脳が現存している歴史上の有名人
最後に、夏目漱石のように脳が現存している歴史上の有名人3名を紹介します。
- アルベルト・アインシュタイン(物理学者)
- イシ(インディアン)
- テッド・ウィリアムズ(野球選手)
脳が今でも現存している有名人は、何も夏目漱石だけではありません。数多くの著名な人物たちの脳があらゆる場所に様々な方法で保管されているのです。1人ずつ見ていきましょう。
アルベルト・アインシュタイン(物理学者)
理論物理学者のアルベルト・アインシュタインも、脳が現存している偉人の1人です。舌を出した写真が有名なため、物理に興味がなくても顔を知っている人も多いでしょう。
アインシュタインは相対性理論など数多くの革命的な理論を唱え、ノーベル物理学賞も受賞した天才です。そんな彼の脳は非常に数奇な運命を辿って現存しています。
まず、アインシュタインの脳は本来保管される予定はありませんでした。アインシュタインの解剖を行ったトマス・シュトルツ・ハーヴェイが勝手に脳だけを持ち帰って保管したのです。
その40年後、アインシュタインの脳はスライスされた状態で全世界の博物館で展示されるようになりました。研究目的のために脳を保管したトマスですが、最終的に残ったアインシュタインの脳の欠片を遺族に返還しています。ちなみに、アインシュタインの脳の重さは約1230gでした。
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イシ(インディアン)
イシとは、アメリカの先住民族であるヤヒ族最後のインディアンでした。彼の脳が現存している理由は人類学的研究に大きな影響を与えたからです。イシの部族であるヤヒ族は19世紀半ばのヨーロッパ人の移住によって絶滅に追い込まれ、イシ1人になりました。
しかし、他の先住民族が強制的な移住やヨーロッパ文化圏での生活を余儀なくされる中で、イシだけは原始時代と変わらぬ生活を送っていたのです。1911年にカリフォルニア州サクラメント郡へ迷い込むまで、彼は先祖代々の土地を離れませんでした。
20世紀初頭ということもあり、サクラメントで白人に発見された後もイシは酷い扱いを受けることはなく、保護されたのちに大学に引き取られます。その後、彼は人類学者のアルフレッド・L・クローバーたちとともにヤヒ族の文化再興に取り組みました。
イシは「原始人の生き残り」と呼ばれ、死後も丁重に葬られています。その過程で解剖が行われ、イシの脳はスミソニアン博物館の国立アメリカ・インディアン博物館に保管されたのです。ちなみに、他の先住民族はイシの遺体を返還するよう求めていましたが、白人たちは構わずイシを解剖しています。
テッド・ウィリアムズ(野球選手)
テッド・ウィリアムズとは、1940年代から1960年代にかけてアメリカで活躍したプロ野球選手です。彼はメジャーリーグ史上で「最高の左翼手」と呼ばれ、アメリカはボストンのレッドソックスというプロ野球チームで合計で17年間活動していました。
彼の脳も現存していますが、その保管理由と保存方法は上記の2名よりもかなり特殊です。ウィリアムズは心不全によって83歳で亡くなりましたが、その際に自身の遺体を冷凍保存することを遺言に託していました。
これは「人体冷凍保存」といって、医療技術が発達した未来まで自分の身体を冷凍保存しておくというものです。通常は身体全体を冷凍保存しますが、ウィリアムズの場合は死後の裁判で長女に反対されて頭のみが冷凍保存されています。
冷凍保存された人間はウィリアムズを含めて世界に350人存在しますが、人体冷凍保存は未だに未完成な技術です。冷凍してからの蘇生術も開発されていません。ですが、未来の技術に望みをかけて生きたい気持ちは多くの人にあることかもしれません。
夏目漱石の脳に関する関連書籍
『漱石の脳 (叢書死の文化) 』は、夏目漱石の脳を詳細に解説した書籍になります。夏目漱石の脳組織に関する情報だけでなく、執刀医の長與又郎についても解説。夏目漱石の脳をとことん学ぶには非常に分かりやすい書籍です。
また、東京大学医学部の標本室にある他の標本についても記載があります。東大の標本室自体に興味がある人にもおすすめです。
夏目漱石の脳に関するまとめ
今回は、夏目漱石の脳が保管されている場所や理由、脳の特徴などについて詳しく紹介しました。漱石の脳が現存している理由から、漱石と彼の妻の並々ならぬ思いが感じ取れます。
末娘の死を経験したことで解剖の重要性を知った漱石が「自分の死因を伝えてほしい」「身体を研究に役立ててほしい」という遺志を唱えたことで、現在でも偉大な文学者の脳が脳科学の研究に役立っているのです。
夏目漱石の脳はまさに素晴らしい小説家の脳であり、私たちに生きることの大切さを改めて教えてくれます。この記事を読んで、夏目漱石の人生と脳の秘密に少しでも興味関心を抱いてくださったら光栄です。