第21位「新源氏物語 上・中・下」
読んでみて
初めて読んだ中学生の時には、この話が平安時代の話であることも忘れるほど登場人物たちの思考が理解でき、一気に惹かれました。源氏の行動は、冷静に考えればひどいものが多いのですが、それでも許してしまうものを女性たちは感じていたのだろうと思います。読み進めていくうちに、源氏に対して哀れな印象も持つようになりました。
源氏物語の翻訳物としては一番読みやすかったです。原作に忠実というよりも、物語全体の雰囲気や登場人物のざっくりとした性格や考え方について上手に描かれているので、まずは本作でそこを理解してから本格的に源氏物語に向き合うことをおすすめします。
みんなのレビュー
むずかしい言葉遣いはいっさいなく、現代人でも読みやすい。 環境描写は華麗で鋭く、無駄がなくてリズミカル。 このシリーズは「長くて読むのが辛い」ということがない、おすすめの源氏物語。
honto
第22位「黒牢城」
読んでみて
軍師であった黒田官兵衛の頭の回転の速さを上手に使った歴史ミステリーです。黒田官兵衛も荒木村重も、歴史人物として知識があるだけに、その謎解きの過程がとても面白く、新感覚の楽しさでした。
米澤穂信といえば、熱烈なファンも多い有名な推理小説家です。そんな彼が歴史ミステリーを手がけたというので興味本位で読み始めたのですが、良い意味で裏切られた気がします。時代考証もしっかりされているようで、歴史小説好きにも、ミステリー好きにも満足できる内容だと思います。
みんなのレビュー
「籠城戦中に推理は無理でしょ笑」とかおもいつつ、著者の作品は結構買っていたので興味を惹かれ購入した。一見合いそうにない題材なのに、読んでみると見事にマッチしていて続きが気になって仕事が手につかないほどだった。
読書メーター
登場人物の描写や籠城戦の雰囲気も時代小説家だったかと思わせるほど際立っている。素晴らしい小説だった。
第23位「薔薇の名前 上・下」
読んでみて
世界で異例の大ベストセラー歴史小説として名高い本作は、同時に「難しい」という前評判もよく知られています。筆者も最初は途中で挫折しました。しかし、ヨーロッパの古典や中世キリスト教の知識を入れてから読むと最高に面白いです。ウィットに富んだ会話に心躍ります。
色々考えさせられながらも、早く先が読みたい衝動に駆られる、世界的ベストセラーも納得の傑作です。京極夏彦の作品にイメージが近いので、京極夏彦好きには自信を持っておすすめします。先に映画を観てから読むと、難しさのハードルが下がるかもしれません。
みんなのレビュー
ものすごいものを読んだ。この中に詰まった膨大で豊かな、あらゆる方面に対する知識の量に圧倒された。この『薔薇の名前』自体がまるで文書館のような、ひとつの物語とは思えぬ豊かさを内包している。この文章を解釈する時間も惜しく、文字の現れるままに追いかけて読んでしまった。
読書メーター
第24位「熱源」
読んでみて
第162回直木賞を受賞した本作は、サハリンの物語です。明治維新後、樺太のアイヌはどういう状況になっていたのか、今まで目を向けてこなかったことであり、興味深く読み進めました。バックグラウンドの違う人たちがともに生きるとはどういうことなのか、とても考えさせられます。
山辺安之助という、金田一京助も描いたことのある男の半生を軸に話が進みます。終盤には二葉亭四迷や大隈重信といった有名な歴史上の人物も登場し、これが歴史小説であったことを思い出させられました。アイデンティティをどこに見出すかという部分は現代にも通じる話です。
みんなのレビュー
読み終わった、圧倒的な世界。 まったく知ろうともしなかったアイヌや樺太やその歴史。歴史と言うは簡単だけど、個々にはそれぞれ意志や想い、生活がある。歴史はなんとも残酷でまったくと言っていいほど守られることはなく。 侵略者たちに翻弄されながらも、後ろを向くことなく生きていく様。
読書メーター
