「長谷川町子ってどんな作品を書いた人なんだろう」
「サザエさん以外の作品も読んでみたい!」
2020年に生誕100周年を迎えた、日本初の女性プロ漫画家である長谷川町子。その代表作である「サザエさん」の舞台にもなった東京都世田谷区桜新町にはその代表作や生涯などを紹介する「長谷川町子美術館」や、新たに開設された「長谷川町子記念館」などがあります。
女性プロ漫画家として紫綬褒章や国民栄誉賞などを受賞した長谷川町子ですが、その代表作である「サザエさん」以外にはどのような作品を遺したのでしょうか。今回は、幼少期には必ず日曜日になると家族そろって「サザエさん」を見ながら夜ご飯を食べていた筆者が作品をご紹介します。
今回は、漫画作品、エッセイ、伝記、といった3つの切り口からご紹介いたします。
漫画作品
仲よし手帖
読んでみて
漫画雑誌「少女倶楽部」にて1940年から連載され、戦後の1949年には雑誌「少女」で連載されていた作品。上京し女学校へ転校してきた少女・ウメコとその友人であるタケコとマツコの3人の学園生活を描いた物語。
戦前から連載が開始されていたものの、検閲などが入り思うように書けなかったと長谷川町子は後年に語っております。戦後の日本の風景などが描かれており、昭和の日本の民俗史について知ることが出来る作品です。
みんなのレビュー
ほんわかギャグを楽しみつつ戦後の風俗史に触れられる。長谷川町子は簡潔に見えて緻密な絵を描いているなあと再確認。それから仕事が丁寧(モブのおじいさんおばあさんたちの顔がすべて描き分けられている!)。舞台は終戦直後ですが、主役の三人娘の生活は作者自身の女学校時代が投影されているんでしょうね。
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サザエさん
読んでみて
1946年から福岡の地方新聞「フクニチ」で連載が開始され、後に「朝日新聞」の朝刊で1951年から1974年に渡り6500回以上の連載が続いた長谷川町子の代表作。2020年現在も、フジテレビ系列にてテレビアニメ「サザエさん」が放送されております。
主なストーリーは存在せず、サザエさんを含む磯野家の日常を描いた4コマ漫画となっていて、昭和の日本の時事ネタなどもいくつか存在します。また、単行本の発行部数は8600万部以上を記録しており、新聞連載漫画としては最大のベストセラー作品となっています。
みんなのレビュー
1994年9月20日発行(1994年10月20日、第4刷)。図書館で「発見」、サザエさんの原作を本格的に読んだのは初めて。1946年4月22日から福岡の地方紙「夕刊フクニチ」で連載が始まったそうだが、当時の世相を反映して、「配給」「MP」「戦災孤児」「買い出し」などが作品にたびたび登場する。本巻は、波平(という名前は出てこないが)の転勤でサザエさん一家が東京に転勤する所で終わる。マスオさんやタラちゃんなどはまだ出てこない。
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似たもの一家
読んでみて
週刊誌「週刊朝日」にて1949年4月から12月までに連載されていたショート漫画。作家である伊佐坂難物とその家族の日常を描いた作品。この漫画の登場人物である伊佐坂家はアニメ「サザエさん」の磯野家の隣人として登場します。
本作を連載中に「サザエさん」が朝日新聞の夕刊での連載が決定し、そちらに集中するために本作の連載を打ち切ったと、後のエッセイで語っております。ですが、4コマではない長谷川作品を味わえる貴重な作品となっています。
みんなのレビュー
長谷川町子さんのユーモア溢れる自伝漫画。文章も絵柄も昭和の香りが懐かしい。長谷川さんてこういう人だったのか。遊び心と好奇心たっぷりのお人柄だが、神経質で心配性な一面も。時々サザエさんと姿が重なるのが可笑しい。決して楽しいことだけではなく、色々とご苦労されたよう。同時収録の「似たもの一家」はアニメのサザエさんにも登場する、イササカ先生一家の物語。時代を感じる~。
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新やじきた道中
読んでみて
週刊誌「週刊朝日」にて1951年から1年間連載されていたショート漫画。十返舎一九原作の「東海道中膝栗毛」をパロディした漫画で、江戸っ子のやじきたが大阪まで道楽に行くというコメディ漫画となっております。
途中、サザエさんが登場し、やじきたを振り回すというのが見所の一つです。また、1951年には本作の実写映画が公開され、主人公には「しゃべくり漫才」の元祖ともいわれる漫才コンビ、横山エンタツ・花菱アチャコが起用されました。
みんなのレビュー
お調子者の弥次さん喜多さんダブルボケ。粋やら見栄っ張りやら二人の江戸っ子気質が引き起こす珍道中。京大坂お伊勢さんまで辿りつけるか。あの人も登場。
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エプロンおばさん
読んでみて
週刊誌「サンデー毎日」にて1957年から連載されていたショート漫画。昭和30年代の下宿屋を舞台に、エプロンおばさんこと敷金なしとその一家のドタバタ劇を描いた作品。これまでに、4度の実写ドラマ化と2度の実写映画化もしております。
