第11位「風よあらしよ」
読んでみて
第55回吉川英治文学賞を受賞したことで話題になった本書は、伊藤野枝という大正時代の女性活動家を主人公に描いています。これが本当に戦前の女性なのだろうか?と思うほど生き方がエネルギッシュで、今の女性たちの方がよほど大人しい気がします。
正直言って、彼女の生き方は全てが共感できるものではありません。しかしその情熱にはとても心動かされますし、これから自分がどう生きるべきなのかを考えさせられます。著者の小説に対する熱量が文章からひしひしと伝わってくるので、かなり重量感のある読書になりました。
みんなのレビュー
超大作だった。ほとんど名前しか知らない存在だった伊藤野枝という人物の生き様に引き込まれた。いまだに男女平等には程遠い世の中で、程遠いことを実感する出来事が続く2021年を予見したかのようなタイミングで書かれた小説であることに村山由佳さんのセンスを感じる。
honto
彼女や大杉栄があと30年長く生きていたら、今の世の中はもう少し違っていたのだろうかと思わずにはいられない。章ごとに時系列は進みながらも登場人物それぞれの視点で物語が展開されるのは、これだけの長編を飽きずに読ませるテクニックなのかもしれない。
第12位「銀漢の賦」
読んでみて
第14回松本清張賞を受賞した本作は、男の友情を描いた清々しい小説です。葉室麟の作品は、ほのかな恋や夫婦愛も描かれますが、どちらかというと清廉なる武士の生き方に焦点を当てているため、大人の時代小説という気がします。特に本作は年齢を重ねていく男たちの話であり、年月を経たからこそ生まれる関係を堪能したい作品です。
ラストは思わずニヤッとしてしまう形で終わります。時代小説は忠義など重々しいテーマが描かれる内容が多いですが、読み終えてここまで清々しい気分になれる作品は珍しいです。テンポもよく、時代小説に慣れていない人にもおすすめです。
みんなのレビュー
葉室麟さんの書かれる物語は一度引き込まれると出てこられなくなるような面白さを感じます。この物語もとても面白かった。
楽天ブックス
幼少時代からの友である3人が大人となり、互いの身分の違いや暮らし向きから敵となってしまっても、思いやる心から互いに苦悩し葛藤する心模様などが、まるで自分もその場にいるかのごとく見えてきて、ページを捲る手が止まらなくなります。ひとにオススメしたい作品です。
第13位「蒼穹の昴 1〜4」
読んでみて
中国の清朝末期を描いた歴史小説です。西太后や李鴻章といった、歴史の勉強で名前だけは知っているけれど人柄はよくわからないという歴史上の人物たちが、まるで近くにいるような描き方をしてくれるのは浅田次郎ならではだと思います。
主人公たちがさまざまな逆境にもめげずに運命を切り開いていく姿を追っていくのは本当に楽しく、エンターテインメント小説の王道という気がします。歴史小説であり、科挙や宦官といった中国史で欠かせないキーワードも学べますが、それ以上にとにかく楽しい読書タイムを持てること請け合いです。
みんなのレビュー
やがて皇帝派/西太后派に別れて中国の歴史を紡ぐことになる 2人の少年を軸に、清朝末期の政争を描く。正月休みに読むにはちょうどよい、スケールの大きな大河歴史小説。
honto
清朝末期と言えば真っ先にラスト・エンペラーを思い出すが、これはその一代前、光緒帝のお話。物語の展開の面白さもさることながら、一人一人の人物像が(史実、フィクションともに)実に特色豊かに描かれており、長編ながらほとんど一気読みだった。
第14位「王妃の離婚」
読んでみて
第121回直木賞を受賞した本作は、中世フランスでの王族による離婚裁判を担当する弁護士が活躍する物語です。中世や近世のヨーロッパを舞台にした歴史を描く小説家としては有名な佐藤賢一ですが、中でも本作は面白いだけではなく、文学的な情感があってイチオシです。
キリスト教という思想的な背景を前提としているものの、予備知識がなくても十分楽しめます。結婚観については現代にも通じるところがあり、歴史小説という堅苦しさを感じない面白さがあります。読後感がスッキリしているところもおすすめポイントです。
みんなのレビュー
15世紀のフランス、時の王ルイ12世が王妃ジャンヌに対して起こした離婚訴訟の不正ぶりに憤り、王妃の弁護に立ち上がった弁護士の話。正義と誇り、そして愛のために立ち向かう姿が面白い中世法廷サスペンス。 池井戸作品にテイストは似ている気がした。
読書メーター
第15位「のぼうの城 上・下」
読んでみて
歴史小説というと、偉人や奇人の話であることが多いものですが、この作品の主人公は城主ではあるけれども、どこにでもいそうな男です。そして、石田三成や大谷吉継といった歴史上有名な人たちも出てきますが、キャラクター性がユニークで、一般的な歴史小説とは一線を画す作品という気がします。
主人公成田長親の生き方を見ていると、トップに立つ人の資質を考えさせられます。現代でも、部下が上司を慕う部署や会社は、何があっても大体上手く行くものであり、いつの時代にも通じる話だと感じます。2012年に映画化され、主人公を野村萬斎が演じて話題になりました。
みんなのレビュー
豊臣秀吉が小田原征伐する時に豊臣ではなく負ける北条サイドについた忍城の人達の籠城戦の話。歴史の流れの話というよりは、城主の人柄や日々の生活を中心に描かれているので、歴史に詳しくなくても歴史にあまり興味がなくてもかなり読みやすいです。
honto
第16位「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 」
読んでみて
