巴御前とは、源平争乱期に活躍したとされる女性武将です。主に物語に登場する人物である彼女は、実在こそ定かではありませんが、その分だけ濃いエピソードを多数持ち、現在でも創作の題材として親しまれています。
しかし創作の題材として親しまれている分、彼女にまつわる逸話は審議定かならざるものが多く、”史実における巴御前”という実像は未だに定かなものが見つかっていないというのが実際のところです。
ということでこの記事では、巴御前という人物の史実性やエピソードなどを、なるべく丁寧に解説していきたいともいます。
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フリーライター、mizuumi(ミズウミ)。大学にて日本史や世界史を中心に、哲学史や法史など幅広い分野の歴史を4年間学ぶ。卒業後は図書館での勤務経験を経てフリーライターへ。独学期間も含めると歴史を学んだ期間は20年にも及ぶ。現在はシナリオライターとしても活動し、歴史を扱うゲームの監修などにも従事。
巴御前とはどんな人物か
名前 | 巴御前 |
---|---|
誕生日 | 不明 1150年代説が有力 |
没日 | 不明 1240年代説が有力 |
生地 | 不明 武蔵国説が有力 |
没地 | 不明 越中国礪波郡福光説が有力 |
配偶者 | 不明 和田義盛や木曽義仲との説がある |
子孫 | 不明 木曾義高や朝比奈義秀との説がある |
埋葬場所 | 不明 多数が存在 |
巴御前の生涯をハイライト
巴御前という人物は、いわゆる一次資料と呼ばれる歴史書には登場しない人物です。そのため彼女の生涯を辿るには、多くの物語を繋ぎ合わせて語っていく必要があります。
もっとも古くから巴御前が登場する『延慶本』において、彼女は主君である源義仲(木曽義仲)の幼馴染として登場します。女性の身でありながら非常に力が強く、それでいて美しい容姿だった彼女は、義仲の稽古相手であると同時に便女(びんじょ)としても見出され、彼の配下となったと描かれています。
そのような一面を示すように、『源平盛衰記』においての巴御前は、義仲が参戦した戦における大将の一騎として名が見られ、倶利伽羅峠の戦いや横田河原の戦いなどの名だたる合戦で武勇を振るう姿が描かれています。
そして、どの物語にも描かれているのが義仲との離別の場面。戦場で追い詰められた義仲は、自身と共に討死しようとする巴御前に対し「生き延びて私の武勇を語り告げ」「最期の時に女を連れていたなどと言われては格好がつかん」と告げて、彼女に落ち延びるよう説得。苦渋の末にこれを受けた巴御前は、「最後の奉公です」として、敵将である御田八郎師重を討ち取って戦場を去りました。
これ以降の巴御前の消息はほとんどの物語に描かれておらず不明ですが、『源平盛衰記』では源頼朝に捕らえられ、紆余曲折の末に和田義盛の妻となったと言われています。
そして義盛が和田合戦で討死すると、巴御前は越中国の石黒氏に身を寄せて出家。戦で散った主君や夫、親や子供たちを弔いながら、91歳でこの世を去ったと伝わっています。
とにかく武人としての逸話が多く残る人物
巴御前という人物を語るには、やはり武人としての側面は欠かせません。主君である木曽義仲の稽古相手として才能を見出されたこともあり、彼女は女性としてというよりは、一角の武人としてのエピソードの方が多く残されています。
特に有名なのは『平家物語』における『木曾最期』と呼ばれる章段のエピソード。義仲に落ち延びるよう厳命された巴は、最後の奉公として敵将を討ち取るのですが、その討ち取り方が彼女の凄まじい武勇を物語っています。
巴が討ち取ったという御田八郎師重は、剛力で有名な武人でした。そんな人物を相手に巴は馬を並走させ、その体に組み付いて馬から引き倒し、そのまま押さえつけて首を斬ったとされています。男性顔負けどころか、並の男性を優に超えるほどの武勇を示すエピソードと言えるでしょう。
他にも『延慶本』では、京都から落ち延びる義仲を追討してきた武者二人を、それぞれ左右の脇で締め上げて首をねじ切ったというとんでもないエピソードも描かれており、いずれの記録でも彼女は武人として多くのエピソードを持っています。
ある偉人も使用した?巴御前の家紋
『源平盛衰記』において巴御前が使用した家紋は、一般的には「三つ巴」と呼ばれる紋様であり、現在も巴御前が描かれる創作では登場する機会が多い紋様です。
”三つ巴”は、いわゆる”巴紋”と呼ばれる家紋であり、時代を問わず非常に多くの人物が使用しています。戦国時代において長尾氏や宮本武蔵が使用した「九曜巴」や、巴投げの語源となった「二つ巴」等は特に有名です。
また、巴御前が使用した「三つ巴」の紋様も歴史上での使用頻度は高く、有名なところで言えば土方歳三や小早川隆景なんかが、三つ巴紋の亜種に当たる「左三つ巴紋」を使用しています。
現代に描かれる巴御前
基本的には「物語の登場人物」という側面が強い巴御前は、現代においてのみならず江戸時代などにおいても、様々な創作の題材として親しまれていました。
室町時代の古典能である『巴』や、江戸時代に発祥した歌舞伎の『女暫(おんなしばらく)』などは巴御前を描く典型的な娯楽作品だと言えるでしょう。
現代においては『Fate/Grand Order』に代表されるゲーム作品やアニメーションなどにも盛んに取り上げられ、巴御前という人物は世界的に有名な女性ともなりつつあるようです。
また、1981年にはアメリカの作家、ジェシカ・アマンダ・サーモンソンが巴御前を題材にした『Tomoe Gozen』という作品を発表。歴史ものというよりはファンタジーものに近く、大ヒットとは言えない作品ではありますが、少なくとも巴御前の名前が、海を渡って外国にまで広まっているのは事実であるようです。