この作品にも、サザエさんがゲストで登場したり、作者である長谷川町子本人が登場するといった回が存在しております。また、昭和30年代という事もあり、1964年の東京オリンピックや今上上皇様が皇太子時代のご成婚についての話題なども取り上げられております。
みんなのレビュー
こんな漫画を長谷川さんが書いているとは知らなかった。基本的には『サザエさん』と同じ路線でくすりと笑える内容が多い。ここに描かれているつい昨日のように思える慎ましい昭和の家族の情景を、非常に好ましく感じた。電話がある家は珍しくて、他の家に借りに行く人が多かったことを取り入れて、おかしな物語を作り上げるところなどは非常に上手い。いまも昔もそれほど変わらないが、効率と利益が第一の平成の世と違って、昭和はもっとのんびりしていたことがよく分かる漫画だった。
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いじわるばあさん
読んでみて
週刊誌「サンデー毎日」にて1966年から1971年まで連載されていた4コマ漫画作品。主人公である老婆・伊地割石が様々な意地悪やいたずらを繰り返し、周囲の人物を困惑させる作品。サザエさんなどとは違うブラックユーモアが多分に含まれた作品となっております。
これまでに、複数回実写ドラマ化もされていて、中でも青島幸雄が演じたいじわるばあさんは当たり役と言われるほどの人気作となりました。しかし、長谷川町子はあまり評価せず、いじわるばあさんの中でこの青島幸雄のドラマを批評するという回が存在します。
みんなのレビュー
『いじわるばあさん』は初めて読んだ。題名の通り、本当に意地の悪い話ばかりで驚く。ブラックユーモアたっぷりの作品だ。それでも面白いことは確かで、何度も吹き出した。例えば、いじわるばあさんが、酔いつぶれた男のとれたボタンを縫ってあげるのだが、当然それだけで終わるはずもなく……。一番好きなのは、いじわるばあさんが地獄に行ってしまうお話。絶体絶命の大ピンチなのだが、彼女のパワーに閻魔大王さえも圧倒される。これには笑った。
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エッセイ
サザエさん うちあけ話
読んでみて
1978年4月から「朝日新聞」日曜版に掲載された長谷川町子の自伝エッセイ漫画。長谷川町子の生涯を絵心教風や絵物語、ストーリー漫画形式で紹介した作品。2001年には朝日文庫から「似たもの一家」と合冊で発刊されました。
師匠である田川水泡に弟子入りし、西日本新聞社に勤務、「サザエさん」の誕生などを描いた物語。1979年にはこの作品を原作にした朝の連続テレビ小説「マーちゃん」や、2010年にはサザエさん生誕65周年としてテレビアニメ化もされました。
みんなのレビュー
長谷川町子というと、サザエさんの作者で、「女性は家庭に入るべし」という価値観の時代に自分の才覚一つで一時代を築いた偉大な女性です。本作はそんな長谷川さんの自叙伝ですが、父親を早くに亡くし、母親以下長谷川さん含む3姉妹で戦前戦後を生き抜く姿が描かれています。何より、自分の娘を田河水泡や菊池寛に臆せず売り込むお母さんのバイタリティが凄い!ただ、読んでいくと長谷川さんは良くも悪くも家族からも別格扱いにされて育ってきたようで、後年の妹や姪との確執もそこに根がありそうです。現実はサザエさんのようにはいかないですね。
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サザエさん 旅あるき
読んでみて
1987年4月から9月までの半年間、「朝日新聞」の日曜版にて連載されたエッセイ漫画であり、長谷川町子の遺作となった作品です。「旅」に関するエピソードなどが収められた作品で、長谷川町子と姉と母の3人の珍道中などが描かれております。
中には、「サザエさん」の連載開始後、突然海外旅行へ旅立ってしまった思い出などが収められており、長谷川町子の豪胆な一面が垣間見えるエピソードも収録されております。
みんなのレビュー
再読。何度読んでも面白い旅エッセイマンガ。エッセイマンガって当たり外れが大きいんですが、自分の周辺をネタにしても本物の「プロ」のエンターテイナーはやはり語り方が違いますね…
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長谷川町子 思い出記念館
読んでみて
1998年に朝日新聞社から刊行されたエッセイ本。これまでに描かれた原稿や写真などが収録されており、中には陶芸品や絵画など多趣味であったことが伺える一冊です。また、幼少期の写真なども収められており、まさに思い出記念館という内容になっております。
その他、対談やインタビューなども収められており、周囲から見た長谷川町子の人物像をしっかりと見ることが出来る内容になっております。
みんなのレビュー
サザエさんの長谷川町子先生のインタビュー・対談記事やこれまでに描いた絵がまとめられています。晩年は表に出ることはあまりなかった町子先生ですが、初期の頃は有名人と対談したりしていたんですね。インタビューは人柄が表れています。飯沢匡先生との対談は面白かったです。昔も変な人いたんですね…。中学生の時描いた絵がスゴく上手で驚きました!
