219年「関羽、死す」
劉備VS孫権 荊州領土問題
関羽の死には、「荊州」をめぐる劉備と孫権の対立が深く関係しています。
まずは、208年の赤壁の戦いまで遡ってみましょう。
劉備と同盟を結んだ孫権は、長江・赤壁にて曹操軍を壊滅させます。曹操は劉備軍の追撃を受けながら、命からがら敗走しました。
赤壁の戦いに勝利した孫権は、周瑜に荊州の攻略を命じます。これを受けて周瑜は、荊州の要所・南郡(江陵)に攻撃を開始しました。曹操軍の猛将である曹仁と徐晃に苦戦を強いられましたが、1年がかりで何とか南郡攻略に成功しました。
しかし、この攻防の隙をついて、劉備は荊州に進出し、零陵・桂陽・武陵・長沙を次々と落としていきました。関羽も、長沙の戦いで太守韓玄の武将・黄忠と対戦しています。
さらに劉備は、零陵・桂陽・武陵・長沙の領地だけでは流民や曹操の敗残兵を養えないという理由で、南郡の割譲を要求しました。苦労して南郡を制圧した周瑜は大反対しますが、周瑜がまもなく病気で亡くなってしまいます。すると、呉の方針が変わり、劉備は南郡を手に入れることに成功しました。周瑜の跡を継いだ魯粛は、曹操の領土に近い南郡に劉備を置くことで、呉の盾として利用しようと考えたのです。
しかし、劉備はその「盾」の役割を果たすことなく、関羽に荊州の留守を任せます。214年に自ら軍を率いて益州(蜀)を制圧、大幅な勢力拡大に成功しました。呉からすれば、劉備にしてやられたのです。
215年に、孫権は諸葛均を派遣し、領土を拡大したのだから荊州を返還するように要求しましたが、劉備はこれを拒否。これ以降、荊州をめぐって劉備と孫権は緊張関係に陥ってしまいます。
結局、全面的な武力衝突を避けるために、関羽と魯粛が話し合いをすることになりました。劉備と孫権の全面対決になれば、曹操に隙をつかれかねないからです。これが、三国志演義でも有名な「単刀会」です。会談は成功し、江夏・長沙・桂陽は孫権が、南郡・武陵・零陵を劉備が領有することで話がまとまりました。これで、荊州の問題はひとまず落ち着いたのですが・・・。
呉と魏の内通、味方の裏切り、関羽の死…
219年、劉備との総力戦に敗れた曹操は、漢中を放棄。長安へと撤退します。漢中を手に入れた劉備は、漢中王に即位します。関羽も五虎大将の一人となりました。
しかし、これを機に魏・呉・蜀の三国関係が急激に変化していきます。
まず、曹操は漢中を奪還すべく孫権と接近します。孫権に、関羽が守る荊州・江陵(南郡)を攻めるように要請したのです。劉備が応戦しようと荊州に向かう隙に、漢中に軍を進めて挟み撃ちにしようという作戦です。
この申し出に孫権は同意します。しかし、荊州を全面的に奪還したいと考えた孫権は、樊城を守備する曹仁も荊州攻略に加わるように願い出ます。逆に、曹仁と関羽が戦う間に荊州に攻め込もうとしたのでした。
すると、江陵を拠点に荊州を守っていた関羽は、曹操軍の曹仁が守る樊城を攻撃します。曹操・孫権の先手を打ったのです。戦いは優勢に進み、曹操軍の武将・于禁を降伏させ、龐徳を処刑します。
敗北を知ると、曹操は呉に江陵を攻撃するように要請します。荊州をめぐって関羽と対立していた呉は、この要請を受諾。孫権は、江陵にむけて大都督・呂蒙率いる大軍を派遣します。すると、関羽が出陣している間に江陵の留守を守っていた糜芳(びぼう)が、呉に寝返り降伏してしまいました。関羽の部下にあたる糜芳ですが、関羽の傲慢な態度に嫌気がさしていたといいます。公安を守っていた傅士仁(ふしじん)も呂蒙に降伏し、荊州は呉の手に落ちました。
荊州の拠点を失った関羽は、樊城と襄陽の包囲を解き、撤退を始めます。孫権軍は更なる追撃を加え、兵糧も奪い、関羽軍を消耗させます。関羽は蜀(益州)を目指しますが、決石(けっせき)の地で、遂に捕らえられてしまいます。関羽は降伏を拒否、処刑されました。その首は曹操の下へ送られました。孫権が義弟・関羽を殺された劉備の怒りを買うことを恐れたからです。曹操は関羽の首を手厚く葬ったといいます。
豪傑の死にしては、あっけないようにも思えます。しかし、蜀をしのぐ国力をもつ魏と呉が手を組んでようやく関羽を倒すことができたわけです。さらに、裏切りがなかったら、援軍が来ていたら、という「もしも」を考えると、様々な要因が重なってやっと関羽の死につながったといえるでしょう。
ただ、味方の裏切りは関羽の傲慢さが招いたとも言えます。呉の大都督・魯粛曰く「人を見下す者は自分も下す」、この言葉通りの結末になってしまいましたね。
関羽 の関連作品
おすすめ書籍・本・漫画
三国志
三国志の現代版古典ともいえる横山光輝先生のマンガです。劉備を主人公に英雄たちの人間ドラマが描かれています。大人にも子供にもおすすめの一冊です。
関羽伝
三国志演義をベースに、関羽にフォーカスした伝記です。関羽ゆかりの地を訪問したり、関羽から数えて62代目の子孫に会ったりもしています。歴史のルポが好きな人にもおすすめの本です。
おすすめ映画
三国志英傑伝 関羽
関羽にフォーカスした映画として、こちらをご紹介しましょう。2011年に中国で製作された映画です。
曹操の軍門に下ってからの活躍、関羽千里行のエピソードを描いています。宿敵であるはずの曹操と関羽の交流にもフォーカスしていますね。アクションシーンも多いので三国志を初めて知る人にもおすすめです。
おすすめドラマ
三国志 Three Kingdoms
2010年に中国で製作された歴史ドラマです。
魏と蜀に物語の重点が置かれ、濃厚な人間ドラマが展開されます。関羽ももちろん登場します。人間離れした強さと義理堅い人格を併せ持っていますが、致命傷となってしまう傲慢さも描かれています。
関連外部リンク
- はじめての三国志
- 三国志 (演義)リッチ サマリー
- スリーキングダムズ | 三国志の雑学サイト
- 一冊でわかるイラストでわかる図解三国志―地図・写真を駆使 超ビジュアル100テーマ オールカラー (SEIBIDO MOOK)
関羽についてのまとめ
三国志の豪傑・関羽。華やかな伝説に彩られた人物ですが、彼の功罪それぞれに目を向けると、新しい関羽像が見えてくると思います。
皆様自身が関羽のプロファイリングを進めてみると、蜀漢へのより深い理解、さらには三国時代の新たな見方ができるかもしれませんよ。