太陽系外縁天体という言葉を聞くと、天文分野に興味のない人はイマイチよくわからないかもしれません。ですが、そこに関連している冥王星の名前ならわかる人は多いのではないでしょうか。
太陽系外縁天体は、私達の暮らす地球や火星のような惑星と同じく、太陽の周りを公転する天体のことをいいます。太陽を中心とする太陽系には、惑星、準惑星、太陽系小天体、太陽以外の天体の周りにある衛星という分類がなされており、太陽系外縁天体は彗星などと同じ太陽系小天体に分類されています。
近年、太陽系惑星のひとつとして知られ、ファンタジーの題材としても扱われてきた冥王星が惑星ではなく準惑星に分類し直されたというニュースが話題になりました。実はこれが、太陽系外縁天体の存在の証明に大きく影響しているのです。
なぜ冥王星は太陽系惑星ではなかったということがわかったのでしょうか。そもそも太陽系外縁天体とはどんなもので、なぜこんなにも注目されているのでしょうか。
この記事では太陽系外縁天体とはそもそも何なのか、太陽系外縁天体の歴史とこれから将来に期待されていることなどについて深堀りしていきます。
太陽系外縁天体とは
太陽系外縁天体とは、文字通り太陽系の外縁にある天体のことをいいます。彗星や小惑星、惑星間の塵などと同様、太陽系小天体に分類されます。その定義は、太陽系の中で太陽より最も遠い海王星よりもさらに遠い位置にあり、かつ平均的な距離を保って太陽の周りを公転していることです。
正式には、太陽系外縁天体は「エッジワース・カイパーベルト」「オールトの雲」「散乱円盤天体」「冥王星型天体」の総称。日本で太陽系外縁天体という名称が推奨されるようになったのは2007年のことで、冥王星が準惑星に再分類され太陽系外縁天体の存在が明らかになったことがきっかけとなっています。
太陽系の外側を回る天体たち
その数1000個以上
太陽系外縁天体は、数多くの彗星や小惑星、準惑星を含んでいると言われていますが、その全貌は未だに明らかになっていません。太陽系の縁とも言える遥か遠い距離を公転している天体の数は、およそ1000個以上ともされています。
2018年時点では、太陽系小天体にリストアップされている太陽系外縁天体のうち、名前がつけられているものは528、名前のないものについては2000個以上はあるとの報告もあるようです。
周囲には衛星もある
太陽系外縁天体の周囲には80個以上もの衛星があると言われています。中でも冥王星やエリス、マケマケ、ハウメア、クオメアーなどの直径1000km以上の天体については、すべて衛星があることがわかっており、それぞれに名前もつけられています。
基本的に太陽系惑星の衛星の質量は、月以外は主星惑星の1万分の1未満と小さいものがほとんどです。ところが太陽系外縁天体の周囲の衛星は、どれも中心となる天体の10〜100分の1と比較的大きいのが特徴。円形を描く軌道に乗っていることも判明しています。
太陽系外縁天体の種類
赤い天体
太陽系外縁天体のほとんどは、氷でできた赤い天体だと考えられています。そもそも太陽系外縁天体は、木星よりも外側にあった軽い物質が惑星に取り込まれず、氷として残ったものとされ、この氷には水以外にもたくさんの有機物質が含まれています。
長い時間をかけてあたった宇宙線が有機物質を変化させることで、氷の天体は赤く見えるのだとか。「宇宙風化」あるいは「宇宙赤化」と呼ばれる現象です。そのため距離が遠い太陽系外縁天体は、全体的に暗い赤色であることを確認できるようです。
冥王星型天体
惑星になりそうな大きさのものを準惑星と呼びます。太陽系外縁天体のうち準惑星に分類できるものを特に区別して「冥王星型天体」と呼んでいます。これは太陽系外縁天体の準惑星の中でも、一番最初に見つかったのが冥王星であることからきているようです。
冥王星が太陽系外縁天体にある準惑星に再分類されたときについた名称で、公式に定義されたのは2008年と、比較的最近のこと。2019年時点では冥王星、エリス、マケマケ、ハウメアが冥王星型天体とされていますが、研究が進めば40以上が冥王星型天体に分類できる可能性があるそうです。
