社会契約論とは?意味や誕生した時代背景、与えた影響まで解説

ポイント②自然状態からの社会発展

人間も昔は自然とともに暮らしていた

社会契約論では、社会発展または国家の成立の仕組みを自然状態、社会契約や政治の在り方などの観点から説いています。自然状態とは、政治体制など人為的な制度のもとではなく人間がありのまま好き勝手にしている状態をさしており、ルソー以外にジョン・ロックやトマス・ホッブズなどの哲学者も唱えた思想です。

しかし3人の自然状態に対する捉え方は異なっており、ロックやホッブズが自然状態は人間にとって良くない状態と捉えていたのに対し、ルソーは自然状態では自己防衛本能や同情心が無意識のうちに働くため平和な状態であると捉えていました。

社会発展の源となった農業

平和な自然状態から農業生産を行う農業社会への発展によって財産という概念が生まれます。財産が特定の個人に集まったことで権力者が誕生、専制国家(権力者が独裁的に政治を取り仕切っている社会)の成立です。

ルソーは専制国家が戦争や格差社会の温床になると考え、専制国家による戦争や格差社会から抜け出すためには「社会は国民との契約のもとに成立している」とする社会契約説が重要であると説きました。

ポイント③社会契約は自由社会の原理

現代の社会を作るのも簡単ではなかった

ルソーは社会が国民との契約によって成立すれば人々が自由社会で暮らせるようになると信じ、社会契約により人間は自然状態の頃の本能を理性的な方へ変化させ、平等かつ自由で平和な共同社会を作れると論じました。

また、国家や政府が国民の権利を守る義務を持つとする社会契約は民主主義運動を大きく後押ししました。

こうしたルソーの社会契約論は数多くの哲学者や思想家、革命や現代の社会思想に影響を与え、民主主義社会や社会福祉制度を生み出したのです。

社会契約論が与えた3つの影響

①フランス革命

フランス革命の始まりであるバスティーユ襲撃(民衆が牢獄を襲撃した)

ルソーが説いた「社会契約論」の概念は世界史でも有名なフランス革命にまで影響を与えました。フランス革命とは1789年に権力者であった王族や貴族をフランスの民衆が攻撃し、絶対王政を倒した市民革命です。

社会契約論では絶対王政や専制政治を強く批判しており、冒頭部分には「人間は生まれつき自由だが、いたるところで鎖につながれている」という文章があります。この文章は、革命のスローガンに使われフランス革命を起こした民衆たちに影響を与えました。

フランス革命後のフランス人権宣言はルソーの思想を基盤とし、ルソーはフランス革命において重要な役割を果たしたのです。

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②思想家のバイブルになる一方で悪用されたケースも

社会契約論を間違った方向に使用したナポレオン・ボナパルト

社会契約論は当時の社会政治を批判する内容だったため、徐々に出版が禁止されていきましたが、多くの哲学者や思想家に影響を与えました。社会契約論を日本語に訳した中江兆民や民主主義運動運動家たちは社会契約論に深く感銘を受けたのです。

しかし一方で、社会契約論を利己的に使う人もいました。かの有名なナポレオン・ボナパルトです。彼はルソーの社会契約論で述べられている「一般意志」を盾に、国民の代表を自称し独裁的な政治を行いました。

ナポレオンはフランス国民の投票によって皇帝に選ばれたのち、侵略国には血縁者を王に就かせてイギリスに対抗するためだけに諸外国との貿易を禁じるなど横暴な政策を講じたのです。その結果、国民の反感を買いフランス各地で反乱が多発し皇帝の座を退位させられ、南大西洋に浮かぶイギリス領のセントヘレナ島に監禁されました。

ルソーも幸せな社会の実現を目的に書いた社会契約論を悪用されるとは思っても見なかったでしょう。

③現代社会へ新たな課題を残す

人々が自由を謳歌しているように見える現代都市

ルソーの社会契約論は「いかに現代社会へ適した形にできるか」という課題を哲学者たちに与えました。

もちろん、社会契約論はフランス革命を経て社会契約を根幹とする民主主義社会の成立のきっかけとなった思想です。しかし、現代社会は本当に自由な社会といえるのでしょうか?

日本やアメリカをはじめとする先進国でさえ格差の問題が解決せず、国民は政府に対する不満を募らせています。ルソーの描いた社会契約を根幹とする社会では人が理性的に行動すると説いていましたが、これはあくまで1つの国家を前提にしたものでした。

現代のように国家同士が繋がるグローバル社会では世界全体を一つとして考え、そのうえで自由な社会をつくらなくてはなりません。かといって、全世界の人が自らの利益を放棄して共通の政治思想を持つのは非常に困難ですよね。

ルソーの意思を受け継いだ現代哲学者たちは「社会契約論をいかに現代に適応できるか」を課題に置き、今日も奮闘しています。

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