湾岸戦争が残した3つの後遺症
湾岸戦争は世界各地に影響を及ぼしただけではありません。人間や建物にも大きな後遺症を残したのです。
世界で5万人の死傷者
湾岸戦争ではイラク軍兵士だけでなく多国籍軍兵士や一般市民にも被害が及び、世界中の人を合わせて約5万人の死傷者を出しました。
特に「砂漠の嵐作戦」による空爆は宣戦布告もなくイラク政府が疎開や避難などもしていなかったため、多くの一般市民が犠牲となったのです。航空機による爆撃は「砂漠の嵐作戦」後の戦いでも続き、市民が避難していた避難所にまで爆弾を投下しました。
避難所とされていた場所はイラクの軍事基地であるという見方もありますが、どちらにせよ軍隊に関係のない一般市民が被害にあったことに変わりありません。
イラク兵士やイラク市民だけでなく、もちろん多国籍軍の兵士も被害を受けました。味方であるはずの友軍の誤爆による被害やイラク軍によるアメリカ軍宿舎への攻撃で多数の死者が出たのです。
それだけでなく、多国籍軍の兵士たちには精神的な後遺症も残りました。湾岸戦争は多国籍軍の大勝利で終結しましたが、両方の兵士や民間人に多大なる被害を与えたことに変わりはないのです。
湾岸戦争症候群が発症
湾岸戦争が終結した後、戦争に参戦した兵士たちに集団で発生した症状を総して湾岸戦争症候群といいます。
主な症状はうつ状態や疲労感、記憶障害などです。兵士だけではなく、兵士の期間後に誕生した子供たちの先天性障害なども報告されました。
原因はイラク南部の兵器施設にあった有害神経ガスであるサリンの可能性が高いと言われています。湾岸戦争時にこの兵器施設を爆破したため、兵士たちが被爆したと考えられました。
ただし、湾岸戦争症候群の症状はベトナム戦争従事者にも見られているものです。そのため直接的な原因は未だ不明ですが、湾岸戦争に従事した兵士たちが身体的にも精神的にも現在も苦しんでいることは間違いありません。
戦地となった街への甚大な被害
湾岸戦争は戦地となったイラク領内やクウェート領内にも甚大な被害を与えました。爆撃や空撃などによってイラクやクウェートの街は破壊されてしまい、以前のような姿はありません。
それだけでなく、イラク軍は多国籍軍の追跡を妨害するために領内にある700もの油井(石油採掘のための井戸)へ火を放ちました。消火活動に10ヶ月の時間がかかるほど大規模な火災になります。
また、イラク軍はペルシャ湾に大量の原油を流出させアメリカ海兵隊の上陸を妨害し石油資源を奪われまいとしました。しかし、この行動は海兵隊員よりも環境に著しいダメージを与えたのです。原油は160kmもの範囲に広がり海洋生物を汚染しました。
人間の世界で言えば建物と石油消失による経済的な被害ですが、海の世界では海洋生物の命を奪いかねない甚大な被害をもたらしました。
湾岸戦争を描いたおすすめ映画・書籍
おすすめ映画
ジャーヘッド
サム・メンデス監督作品『ジャーヘッド』は湾岸戦争に参戦したアメリカ海兵隊員が描いた体験記の映画化したものです。
戦闘シーンは少なく、戦場を目の当たりにした兵士たちの恐怖や不安、自分の使命、家族への想いなど人間の心情が丁寧に描かれています。
実際に湾岸戦争で行われた「砂漠の嵐作戦」も描かれており、湾岸戦争が人間に与えた影響を深く知ることのできる映画です。
*ジャーヘッド:海兵隊員に対する蔑称
スリーキングス
ジョージ・クルーニー主演の戦争映画『スリーキングス』は、湾岸戦争が休戦した直後のイラクを舞台にしています。コメディタッチに描かれているので流血シーンが苦手な人におすすめです。
内容には湾岸戦争でアメリカが行ったイラクへの仕打ちが描かれており、監督デヴィッド・O・ラッセルの湾岸戦争に対する批判が表れています。
ライブ・フロム・バグダッド 湾岸戦争最前線
『ライブ・フロム・バグダッド 湾岸戦争最前線』は、湾岸戦争勃発時にその様子を現地で報道したアメリカ人ジャーナリストたちの実話を映画化したものです。この映画では戦争前で緊張感を増すイラクの様子が緻密に描かれています。
ジャーナリストたちはアメリカ多国籍軍の空爆を生中継で報道しましたが、これは実際の出来事であり地獄の生中継とも呼ばれました。爆発や暴力シーンが多いですが、湾岸戦争の凄惨さがわかる映画です。
おすすめ書籍
ラムゼー・クラークの湾岸戦争―いま戦争はこうして作られる
本書では湾岸戦争の勃発原因から詳しい内容までを紐解き、アメリカ軍事が戦争をどう捉えているかを解説しています。行き過ぎたアメリカの軍事行使や現在の戦争情勢への影響が理解できる一冊です。
ブラヴォー・ツー・ゼロ―SAS兵士が語る湾岸戦争の壮絶な記録
本書はノンフィクションの戦争文学であり、湾岸戦争時に特殊部隊員としてイラクに潜入した著者が体験した全てが描かれています。過酷な戦闘の様子や捕虜となった後の拷問の様子までが事細かに記されており、湾岸戦争時の兵士たちの精神状態を深く知ることのできる一冊です。
〈図説〉湾岸戦争
本書は湾岸戦争の概要を写真とともに非常にわかりやすく解説しています。戦争時の作戦や防衛線の様子なども理解しやすいため、湾岸戦争を知る最適な一冊です。
湾岸戦争に関するまとめ
いかがでしたか?
何万人も死傷者を出し、後のテロリズムにもつながったとされる湾岸戦争。その影響は今なお計り知れないものがあります。
イラクとクウェート2つの中東国での問題が世界規模の問題に発展、約1ヶ月半という短い間に苛烈な争いを繰り広げ、日本やレバノンなど他国にも大きな影響を与えました。
そして、湾岸戦争の影響は今なお続いているのです。湾岸戦争の理解は、未来の私たちの暮らしをも左右します。湾岸戦争を知ることが世界平和への礎になれば幸いです。