タージマハルのできた経緯・歴史
タージマハルができた背景には、当時からインドで信じられていたイスラム教の考え方があります。当時のイスラム教では女性に対し、夫への愛と子どもを生むことを求めました。ですから、女性がお産で亡くなるのは、男性が戦で命を落とすのと同じ、尊いことだと考えられたのです。
今なら問題になりかねませんが、このような考え方が通っていたからこそ、タージマハルが完成して、現代の人々の心を癒やしてくれているわけです。
豪華なお墓は王妃の遺言だった？
タージマハルが作られた当時のムガル帝国では、皇帝が権力を示すために大きな墓を作ることはありましたが、いくら遺言があったとしても、王妃のためだけに作られることは考えられませんでした。
それでもタージマハルが作られたのは、イスラム教の考え方からすると、14人の子どもを生み、36歳で亡くなったムムターズ・マハルは聖者となる資格があり、大きな墓を建てるのにふさわしい人物だったからです。
そのため、墓廟の隣には巡礼者を受け入れるために、モスクや集会所が建てられました。タージマハルは訪れた人が、祈りを捧げることで自分の罪から許されて自由になれる場所だったのです。
出来上がるのに22年！戦争しながらお墓も作る？
タージマハルはその美しさからもわかるように、たくさんの人の手がかかっています。常に2万人が工事に関わったと言われ、墓廟に刻む文字や大理石の象嵌細工などの職人も各地から集められたと言います。また、建設期間も長く、22年もかかりました（17年という説もあります）。
そして、特別な技術を持つ者には多額の賃金が支払われました。例えば石組みのための技術者は月に1000ルピーの賃金を得ました。当時は熟練工であっても5～6ルピーの賃金でしたから、いかに多くの賃金を払っていたかがわかります。ちなみにルピーは現在もインドで使われている通貨ですが（現在のインドでの1ルピーは日本円でおよそ1.44円）、当時は1ルピーで小麦が80kg買えました。
当時シャー・ジャハーンは地方への侵略を行い、領土を拡大しようとしていました。そのようなときにタージマハルのためにこれだけの時間と費用をかけたことは、彼の愛情の深さの現れだったのかもしれません。
タージマハルを作った後は…
王妃を亡くした後、シャー・ジャハーンは側室を増やしただけでなく、家臣の妻にまで手を出すという荒れた生活を20年以上続けました。そのため、重病になり、息子たちは王位を争うようになりました。
結果的にシャー・ジャハーンは3男であるアウラングゼーブの手によって幽閉生活を送ることになったのです。そして幽閉されたまま、最期のときを迎えました。彼は妻とともにタージマハルで眠ることになったのです。
後にアウラングゼーブ自身も、戦に同行させた妻をお産の後で亡くしています。自らの手で幽閉した父と同じ運命をたどるのは、どこか皮肉に感じられます。
タージマハルに関する謎・都市伝説
実は2つ造る計画だった？幻の黒いタージマハルとは
シャー・ジャハーンには自分の墓廟を黒大理石で作りたいという希望がありました。タージマハルの前にはヤムナー川（ガンジス川最大の支流です）が流れていますが、その川を挟んで自分の墓廟を作って、対称的な見た目（2つの墓廟がピッタリと釣り合っている様）を作り出したかったのです。
対称的な見た目にこだわったのは、シャー・ジャハーンの好みだけが関係していたのではなく、イスラム建築は対称性をとても大切にしていたからです。
しかし、彼は晩年息子のアウラングゼーブによって幽閉されてしまったため、黒いタージマハルは完成しませんでした。それどころか、タージマハルに葬られた彼と妻の墓石は対称的とは程遠い並び方でした。これはシャー・ジャハーンと息子との確執の深さを物語っています。
現在、ヤムナー川の北には、黒いタージマハルを作ろうとした残骸が残っているということです。
男の両手を切り落とした？シャー・ジャハーンの思い
タージマハルを作った関係者の中には、美しいムムターズ・マハルを密かに慕っていた男がいたそうです。シャー・ジャハーンはその男に褒美を取らせると言って呼び出しましたが、男はタージマハルが完成しただけで満足だと答えました。
シャー・ジャハーンは男の思いに気付き、その両手を切り落としたと言います。これはあくまで伝説として語られているので、史実とは違うでしょうが、ムムターズ・マハルへの強い思いを表しているようです。手を切り落としたことよりも、既に亡くなっているムムターズ・マハルへの思いの強さと激しさが恐ろしく感じられます。
タージマハルには2人の男の思いが入っているために、こんなにも美しいのかもしれません。
