社会契約論とは?意味や誕生した時代背景、与えた影響まで解説

社会契約論と社会契約説の違い

著書と思想という違い

結論から言うと、社会契約論はルソーが社会契約説を解説するために書いた「著書」、社会契約説はルソーの「思想」です。

社会契約説とは17世紀から18世紀にかけてヨーロッパで広まった「人々の契約によって社会は成立する」という政治思想のこと。ルソーは社会契約説の思想を世に広めるため本へまとめ、社会契約論というタイトルをつけ出版したというわけです。

社会契約説は17世紀以前の「王権神授説」という政治思想とは正反対のものであり、社会契約論は絶対王政から民主主義社会の在り方を世に広めた著書といえるでしょう。

王権神授説とは

ルイ14世に触れることで病を癒そうとする人々

王権神授説とは「絶対王政による国家権力は神からの授かりものである」という政治思想です。国王の権力は神様から与えられたもののため、国民が国王に反抗するのは許されないという考え方。

ヨーロッパで広まっていた思想であり、社会契約説が誕生するまでは王権神授説が当たり前の理念として知られていました。国王の権力が国家権力と同等であり、政治的にも王族が力を行使した絶対王政の社会にはぴったりの政治思想だったのです。

しかし、絶対王政によって王族に権力が集中すると農民をはじめとする国民は不満を募らせ、ヨーロッパ各地で市民革命が起こりました。革命をきっかけに国家は王族や神学に委ねていた思想から国民と知性に委ねる思想へと変化していきます。

こうした革命期に誕生したのが社会契約説でありルソーの著書『社会契約論』です。「人間の契約によって社会は作られる」とした政治思想は市民革命を後押しました。

社会契約説を唱えた3人の思想家

「経験論」を生み出したジョン・ロック

社会契約説を唱えてきた思想家はルソーだけではありません。ジョン・ロックやトマス・ホッブズも独自の社会契約説を唱えた思想家として知られています。

ここではルソー、ロック、ホッブズという3人の思想家が説いた社会契約説について解説します。

ジャン=ジャック・ルソー

ジャン=ジャック・ルソー

ジャン=ジャック・ルソーは18世紀フランスで活躍したジュネーヴ共和国出身の哲学者です。本記事の主題である『社会契約論』の著者ですね。

幼少期から奉公に出され孤児として孤独な日々を過ごしましたが、ヴァランス男爵夫人に助けられたのをきっかけに独学で哲学や文学などさまざまな学問を学びました。その後30歳でフランスに赴き、数多くの名著を執筆します。

中でも「社会契約論」は18世紀当時フランスにに根強く浸透していた絶対王政やキリスト教的価値観を強く否定する内容であったため、ルソーは弾圧を受け亡命生活を送ることとなりました。

しかしルソーの死後、改めて社会契約論が見直され市民革命に大きな影響を与えたのです。その結果、ルソーの遺骨はフランスの偉人たちの霊廟に葬られました。

ルソーが本当の意味で報われたのは生涯を終えたあとだったのですね。

ジョン・ロック

ジョン・ロック

ジョン・ロックはイギリス出身の哲学者で「イギリス経験論の父」「自由主義の父」と呼ばれる人物です。ルソー登場以前の17世紀に活躍していました。

裕福な貴族階級の生まれで育ったロックは好きなだけ学問に励み、オックスフォード大学に進学します。哲学や古典を学んだのち科学を専門とする団体王立協会に入りました。

1688年に起こった名誉革命(立憲君主政治を確立させた革命)の経験から社会契約説に基づいた「統治二論」を執筆、国民は国家に対する「抵抗権」「革命権」を持つという概念を確立します。政府や国家は国民の権利を守る存在、主権自体は国民にあり政府の権利侵害に抵抗する権利があると説きました。

ロックの思想は人民主権の源となり、後のアメリカ独立革命などにも影響を与えました。

トマス・ホッブズ

トマス・ホッブズ

トマス・ホッブズは16世紀から17世紀にかけて活躍したイギリス出身の思想家です。牧師の家に生まれ、ロックと同じくオックスフォード大学を卒業後に家庭教師となります。

ピューリタン革命(絶対王政から共和政へと移行した革命)に否定的だったロックは一時フランスに亡命し、社会契約説を基盤とした「リヴァイアサン」を執筆しました。

ホッブズの社会契約説は自然状態のあり方という点でルソーの概念と大きく異なっています。ルソーが自然状態を「平和な世界」の状態としたのに対し、ホッブズは「戦争の絶えない世界」の状態としました。

そこで、処罰権を有した国家権力を成立させ国民が抵抗できないようにすれば争いはなくなり、戦争状態から抜け出せるという概念を作り出したのです。

しかし、ホッブズの概念はルソーやロックと違って絶対王政の下で国民の主権を認めるという矛盾に満ちた思想だったため、各方面から批判を浴び著書は刊行禁止になりました。

社会契約論がわかるおすすめ本

社会契約論 (まんがで読破)

社会契約論という難しい哲学・政治思想を漫画でわかりやすく解説した一冊。本文の第1章から6章までが漫画になっており、ルソーの概念や思想がつくられる過程を作品調で楽しみながら理解できます。

活字が苦手な人におすすめの一冊です。

別冊NHK100分de名著 読書の学校 苫野一徳 特別授業『社会契約論』 (別冊NHK100分de名著読書の学校)

タイトル名の通り社会契約論を100分で理解できる一冊。要点が分かりやすくまとめられているので、哲学史を学んでいる学生はもちろん参考書としても活用できますよ。

社会契約論に関するまとめ

一見、難解だと思われがちな社会契約論ですが、中身を紐解いてみると到底理解できないようなものではありません。むしろ、現代の民主主義に親和性の高い思想が多く論じられています。

ルソーが理想とする社会を実現させるのは決して簡単ではないでしょう。しかし、ルソーの生きた18世紀フランスと同じく現代を生きる1人ひと誠実に治につい向き合うようになれば、フランス革命のように何かが変わるかもしれません。

社会契約論でルソーが描いた理想の社会が訪れる日を願って。

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