「芸術は爆発だ!」などの名言や、「太陽の塔」「明日の神話」などの作品で知られる芸術家・岡本太郎。アートにあまり詳しくなくても、岡本の名前は聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
岡本太郎は芸術を「鑑賞者を激しく引きつけ、圧倒すること」と定義づけ、美しく心地いいだけの作品は作りませんでした。岡本の作品は「激しい」「エネルギッシュ」という言葉で形容するのがぴったりであり、時には不快感を覚えることすらあるかもしれません。けれども、岡本が残した言葉同様、元気のないときにはパワーをくれるし、私たちを鼓舞してくれます。
この記事では、岡本太郎の代表作を5つご紹介します。作品に込められた意図や、制作の背景なども詳しく解説しますので、ぜひ岡本の作品の一端に触れてみてください。
この記事を書いた人
一橋大卒 歴史学専攻
Rekisiru編集部、京藤 一葉(きょうとういちよう)。一橋大学にて大学院含め6年間歴史学を研究。専攻は世界史の近代〜現代。卒業後は出版業界に就職。世界史・日本史含め多岐に渡る編集業務に従事。その後、結婚を境に地方移住し、現在はWebメディアで編集者に従事。
太陽の塔
岡本太郎「太陽の塔」は、1968年に着工、1970年に完成した作品です。大阪府吹田市の万博公園に設置されています。
4つの顔をもつ塔
「太陽の塔」は高さおよそ70メートル、塔の頂点には未来を表す「黄金の顔」、正面には現在を表す「太陽の顔」、背面には過去を表す「黒い太陽」という3つの顔をもっています。「黄金の顔」の目は日没とともに光るようになっていて、2010年3月からは毎晩灯りがともるようになりました。
実は「太陽の塔」には第4の顔があります。万博当時、塔の地下には「地底の太陽」という全長11メートルもの巨大なモニュメントがあったのですが、万博終了後に行方が分からなくなってしまったのです。2014年に大阪府が「地底の太陽」を修復することを決定、関係者の話や当時の写真などをもとに修復を進め、内部の一般公開に合わせて完成させました。
万物のエネルギーの象徴である「太陽の塔」
「太陽の塔」は地球誕生から現在・未来を通して生まれるすべてのもののエネルギーの象徴であり、生命・祭りの中心です。塔の内部に作られている「生命の樹」はすべての生命を支えるエネルギーの象徴で、未来へと向かう生命のエネルギッシュなパワーを表現しています。樹には下から上に向かって、地球の歴史を追うように各時代の代表的な生き物の模型が配置されています。
岡本は「太陽の塔」について、「原始と現代を直結させたような、べらぼうな神殿」と述べています。モダンでもない、ヨーロッパ的な雰囲気でもない、かといって和風でもない…岡本は人間から「文化」という尺度を取り除いた丸のままの「生命」を表現したかったのだ、と感じます。
岡本太郎の「芸術は爆発だ」という言葉は、「生命のエネルギーが宇宙に向かってパーッと拡がっていく、それこそが芸術だ」ということを意図したものです。岡本の芸術には「生命」「宇宙」「時間」「拡がる・成長する」というテーマが通奏低音のように流れています。「太陽の塔」は、岡本が作品制作によって表現しようとしたものの集大成のような、きわめて重要な作品です。
明日の神話
岡本太郎「明日の神話」は、1968から翌年にかけてメキシコで制作された壁画です。現在は渋谷駅の連絡通路に展示されています。
行方不明になっていた壁画
「明日の神話」は、1968年にメキシコで岡本太郎が制作した壁画です。その前年、あるメキシコ人実業家がメキシコシティに建築中だったホテルに壁画を描いてほしいと岡本に依頼したことから始まりました。1969年には高さ5メートル、幅30メートルの巨大な「明日の神話」が完成、ホテルのロビーに仮設置されます。
しかし、岡本に依頼した実業家の事業がうまくいかなくなり、ホテルは人手に渡ることに成ります。その後、「明日の神話」はどこにあるのか分からない状態が長く続きました。2003年に発見されたときにはかなりのダメージを受けていましたがその後修復作業を続け、2006年に初めて公開されました。
核爆弾に焼かれる人間を誇り高く描いた作品
「明日の神話」は、中央に核爆弾に焼かれる骸骨が、その右側にアメリカの水爆実験により被爆した第五福竜丸、左側には平和に憩う人々が描かれています。きのこ雲はもくもくと湧き上がり、小さな生き物たちが逃げ惑っています。骸骨の背後にもぞろぞろと亡者の列が続く、まさに「惨劇」としかいいようのない場面です。
けれども「明日の神話」は「ただ惨めな、酷い、被害者の絵ではない」と岡本太郎の最大の理解者・岡本敏子はいいます。中央の骸骨は高らかに哄笑しています。画面の外に向かって力強く放たれるような放射状の構図は、確かに強いエネルギーが人間に秘められていることを予感させます。
人間は被爆という惨劇さえも誇りをもって乗り越えることができるし、その先に私たちの「神話」は生まれるのです。「太陽の塔」と同時期に制作され、対とみなされることも多い「明日の神話」は、21世紀の今こそ目にしておきたい作品です。