらの活動がつながり、現代ではカースト制度による差別が法律で禁止されるようになったのです。
カースト制度の4つの身分・階級(ヴァルナ)
1. 最も高い身分:バラモン
最も高い身分で、宗教的な支配者階級です。神聖な職に就職でき、儀式を行えます。ブラフミンとも呼ばれ、物質世界を変える儀式や生贄の力を持つとされました。そのため、宗教的な権威を持ち、後世に渡って最高のカーストとして位置し続けました。
また知識階級でもあり、学問を教える教授などの職業に就く人が多い階級でもあります。
2011年の国勢調査によると、インドにおけるバラモンの人口は6500万人。全人口の5%を占めています。
2. 2番目に高い身分:クシャトリヤ
二番目に高い身分で、王や貴族がこの階級です。そのため政治力や武力を持ち、バラモンと同じく支配者階級に当たります。下位階級のヴァイシャとシュードラを統治し、国を守る重要な役割を持っていました。
今でいうと、行政や司法、外交を行っていたのがこの身分です。現代でいうところの公務員や弁護士などの士業がこの階級ですね。
3. 3番目に高い身分:ヴァイシャ
ヴァイシャは三番目に位置する身分で、市民階級です。古代では農業や牧畜、商業などの職に就くよう義務付けられていました。しかし時代が経つにつれ、商人を指すようになります。
そのため、金融業なども行うようになり、インド固有の金融制度を育んできました。とはいえ、イギリスによって弱体化させられてしまい、土着の金融は衰退してしまったようです。
カースト三番目と聞くとあまり裕福でないイメージがありますが、実は最もお金を持っている身分。ヴァルナ全体で見ても経済力に優れているのがこの階級です。現代でいうところの経営者がイメージしやすいかもしれません。
4. 最も低い身分:シュードラ
シュードラは、カースト制度で一番下の階級で、奴隷を表す階級です。
古代では、一般の人が嫌がる職にしか就けませんでしたが、中世ごろには農業や牧畜、製造業の仕事ができるようになりました。そのため「労働者」と訳されることも多いです。大衆にあたるのが、この階級ですね。
シュードラは最下位カーストであるため、祭事に参加できなかったり職を選べなかったりとさまざまな差別を受けてきました。生まれによるものだけではなく、他の宗教からヒンドゥー教へ改宗した場合もこの身分になります。
とはいえ、時代が経つにつれて差別は徐々に穏やかなものへ変わっていきました。
カースト制度に属さない最下位階級「ダリット」
カーストは以上の4つの身分ですが、実はカーストに属さない「ダリット」という身分があります。この階級は別名「不可触民」とも言われ、見たり触ったりすると穢れるとされ現代でも差別されています。
ダリットの人口は多く、約2億の人がこの階級です。彼らは上位カーストたちが使用する井戸や貯水池の使用を禁止されており、職も不浄とされる仕事にしか就けません。法律では禁止されましたが、彼らへの差別は根強く、上位カーストによる暴行や貧困などで苦しむ人々も多いのが現状です。
インド以外にも存在するカースト制度
日本のスクールカースト
日本にはさまざまな形で序列があり、それらをカースト制度で表現したものがあります。代表的な例をあげるとスクールカーストです。
スクールカーストとは、学校のクラス内で形成された友達同士のグループを、人気の度合いで序列分けしたものです。主にコミュニケーション能力によって判断され、「上位層・中位層・下位層」などと表現されます。
また、場の空気を読んで不要な衝突を回避し、ポジションを探るという戦場のような緊張感はいじめのきっかけになることもあります。
ネパールのカースト制度
ネパールはヒンドゥー教徒が多い国であり、インドと同じくカースト制度が風習としてありました。しかし、インドとは違ったカースト制度を持ち、階級はバラモンに該当する「バフン」とクシャトリヤに相当する「チェトリ」、ダリットの「カミ」に分けられ、上位と下位カーストのみです。
ネパールでも差別が存在しており、「カミ」とわかると結婚を断られたり、上位カーストと同じ井戸の水が飲めなかったりします。
少しずつ直接的な差別はなくなってきてはいますが、2015年に起こったネパール大地震では、下位カーストの家の建て替えは後回しにされた、という話があり差別が今なお残っていることがわかります。
