三島由紀との思想とは?三島事件に至った人生観や哲学をわかりやすく解説

6.暗殺とは本来武士の作法に乗っ取った決闘のようなもの

相手を殺したあとに暗殺者も死ぬのが良い暗殺

暗殺についても、三島は武士道精神を重要視しています。そして、三島はこの武士道精神の有無で暗殺を良い暗殺と悪い暗殺に分けました。

三島の言う良い暗殺とは、目的を遂げたあと暗殺者が必ず自殺するという日本の伝統に沿った作法で行われたものです。三島は暗殺とは決闘のようなものであり、命をかけた一対一の真剣勝負であると捉えていました。

対して、悪い暗殺とは飛行機の爆弾を仕掛けて関係のない人々を巻き込んだり、女子供を殺したりするような暗殺のことです。こういった暗殺は絶対にやってはならない卑劣な行為であると三島は断じています。

そして、三島はこう続けています。今の日本には良い暗殺に分類される「捨て身の暗殺」がなくなってきており、それに伴って政治家が腰抜けになり政治の世界が茶番劇化している、と指摘。そして、言論の自由が確保された今の日本は美しいけれど、命を賭けた言論がなくなってしまったと嘆いています。

7.革命は道義があってこそ

二・二六事件
出典:Wikipedia

暗殺と同じように、三島は革命も良いものと悪いものがあると言っています。たとえば二・二六事件(皇道派という天皇を中心とする日本文化を重んじる思想に影響を受けた青年将校らが起こしたクーデター未遂事件)などは日本の精神文化に基づいた革命だったため、三島は肯定しています。

対して、悪い革命とは日本の文化とは相容れないマルクス主義(社会主義思想のひとつ)に基づく革命です。三島によれば、マルクス主義に基づく革命は反戦や平和、民主主義など聞こえの良いスローガンを掲げ、少数派や不幸な人たちを革命の駒として利用していると言います。

そして、甘い理想を掲げて彼らを権力闘争の場面へ連れていくことは詐欺のようなやり方であり、道義性が失われていると批判しました。

8.昭和の戦時下を生きた三島の死生観

「限りある命ならば永遠に生きたい」という遺書風のメモが書斎から見つかっている
出典:Wikipedia

三島は少年・青年時代の多感な時期に戦争を体験した世代です。そのため、常に「死」を意識しており、彼にとって「死」とは人生において大きなテーマの一つでもありました。そのため、彼は自分の作品でもたびたびこのテーマを扱っています。

三島は文学の中で「死」は「行動」という言葉を残しています。三島は「死」を純粋と絶対の行為として捉えていました。そして、「私は想像するに、ただ一点を付け加えることによってすぐさまその世界を完成する死の方が、ずっと管制官は強烈なのではないか」とも三島は語っています。

この考え方は、もしかすると晩年の三島事件にも繋がっているのかもしれません。

毎日死について考えていた

また、三島は「今日明日死ぬかもしれない」という思いで生きると言う心構えが肝心だと考えています。なぜなら、そう思って仕事をするとき、その仕事が急に生き生きとした光を放つからです。つまり、毎日死を思うことは、毎日生きるということを思うことと同じなのです。

そして、三島は「人間は日々に生き、日々に死ぬ意外に成熟の方法を知らない」と結論づけ、これが人間の行動の強さの厳選となると主張しました。また、理想やなにかのために生きることが大義であり、大義のために死ぬということが人間の最も華々しい、立派な死に方であるとも言いました。

三島は日本のため、人生の最後に三島事件を起こして自殺しました。死生観と合わせて考えれば、彼が持っていた日本への思いの強さが伝わってきますね。

三島由紀夫の死因は?三島事件とは?経緯や背景にある思想も解説

三島由紀夫の作風から見られる思想

三島の作品は相反する二つの要素を組み合わせたものが多い

三島の作品は二元論的なテーマが多く見受けられます。そのため自他ともに二元論者であると認めていました。

二元論とは、相反する2つの原理や基本的要素から構成されるもの、もしくは2つの区分に分けられるとする考え方を指します。たとえば、「善と悪」「昼と夜」などが当てはまります。

三島の作品は、「仮面の告白」や「春の雪」、「純白の夜」など反対の概念を組み合わせた題名が多く存在します。さらに作品のテーマも「生と死」「芸術と人生」「文と武」「精神と肉体」などの二元論が見られます。

実生活でも二元論的考えが根底にあったと見られます。三島はもともと虚弱体質で、そのことをコンプレックスに思っていました。反面、文学という才能に溢れていました。そのため、言葉と肉体という相反する概念に関心を持っており、たびたびそのことについて論じています。

30歳になってからはボディビルを始め、ボクシングや剣道、空手などで自分の肉体を鍛え上げていきました。言葉と肉体について、三島は生涯にわたって考え続けました。

三島由紀夫の思想がわかる本

文化防衛論

三島由紀夫の思想を知る上で欠かせない一冊です。三島自身が書いた本で、戦後日本に対する鋭い指摘がされています。ある程度の読書経験が必要ですが、当時の三島の魂がこもっている貴重な資料です。

人と思想 三島由紀夫

三島由紀夫の生涯と思想についてわかりやすく書かれた一冊です。丁寧な解説をしているため、読書慣れしていない人でも読みやすい内容となっています。

三島由紀夫の思想に関するまとめ

三島由紀夫の思想について、三島事件に至った思想を中心に解説しました。いかがでしたでしょうか。

三島の思想は複雑で理解するのが難しいですが、日本の文化・伝統に対する愛が伝わってきます。演説の後、自ら命を絶って社会に大きな爪痕を残した三島の姿には日本人として考えさせられる点が多くあります。

本記事を読んで、三島の思想について少しでもお伝えできたなら嬉しいです。

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