フリードリヒ・ニーチェは近代を代表する思想家で、実存主義の先駆者として有名な人物です。
誹謗中傷を恐れず、誇りを貫き通した彼の人生と思想は、時代を超えてわたしたちの心に響きます。そんな彼の残した言葉は、どれもわたしたちの背中を押してくれるものばかりです。
今回はニーチェが残した名言やその背景、解釈についてご紹介します。ぜひご覧ください。
ニーチェの名言と意図、背景
神は死んだ
神は死んだ
ニーチェが生きた19世紀後半のヨーロッパは科学が進歩した一方で、生きる意味や意義を見出せない虚無の時代でした。ニーチェは虚無の原因をルサンチマン(弱者の強者への嫉み)にあると考えました。
ルサンチマンとは、克服できない事物への歪んだ嫉みや憎悪のことです。例えばテストの点数が悪かったとき、人は学習不足を恥じるのではなく、「これは将来役に立たない知識だから、問題ない」と、その価値を否定できます。
そしてニーチェは、キリスト教の道徳はこうしたルサンチマンたちの態度を許してしまい、現在の自分を省みる機会を失わせてしまうと批判しました。「神は死んだ」とは、信者たちがキリスト教の道徳を貶めていることを表す言葉です。
この思考は次で紹介する『超人』の名言に繋がります。
私はお前たちに超人を教える
私はお前たちに超人を教える。人間は超克さるべき何物かである。お前たちは人間を超克すべく何ごとをなしたか? 超人は大地の意義である
今までの道徳(キリスト教が説いた道徳)を否定したニーチェは、これまでのすべての価値は無になったと考えました。そして、これからはわたしたち一人一人が新しい価値を持って、自分の意志で生きるべきとしました。
また、ニーチェは人間の尊厳について特に重視していました。尊厳を主張したいのなら、孤独の苦しみに耐えて孤高の生を貫くために強い自己を練り上げなければならないと考えたのです。そしてそれには自己超克(困難や苦しみを乗り越えること)の積み重ねが必要であると説いています。
ニーチェの言う超人とは、自己超克を積み重ねることによって今ある価値に囚われず、新しい価値を生み出す存在のことです。より簡単に言うと、大多数の価値観に従うのではなく、すべてを良しとしたうえで、新しいものを生み出しなさいということです。
世界の80%のお金は、20%の富裕層が所有している、という事実があります。富裕層に生まれなかったから仕方がないと諦めず、試行錯誤を重ねることで金銭的に豊かになり、自由な人生を送れるようになるとニーチェは言っているのかもしれません。
怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない
怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ
この名言は意味は、簡単にいうと「ミイラとりがミイラになる」です。ニーチェは心理学者ではありませんが、意識の優位性という考え方を好んでいました。彼は、意識とは見たり聞いたり、誰かと話たり何かを感じることによって構築されるものと考えました。
なにかを深く知りたいと思ったとき、それが良いものであれ悪いものであれ、わたしたちは知りたいと思った対象に影響されます。ゆえに、もし知りたいものが異常者の心理だった場合、わたしたちもその考えに染まらないよう、しっかりと自己を見つめることが必要だとニーチェは説いています。
そういった点を踏まえて、ニーチェは超人を目指すべきだと言ったのかもしれませんね。
孤独な者よ、君は創造者の道を行く
孤独な者よ、君は創造者の道を行く
今、あなたが孤独の中にいるのなら、それは何かを生み出す創造の素質の表れかもしれません。ニーチェは病気と孤独の中、数々の優れた著書を残しました。たった1人だからこそ、内的世界が豊かになって独特の素晴らしい作品が生まれるのでしょう。
中傷や孤独の中を生き抜いたニーチェの人生は、まさにそれを証明しています。
『なぜ生きるか』を知っている者は、ほとんど、あらゆる『いかに生きるか』に耐えるのだ
『なぜ生きるか』を知っている者は、ほとんど、あらゆる『いかに生きるか』に耐えるのだ