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伝記
長谷川町子 「サザエさん」とともに歩んだ人生 漫画家
読んでみて
2014年にちくま文庫から「ちくま評伝シリーズ」として発売された伝記シリーズのうちの一冊。「のらくろ」の作家であった田川水泡の弟子になるために母と姉が奔走し、15歳で漫画家デビューを果たし、国民的漫画家になるまでの生涯を描いた物語。
巻末には作家である夏目房之介のエッセイが収録されており、主に家族にまつわるエピソードが多く収録されております。
みんなのレビュー
長谷川さんは15歳から漫画家デビューをしていた。長いキャリアだったんだ。サザエさんの休載も結構あったらしい。毎日ご苦労さんでした。
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サザエさんと長谷川町子
読んでみて
2020年3月に幻冬舎新書から発売された一冊。長谷川町子の生涯のほかにも、自伝では描かれなかった家族達のエピソードや、周辺の金銭事情、長谷川町子を取り巻く事件など、サザエさんのイメージとは違う一面の逸話が収められた作品となっています。
著作権裁判や妹・洋子との確執など、漫画家としてではなく人間としての長谷川町子、という一面を知ることが出来る一冊です。
みんなのレビュー
国民的人気漫画家・長谷川町子一家。姉妹社を設立したことにより、町子の描く漫画の原稿料、単行本の印税、出版物販売利益などがどこにも流れず、長谷川家に一極集中する。2人の妹はそれぞれ財務と庶務を担当し、実業家の域にあるほど剛腕の母親が不動産を中心に富を拡大させ、莫大な財を成す。著作権に厳しく幾度か裁判を起こしたのは漫画家では初めて。個人的には、仕事場も住居も共にしていたので、いがみ合いが起こるのも致し方ないように思う。それより異才を囲んだ有能な女性が成した事業であることに注目したい。
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心をそだてるはじめての伝記101人
読んでみて
2001年に講談社から発刊された伝記本。「子供が共感できる」をテーマに、世界中の様々な偉人を収録しており、中には漫画で逸話を紹介しております。他にも業績を紹介した写真付きコラムなども充実しております。
長谷川町子は同時期に活躍した画家・山下清など共に紹介されており、昭和を代表する人物として紹介されております。
みんなのレビュー
101人とあるが、絵つきでお話があるのは50人。それでも、2800円で50人ぶんの偉人伝がまとまっているので買い得かと思い、購入。(偉人伝一人当たり50円)何度も読んで心を育てたい。図書館で借りて帰るのも重いし、他の絵本を借りたいので、これは購入。4・5・6・7・8・9歳向け。そのほか、この心をそだてるシリーズが色々出版されていて、『日本の神話』も今気になっていて、購入を検討中。
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まとめ
「サザエさん」や「エプロンおばさん」など、人情味あふれる作品が多いイメージを持っている長谷川町子ですが、「いじわるばあさん」や上述で紹介出来なかった「まんが幸福論」など、ブラックユーモアを含んだ作品も多いです。
作風に飽き、大胆に変えてみたという逸話が残っておりますが、サザエさんとは真逆のような人物像を描くことが出来たというのには、幅広い観察眼を持った漫画家だったんだという印象を受けます。だからこそ、様々な国民から支持を得たのかなと思います。
この記事をきっかけに長谷川町子作品に興味を持っていただければ幸いです。