1974年7月30日ーニクソン大統領の弾劾
事件当時、野党だった民主党はニクソン大統領の弾劾を考えていましたが、与党であった共和党からも弾劾の動きが見え始めたのは1973年5月6日のことでした。共和党全国委員長だったボブ・ドールが「大統領が介入した証拠があれば弾劾は避けられない」と発言したのが最初といわれています。
1974年の世論調査では初めて弾劾に賛成が反対を上回りました。これはウォーターゲート事件とは別件でニクソン大統領の脱税行為が発覚したのと、録音テープの一件によるものです。
下院司法委員会は大統領弾劾の評決を行い、1974年7月27日に「司法妨害」、7月29日に「権力の乱用」、7月30日に「議会への侮辱」に対して弾劾が勧告されました。
1974年8月9日ーニクソン大統領辞任
1974年8月8日、弾劾に賛成する議員がほとんどを占めると予測され巻き返しは難しいだろうということを伝えるため、3名の共和党議員がニクソン大統領の下を訪ねます。そしてニクソン大統領は自らの意思で大統領を退くことを決意しました。
その日の夜にホワイトハウスの大統領執務室から国民に向けてテレビ中継を行い、翌日の8月9日に大統領を辞任することを伝えました。
ニクソン大統領の辞任後は副大統領だったジェラルド・R・フォードが大統領となり、「国家的悪夢は終わった。アメリカ合衆国憲法は機能した」と発言しウォーターゲート事件は終わりを告げました。
またフォード大統領は「ニクソン前大統領は既に十分苦しみを受けた」として大統領特別恩赦を行い、ニクソン前大統領はこれ以後の捜査や裁判を免れ罪を問われることはありませんでした。
ウォーターゲート事件の謎
1.ウォーターゲート事件はなぜ起こったのか?
事件が起こった1972年は大統領選の年で、現役のニクソン大統領はベトナム戦争への政策やソ連と中国に対しての外交で国民の支持を集め高い人気を誇っていました。そんな中でなぜ危険を冒してまでウォーターゲート事件を起こさなければならなかったのでしょうか?
現在でも謎な部分は多いですが、理由のひとつはペンタゴン・ペーパーズだと言われています。ベトナム戦争におけるアメリカ政府のスキャンダルとなったペンタゴン・ペーパーズですが、ニクソン大統領はこの漏洩事件が前政権の策略では無いかと考えていたようです。
漏洩事件後、アメリカの国家機密を守るための特別チームを組織します。ペンタゴン・ペーパーズの黒幕を探しだして、その信用の失墜させることがチームの任務でした。ウォーターゲート事件はその一環だったのではという説が有力です。
2.お粗末な侵入事件
発端となった民主党本部への侵入事件はとても鮮やかな犯行とは言えないものでした。そもそも一度侵入に成功していたにも関わらず盗聴器を取り付ける電話を間違えたため、2回も侵入せざるを得なかったのも大きなミスでした。
さらに一度侵入すれば貼り直す必要のないテープをドアに貼り直したり、重要な連絡先や名前を記した手帳を持ったまま侵入にしたりと、CIAの元工作員や訓練を受けた元兵士が行ったとは到底思えないお粗末な犯行でした。
事件発覚当時、ホワイトハウスが「三流のコソ泥」の犯行と斬り捨てたのも頷けます。そのおかげでホワイトハウスと侵入犯とを深く結びつける国民も少なかったため、ニクソン大統領は再選を果たすことができたのでしょう。
ウォーターゲート事件が与えた影響
外国情報監視法の成立
外国諜報活動偵察法や海外情報活動監視法とも呼ばれるアメリカ国内での諜報機関によるスパイ活動を禁止する法律です。1972年に起きたウォーターゲート事件をきっかけに、元上院議員フランク・チャーチの提言を発端として1978年10月25日に成立しました。
2001年のアメリカ同時多発テロ事件時にはジョージ・W・ブッシュ大統領が捜査令状を取らずに大規模な通信傍受を行ったことがニューヨーク・タイムズにスクープされ、外国情報監視法が大衆の知るところとなり問題になりました。
「ゲート」が政権の不祥事の俗称となった
ウォーターゲート事件はウォーターゲート・ビルの名前にちなんでそう呼ばれていますが、これ以降政治的な不正や不祥事を「〜ゲート」と呼ぶようになりました。
最近では2016年にドナルド・トランプによるアメリカ大統領選へのロシアの介入疑惑をさして「ロシアゲート」と呼んでいます。またアメリカ以外でも「ゲート」は使用されていて中国では漢字に置き換え「門」と表現し、韓国ではスキャンダルのことをアメリカと同じく「ゲート」と表現します。
ウォーターゲート事件をテーマにした映画
ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書
2017年に公開されたドキュメンタリー映画で、トム・ハンクスとメリル・ストリープが主演を務めました。この作品は2017年のナショナル・ボード・オブ・レビュー賞や第90回アカデミー賞などで数々の賞を受賞しています。
ペンタゴン・ペーパーズをスクープしたニューヨーク・タイムズが掲載しなかった残りの文書をめぐり、記事するかどうかを悩み葛藤するワシントン・ポストの記者たちを描く実話を基にした物語です。
ザ・シークレットマン
ウォーターゲート事件での情報提供者だった「ディープ・スロート」こと、マーク・フェルトを描いたアメリカの伝記映画です。監督はピーター・ランデズマンで製作はリドリー・スコット、主演はリーアム・ニーソンです。
ウォーターゲート事件に関するまとめ
ウォーターゲート事件についてご紹介しましたがいかがでしたか?
アメリカで初めて大統領が辞任する程の政治スキャンダルとなった「ウォーターゲート事件」。ニクソン元大統領が大統領特別恩赦により捜査を受けなかったため、今だに不透明なことも多い事件でもあります。
しかしその後の社会に与えた影響はとても大きいものでした。もし興味がおありでしたら「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」か「ザ・シークレットマン」をご覧になることをお勧めします。