インディアンとか先住民への侵略の話は、日本はあまり関係ないと思ってたけど、自分が無知なだけでここにあった。 そして、ただ生きていくだけが難しく、また弱肉強食などたくさんのことを一気に考えさせられた。
第25位「八甲田山死の彷徨」
読んでみて
1902年に起きた八甲田山雪中行軍遭難事件という、世界史上稀に見る大きな山岳事故を描いています。ページを捲るたびに次々と人が亡くなっていきます。違う判断をしていれば死なずに済んだであろうとわかっているだけに、悲しいというよりもやるせない気持ちがどんどん膨らんでいきました。
この行軍は、その後の日本における悪しき軍の在り方を思わせるものです。それでも、冷静に判断する軍人の姿も描かれ、日露戦争前はまだ多様な軍人たちがいたのだと感じます。また、マネジメント研修でテキストとして使われることでも有名な本作は、リーダー論を考える上でも多くの示唆を与えてくれます。
みんなのレビュー
言わずと知れた名作。怖い。リアリティ。そして、考えさせられる。
honto
また、軍隊のありかたや、当時の世相、その後に続く、日露戦争など、読後に頭に広がるその後の日本の立ちゆきと相まって、なんともいえぬ深い気分にさせられる。
第26位「マリー・アントワネット 上・下」
読んでみて
伝記文学の評価が高いシュテファン・ツヴァイクの名著です。社会現象を引き起こした漫画「ベルサイユのばら」の原作と言える作品としても知られます。マリー・アントワネットは、その場の快楽を優先してしまう軽薄さと、生まれ持った高貴さから単に利用されただけの悲劇のヒロイン性を持つ人物であり、見方によってその評価は大きく変わることを実感します。
ツヴァイクはとにかく文章が美しいのですが、その良さを翻訳で損なうことなく表現しているところが素晴らしいです。華麗な比喩に胸が躍り、心地よく言葉に酔うことができます。
みんなのレビュー
37歳の若さで断頭台に消えた彼女の人生を見ることはもちろんフランス革命についても知ることができる。
honto
無知すぎるということは、それだけで罪である、なんて聞いたことがあるが、マリーアントワネットは無知すぎたのか。と考えてしまう。大変革の時代にたまたま居合わせたマリーアントワネットの生涯に興味のある人やフランス革命の全体像に興味がある人はおすすめの本。
第27位「テンペスト 1〜4」
読んでみて
19世紀の琉球王朝を描いた物語です。主人公は女性であることを偽って男性として王宮で出世を重ねていきます。この倒錯した設定からして十分面白いのですが、そこに中国と日本(薩摩)の両属でしか生き残れなかった、地理的に特殊な琉球の悲劇性が加わって、極上のエンターテインメント小説となりました。
琉球史はなかなか深く触れることが少ない歴史ですが、本書は史実よりもドラマティックな展開に重きを置いているため、読んでいて楽しく、琉球の歴史を知る入り口になる小説だと思います。読んだら沖縄に行ってみたくなる作品です。
みんなのレビュー
決して大団円ではないけれど琉球処分という歴史の事実を考えればこういう結末しかないんだろうなと思う。そうだ、沖縄はほんの百年少し前まで国だったんだ。
読書メーター
歴史は逆の立場で見ると風景が変わるものだな。破天荒な物語ではあったのですがいろいろと思わされる結びでした。うん、読んでよかったと思える大作でしたね。
第28位「井上成美」
読んでみて
阿川弘之による海軍提督三部作のうちの一冊です。太平洋戦争に対しては、その犠牲の大きさからどうしてもマイナスの感情のみを抱いてしまいますが、井上成美(しげよし)の存在に、筆者はわずかな救いを見ました。井上は、敵国の英語はしっかり学べとか、よくないことは上司であっても忌憚なく意見するとか、当時の軍人としては相当の変わり者だったからです。
また、太平洋戦争開戦に至るまでの日本で、紆余曲折があったことを知るという意味でも面白い歴史小説です。歴史好きでなければ知っている人が少ない井上成美ですが、この人の目から見ると太平洋戦争は一般的な側面とは違う捉え方ができます。
