「夏目漱石の脳はどこに保管されているの?」
「実際に、夏目漱石の脳を観に行くことはできるの?」
「夏目漱石の脳が現存している」という話を耳にした人の中には、どこに保管されているのか気になる人も多くいますよね。また、実際に夏目漱石の脳をひと目見て確認したい人もいるはず。
そこで、この記事では夏目漱石の脳が保管されている場所を保存理由や特徴なども交えて紹介します。また、「夏目漱石の脳を観に行けるのか」といった疑問にもお答えするので、ぜひ参考にしてください。
この記事を書いた人
Webライター
Webライター、岩野祐里(いわのゆり)。5歳の頃、イギリス史に夢中になり図書館へ通いながら育つ。大学では国際文化を専攻し、イギリス史と英文学の研究に没頭。その後、大学院にて修士課程を修了。研究論文は「19世紀英国の社会と犯罪」について。歴史全般の研究歴は11年、イギリス史は21年に及ぶ。現在はWebライターとして活動中。
夏目漱石の脳は東大に保管されている
現在、夏目漱石の脳は東京大学医学部に保管されています。夏目漱石の遺体が解剖された後、その脳が大学へと寄贈されたことが由来です。
ちなみに、夏目漱石とは近代の日本文学界における文豪の1人でした。デビュー作の『吾輩は猫である』から『坊ちゃん』『こゝろ』など、数多くの名作を生み出したことで知られています。
彼は1916年12月9日に亡くなり、翌日の12月10日に東京帝国大学(現在の東京大学)で解剖されました。その際に脳と胃が摘出され、彼の脳は現在も東京大学医学部に保管されています。
保管場所は東京大学医学部の標本室
さらに正確にいえば、夏目漱石の脳が保管されているのは東京大学医学部内の標本室です。ここには、夏目漱石をはじめとして35人の脳が保管されています。
また、東京大学医学部の標本室には人間の脳だけでなく、様々な標本があることでも有名です。ムラージュ法*を用いて作られた皮膚疾患の模型やエジプトのミイラなど、珍しい研究標本が数多くあります。
夏目漱石の脳はこれらの貴重な標本とともに保管され、医療のための研究に日々役立てられているのです。
ムラージュ法とは、ムラージュと呼ばれる伝染病や傷病などを記録に使われる模型を作成する方法のことです。一般的なやり方としては、疾患が出た患部の型を取り、蝋を流し込んで患部の色をつけます。日本には、東京大学の初代皮膚科教授であり日本の皮膚科学の開祖たる土肥慶蔵によって伝わりました。
「エタノール漬け」で保存
夏目漱石の脳は、エタノールという一種のアルコール液に漬けられた状態で保存されています。エタノールは消毒液としても利用されるため、ご存じの方は多いことでしょう。
ちなみに、脳などの臓器を保存する方法として「エタノール漬け」のほかにも「ホルマリン漬け」というものがあります。ホルマリンとは、ホルムアルデヒドという防腐処理に使用される液体です。
丁寧に扱えばエタノールよりもホルマリンの方が、標本を最良の状態で長く保つことができます。しかし、ホルマリンは医薬用外劇物という危険度の高い液体なため、標本の7割から8割は危険度が低いエタノールが使われているのです。
ただし、エタノールは安全性が高い代わりに、臓器の色を長く保つことができません。そのため、現在の夏目漱石の脳は本来よりも色が抜けた青味がかった灰白色をしています。
摘出したのは夏目漱石の主治医
夏目漱石の遺体を解剖し、脳と胃を摘出したのは夏目漱石の主治医である長與又郎です。彼は漱石が胃潰瘍で入院していた胃腸病院の経営者の弟でした。そんな縁もあり、長與又郎が執刀医となったのでしょう。
ちなみに、解剖には真鍋嘉一郎をはじめとする漱石の他の主治医たちも立ち会っています。その時の様子を当時4つの新聞紙が記事として取り上げました。
記事には夏目漱石の脳に関する記述もあり、解剖した医師たちが夏目漱石の脳の優れた素質に驚いた様子が詳しく解説されています。当時の人々が、夏目漱石の遺体の解剖や脳の状態に関して非常に関心を持っていたことがわかりますね。