自分がなんのために生きているのか、自分の人生に確かな目標や意味を持っていれば大抵の辛いできごとに耐えられます。ニーチェが誹謗中傷や無視など、世間からの冷遇に耐えられたのも、確かな目的があったからでしょう。
世界には、きみ以外には誰も歩むことのできない唯一の道がある。
世界には、きみ以外には誰も歩むことのできない唯一の道がある。その道はどこに行き着くのか、と問うてはならない。ひたすら進め
あなたの人生がどうなっていくのか、それは誰も知りません。あなたの人生はあなた自身で選び進んでいくものです。キリスト教の教えを否定し、一人一人が自分の道を決めて歩むことを望んだニーチェらしい言葉ですね。
悩んだときは、自分の信じる方向へと進んでみましょう。
われわれに関する他人の悪評は、まったく別の理由から出る腹立ちや不機嫌の表明なのである
われわれに関する他人の悪評は、しばしば本当はわれわれに当てられているのではなく、まったく別の理由から出る腹立ちや不機嫌の表明なのである
ニーチェは物事の本質を見抜く目を持っていました。それは近代に生きながら近代の道徳を否定するという思想から見てとれます。数多くの誹謗中傷を受けたニーチェだからこそ、そうした悪意ある言葉の根本には、劣等感などその人自身が感じている不満があると見抜けたのでしょう。
他人からの誹謗中傷も、そう考えれば受け流せるかもしれませんね。
人は賞賛し、あるいは、けなす事ができるが、永久に理解しない
人は賞賛し、あるいは、けなす事ができるが、永久に理解しない
ニーチェは24歳の若さで大学の教授になるほど将来を期待され、時代にそぐわない鋭い批評から冷遇された哲学者です。この名言は賞賛され、非難を浴びたニーチェだからこその言葉でしょう。またニーチェは
事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである
とも言っています。例えば、上から見るコップと横から見るコップでは、それぞれ見え方が異なりますよね。上から見たら丸いコップに見えても、横から見たら四角いコップに見えることもあります。これと同じで、事実というものは見る人の解釈によって異なるとニーチェは言っています。
同じように、人は賞賛したりけなしたりできますが、その人がどんな人なのかは実際のところわかりません。悪い人がいい人に見えることもありますし、その逆もあるでしょう。もしあなたが理解されないと感じていても、ふたを開けてみればそれはあなたの一部分だけだった、という話かもしれません。
孤独な人間がよく笑う理由を、たぶん私はもっともよく知っている。
孤独な人間がよく笑う理由を、たぶん私はもっともよく知っている。孤独な人はあまりにも深く苦しんだために笑いを発明しなくてはならなかったのだ
ニーチェの思想は、彼が知るところで大衆に受け入れられることはありませんでした。家族との不和や友人への失望、失恋などにより彼はたくさんの苦しみを味わい、孤独でした。だからこそ、経験から、孤独な人がよく笑う理由がわかるのでしょう。
よく笑っている人ほど、わたしたちの知らないところでたくさん苦しんできたのかもしれませんね。
私を破壊するに至らないすべての事が、私をさらに強くする
私を破壊するに至らないすべての事が、私をさらに強くする
ニーチェの人生は病気と共にありました。幼少時から極度の近眼で、さらに片頭痛や胃痛など健康上の問題を抱えていました。しかしニーチェにとって病気は、ただ苦しいものではなく、より思考を深めてくれるものでした。
ニーチェにとって病気とは、自己を高めてくれる要素だったのです。そう考えると、大半の苦しみは自己成長のきっかけと思うと乗り越えられるかもしれませんね。
人は常に前へだけは進めない。引き潮あり、差し潮がある
人は常に前へだけは進めない。引き潮あり、差し潮がある
ニーチェは病に悩まされたり、才能を認められて若くして教授として迎え入れられたりと、潮の満ち引きのように良いことも悪いこともありました。うまくいかないときは、そういう時期なのだと思って休むのも一つの手かもしれませんね。
まず立ち上がり、歩き、走り、登り、踊ることを学ばなければならない。
いつか空の飛び方を知りたいと思っている者は、まず立ち上がり、歩き、走り、登り、踊ることを学ばなければならない。その過程を飛ばして、飛ぶことはできないのだ
