芥川賞の最年少・最年長受賞者は
最年少受賞者は
芥川賞の最年少受賞者は当時19歳11か月の綿矢りさです。『蹴りたい背中』で第130回芥川賞を受賞したとき、綿矢は早稲田大学の文学部に在学していた大学生でした。17歳のときには『インストール』で文藝賞も受賞している、まさに早熟の天才です。
ちなみに、第130回の芥川賞は金原ひとみの『蛇にピアス』とのダブル受賞でした。このとき金原も20歳5か月、さらに候補に挙がっていた『生まれる森』の島本理生も20歳8か月です。若い世代が文学界に名乗りを上げてきた記念すべき回といえるでしょう。
最年長受賞者は
それでは、最年長受賞者は誰だったのでしょうか?それは、2013年に第148回芥川賞を受賞した黒田夏子です。75歳8か月での受賞は当時大きな話題を呼びました。
黒田の受賞作『abさんご』はかなり実験的な小説で、全文横書きの携帯小説のような体裁ながら「固有名詞」を一切使っていません。1960年代から執筆を続けていたとはいえ、黒田は『abさんご』がデビュー作です。1963年に1度受賞歴があるものの、その後文学賞への応募や印刷物での発表はせずにコツコツ書いてきたものが結実して『abさんご』になったのだと感じます。
芥川賞こぼれ話
芥川賞と直木賞、どちらもとることは可能?
芥川賞と直木賞の境は時々あいまいになることがあります。けれども、まだどちらも受賞した作家や作品はありません。
直木賞の候補となっていた作品が選考委員の判断で芥川賞に回され、そのまま受賞に至ったケースはあります。松本清張の『或る『小倉日記』伝』です。松本清張といえば現代ではサスペンスの作品が頻繁にドラマや映画になるので、芥川賞を受賞しているというのは意外ですね。
また、山田詠美や角田光代、島本理生などは芥川賞の候補になりながら、その後に直木賞を受賞しています。直木賞は芥川賞と違ってある程度キャリアがある作家を対象としている部分もあるので、そういったことがよく起こるのです。
芥川賞がほしくてたまらなかった太宰治
第1回の芥川賞には、デビューしたばかりだった太宰治も候補となっていました。当時、太宰はパビナールという麻薬の中毒に陥っていて、多額の借金もある状態でした。そのため芥川賞の賞金500円を熱望していたのですが、結局受賞はできませんでした。
当時の選考委員を務めていた川端康成によると、太宰の落選理由は「彼自身の生活に問題があるため」。同じく選考委員だった佐藤春夫は太宰の『道化の華』を推薦していたらしいのですが、選考会ででは太宰の麻薬中毒のことも考慮に入れたうえでの判断を下したといいます。太宰は「川端は大悪党だ」という反論をしたのですが、川端はそれに対して「受賞した石川達三と太宰の票が接近していたわけではないし、太宰を強く推す人もいなかった」とさらに反論しました。
太宰はその後も、自分の作品を推してくれた佐藤春夫に何度もお願いの手紙を送ったり、第3回のときには川端にもぜひ自分に賞を与えてくれるよう手紙を出したりしたのですが、結局受賞することはありませんでした。
おすすめ芥川賞受賞作品5選
スティル・ライフ
『スティル・ライフ』は1988年に芥川賞を受賞した池澤夏樹の小説です。人との出会いによって変化していく世界の見方を鮮やかに、そして詩的に描いています。池澤は1995年から16年間、芥川賞の選考委員も務めていました。
妊娠カレンダー
小川洋子の『妊娠カレンダー』は、1991年に芥川賞を受賞した作品です。描かれているのは主人公の姉の妊娠中のさまざまな変化で、主題自体は珍しいものではありません。けれども小川の独特な静けさをもつ世界観が展開されていて、読んでいると思わず引き込まれます。
乳と卵
2008年に芥川賞を受賞した川上未映子の『乳と卵』。大阪弁交じりの特徴的な文体で、女性の身体とその変化を描いた物語が展開されています。ちなみに、川上の夫は同じく芥川賞作家の阿部和重です。
火花
お笑いコンビ・ピースの又吉直樹の小説『火花』。芸人として初めての芥川賞受賞ということで大変話題を呼び、ドラマや映画、舞台にもなりました。厳しい芸人の世界を通して描く人間模様は、人にとって「笑い」とは何なのかを問いかけてきます。
コンビニ人間
2016年に芥川賞を受賞した村田沙耶香の『コンビニ人間』は、36歳独身で恋人もいず、コンビニでアルバイトを18年続けている女性が主人公の小説です。主人公の生き方は私たちにとって「普通」とは何なのかを真摯に問いかけてきます。20か国語に翻訳され、世界中で読まれている作品です。
芥川賞に関するまとめ
芥川賞について、その選考基準や受賞作の魅力などをお伝えしてきました。いかがでしたでしょうか。
芥川賞は純文学を対象とした文学賞なので、一見とっつきにくいと思われるかもしれません。けれども、賞自体について詳しく知ってみると少し身近に感じられてこないでしょうか。この記事を読んで、これからどんな作品が受賞するのか楽しみに思ってくれたら嬉しいです。