太陽系外縁天体のある場所
エッジワース・カイパーベルト
海王星よりも遠くの太陽系の外縁に円盤状に広がっている、複数の小さな天体の群れのことです。1943年にアイルランドのエッジワースが、1957年にアメリカのカイパーがそれぞれ提唱したことから、その名前がつきました。
エッジワース・カイパーベルトにある天体をエッジワース・カイパーベルト天体と呼び、海王星の軌道の30auから55auまでの間にある天体がそれに分類されています。
散乱円盤天体とオールトの雲
散乱円盤天体は、エッジワース・カイパーベルトより外側にある太陽系外縁天体の群れです。ほとんどの天体は記号で管理されており、名前がつけられているのは冥王星型天体であることがわかっているエリスのみ。距離が遠すぎて未だに曖昧な部分を多く残しています。
太陽系外縁天体には、オールトの雲に含まれている天体もあります。オールトの雲とは太陽系の周りにある1万〜10万auの大きさの、微惑星が球状に分布している部分を指します。彗星の巣ともいわれており、他の惑星の重力作用の影響を受けてできています。
太陽系外縁天体が注目されるワケ
太陽系の大きさが変わる!?
太陽系外縁天体は、現代の太陽系形成論において「微惑星」の生き残りと考えられています。微惑星とは、46億年前に太陽系が誕生した時の始原的な天体のこと。太陽から遥か遠く離れたところにそんな存在があること自体、太陽系の大きさの計り知れなさを体感させてくれます。
加えて、太陽系外縁天体にはまだ未知の天体が多く眠っています。これらが解き明かされたとき、太陽系はまだまだ広がりを見せることとなるでしょう。
第9惑星が存在する可能性
太陽系外縁天体で新たな天体が発見されるたび、そこには第9惑星が発見される可能性が眠っているとされています。2018年にも新たな準惑星である2015 TG387が発見され、ゴブリンという愛称がつけられました。
ゴブリンは氷で覆われた準惑星とされ、太陽から遥かに遠い距離を不規則な軌道を描いて公転しています。こうした準惑星があるということは、そこには太陽系の9番目の惑星、ひいては地球と同じように生命を育んでいる惑星が存在する可能性をも示唆しています。
太陽系外縁天体発見の歴史
太陽系外縁天体は、遠すぎるがゆえに太陽の光がわずかにしか届かず、全体的に暗く見えるとされています。そんな太陽系外縁天体が認知され、今日のように研究がなされるようになった歴史を簡単に見ていきましょう。
冥王星は惑星ではなかった
太陽系外縁天体が世間に認知され、その名称が正式に定められるきっかけとなったのが、冥王星の分類が変わったことです。1992年、うお座の中でQB1と名付けられた小惑星が発見され、それを皮切りに数々の太陽系外縁天体が発見されました。
発見された太陽系外縁天体の中には冥王星を超える大きさのものもあり、冥王星も同様に惑星ではないのではないか、と疑問視されるようになりました。国際天文学連合で議論が交わされ、惑星や準惑星の定義を決めたところ、冥王星は惑星の定義をすべて満たしていないため、準惑星に再分類されることとなったのです。
惑星になりきれなかった天体
エッジワースの仮設
1930年に冥王星が発見されてから、多くの人々が冥王星の周辺に他の星が存在することを想像しました。ケネス・エッジワースもその1人。彼は1943年に、海王星よりも遠方には物質同士の間隔が広いために惑星になることのできなかった天体が存在している、という仮設を立てました。その天体が存在する領域から一部の天体が太陽系の内部に訪れ、彗星になると考えたのです。
カイパーの推測
1951年、ジェラルド・カイパーは、太陽系の進化の過程でエッジワースと同様に小天体による円盤が形成されたことを推測し発表しました。少し異なる点としては、当時は冥王星が地球サイズのものと考えられていたため、これらの小天体は冥王星によって太陽系の外に散乱したと結論づけていた点が挙げられます。
