「松下村塾」塾長の吉田松陰
明治維新に関わる多くの人物を輩出した名門塾「松下村塾」の塾長、吉田松陰もまた、陽明学に傾倒し、門下生に教えた陽明学者です。
彼自身は明治維新を見ることなく、幕府によって処刑されてしまいました。しかし、彼の弟子たちが後の新しい日本を作るために動き出したのは言うまでもないでしょう。特に知行合一には深く感銘を受けたようで、自ら行動を起こすそのさまは、まさに知行合一を体現したと言っても過言ではありません。
吉田亡き後、その思想は高杉晋作、伊藤博文、山縣有朋などによって引き継がれます。そして、明治新政府の中でも生き続けたのでした。
その他明治以降の多数の偉人が学んだ
明治以降、多くの偉人と呼ばれる人間もまた陽明学の教養を身に着けて日本の近代化に貢献しました。
西郷隆盛や岩崎弥太郎、新一万円札の顔となる渋沢栄一も陽明学の影響を受けたと言われています。そのきっかけとなったのは明治維新以降に刊行された『王陽明』という1冊の本でした。三宅雪嶺が1893年に出したもので、欧化政策の時代の流れからくる武士道という考え方の見直しとマッチして広く受け入れられたのです。
大正時代までを陽明学の最盛期とする説が現在では一般的です。この流れの中で、日本で流行し、変形していった陽明学が中国知識人の元へ逆輸入されたのでした。
陽明学における名言
王陽明の故郷に建つ彼の銅像。弟子たちが体系化したおかげで現在に伝わっている。
陽明学の名言とは、つまるところ開祖・王陽明の名言となります。実は陽明学は王が書物としてまとめたものではなく、彼の死後弟子たちの手によってまとめられたものだからです。
王は書物を残すことをあまりしなかったため、彼が友人と交わした手紙や門下生の教科書から教本が作られたのです。では、名言を見ていきましょう。
心が明らかになれば自ずと道も明らかになる。
知識と行動を二つに分けることはできない。まず知ることが大事で知って初めて行うことができるという考えは間違いである。知と行はもともと一つのものだからだ。
友人の欠点を指摘し正すより、その長所をすすめ励ます方が良い。
心の外に道理はなく、心の外に物はない。全ては心の中にある。
山中の賊を退治するのは簡単で、心中の賊を退治するのは難しい。
陽明学を学びたい人におすすめの本3選
陽明学は、私たちの意識の外で日本人の文化や価値観に深く結びついています。しかし、どの考え方が陽明学なのかはここでつぶさに説明することはできません。
そこで、陽明学についてもっと深く学びたいという人のために、おすすめの3冊をご用意しました。陽明学について学ぶあなたの1冊になれば幸いです。
伝習録
陽明学の入門書といえば『伝習録』と言っても過言ではありません。この本は、王陽明と弟子たちのやり取りがまとめられているもので、王の死後にまとめられた教本そのものだからです。
吉田松陰や西郷隆盛が陽明学に触れたのも『伝習録』がきっかけ。歴史の偉人たちと同じ本を読める機会はそうそうありません。
新装版・新説「陽明学」入門
陽明学という学問だけではなく、開祖・王陽明についても詳しく知りたい人にはこちらがおすすめです。王が陽明学の考え方をまとめるまでのさまざまなエピソードが書かれています。
また、陽明学を正しく学びたい人にとってもおすすめの1冊です。小難しい表現が少なく、哲学書初心者でもスラスラと読み進めることができます。
朱子学と陽明学
ライバル関係にある朱子学と陽明学について書き記した1冊がこちら。出版年は古いものの、朱子学と陽明学の違いをより詳しく知りたい人には最良の本と言えます。
放送大学のテキストとして生まれた本書だけに解説は十分。わかりやすく違いを知ることができるのは注目に値します。
陽明学に関するまとめ
陽明学は、それまで時代の中心であった朱子学に対する考え方として生まれたにも関わらず、海を渡った日本で広く普及していたのは注目に値します。中国にももちろん戻っていったのですが、王はこうなることを予想していたでしょうか。
上こそがすべてという考え方、学ぶことこそ聖人になるための手段という旧来の考え方を否定した陽明学。現代にも通ずる何かがそこにはあったのかもしれません。そして、日本人の心に深く感銘を与えるきっかけがあったのでしょう。現在の日本文化にも根強く残る陽明学を、ぜひ一度学んでみてはいかがでしょうか。
それでは、長時間お付き合いいただきありがとうございました。