ナチス・ドイツが行った人体実験とは?主な内容やその影響を紹介

ナチスが人体実験を行った理由は?

囚人に話しかける親衛隊長官
出典:Wikipedia

ナチスが人体実験を行った理由は、大きく分けると以下の2つの理由が当てはまります。

金髪碧眼を増やすため

金髪碧眼のドイツ人が最も良いという価値観だった

ナチスが持つ優生学・選民思想的観点から、「金髪碧眼」のアーリア人を効率的に増やすために双子のメカニズムに興味を持ち、人体実験を繰り返していました。「アーリア人同士の夫婦の間で双子を生まれやすくし、人口を増やしたい」というのが目的の1つだったといえます。

双子たちは当初測定される程度でしたが、そのうち瞳に薬剤を入れて色を変える実験などエスカレートしていき、実験に生還できたとしてもほとんど殺害されました。またアーリア人を増やしたいのとは逆の目的で、ナチスにおける劣等民族たちを減らす、ないしは絶滅させる目的で、並行して断種実験が行われていたのです。

戦争や医療に必要な情報を得るため

実験は戦争において兵士が直面する問題を解決するためだった
出典:Wikipedia

人体実験の目的の多くは、「戦争や医療において知りたい情報」を得るためのものでした。例えば「ドイツ空軍において低体温症の予防と治療のため」「非常時に海水は飲めるのか」「戦場で使用する薬がどの程度有効か」といった、戦争の時の対処において人道的な観点で実験できないことを囚人に対して行っています。これらの実験により被験者は大火傷を負ったり重度の脱水症状になるなど、地獄の苦しみを味わうこととなったのです。

戦後の人体実験の影響

裁判で明らかになった事実に基づき対策がなされた
出典:Wikipedia

第二次世界大戦後にナチス・ドイツの人体実験犯罪が明らかになると、多くの人が残虐さに驚愕しました。そして二度とこのような事が起こらないように行動をとっていきます。ここでは人体実験が発覚した後の影響について解説していきます。

23人の医師が裁かれた

医者裁判を受ける親衛隊の内科医ホーフェン
出典:Wikipedia

医者裁判では、23人の被告人が裁かれました。うち14名が有罪となり、7名が絞首刑となっています。絞首刑された7名は、アドルフ・ヒトラー付きの内科医であったり、強制収容所配属の親衛隊軍医などでした。

死刑となった人物の中で中心的人物の1人が、「ヴァルデマール・ホーフェン」です。ホーフェンはドイツのブーヘンヴァルト強制収容所付き親衛隊軍医であり、収容所でチフスに関する医学実験などで無数の囚人を死亡させました。またユダヤ人や障害者などに対する安楽死計画にも携わっています。ホーフェンは戦後の医師裁判において、人道に背く罪などで死刑が確定し、絞首刑に処されました。

ニュルンベルク綱領を設定

世界医師会はニュルンベルク綱領を元に「ヘルシンキ宣言」を行った
出典:Wikipedia

医師裁判の結果を元に、「ニュルンベルク綱領」と呼ばれる人間を被験者とする研究に関係する一連の倫理原則が制定されました。綱領の10の要点は、「許容されうる医学実験」と題された評決で与えられたもので、内容は以下の通りです。

  1. 被験者の自発的な同意は絶対に不可欠なものである。
  2. 実験は、社会の利益のために実りある結果を生み出すようなものであるべきであり、他の方法や研究手段では実行不可能なものに限り、また無作為でも本質的に不要なものであってはならない。
  3. 実験は、動物実験の結果、及び病気の自然な過程についての知識、研究中の他の問題についての知識、に基づき設計され、予想される結果が実験を正当化させるものでなければならない。
  4. 実験は、すべての不必要な肉体的および精神的な苦痛や怪我を避けるものであるべきである。
  5. 死亡または身体障害を負う傷害が発生すると信じうる先験的な理由がある場合、実験を実施してはならない。ただし、場合によっては、実験医が自ら被験者としての役割も果たしている実験は除く。
  6. 起きうるリスクの程度は、実験によって解決されるべき問題の人道的重要性によって決定されるものを超えてはならない。
  7. 被験者を、わずかな怪我や障害の可能性から守るために、適切な準備と、適切な設備のもとで行われるべきである。
  8. 実験は科学的に資格のある人によってのみ行われるべきである。実験を行う者、または参加する者は、その実験のすべての段階を通して、最高度の技術と注意が要求されるべきである。
  9. 実験の過程で、被験者が実験の継続が不可能であると思われる肉体的または精神的状態に達した場合、実験を終了する自由を被験者に与えるべきである。
  10. 実験の過程で、責任者たる科学者は、その立場で求められる誠実さ、優れた技能、注意深い判断力、に基づいて、万一被験者に傷害、身体障害、または死をもたらす可能性がある場合には、いつでも実験を終了できるよう、備えをしておかなければならない。
Wikipedia

綱領は現在、世界の人権に大きな影響を与えた臨床研究倫理の歴史の中で、最も重要な宣言と考えられています。これが後の世界医師会によって制定された「ヘルシンキ宣言」へと繋がり、世界保健機関によって提案されたヒトを含む生物医学研究のための国際倫理指針の基礎となっているのです。

海外に逃亡した医師もいた

収容所で多くの人体実験をしたメンゲレ(写真中央)
出典:Wikipedia

人体実験に関与した人物の中には、海外に逃亡した医師もいます。アウシュビッツ強制収容所の医師で、人体実験の中心的人物であったヨーゼフ・メンゲレは、行方不明のまま死亡扱いとなっていたものの実は南米に逃亡していました。結局この人物は西ドイツ・イスラエルなどのナチハンターから逃れ続け、1979年に潜伏先のブラジルで死亡しています。

囚人選別の様子、メンゲレはここで労働可能か否かを選別していた
出典:ホロコースト百科事典

メンゲレはアウシュビッツ強制収容所で、囚人の選別を担当し人体実験を行っていました。メンゲレ死亡の頃には、イスラエル諜報特務庁は、ブラジルに潜伏していることまで掴んでいたのだそう。そのためナチ・ハンターは「あと2年あれば逮捕できたのに」とインタビューに答えています。

ナチスの人体実験に関するまとめ

いかがでしたでしょうか?筆者は幼少期に衝撃を受け、長年歴史背景や思想を調べてきました。その結果行きつくのは「ナチスの偏った人種思想」に基づいた心理であり、人間が持つ残虐性の根底を知る歴史的事実だと考えています。戦争時に世界でこういった悲惨な出来事があったことを少しでも多くの人に知って頂けたら幸いです。

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