「三島由紀夫ってどんな思想を抱いていたの?」
「三島事件の発端になった思想ってなに?」
「三島由紀夫の思想が分かる本を知りたい!」
本記事を読んでいるあなたはこのようなことを思っているのではないでしょうか?
三島由紀夫とは、政治活動家の側面を持つ小説家です。彼の思想を大雑把に区別すると「新右翼」でしょう。新右翼とは民族に大きなこだわりを持った反戦後体制派のことで、特に「米国による日本支配」への批判を行いました。
三島由紀夫はこの新右翼が生まれるきっかけを作った人物です。日本の文化に対する強い思いを持っていた三島は晩年に国の現状を憂い、クーデター未遂事件を起こして自決しました。本記事では三島由紀夫の思想についてわかりやすく解説します。
この記事を書いた人
一橋大卒 歴史学専攻
Rekisiru編集部、京藤 一葉(きょうとういちよう)。一橋大学にて大学院含め6年間歴史学を研究。専攻は世界史の近代〜現代。卒業後は出版業界に就職。世界史・日本史含め多岐に渡る編集業務に従事。その後、結婚を境に地方移住し、現在はWebメディアで編集者に従事。
三島由紀夫はどんな人物だったのか?
三島由紀夫は日本を代表する小説家の1人です。ノーベル文学賞の候補に選ばれるなど、日本だけでなく世界でも認められていた作家で、日本人で初めてアメリカの男性誌「Esquire」の「世界百人」に選ばれました。
また、満年齢と昭和の年数が一致し、昭和の日本の問題を鋭い視点で指摘した人物としても有名です。作家として多数の作品を世に送り出した人物ですが、晩年は政治活動家の側面を強め、民兵組織「楯の会」を設立。
1970年11月25日に「三島事件」と後に呼ばれるクーデター未遂事件を起こし、後の政治活動や文学界に大きな影響を与えました。
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三島由紀夫が抱いていた思想とは?
三島は大きく分けて以下の3つの意見を主張していました。
- 1.日本国の力を削ぐような現憲法の改憲
- 2.自衛隊の国軍化
- 3.天皇による伝統的行事の復活
三島は高度経済成長を遂げる日本社会を見て、このままでは日本が積み上げてきた歴史や文化、伝統が破壊され、国家としての自尊心を失ってしまうという危機感を持っていました。そして、その原因の一つが、海外からの侵略に対して丸腰でいることを強いる現憲法であると結論付けていました。
国を守り、伝統も守るためには物理的な軍事力しかない、という考えを三島は持っていました。このように三島は日本の伝統を心から愛していたのです。
三島事件の発端となった8つの思想
「三島事件」とは、先ほども触れた通り三島由紀夫と「楯の会」の会員数名が起こしたクーデター未遂事件です。日本国内だけでなく、世界からも評価されていた三島がなぜこのような事件を起こしたのか。その発端と思われる思想を8つに分けて紹介します。
- 1.憲法第9条をすべて削除すべきである
- 2.自衛隊は武士道精神を保持すべきである
- 3.日米安保は本質的に日本の問題ではない
- 4.天皇は日本文化の象徴
- 5.特攻隊への賛美
- 6.暗殺とは本来武士の作法に乗っ取った決闘のようなもの
- 7.革命は道義があってこそ
- 8.昭和の戦時下を生きた三島の死生観
1つずつ見ていきましょう。
1.憲法9条をすべて削除すべきである
結論から言うと、三島は憲法第9条に対して否定的な意見を持っていました。また、戦後アメリカとイギリスを代表とする連合国軍の占領下で定められた今の憲法についても、あまり良い感情を抱いていなかったようです。
三島は現憲法は、国際政治の力関係によって政治的に押し付けられた憲法であると捉えていました。そして、現憲法は国体(日本文化のアイデンティティー)と政治が区別されず、一緒くたにされてしまうという問題を持っていると三島は指摘しています。
日本は本来、祭政一致(宗教的行事の主催者と政治的主権者が一致していること)的な国家でした。しかし、現憲法によりもともとの祭政一致的国家であった部分と、海外から押し付けられた行政を主体においた国家の部分に分裂してしまっていると三島は説明しています。
簡単に言うと、現憲法によって日本が今までに積み重ねてきた文化が破壊されてしまうのではないか、という危機感を持っていたようです。
また、日本国憲法第9条について三島は「憲法9条は戦勝国へのお詫びのようなものであり、この先国家として生き残っていけるか怪しい立場に日本を置くものである」と批判しました。
さらにいかなる戦力(自衛権や交戦権)の保有を許されていない憲法9条第2項は、他国の侵略に対して日本は丸腰でなければならないため、国家として死ぬ以外の選択肢しかないと指摘。
そして、日本政府はこういった事態が起きたとき、国家として生き残れるよう現憲法に対して政府は日本にとって都合の良い解釈を立てざるを得ないとしています。これは、本来憲法を守り、そして守らせなくてはいけない政府が自らその憲法を破るという矛盾を孕んでいます。
三島はこの問題について、実際に執行力を持たない法の権威のなさを広く知らしめてしまうばかりか、法と道徳の溝を広げてしまうと指摘しました。さらに現憲法に照らし合わせれば自衛隊は違憲であるとも言っています。
そして、現憲法を日本へ与えたアメリカ自身が自衛隊の創設を認めており、作った本人が第9条を違反しているという矛盾についても指摘。結果、日本は国内外の批判を恐れて護憲を標榜するだけになり、さらにアメリカの要請にしぶしぶ答える形で自衛隊をただ無目的に拡大していると批判しています。
以上の問題の解決案として、三島は第9条すべてを削除するべきであると主張しました。