「純文学って聞いたことはあるけど、結局何なんだろう?」
「純文学を読む人はどんなことに魅力を感じているんだろう」
日本文学のなかで、小説は大きく分けて2つのタイプに分かれています。1つはSFやミステリー、恋愛小説などが含まれている「大衆小説」。そしてもう1つが、この記事がおすすめする「純文学」です。
ともすれば「つまらない」と言われてしまいがちな「純文学」。けれどもそこには、読まず嫌いでいるにはもったいない、豊かで魅力的な文学世界が広がっています。この記事では、大学で日本文学を学び「純文学は面白い!」と断言する筆者が純文学の魅力をお伝えします。
この記事を書いた人
一橋大卒 歴史学専攻
Rekisiru編集部、京藤 一葉(きょうとういちよう)。一橋大学にて大学院含め6年間歴史学を研究。専攻は世界史の近代〜現代。卒業後は出版業界に就職。世界史・日本史含め多岐に渡る編集業務に従事。その後、結婚を境に地方移住し、現在はWebメディアで編集者に従事。
そもそも「純文学」とは
純文学は、一般に「文学性を重視した小説」といわれています。日本だけにある文学ジャンルで、海外ではそのような区分はされていません。日本で純文学といわれる作品も、他のジャンルと同じ「小説」です。
ここでいう「文学性」とは、「文学とは何か」「現代社会で文学は何を表現していくべきか」「文学独自の表現とはどういうものか」などを追究しているということです。小説家1人ひとりがそれぞれの「文学性」を追究した作品、それが純文学です。
では、SFやミステリーなどの「大衆小説」との違いは何でしょうか。それは重視しているものの違いです。先ほども書いたとおり純文学は「文学性」に重きを置いていますが、大衆小説は「ストーリー性」を大切にしています。
大衆小説では起承転結がはっきりとした、怒涛の展開をもつストーリーが喜ばれます。けれども純文学は起承転結の曖昧で「あらすじが要約しにくい」のが特徴です。そのため「純文学はつまらない」と言われてしまいがちなのですが、それは追究しているものが違うので面白さが大衆小説と比べられないだけなのです。
以下の記事では、純文学の魅力や歴史、おすすめの作品について詳しく解説しています。
純文学の魅力は?
純文学の魅力は「人の心のよく分からなさ」に触れられることです。それはとても豊かなことだと筆者は考えています。
純文学の登場人物は時々理にかなっていない、ともすれば「何でそんなことしちゃうの!?」と言ってしまいそうな行動をとります。けれども、人間はそういう生き物ではないでしょうか。非合理的なこともしてしまうし、それで取り返しのつかないことになってしまった経験を持つ人もたくさんいるはずです。
現代社会では、とにかく合理的に物事は進むべきだという考えが根強くあります。けれども人間は機械ではありません。合理性ばかりを求めていると、どこかで無理が出てしまいます。
純文学作品を読むと、人間は数字のように割り切れる存在ではなく、非合理的でよく分からない行動もしてしまうし頭の中はさらに分からない、ということがしみこむように分かります。そして、そのようなことが分かると少しだけ心が強く、自分や他人に寛容になれます。それをとても素敵なことだと筆者は考えています。
純文学のおすすめ作品
「純文学」という文学ジャンルは明治時代に生まれたのですが、それでも作品はたくさんあります。「どれから読んでいいか分からない!」とお困りの人は、夏目漱石の『こころ』などいかがでしょうか。
夏目漱石は旧1000円札の肖像にもなっていた、明治時代の小説家です。活動初期は「余裕派」と呼ばれ、人生を高い位置から俯瞰した小説を書いていたのですが、後期に入ると人間のエゴを主題とした作風となっていきます。『こころ』はそんな漱石後期の作品です。
主人公の男性「私」はどこか物憂げで人生を諦観しているような男性「先生」と出会い、その思想を深く知りたくて近づこうとするのですが、先生には他人を拒絶するような雰囲気がありました。主人公が地元に帰っていたある日、先生から長い長い「遺書」が届きます…。読んだ後、人間のエゴとは、そして恋愛とは?と考え込んでしまう純文学の名作です。
以下の記事では他の漱石作品をはじめ、日本の純文学作品や海外文学の代表作などをご紹介しています。
【24年11月最新】純文学のおすすめ本・小説ランキングTOP27
意外と知らない芥川賞のなりたち
日本で最も有名な文学賞といえば「芥川賞」ですよね。実は、芥川賞は純文学を対象とした文学賞です。「よく耳にするけど、そういえばどういう文学賞なんだろう」と思っている人もいらっしゃるでしょう。
芥川賞は12月~翌年5月に発表された作品を対象とする上半期と6月~11月の作品が対象の下半期の年に2回、授賞式が行われる文学賞です。主催は文学雑誌「文藝春秋」の「日本文学振興会」。毎年1月と7月に発表があり、翌々月の「文藝春秋」に受賞作が全文掲載されます。
芥川賞は、「文藝春秋」を創刊した小説家・菊池寛が友人だった芥川龍之介の功績を記念して設立しました。設立された1935年当時、日本には権威のある文学賞がありませんでした。菊池には「海外のノーベル文学賞やゴンクール賞のような文学賞を日本でも」という思いもあったといわれています。
以下の記事では、芥川賞の選考基準や気になる賞金、さらにおすすめの受賞作まで幅広くご紹介しています。
芥川賞とは?直木賞との違いや選考基準、おすすめ受賞作品まで解説
まとめ
いかがでしたでしょうか。
先ほど「純文学の魅力は人の心のよく分からなさに触れられること」と書きました。その「よく分からない」部分には思わず目を覆ってしまいたくなるような感情や思想もあるかもしれません。けれども、ある種ブラックなその部分も人生の一部であり、「豊かさ」の1つである、と筆者は考えています。
人間は美しいばかりではいられない生き物で、その清濁併せ吞む強さを純文学は教えてくれると感じています。読んでくれたあなたが「何か1冊、読んでみようかな…」という気持ちになってくれたらとても嬉しいです。