佐川一政が与えた影響
影響1「著書を出版して、自らの行為を風化させなかった」
事件の発覚後、フランスで逮捕された一政でしたが、精神鑑定の結果、善悪の区別ができない精神状態だったと判定され、訴えられることはありませんでした。1984年には日本に帰国、精神病院に入院します。病院からも警察からも罪を償うべきだとの見解を示されますが、フランスの協力が得られず、一政は日本でも法に裁かれることはありませんでした。
社会復帰を目指す一政は有名人として扱われるようになります。この後に小説家となり、自身の起こした事件についての著書を何作か残しました。
これは現在でも、読む人に事件を生々しく伝えており、衝撃を与え続けているようです。犯罪者が実名を出して、細かく犯罪の内容を伝えているため、訴える力も大きいでしょう。一政は自身の手で犯罪の風化を防いだと言えるのです。
影響2「著書の出版を通して、人々に考える機会を与えた」
犯罪者の生の声を届けることは、人々に衝撃を与えるだけでなく、安易な気持ちでの犯罪を防ぐ効果があるでしょう。実名を公開している一政の著作だからこそ、私たちの心に強く響くのです。もし一政が実名を公開していなかったとしたら、読む人々はよくできた話だと思ってお終いになっていたかもしれません。
また、一政の著書には命というものについて考えさせる効果もあるようです。人間は他の命を犠牲にしなくては生きていけません。私たちには一政の人間を食べる行為と肉や魚を食べて生きる自分たちの姿とを重ね合わせて考える機会が与えられたのです。
これは芸術家に作品を生み出させるきっかけにもなりました。ザ・ローリング・ストーンズはパリでの事件を「Too Much Blood」という曲にしていますし、劇作家の唐十郎は小説「佐川くんからの手紙」で第88回芥川賞を受賞しています。
影響3「 履歴書500通の就職活動が人々に希望を与える?」
日本で一政が有名人としてもてはやされた時期は長続きしませんでした。2000年代になると生活に困るようになった一政は闇金に手を出し、ついには生活保護を受けたこともありました。彼は生活のために就職活動をしたこともあったそうで、書いた履歴書は500通にも及んだといいます。
この就職活動中に、ある語学学校で採用が決定したことがありました。本名を出しての就職活動が潔いと判断されたのですが、職員の強い反対に合い、採用は見送りになったそうです。一貫して文学を愛し、大学でも文学を学んだ一政ですから、語学学校というのは彼に適した職場だったようにも思います。
就職は叶いませんでしたが、彼の社会復帰のための前向きな行動は、今生き方に悩む人たちに大きな希望を与えることでしょう。
佐川一政の名言
男女間の愛は幻想であり、そのことがすべての過ちの原因になりうる。
1992年の雑誌・コラムニストでの発言。この言葉の後に一政は愛というものがそもそも幻想ならば、自分は真実の愛に生きているのかもしれないと語っており、愛とは何なのか考えさせられます。まさか、昔からよく言う食べちゃいたいくらいかわいい、を実践したわけではないでしょう。
もう白人女性は卒業した。今は日本人女性、特に沖縄の女性、ちゅらさん。食欲を感じます
2010年のインタビューへの答え。さんざん白人女性に執着した一政は、金づるとして利用されたこともあったようです。白人女性と付き合うための散財が、経済に悪影響を与えたために、生活保護を受ける事態にも陥ったと考えられます。一政なりの、ユーモアを効かせた答えだったのでしょうか。そうだと信じたいです。
佐川一政にまつわる都市伝説・武勇伝
都市伝説・武勇伝1「文学を愛した佐川青年・アポ無しで武者小路実篤に会見」
高校に入学してすぐに、志賀直哉の「暗夜行路」に救いを感じた一政は、その後武者小路実篤にのめり込みます。
そしてついに単身で会いに行くわけですが、アポ無しで会いに行った一政を武者小路実篤は自宅に招き入れ、1時間ほど談笑したそうです。武者小路実篤のおおらかさにも驚きますが、このことは1999年頃の一政のブログにも思い出として記されており、嬉しかったことが伝わってきます。
一政との会見の後、すぐに実篤は亡くなったため、これは1976年頃のことだったと思われます。一政は25歳頃、この年頃の青年にとっては貴重な体験だったはずです。この経験で彼の生き方が変わらなかったのはとても残念です。
都市伝説・武勇伝2「意外!佐川一政はカニバリストではなかった?」
事件を起こした一政は日本に帰国後、精神病院である東京都立松沢病院に入院させられます。そこでは一政は人肉を食べる性癖は持っておらず、精神病でもないため、逮捕されて罪を償うべきだと診断されました。病院側は人肉を食べる性癖はフランスの警察を欺くための一政の芝居であるとし、精神病ではなくパーソナリティ障害(精神病と健常者の境界に位置している精神状態)であるとしたのです。
日本の警察も同じ意見でしたが、フランス警察は1度不起訴処分となった者の捜査資料は渡さないと拒否したため逮捕ができず、一政はとうとう法によって裁かれることはありませんでした。
一政が乳児の頃に、腸炎を起こしたと話したことを、フランスの警察では脳炎と誤解して、誤った判断をしたのではないかというのが、松沢病院側の意見です。
都市伝説・武勇伝3「やはり病気がち?現在は介護生活」
もともと糖尿病という持病があった一政ですが、2013年には脳梗塞で倒れ、歩行が困難になってしまいました。糖尿病にかかると脳梗塞のリスクも大きくなることが知られていますが、一政の父も事件の直後に脳梗塞で倒れていますから、遺伝的なものもあったのかもしれません。
弟の介護を受けながら暮らしていた一政ですが、2018年に弁当を喉につまらせたことで誤嚥性肺炎となり、胃ろうを付けざるを得なくなりました。胃ろうとは胃に小さな穴を開けて直接栄養を送り込むためのもので、現在一政は神奈川県内の病院で寝たきりの生活を送っています。
弟は2日に1度は顔を見に病院に通っているそうですが、もはや事件によるわだかまりはないといいます。一政の起こした事件により、結婚もできなかったが、今はお互いに唯一の肉親となったため、ずっと生きていて欲しいという思いがあるようです。