現代の太陽系外縁天体の研究
天体同士の衝突
太陽系外縁天体としてその存在が認められるようになった今日、天体同士の細かな衝突が太陽系外縁天体をつくりだしていることがわかってきています。太陽系外縁領域には直径100kmより大きな天体が7万個以上、彗星も無数に存在するとされ、そこでは頻繁に天体同士の衝突が起こっているとされています。
日本で史上初の観測
太陽系外縁には、地球と同等サイズかもっと大きいサイズの惑星が2つ以上はある、と予測されています。一方で、2019年には京都大学の研究チームによって「微惑星」の生き残りとされる小さな天体が発見されました。
「微惑星」とは惑星を形成したとされる始原天体のことです。その生き残りとされるこの天体は半径わずか1kmという極小さなもので、以前から彗星の供給源として存在するといわれていました。これまですばる望遠鏡などの大きな望遠鏡では見つからなかったのですが、京都大学の研究チームが小型望遠鏡を用いて発見。史上初の快挙となったのです。
太陽系外縁天体には、このようにまだまだ未知数の世界が広がっています。これからも新たな発見に期待したいところですね。
太陽系外縁天体ランキング
大きい太陽系外縁天体ベスト3
- 1位:エリス/直径約2400km
- 2位:冥王星/直径約2302km
- 3位:2003 EL61/2000×1000×1200kmくらい
太陽系外縁天体の中では一番最初に見つかり、知名度も高い冥王星ですが、現状では2番目の大きさです。ちなみに、地球の直径は12742km。太陽系外縁には地球と同等のサイズやそれ以上のサイズもあるといわれているので、冥王星やエリスはそれに比べたらまだ小さい方です。今後研究が進めば、このランキングも変化していくでしょう。
遠い太陽系外縁天体ベスト3
- 1位:Farout(ファーアウト) /約120AU(180億km)
- 2位:セドナ/約76AU(112億5200万~約1430億km)
- 3位:マケマケ/約46AU(55億8100万~80億3200万km)
AUはAstronomical Unitの略で、日本語では「天文単位」と呼びます。太陽と地球との平均的な距離を示す単位で、1AUは太陽と地球との距離が約1億5000万kmであることを意味しており、天文学で距離を表すのに使われます。
それだけでも気の遠くなるような数字ですが、その120倍もの距離の先にFaroutという天体があることがわかりました。その存在がはっきりとしたのは2018年のこと。太陽の周りを1000年以上もの長い月日をかけてまわっていると言われています。
太陽系外縁天体の書籍
最新 惑星入門/著・渡部潤一、渡部好恵(朝日新書)
太陽系の惑星から太陽系外縁天体までを網羅した専門書です。著者の1人渡部潤一氏は、国際天文学連合「惑星の定義委員会」の委員として、冥王星を惑星ではないという最終決定をおこなったメンバーの1人でもあります。専門的な内容ではありますが、太陽系全体をきちんと知りたい方への入門書としてもおすすめ。
「マーカス・チャウンの太陽系図鑑」
太陽系の基本からオールトの雲まで幅広く網羅した図鑑。NASAやその他宇宙機関から寄せられた400点以上もの美しい写真が掲載されており、太陽系の姿を視覚的にイメージできます。大人から子供まで太陽系を知ることのできる1冊です。
まとめ
いかがでしたか?今回は太陽系外縁天体についてまとめました。
冥王星が惑星から除外されたニュースは知っていても、太陽系外縁天体が何なのか、どのような歴史があってどのような研究がなされているのか、知る機会のあった人は少ないのではないでしょうか。
太陽系外縁天体は太陽系よりはるかに遠くにあるため、全貌は明らかになっておらず、日々研究が続けられています。そこには太陽系の始まりの秘密が隠されているかもしれませんし、地球と同じように生命を育む星があるかもしれません。なんだか、ワクワクしてしまいますね。
この記事をきっかけに、太陽系外縁天体に少しでも興味を持っていただけたら幸いです。