その他の国にも存在するカースト制度
ミャンマーやバリ島にもカースト制度があります。
ミャンマーの国境付近に住むカレン族はキリスト教の宣教師やイギリスの政府から下位カーストとして扱われてた過去があります。
バリ島は今でもカースト制度が存在していますが、インドとは違い「ダリット」に相当する身分がありません。加えて身分差が曖昧で、厳しい戒律を設けていないのも特徴です。そのため、身分差による差別がない穏やかな社会となっています。
とはいえ、宗教儀式を執り行う司祭の中でも最も上の位である最高司祭は、最上位出身者のみとなっています。
現在も残っているカースト制度
冒頭で、現在もカースト制度による差別が残っていることをお話しました。カースト制度の差別は、以下の5つの分野に分けられます。
- 法律
- 職業
- 政治
- 児童
- 結婚
それぞれの現状について説明します。
法律
1950年、インドでは不可触民を意味する差別用語やそれ以外のカーストに対する差別の禁止を法律で明記しました。
また、ダリットは学校入学や奨学金制度が適用され、公共機関や施設への就職枠を与えられました。
とはいえ、インドの法律が定めたのはカーストを理由にした差別であり、カースト制度そのものの禁止ではありません。そのため、カースト制度は依然として受け継がれています。
職業
昔は階級や家系で決まっていた職業ですが、近代化が進んだ今では職業の選択肢が広がって、世襲的な就職はほとんど成り立っていません。特にIT関係の仕事は最近できた新しい職業のため、カースト関係なく就職できます。
そのため就職に対する差別はほとんどないと言ってもいいでしょう。
ですが、カーストや指定部族を対象にした留保制度により、入学や就職の優先枠が49.5%に引き上げられてからは、逆差別だと反対する人が出ています。
政治
農村地帯にあるパンジャブ州では、国会議員選挙に大地主とカースト制度廃止運動家が立候補すると、大地主が勝利します。
というのも、大地主を助ければ来世で良いカーストに生まれ変われると信じられているのです。このようにカーストは政治にも影響を及ぼしています。
とはいえ悪いことばかりでもなく、公務員などの政府関係の職業ではダリットを一定数雇わないといけないよう法律で定められており、カーストによる悪影響はある程度緩和されています。
児童
インドで問題になっているのが、児童労働問題やストリートチルドレン問題です。
ここでもカースト制度が影響します。児童労働者やストリートチルドレンの大半は下級カースト出身者です。そして、子供たちを雇っているのは上級カースト出身者で教育を受けた富裕層が多くを占めています。
取り締まろうにも上位カースト出身者であるために無罪判決になったり、不起訴になったりするため効果が見込めません。
2006年には児童労働を禁止する法律が制定されましたが、今もなお児童労働はなくなっていないのが現状です。
結婚
カースト制度が根強く残っているのが結婚です。法律では異なるカースト同士の結婚が認められていますが、風習として現在も残っています。
都市部では異なるカースト同士で結婚する人が増えていますが、それは本の一部。大抵のヒンドゥー教徒は同じカーストか近いカーストで結婚しています。
また、ダヘーズと呼ばれる風習があります。これは嫁から婿へ支払う金銭のことです。この金額が少ないと殺されることもあるほど物騒な風習で、1961年に法律で禁止されました。ですが、風習としていまだに残っているようです。
カースト制度に関するまとめ
カースト制度について紹介しましたが、いかがでしたか?
インドの法律ではカースト制度による差別はほとんどありません。しかし、長年インド人の間で受け継がれてきた風習はなかなか消えるものではなく、いまだに「ダリット」への差別意識は根強く残っています。
改善されてきてはいますが、「ダリット」への差別意識はまだまだ消える気配がありません。同様に児童労働についても、問題解決には程遠いと言っていいでしょう。
本記事がカースト制度について知る助けになれたのなら幸いです。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。