富岡製糸場が世界遺産に選ばれた5つの理由
①絹産業の発展に貢献したから
富岡製糸場は日本の工場でありながら、世界の絹産業発展に貢献しています。開業当時、富岡製糸場は全長140メートルの繰糸場をもつ世界最大規模の製糸場でした。19世紀に製糸業が国の基幹産業だったフランスから技術者を呼び、ヨーロッパの製糸技術を導入して富岡製糸場は作られたのです。また、製糸場の敷地は広かったため、創業後も次々に最新の器械を用いることができました。
最初の目的こそ「ヨーロッパの技術を導入して生産性を高める」でしたが、時がたつにつれて最先端の製糸技術が富岡製糸場に結集するようになります。富岡で作られた高品質の絹糸は世界でもてはやされ、また高い製糸技術も富岡から世界へ広がりました。こうして富岡製糸場は日本の工場でありながら、世界の絹産業の発展に貢献したのです。
②日本の近代化がわかる遺産だから
富岡製糸場にヨーロッパの技術が導入されたのをきっかけに、日本でも工業分野で機械化が進みました。それまで何かモノを作り出す仕事はほとんど手作業で行われていましたが、作業に機械が導入されたことで生産性は格段に向上。「大量生産・大量消費」がもてはやされるようになったこの頃は、日本でも近代化が進んだ時期だったといえるでしょう。
③女性にとよって良い労働環境だったから
富岡製糸場は労働環境の面でもフランスをお手本としました。製糸場では日本で初めて1週間を7日とする七曜制が導入され、創業当時は1日8時間労働で日曜休み、夏と年末年始には10日ずつの休暇が設けられています。さらに初代場長の尾高惇忠は工女の教育に力を入れていたため、仕事の後には夜学を受けることもできました。
工女には習熟度によって等級があり、年俸が一等工女は25円、二等工女は18円などと決まっていました。明治時代初期の1円を現在の貨幣価値に換算すると1490円ですが、物価などと考え合わせると現代の2万円ほどの価値があるとされています。富岡製糸場は当時としてはかなり待遇のよい工場でした。
④日本ならではの建築だから
先ほどもご紹介しましたように、富岡製糸場の建築は日本とヨーロッパの建築技法を組み合わせた珍しいものです。ヨーロッパの建築技法「木骨レンガ造」に瓦屋根を吹いているところも珍しいのですが、レンガを接着しているのが漆喰を改良したものという点もポイント。日本古来の漆喰に砂を混ぜたこの素材のおかげで、木組みに重いレンガや瓦を乗せても丈夫に状態を保てているといえます。
⑤建物の保存状態が良いから
富岡製糸場のレンガの積み方は「フランス積み(フランドル積み)」と呼ばれるものです。明治初期の建物では多く使われた技法なのですが、中期にかけてより強固な「イギリス積み」が主流となっていきます。そういったレンガの積み方も含め、今となっては珍しい建築がしっかり残っていることも世界遺産登録の大きな理由になりました。
1938年に富岡製糸場は「片倉工業」の所有となるのですが、1987年に閉業した後も片倉工業は一般向けに公開はせず、施設の維持と保存に注力しました。修復工事をするときも、採算度外視で建築当時の技法で行うことにこだわったといわれています。富岡製糸場が世界遺産になったのにはこのような片倉工業の努力が一役買っているのです。
富岡製糸場の国宝
繰糸所
繰糸所(そうしじょ)は繭から生糸をとるための施設です。全長141.8メートル、幅12.6メートル、高さ11.8メートルの大きな建物で、木骨レンガ造で作られています。繰糸所内では、工女たちが繭を煮て糸を引き出していました。
繰糸所の屋根は、大きな屋根の上にもう1つ小さな屋根が乗った形をしています。これは繭を煮て生糸を引き出すために、お湯から立ち上る蒸気を逃がすための構造です。
窓が大きいのも特徴の1つです。製糸場が操業した当時は電灯がなく、工女たちは自然光で細かな作業をしなければなりませんでした。そのため、外からの光ができるだけたくさん入るような設計になっています。
東置繭所
富岡製糸場には繭倉庫が2つあり、こちらは東側にある「東置繭所」です。繭が保管されていたのは2階部分で、32トンもの繭を貯蔵することができました。全長104メートルほどもある長大な建物です。
中央部分の入口はアーチ状になっていて、その中央には「キーストーン」と呼ばれる石材があります。周りのレンガ積みが崩れないように引き締める役割をもったもので、東置繭所のキーストーンには「明治五年」と創業した年が彫られています。
西置繭所
「西置繭所」は東置繭所から少し離れたところに建っています。2つの倉庫の大きさは同じくらいですが、東置繭所にあるアーチがないことや窓の数などが違いです。
建てられた当初、1階の北半分は石炭を積むために柱のみの構造で、レンガ造ではありませんでした。現在のレンガ造になったのは1981年のことです。そのためレンガの積み方が異なり、1階部分は平積み、建設当初の形を残している2階部分はフランス積みとなっています。