アンボイナ事件の流れ
香料諸島をめぐるヨーロッパ各国の争い
15世紀後半、ヨーロッパは羅針盤や遠洋航海技術の発展により大航海時代を迎えました。その先陣を切ったのがイベリア半島のポルトガルとスペインです。両国はアジアの物産、特に高値で取引される香辛料を得るためインドや東南アジアを目指しました。
両国は植民地獲得競争で衝突するのを避けるためトルデシリャス条約を結びます。この条約で、インドや東南アジアはポルトガルの勢力圏とされました。16世紀前半になるとポルトガルはインドや東南アジアに本格的に進出します。
しかし、ポルトガルは16世紀後半にスペインに併合されました。その後独立を果たしますが、東南アジアへの支配力は明らかに低下します。そこに登場したのが新興国のイギリスとオランダです。これらの国々は東南アジアに拠点を作り香料貿易の独占を図ります。
香料諸島に乗り込んできたイギリスとオランダは対立を深めました。そこで、事態収拾のためイギリス・オランダ両国が1619年に協定を締結します。ところが、現地のイギリス人もオランダ人も協定に従わず争い続け、両勢力による緊張状態が続きました。
日本人スパイ七蔵の逮捕
事件の発端となったのはイギリス商館に雇われていた日本人傭兵の七蔵がオランダ商館員にとらわれたことです。なぜ日本人が東南アジアにいたかというと、関ケ原の戦い後の大名改易などで失業した武士の一部が東南アジアに行き傭兵となっていたからでした。七蔵もそうした日本人傭兵の一人です。
1623年2月10日の夜、七蔵がオランダ商館の衛兵から城塞の構造や兵力などについてしつこく聞き出そうとしていました。不審に思ったオランダ商館員は七蔵を捕らえ拷問にかけます。すると、七蔵はイギリス商館員がオランダ商館の占領を企てていると白状しました。
オランダ商館員がイギリス商館を襲撃
イギリス商館の動きを知ったオランダ商館は直ちに動きます。イギリス商館に奇襲をかけ、イギリス東インド会社の商館長ガブリエル・タワーソンらイギリス商館の関係者30名以上を拘束しました。
オランダ側は彼らを火攻めや水攻め、両手・両足の切断など残酷な拷問にかけオランダ商館襲撃計画を認めさせました。そして、オランダ商館は見せしめとして商館長のタワーソンをはじめとするイギリス人9名、日本人10名、ポルトガル人1名を斬首します。
この事件により、イギリスの勢力はアンボイナ島や香料諸島から一掃されました。事件の背後にオランダ東インド会社総督のクーンがいたとの説もありますが、今となっては定かではありません。
アンボイナ事件後の関連国の動き
香料諸島の貿易はオランダが独占
アンボイナ事件によりイギリス勢力は香料諸島から一掃されました。これにより、オランダは香料諸島で産出されるナツメグやクローブなどの香料を独占することができました。しかし、香辛料貿易が衰退すると香料諸島の価値も低下していきました。
また、オランダ東インド会社はインドネシア全体に対する支配も広げます。アンボイナ事件の直後は海岸部を中心とした支配でしたが、次第にジャワ島内部に支配地を広げます。そして、ジャガルタを中心としたオランダ領東インドの基礎を築きました。
イギリスはインド・イラン方面の貿易に注力
香料諸島から排除されたイギリスは貿易の主力を東アジア・東南アジアからインドやイランなどの南アジア・西アジアに切り替えました。アンボイナ事件と同じ年にイギリスは平戸にあったイギリス商館を閉鎖しますが、これも貿易見直しの一環といえるでしょう。
その後、イギリスはインドのボンベイやマドラス、カルカッタなどに貿易拠点をつくりインドから良質な綿を輸入するようになりました。イギリスはインドから輸入した綿布をヨーロッパで販売し大きな利益を得ます。
18世紀に入ると、イギリスはインドでのライバルであるフランスに勝利しインドを植民地として支配します。そして、インドから輸入した綿を使ってイギリスの綿工業を飛躍的に発展させます。その結果、綿工業を中心に産業革命が発生し、イギリスは工業化していきました。
アンボイナ事件に関するまとめ
いかがでしたか?
アンボイナ事件は香料諸島のアンボイナ島(アンボン島)でおきたオランダ商館員によるイギリス商館員の殺害事件です。事件の原因は香辛料貿易をめぐるオランダとイギリスの対立でした。
事件のきっかけはオランダ商館がイギリスのスパイとされる日本人七蔵を捕らえたことでした。拷問の結果、イギリス商館がオランダ商館を襲撃していると知り、オランダ商館は先手を打ってイギリス商館を排除します。その結果、香料諸島や東南アジアでの貿易はオランダが独占しました。敗れたイギリスはインド方面で勢力を伸ばします。
読者の皆様が、アンボイナ事件に対し「そうだったのか!」と思えるような時間を提供できたら幸いです。
長時間、この記事にお付き合いいただきありがとうございました。
なるほどー!