国宝認定された有名土偶
土偶は縄文時代を知る手がかりとして非常に希少価値の高い史料です。その中でも国宝認定されている土偶にはどのようなものがあるのでしょうか。
縄文のビーナス(長野県棚畑遺跡)
「縄文のビーナス」と称されるこの土偶は縄文時代中期に作られたとされるもので、長野県棚畑遺跡から出土しました。ややハート形の顔面に釣り目、胸部と臀部の膨らみ、やわらかなくびれが印象的な女性をかたどった土偶です。
高さは27センチと少し大きめ、素材に雲母片(うんもへん)が練りこまれており、肌がうっすらと輝いています。出土する土偶の多くが破損しているにもかかわらず、「縄文のビーナス」は完全な形で出土している点も珍しく、非常に貴重な土偶として国宝に認定されました。
中空土偶(北海道著母内野遺跡)
1975年に函館市のジャガイモ畑で一般の主婦によって発見された北海道唯一の国宝の土偶です。
内部が空洞になっている「中空土偶」で、高さ41.5センチ、約2キロの重さ、日本国内で最大の中空土偶になります。茅部町(かやべちょう)から出土した中空土偶のため「茅空(かっくう)」という愛称で親しまれています。
左右に大きく張った肩やすらっとした長い両足、左右の均衡が取れた表現技法が特徴。くびれはありますが、どこか男性を彷彿させるような出で立ちがあります。
合掌土偶(青森県八戸市風張1遺跡)
体育座りで手を合わせていることから「合掌土偶」と呼ばれている土偶。約3500年前に作られたとされる合掌土偶ですが、このような姿勢をしているのは日本唯一であり、学術的価値も高いと評価されています。
当初は全身が朱く塗られていたことも判明しているほか、破損部分にはアスファルトが塗られており、何度も修復させながら使用されていたことが分かっています。日常生活の中で重要なものとして扱われていたのでしょう。
信仰深く祈る姿から当時の宗教儀礼に使用されていたのではないかとされる見方もある一方で、出産の姿勢だとする見方もあり、非常に貴重な史料だとされています。女性器、眉毛、鼻の穴、肛門なども彫られており、他にはない繊細な作りが特徴です。
縄文の女神(山形県西ノ前遺跡)
1996年、山形県の奥羽線舟形駅付近の発掘調査をした際に発見された縄文時代中期の土偶、「縄文の女神」。当初は左足、腰、頭、胴、右足など5つに割れており、復元した結果、45センチという日本最大級並みの土偶だと判明しました。
腕はないものの、胸部がとんがって表現されているほか、腹部は妊産婦を想起させるような鋭いでっぱりが目を引きます。臀部は後部に向かって突き出ており、両足は分離せずにくっついているのも印象的です。目、鼻、口の表現はなく洗練された雰囲気が特徴の土偶です。
土偶は一般的に破壊されたら遠方に撒かれていたようですが、「縄文の女神」は比較的狭い範囲内で破片が見つかりました。したがって、当時は全ての土偶を同じように扱っていたわけではなく、土偶の中にも役割分担があったのではないかとの研究もなされています。
仮面の女神(長野県中ツ原遺跡)
2000年に長野県中ツ原遺跡から出土した「仮面の女神」での呼称で親しまれる土偶。高さ34センチにもかかわらず、2.7キログラムと重量がありますが、内部が空洞になっている中空土偶の一つです。
何と言ってもこの土偶の特徴は、逆三角形の仮面を着けているような仕上がりです。細い粘土紐でV字が描かれ、その下部に鼻のような突起があります。腹部には渦巻が施され、幾何学的な模様が描かれているのも特徴。足もかなり太く自立する土偶です。
「仮面の女神」が出土した際、右足は切断され破損していましたが、その破片は体の内部に意図的に収められていました。この点からも、何かしらの宗教儀礼的な意味合いで「仮面の女神」が使用されていたことが推定されています。
まとめ
土偶についてまとめました。
見た目のフォルムや表情から、どことなく「可愛らしい」とすら思っていた土偶。しかし、よく調べてみると縄文時代を生きる人々の深い祈りの念が込められているのを知れました。何万年の時を経て畏怖の気持ちすらふつふつと沸き起こってきます。土偶にはそのような不思議な力が包含されているような気がしました。
この記事を通じて、土偶の不思議な魅力が届くと嬉しいです。