纏足の歴史
そんな纏足はいつから始まったのでしょうか。始まりは随分と古く、南唐の時代です。それが20世紀に入るまで続いたのですから、纏足という習慣がいかに中国で根付いていたかがわかります。
1人の男の好みから纏足が始まった
961年から976年まで、南唐という国を治めた李煜(り いく)が足の細い女性が好みだったために纏足が始まったと言われています。足を無理やり小さいままにすることで、歩行は困難となり、足が細くなったと考えられます。
李煜は宴席に踊り子たちを招くときにも、細身で足の小さい女性を選んだそうです。その女性の足を布で縛って更に細く小さくして踊らせたところ、素晴らしい出来栄えだったために纏足が広まったという説もあります。
彼は政治的な能力よりも、文学や芸術に関する能力の方がはるかに優れていたそうですから、その美的センスが人々に受け入れられたのも当然だったのかもしれません。
その南唐を滅ぼし、中国全土を統一した北宋の時代から、纏足は中国全国に広がっていきます。西暦1000年代になると、纏足をしていないのは恥ずかしいことだと感じている人々の心情を記した書物が見られます。ちょうど漢民族にとっては異民族が入ってきた頃ですから、独自の文化を大切にしたいという感情が高まったのでしょう。
纏足には伝説もあった
古代中国、殷(いん)という国だった時代(紀元前11世紀頃のことです)、妲己という名前の妃がいました。王の寵愛を受けており、何でも言うことを聞いてもらえたと言います。今でもよく使う「酒池肉林(酒や肉が豊富にある豪華な酒宴の意味)」の言葉は妲己のための贅沢な宴からできた言葉だそうです。
それだけ愛された妲己、どんなに美しく魅力的だったのかが気になるところですが、実は彼女は狐の化身だったそうです。足だけがどうしても人間のものにならずに布で隠していましたが、王に寵愛される妲己に憧れていた他の女性たちがそれを真似したことから纏足が流行りだしたといいます。
しかし、本当に纏足が普及したのはもっと後のことですから、これはあくまで伝説でしょう。纏足という風習が伝説にまでなっていますから、中国の人たちにとって纏足は大切なことだったのがわかります。
意外!つい最近まで続いた纏足
1912年に中華民国が成立すると、「纏足禁止令」が出されます(中華民国以前の清の時代にも禁止令が出されましたが、まったく効果はありませんでした)。
近代的な国家を作るためには、古い風習だった纏足は邪魔だったのでしょう。ここは文明開化でちょんまげや帯刀が廃止になった日本と似通っています。
しかし、纏足は衰えず、1950年に中華人民共和国により再び禁止令が出されます。この後徐々に下火になり、纏足は消えていくことになります。これは纏足が文化大革命(1966年から10年ほど行われた、毛沢東の権力を取り返すために行われた政治闘争)のときに、多くの伝統的なことが廃れてしまったことが関係しているようです。
また、都市部よりも農村の方が長く纏足が行われたようで、今でも農村の老人に纏足が見られることがあるということです。
纏足の今
纏足は現在、古い時代の女性差別的な風習として、差別の対象となることもあるそうです。自分から望んで纏足をしたわけではないのに、社会が変わったからと言って、今度は差別の対象になってしまうのはあまりに悲しいことです。
纏足が与える影響
纏足は農作業などする必要がない上流階級に許された風習であると同時に、女性が自由に出歩くことを禁じ、逃げることを許さない差別的な面を持ち合わせていました。
実際に女性が働くことを奨励する民族では、同じ中国に住んでいても纏足は行われていませんでした。しかし、この民族の女性たちは大足女と呼ばれ、蔑まれることもあったそうです。
また、纏足された女性たちは何とか歩くことはできても、走ることができなかったために、災害時には避難が難しく、男性よりも死亡率が高かったそうです。無事に結婚しても、夫が早く亡くなってしまった場合は、生活が困難になることもありました。
このように女性たちに不自由を強いた纏足ですが、なかなか廃れることはありませんでした。これは男性からの差別だけでは説明が付かないように思います。
纏足への新しい見方
男性が女性の自由を奪うための風習だと考えられていた纏足に、今までとは違った面があることも認められるようになっています。それは労働力の確保ということです。つまり歩行を不自由にすれば、長い時間座って手作業をするしかなくなります。
農村で自分の娘に纏足を行った母親には、確かにそんな考えがあったのでしょう。こう考えると、都市部だけでなく農村でも纏足が盛んに行われたことにも納得がいきます。
農村で纏足をされた若い女性たちは、糸を紡ぎ機を織り、刺繍をするなどの手仕事を家族のためにしていたのです。これは工業化される前の中国では大切な労働力でした。