毎日出版文化賞を受賞した、塩野七生(ななみ)の初期の傑作と言われています。15〜16世紀のルネサンス時代に生きたチェーザレ・ボルジアを描いた作品です。権謀術数を尽くした男として知られるチェーザレ・ボルジアの生身の人間の姿が見えてきて、非常に面白いです。実際にいたら嫌な男なのに、つい惹かれてしまう気持ちがよくわかります。
チェーザレ・ボルジアという名前を知らなくても、既成観念にとらわれない男の話として十分に楽しめます。塩野七生は数多くの作品を手がけていますが、最初に読むなら本作がおすすめです。イタリアの歴史を知るにも適した歴史小説です。
みんなのレビュー
塩野さんの著書は何度読んでも飽きない。塩野さんのイタリアの歴史に対する愛情を感じる。チェーザレ・ボルジアはかなりの冷酷、暴君として通常は描かれているが、塩野さんの人間愛によるチェーザレは、彼も所詮は命に限りある生身の人間であったことに気づかされる。
楽天ブックス
彼と同時期に日本では織田信長がいて、妹のお市の方がやはり兄の暴政で自分の運命を翻弄されていた事実は非常に面白い。
第17位「甲賀忍法帖」
読んでみて
戦後日本を代表する伝奇小説家である山田風太郎が1958年より連載を始めた作品です。忍者たちの死闘がメインではありますが、その華やかな技とは裏腹に、忍者たちの悲劇性や苦悩も描かれていて、重層的な面白さが味わえます。
異能の者が登場するあたりは、「鬼滅の刃」や「ジョジョの奇妙な冒険」を思い起こさせ、本作がバトルものの漫画の原点と言われる所以もよく理解できます。結末は「ロミオとジュリエット」のようで、エンターテインメントの要素がふんだんに込められた作品です。
みんなのレビュー
面白~い!なのに最後のこのせつない余韻は何だろう。儚く散るしかなかった伊賀と甲賀両十人衆各々の思いか、 権力の道具として弄ばれる忍者の悲しみか。それぞれの忍法を駆使する討ち討たれの隙のない展開に溜め息。忍法帖の原点だなぁ。
honto
主役の朧と弦之介の影が薄いように感じたが、宿命に耐え忍ぶ二人の姿こそ忍者なのかも。
第18位「御宿かわせみ 1〜34」
読んでみて
40年以上続いている大河小説「御宿かわせみ」シリーズは、文字をたどっているだけなのに江戸の風景が目の前に浮かび、食べ物の香りがたちこめてくる、江戸の風情を感じる作品です。事件を解決するミステリー調の筋書きに加えて、主人公たちの恋模様や家族の様子が、時を経るごとに変わっていく様子を見守るのも嬉しくなります。
一編の分量が少ないので読みやすいため、長編大河小説ですがいつの間にか読了してしまいます。第一作である本作の段階で、メインキャラクターたちの設定がしっかり作り込まれているため、連作しても芯がブレずに納得できる展開になっています。現在は、初期の主人公たちの子供世代が活躍する話が続いています。
みんなのレビュー
御宿かわせみシリーズの第1作。その人気がよくわかる。第1作目から主人公の魅力にひきつけられる。自由気ままな与力の冷や飯食いの”神林東吾”と小さな宿のおかみである元八丁堀の娘である”るい”。その二人の恋物語りも絡めながら、様々な事件を解決していく。
honto
江戸の市民の人情にほろりとさせられるお話もあって、心が温かくなる。全編を通して、本来の日本人の気質や在り方を感じる事ができる作品。
第19位「天平の甍」
読んでみて
芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した本作は、井上靖の代表作の一つです。奈良時代、唐へ留学した若い僧たちの物語です。鑑真が日本へ招かれたという歴史事実は学んで知っていても、その裏にあったであろう人々の苦難と悩みを想像することは難しいものです。この作品は私たちが遠い奈良時代を思う架け橋となってくれます。
井上靖の小説は、静かで淡々と語られているのに、いつの間にか物語に引き込まれています。命懸けで海を渡り、また同じ危険を冒して日本へ知識や技術を持ち帰ろうとした人たち、志半ばで倒れた人々のことを自然と思い浮かべ、歴史が人々の生を紡いだものであることを改めて感じます。
みんなのレビュー
井上靖の最高傑作のひとつ。歴史版だ。井上靖の著作は全部読んでいるが、この本にも井上靖の哲学がありありと出ている。永遠と瞬間そして独特の厭世観だろう。
honto
この世に生まれていったいなにをすればいいのか。いったいなにが価値のある行為なのだろう。悠久なる時のながれにおいて個々人の行為はどういった意味をもつのだろう。ちっぽけな人間の存在、けれどもなにか時を越える行為があるのではないか。数名の留学層の生き方を通じて読者にじっくり考えさせてくれる。
第20位「土方歳三散華」
読んでみて
新撰組や土方歳三を描いた小説は色々読みましたが、個人的に一番気に入っているのが本書です。史実がどうだったのかはさておき、冷酷なまでに隊の規律を守ろうとしたその裏には、誰よりも人情深い一面が土方歳三にはあったというイメージが、筆者にもしっくりきました。
啖呵を切る姿が痛快であると同時に切なくなります。自分の中にある苦悩をどうにか断ち切ろうとする土方歳三が愛おしく、かっこいい生き様だなあと感じました。歴史を知るというよりも、土方歳三の本性を覗く時代小説でしょう。
みんなのレビュー
この本の土方さん、かっこいい!剣の腕はもちろん、頭もきれる。蝦夷に行ってからの章が特に好き。「俺が、生きて薩長にくだったら、地獄の底にいった日に、近藤に合わせる顔がねえのだ」という台詞が忘れられない。
honto
勝てぬと分かっていながら最後の最後まで戦い抜いた彼こそ本物の武士だと思いました。