田山花袋とはどんな人?代表作は?【功績や都市伝説、生涯年表について詳しく紹介】

1914年 – 42歳「日本一周の刊行」

明治期の日本地図

紀行文にも生かされる花袋の筆力

1914年から2年かけて刊行された「日本一周」は合計で1800ページ、写真400枚以上を使った大作でした。紹介された地域は100箇所以上で、中には地図や案内記を参考にして書かれた箇所もありましたが、基本的に花袋が自分で訪ねて、見たままを正確に書いています。

花袋は温泉も好きで、日本各地の温泉を巡りました。「温泉めぐり」は今でも広く人々に親しまれています。現在も多くの旅行案内や温泉ガイドが出版されていますが、昭和になる前に花袋によってそれらの原型ができていたのだと思うと、とても興味深いことです。

花袋の紀行文を読んでいると、時間も場所も自由に飛び越えた旅行が楽しめます。実際に自分が知っている場所の過去と現在を比べてみるのも楽しいことでしょう。

関東大震災

1923年9月1日に起きた関東大震災は東京と神奈川だけでなく、隣接する千葉や茨城にも大きな被害を与えました。この大震災の翌年に花袋は東京震災記を刊行します。花袋自身の被災状況だけでなく、さまざまな人に聞き取りをして、その体験を描いているため、生の記録としての迫力が伝わってくるように感じます。

現在の私たちとは感覚が違うため、少し引っかかる部分はありますが(例えば朝鮮の人たちに対する思いなど)、貴重な記録であることには変わりありません。花袋の筆のおかげで私たちは、関東大震災を生々しく感じることができるのです。

平成時代になってからも、何度も大地震を経験した日本。花袋はその作品を通して、現代の日本人に大切なヒントをくれようとしているのかもしれません。

1930年 – 58歳「花袋、死去」

花袋が眠る多磨霊園入り口

花袋の病

花袋は亡くなる2年前に脳溢血で倒れます。脳溢血は脳出血とも言い、頭蓋骨の内部で出血している状態のことを言います。花袋は肥満気味であったことなどから、血圧も高く、脳溢血を起こしやすい状態だったのではないかと思われます。

花袋を診察した医師は、花袋の体の状態から脳溢血を起こす可能性を考えていましたが、それまでの花袋は至って健康だったため、脳溢血に対する注意は花袋には伝えられなかったようです。

懸命な治療の結果、花袋は脳溢血を乗り越え、自力で歩行できるほどに回復しましたが、退院した花袋を今度は咽頭がんが襲ったのです。

死ぬ前の心境

放射線治療によって一時は回復したように感じられた花袋でしたが、1930年には症状が悪化して流動食のようなものしか口にできなくなります。意識ははっきりとしているのに、水を飲むのも苦しい状態が続き、花袋は自分でも死を覚悟せざるを得なくなります。

この年の5月10日には、痛み止め以外の治療を断りますが、その翌日に花袋のもとを訪れたのが、島崎藤村でした。

彼は花袋に死ぬ前の心境とはどんなものかと尋ねます。花袋は問に単純な気持ちではないと答えますが、確かに死を目前にしてその気持ちを語るのはどんな人にとっても難しいことでしょう。もしこの気持ちを確かな言葉にすることができれば、花袋にはもう1つの傑作ができたに違いありません。

こうして花袋は5月13日に死去。多磨霊園に葬られます。墓石には島崎藤村の書が刻まれました。花袋の希望により土葬だったと言いますが、なぜだったのでしょうか。燃やされずに自然に還りたかったのか、それともそれほど知らない世界に行くことが怖かったのか、考えさせられます。

田山花袋の関連作品

おすすめ書籍・本・漫画

蒲団(青空文庫POD)

中年男性の若い女性の弟子に対する屈折した思いが描かれています。それを気持ちが悪いと感じる人もいるでしょうが、人間の心の中には必ずこんな思いがあるのではないかと妙に納得させられる作品です。

しかし、この主人公が花袋本人だとしたら、当時は35歳です。現代と当時では35歳の重みが全く違うのかもしれませんが、まだまだ先がある若い年齢です。蒲団に顔をうずめて泣いている場合ではない、と思うのですが…

東京震災記

関東大震災直後の東京を花袋が実際に歩き、その実態を細かく記録してあります。今から100年近く前の地震のことが、生々しく目の前に迫ってくるように感じ、少し怖かったですが、現代の私たちにも参考になることが多いと思いました。

自然主義文学は肌に合わないと言う人は、このようなルポルタージュの先駆け的な作品から読んでみるのも良いかもしれません。

東京の三十年

花袋の自伝として読んでも面白く、当時の文壇の裏側を知ることができるという点でも面白い作品です。そして東京という街の移り変わりに注目しても面白く読めるので、いろいろな方面から楽しめます。

この作品は花袋から、現代の私たちに向けた贈り物のように思えます。私たちは東京の三十年を読むことで、タイムマシンに乗った気分が味わえるのです。

現在から未来に向けて、文壇の裏側や東京の街の移り変わりを伝えてくれる小説家は誰でしょうか。私たちは未来の人たちにこんな気の利いた贈り物を残しておけるのでしょうか。

関連外部リンク

田山花袋についてのまとめ

小説「蒲団」のイメージが一人歩きをすることが多い田山花袋ですが、その人生を追っていくと、着実に仕事をする真面目な人柄が浮かび上がってきました。

人の心の中を丹念に表そうとした結果が「蒲団」であり、それで人々が騒いだのは花袋にとっては意外な結果だったのではないでしょうか。

自分や自分の周りの人の心を掘り下げるのは少し怖いと思うとき、花袋の作品を読めば人の心を知る良い手がかりになるのではないでしょうか。自分に自信が持てないときには、ぜひ花袋の作品を読んで欲しいです。

そして花袋のことだけでなく、モデルとなった人々の人生にも思いをはせながら花袋の作品を味わって下さい。

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