ジェフリー・ダーマーの生涯をハイライト
17件ものおぞましい殺人を行ったジェフリー・ダーマーは、犯行の拠点となった、ウィスコンシン州ミルウォーキーで生まれた少年でした。
父であるライオネルは、ジェフリーが生まれた当時は大学で電子工学を学ぶ学生であり、そのため生活はひどく不安定だったと言います。また、母であるジョイスは精神的に不安定な人物であり、次第に険悪になっていく夫婦の間で、ジェフリーは幼少期を過ごすこととなりました。
そのような家庭環境の中で、ジェフリーは精神的に不安定な少年として成長。学生時代には一人で森の中を歩いて過ごすことが多かったことが記録されており、父からもらった昆虫採集用の化学薬品セットにのめりこむような、内気な子供だったことが分かっています。
また、幼い頃からネクロフィリア(死体性愛者)としての兆候も記録されており、小動物の死がいや昆虫の死骸を集めて、ホルマリン漬けにして保存していたことも記録されています。また、知能指数自体は高かったものの、学業成績は全く振るわず、彼は周囲から問題児として白眼視される日々を送っていたことも記録され、上手く集団に溶け込めないタイプの子供だったようです。
そして、そんな不仲な両親の関係性は変わらないまま、ジェフリーは問題児として成長していきます。高校の卒業頃には、両親が泥沼の離婚調停を行っていたことも記録され、18歳になっていたジェフリーは両親からともに見放されるようになっていたのです。
そして、そんなジェフリーは高校卒業と同時に最初の殺人を犯します。そのまま転げ落ちるように殺人を重ねながらも、彼は表向きは同性愛に悩む影のある青年として、問題行動こそ多く記録されている物の、なんとか社会生活を送っていきました。
そして、17人の犠牲の末にジェフリーは逮捕。犯行を自白した彼は、証拠不十分として起訴を見送られた最初と2番目の殺人を除く15件の殺人の罪で、終身刑に処されることが決定され、ウィスコンシン州のコロンビア連邦刑務所に送られました。
そして1994年、彼はシャワールームの清掃中に、黒人収容者であるクリストファー・J・スカーヴァーによって撲殺され、この世を去ることになりました。その殺害の同期について、クリストファーは「神に命じられてやった」と語っており、その明白な動機は分からないまま、ジェフリーはこの世を去ることになったのです。
食人鬼が生まれた理由――なぜ彼は殺人に走ったのか――
あまりにもおぞましい犯行の実態から、「ミルウォーキーの食人鬼」という別名で語られるまでに至ったジェフリー・ダーマー。
では、そんな犯行の動機は、一体どこから現れたものだったのでしょうか。このトピックでは、彼の生涯から考えられる、彼が殺人に走った動機について、軽くではありますが考察していきたいと思います。
愛情の欠けた幼少期
ジェフリーの誕生当時は学生であり、そのまま研究者となったことで家庭を顧みなくなった父と、精神的に不安定であり、最終的に薬物依存で寝たきりとなった母。ジェフリーの幼少期は、端的に言って「愛情の欠けた幼少期」だったと言えるでしょう。
また、生まれた時期が少し離れていたとはいえ、両親の離婚に伴って弟のデイヴィッドだけが引き取られ、ジェフリー自身は半ば放棄される形で社会に放り出されたことも、彼の価値観が歪んでしまったことに一役買ってしまったように思えます。
父であるライオネルが度々ジェフリーの世話を焼いたり、祖母や義母が彼の事を機にかけていた様子があったり、母が離婚の際にジェフリーを連れて行こうとしたりと、多少の愛情を注がれていた記録はありますが、それも所詮は後の祭りだったのでしょう。
「両親の育て方に全責任がある」というわけではありませんが、そんな愛情の欠けた幼少期が、彼の人格形成に悪影響を及ぼしてしまったことは、ほとんど確実だと思われます。
上手くいかない社会生活
18歳で社会に放り出されたジェフリーでしたが、学生時代から苦痛を紛らわすためにアルコールに逃避していたこともあり、その時点ですでにアルコール依存症らしき症状を発症していました。
そのため、父の勧めで入学したオハイオ州立大学も、授業をまともに受けることなく半年ほどで退学勧告を受けて退学。その後はアメリカ陸軍に入隊し、当初こそ真面目に昇進していくことになりますが、ドイツ勤務となって、免税店で酒が安く買えることになったことで、再び酒浸りの日々を送ることに。
これによって任務をこなせなくなったジェフリーは、兵役満了を待たずに除隊させられることになってしまいました。このような上手くいかない社会生活も、ジェフリーの歪んだ衝動を育てる原因になってしまったのではないでしょうか。
余談ですが、ジェフリーがドイツ勤務をしていた5年ほどの間に、駐留していたバウムホルダー基地の周辺で5件の未解決殺人事件が起きています。これについてはジェフリーも自白しておらず、真相は不明ですが、彼が関わった殺人だという説も根強く囁かれているようです。
向けられる偏見の目
現在も度々社会問題として取り上げられ、多くの議論を呼んでいる同性愛者に対する差別や偏見の問題。同性愛者としての自覚を持っていたジェフリーも、その偏見の目に対する鬱屈を抱えていたと思われます。
明確な記録として、「ジェフリーが偏見の目に悩んでいた」という言葉は残されていませんが、彼の被害者が全てハンサムな男性であったことや、ゲイバーに入り浸ったり、少年に性的暴行を加えたりしていたことから、彼が自身の性向に鬱屈を抱えていたことは確かに読み取れるでしょう。
記録として何かが残っているわけではない、想像の面が大きい部分ではありますが、周囲からの無理解と偏見に満ちた目が、ジェフリーの犯行を助長した可能性についても、社会問題として考えておく必要がありそうです。