カートコバーンの遺書の原文や日本語訳は?自殺に至った経緯まで解説

カートコバーンの遺書の表現の解説

グランジファッションに身を包んだカートコバーン
出典:MTRL(マテリアル)

前提として、この遺書は脳内の言葉をそのまま書き起こしたものに近く、文語や口語がかなり入り乱れているのが特徴です。

実際、私のヨーロッパ人の友人にこの文章を見せたところ、「この遺書単体では、文脈がよくわからず、理解できない箇所がいくつかある」という感想を述べていました。

ただ、カートコバーンの生涯を知ることで、その大まかな意味を推測することは可能です。

ここでは、遺書の中のいくつかの表現を取り上げ、カートの人生とあわせて考えることで、彼がどのようなことを述べたかったのかという点を検討していきましょう。

To boddah(ボッダへ)

この手紙の宛先として、カートコバーンは冒頭に「ボッダへ」と記載しています。

これは、彼が2歳ごろに脳内に作り上げた架空の友人の名前です。

幼少期のカートコバーン

仏教用語であり、カート自身のバンド名である「NIRVANA(涅槃)」との連想から、これを「ブッダ」のことであると考える人もいるようですが、特に関係はありません。

The fact is, I can’t fool you, any one of you.
(本当のことを言えば、僕は君たちを誰ひとり騙すことなんてできない)

カートコバーンは、メディアの作り上げる「ロックスター像」に強い嫌悪感を抱いており、ロックが商業的に利用されることを何よりも嫌っていました。

しかし、セカンドアルバムである「Never Mind」が商業的成功を収めた後、皮肉にも彼自身が「悲劇のロックスター」という烙印を押される事になります。その後、カートは、メディアが作り上げようとする虚像と現実とのギャップに、いつも苦しんでいました。

なぜなら、彼は「偽りの自分を見せること」を最も重い罪だと考えていたからです。この一節は、そんなカートの苦悩が滲み出るような文になっています。

but since the age of seven, I’ve become hateful towards all humans in general.
(でも、7歳の時から、僕はほとんど全ての人間に嫌悪感を抱くようになったんだ。)

一般的に、カートコバーンの生涯に最も大きな影響を与えたできごとは、彼が9歳のときの両親の離婚だと言われています。

離婚の大きなきっかけとなったのは、カートが7歳のとき、父の転職によって給与が少なくなったこと。そのころ、金銭的な問題から、コバーン家の家庭内のストレスは急激に高まっていました。

また、父から毎日のように受ける体罰によって、カート自身は大きな心の傷を受けていたようです。

幸せな家庭を夢見ていたカートにとって、家庭内不和が始まった7歳という年齢は、彼の人間不信が芽生えるきっかけとなった年だったのでしょう。

I don’t have the passion anymore, and so remember, it’s better to burn out than to fade away.
(僕の中にはもうなんの情熱も残っていないんだ。だから覚えておいてくれ、少しずつ消えて行くよりは、いっそのこと燃え尽きた方がいいんだってことを。)

“ It’s better to burn out than to fade away.(少しずつ消えて行くよりは、いっそのこと燃え尽きた方がいい) ”というのは、ロックミュージシャンであるニール・ヤングの「Hey Hey,My My」という曲の歌詞を引用した一節。

「Hey Hey,My My」

生前カートと親交のあったニールヤングの言葉は、死に向かうカートの心情を表現するのにぴったりの言葉だったのでしょう。

ただ、ニール自身はカートが自分の言葉を引用した自殺してしまったことにショックを受けており、「カートが死んであの書置きが残してあって、あれは俺の中でものすごく大きく響いたんだ。あれには本当に打ちのめされた」と述べています。

参考:ニール・ヤング、カート・コバーンの遺書に歌詞を引用されたのには打ちのめされたと語る/rockin’on com.

For her life, which will be so much happier without me. I LOVE YOU, I LOVE YOU!
(彼女の人生は、僕がいない方が幸せになれるはずだ。愛している、本当に愛しているよ!)

カートコバーンは、同じくミュージシャンであるコートニー・ラブと結婚し、フランシスという娘を授かります。不遇な家庭環境で幼少期を過ごしたカートは、その痛みを埋めるかのようにコートニーとフランシスを溺愛していました。

カートコバーンとコートニー、フランシス

この一節はそんな愛する家族に向けたもので、遺書の中でも一際大きな文字で書かれています。

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