土偶は縄文時代に作られ出土した人型の土製品です。五穀豊穣や子孫繁栄などの祈りが込められた神聖なものと言われています。
しかし、当時の深遠な宗教観が込められて作られた一方で出土した土偶の多くが縄文時代に壊されており時代によって形が異なるなど、不可解な点も見受けられます。そのためか、
「土偶って何のために作られたの?」
「埴輪と何が違うの?」
「女性の土偶が多いのにも理由があるの?」
と疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。教科書で見たことはあっても、土偶を詳しく勉強する機会はなかったですよね。
そこでこの記事では土偶に込められた目的から時代変遷に伴う形の変化、有名な土偶についてまで詳しく解説します。この記事を読めば、土偶に関して抱えている疑問が解決するでしょう。
この記事を書いた人
一橋大卒 歴史学専攻
Rekisiru編集部、京藤 一葉(きょうとういちよう)。一橋大学にて大学院含め6年間歴史学を研究。専攻は世界史の近代〜現代。卒業後は出版業界に就職。世界史・日本史含め多岐に渡る編集業務に従事。その後、結婚を境に地方移住し、現在はWebメディアで編集者に従事。
土偶とは何か
土偶とは、縄文時代に日本各地で作られたとされる土人形です。人型や動物型、植物の形などたくさんの形の土製品(どせいひん)が出土しています。しかし、定義は現在も曖昧なままになっており、一般的には縄文時代に作られた人型のものが「土偶」とされています。
土偶と埴輪(はにわ)の違い
土偶と似たようなものに「埴輪」がありますが、これらはどのような違いがあるのでしょうか?
土偶は縄文時代に作られ、日本各地から出土している土人形です。手足が付いていたり、乳房や妊婦をかたどったものが多いことから子孫繁栄、豊穣、再生を祈願するために作られたものと推定されていますが本当の目的は現在も定かではありません。そして、その多くが破壊されているのが最たる特徴です。
一方の埴輪は古墳の周囲に置くために作られた土製の焼き物のこと。円筒の形をした「円筒古墳」や、人や動物の形をした「形象埴輪」などが出土しています。埴輪は古墳に祀られる人の生前の姿や権威を示していたり、死者の霊に捧げるもの、葬儀の様子を表す目的として作られました。
土偶と埴輪は似ているようにも思えますが、素材や作られた時代、用途が全く異なっているのです。
土偶の意味とモチーフ
土偶のモチーフには「女性」と「植物」が挙げられます。
土偶は乳房や臀部がふっくらし、くびれているものが多いことから、女性をモチーフにして作られたと考えられています。また、縄文時代中期の土偶は、腹部が膨らんでいるものも多数あり、妊婦のイメージを彷彿させるのも確かです。
そこから、生命を生み出す神秘的な存在として女性を崇め、豊穣や多産を祈って女性をかたどった土人形を作ったのではないかという説が唱えられました。また生まれてくる子どもの健康を強く祈る占術の意味も込められたとも考えられているとか。
縄文時代の女性の死亡率は10代後半から20代がピークになっており、出産を機に命を多く落とす女性が多かったことが推定されています。さらに、今よりも出産率は高いにもかかわらず人口も20万人後半と少なく、子どもの死亡率も高かったのが予想されているのも事実です。
そういった背景からも女性をモチーフにした土偶を作り、人々の命を占術的に守ろうとしたことが考えられます。
また一方で、土偶は植物をモチーフにしているという説もあります。これは、食用植物に宿っているとされた精霊を讃える中で植物を擬人化して土偶を作り、自然界に対する畏敬を表現したという考えです。
このような祈りを唱える「植物霊祭祀」の痕跡は縄文遺跡から多数発見されており、占術によって自然界をコントロールし、五穀豊穣を祈願したという見方もあります。そこで土偶は植物をかたどって作られたのだろう、という考え方も唱えられるようになりました。
土偶の多くは破壊されている
実は土偶の95パーセントが、故意に破壊された状態で出土しています。これは経年劣化のためではなく、明らかに人の手によってばらばらにされており、わざわざその破片を別の場所に埋めていることも調査から分かっているのです。これにはどのような意味が込められているのでしょうか。
諸説ありますが、祭祀を行う時に土偶を破壊し、厄災を払ったのではないかというのが最有力説です。他には破壊することで体の悪い部分が平癒するように祈願した説や、ばらばらにした土偶を大地に撒き五穀豊穣を祈願した説もあります。
土偶は占術的な意味合いを持ち、「はじめから破壊される」のを目的に作られたと考えられています。科学の無かった時代には、このように占術や神話的なイメージを用いて、日々の生活が良きものになるように祈願していたのです。