何事も順序が大切です。もし今仕事がうまくいってないなら、その理由は順序を飛ばしているからかもしれません。
このニーチェの思想も最初は認められませんでした。しかし、それでも数々の著書を世に出し、徐々に広まっていきました。
結果が出ないときは、改めて自分の仕事について見直してみましょう。なにか突破口が見つかるかもしれません。
一日一日を始める最良の方法は、一人の人間に一つの喜びを与えることができないだろうかと、考えることである
一日一日を始める最良の方法は、目覚めの際に、今日は少なくとも一人の人間に、一つの喜びを与えることができないだろうかと、考えることである
仕事とは、誰かに喜びを与えること、とも言えます。このような考えを持つニーチェだからこそ、誰かの背中を押す激励の言葉をたくさん残せたのでしょう。
どうやったら仕事がうまくいくか、という思考から一度離れ、どうやったら一緒に働く仲間やお客さんを喜ばせられるか考えて行動するとうまくいくかもしれません。
わたしたちが人生を愛する理由は、愛することに慣れるからである
We love life,not because we are used to living but because we are used to loving.
わたしたちが人生を愛する理由は、生きることに慣れるからではなく、愛することに慣れるからである
人生に対する前向きな言葉を残したニーチェの思想は『生の哲学』と呼ばれることもあります。叱咤激励に近い言葉の数々は、人や自分の人生に対する愛があってこそではないでしょうか。
忘れやすいということは恵まれている
Blessed are the forgetful : for they get the better even of their blunders.
忘れやすいということは恵まれている。失敗しても前へ進むことができる。
Blessedには「神の祝福を受けた」「恵まれた」などの意味があります。ニーチェは反キリスト教な発言で有名ですが、実は牧師の息子です。むしろ牧師の息子だったからこそ、遠慮なくキリスト教を批判できた、と語っています。
忘れやすさも神様から与えられた才能の一つだと、ニーチェは捉えていたのかもしれませんね。
悪とはなにか?弱さから湧き出るすべてのものだ
What is evil? Whatever springs from weakness.
悪とはなにか?弱さから湧き出るすべてのものだ
evilには「道徳的に悪い」という意味があります。ニーチェにとって悪とは、道徳的に問題があることだったとわかります。人を妬んだり、目の前の課題から逃げたりすることを嫌い、最後まで思想を貫いたニーチェらしい言葉ですね。
ニーチェの名言集や関連書籍
人間的な、あまりに人間的な-まんがで読破-
ニーチェの著書『人間的な、あまりに人間的な』を哲学初心者でもわかるように漫画された本です。ニーチェの思想についてストーリーを楽しみながら読めるため、哲学について知りたいけれど難しいのはちょっと、という方におすすめです。
ニーチェ 勇気の言葉
美しい写真とともにニーチェの素敵な言葉を味わえる本です。活字部分が少ないため、本を読むのが苦手な人も楽しめます。
自信を失ったときやなんとなく元気が出ないときにおすすめの書です。
ニーチェの名言についてのまとめ
ニーチェの名言について、意図や解釈、背景について紹介してきましたがいかがでしたか?
ニーチェは誰もが積極的に、自分の人生を切り開いていけると主張しました。それは彼が残した著書にある力強い言葉の数々が物語っています。
ニーチェ自身、55年の人生でさまざまなことがありました。父や弟との別れから始まり、才能を認められて大学の教授として迎え入れられたり、尊敬していた作曲家と出会い、最後には別れたりと濃い人生を送ってきました。
そんな彼の人生と思想は、わたしたちに勇気を与えてくれます。人生に思い悩んだときや苦しいとき、ニーチェの言葉を思い出してみてください。
そんなとき、この記事がお役に立てれば幸いです。ここまで読んでいただきありがとうございました。ニーチェについてもっと知りたい方は以下の記事もおすすめです。
コメントを残す