みんなのレビュー
人はここまで己の信念を貫きとおすことができるものであろうか。私利私欲を捨て、清貧のままその生涯を閉じた。戦前は米英との戦いに対して断じて否を唱え続き、戦後は多くの戦死者を出した責任と慙愧の念を胸に抱いて多くを語らず、若者の教育に一身を捧げた。
honto
文中、ヘーゲルの「歴史を書くことは凡夫には出来ないけれど、歴史を作ることなら馬鹿にでも気違いにでも出来る」に強い印象を持ったのだが、井上成美自身ならこの言葉を近衛文麿や陸軍首脳に叫びたかったであろうと思う。
第29位「渦 妹背山婦女庭訓」
読んでみて
第161回直木賞を受賞した本作は、江戸時代に活躍した人形浄瑠璃作者の近松半二の生涯を描いた歴史小説です。物書きが背負っている宿命でもある、虚が実に食われてしまう恐ろしさの描かれ方が見事でした。ここまで仕事に対して情熱を燃やし続けることができるのは、ある意味で幸せだと思います。
「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」は、文楽や歌舞伎が好きな人にとっては有名な演目で、大化の改新のころを描いているお話です。しかし本作は、文楽や歌舞伎に親しみがない人でも十分楽しむことができます。関西弁の独特のテンポに乗せられ、いつの間にか読み終えてしまうはずです。
みんなのレビュー
人間誰しもが大人になり職に就くと、持つようになるプロフェッショナルとしての要素。
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それを持ってしまう故に、飲み込まれてしまう恐ろしい「渦」。この必然的で自然的尚且つ文化的で芸術的な作品はこの作品が初めてであった。
また、この舞台設定、江戸時代の大坂・道頓堀を上手く想像させるような言葉遣いを自然に書き上げているのが天才的だと感じた。
第30位「関東大震災」
読んでみて
菊池寛賞を受賞した本作は、関東大震災という天災についてはもちろん、混乱の中で生まれた噂によって起きた人災についても描いています。大火災が起きた場所、その理由、克明な被害数など、いつも丁寧な資料調査により得たものを淡々と書く吉村昭の真骨頂を見た気がしました。
首都圏直下型地震はいつ起きてもおかしくないと言われていますが、だからこそこうした過去に向き合う必要があります。地震ももちろん怖いですが、それ以上に流言飛語に多くの人が右往左往するであろう、地震が起こった後のこともきちんと想像しておき、万一の際には冷静になれるようにしたいと思いました。
みんなのレビュー
地震の被害以上に、被災後の人々の悲惨さに唖然とした。死体の山を被服廠跡でまとめて火葬にし、骨の山が3メートルにもなるとは想像を絶する。人々のパニックと政治の無力さが重なって読んでいて胸が苦しくなった。朝鮮人虐殺や大杉栄殺害など、デマに振り回される愚かな群衆には怒りさえ覚えた。
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今後大地震が襲った時にも同じような事が起きるかもしれない。愚かさが招く二次災害だけは防ぎたい。もっと多くの人に読んでもらう本だと思った。
まとめ
歴史小説の面白さは、昔生きた人たちの気持ちに寄り添い、考え、一緒に生きている錯覚を味わえることです。教科書で学んでいては感じることのできない歴史の背景や人々の思いを知ることは、歴史はもちろん、その国に対する理解も深めることに繋がります。それは国際社会を生きる上でとても重要なことです。
歴史小説と一口に言っても、その切り口や作風によって実に様々なものがあります。本に向かった時の読者の心理状況によっても、受け止め方には違いがあります。重たいテーマで今は手が出せない気分でも、年齢を重ねると読める本もあります。
この記事を通して、今はこれを読んでみようかな?と思える本に出会えたなら、ぜひ手に取ってみてください。きっとその本は今のあなたに必要な作品であるはずです。